オトニッチ

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【ライブレポ・セットリスト】AGESTOCK2023 in 国立代々木競技場 第一体育館 2023年3月5日(日)

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代々木第一体育館で『AGESTOCK2023』というイベントが開催された。主催者は学生のイベントサークルらしい。学生主催とは思えないほどの大規模な会場での開催だし、メインの出演アーティストはBiSHとHump Backという豪華さだ。

 

そんな豪華なイベントは、当然ながら素晴らしいイベントだった。

 

オープニングアクト

 

オープニングアクトとして4組のアーティストが登場した。

 

最初に登場したのはnooote。2022年にデビューしたばかりの新人グループらしい。新人とは思えないキレのあるダンスパフォーマンスを堂々と披露していた。

 

2番手のAnnnnnaの空も知名度は低いかもしれない。しかし花道を使った堂々としたパフォーマンスを繰り広げて盛り上げようとしていた。

 

続く輪廻はバンドセットでのパフォーマンス。『命短し食せよオコメ』の1曲のみだったものの、力強い演奏を響かせていた。ポップでキャッチーながらも、演奏は重厚なのが印象的だ。

 

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都内某所はオープニングアクトではあるものの、かなり注目度は高かった。会場からも期待に満ちた空気を感じる。デビューしたばかりではあるが、『水曜日のダウンタウン』から生まれたグループなので、多くの人が存在を知っている。

 

『ハバナイスデーイ』から勢いよくライブは始まったものの、パフォーマンスのレベルは、正直なところ低い。そこから『クッキー』を続け花道へ飛び出たりして盛り上げようとするものの、スキルが明らかにないのでグダグダになっている。

 

それはデビューしたばかりなので仕方がない。メンバーも緊張していただろうし、代々木体育館の規模に見合う実力はまだないと理解してはいただろう。しかし光るものは持っているので、これからに期待したい。これから良くなることを期待したくなる魅力は持っているのだから。

 

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オープニングアクト最後は豆柴の大群。『MUST GO』で迫力ある歌声で早速圧倒させる。パフォーマンスも会場全体を巻き込む凄みがあった。2曲目の『りスタート』ではメンバーが花道へと飛び出して客席を煽る。結成されて3年ほど。コロナ禍で思うように活動できない期間があったものの、その間にしっかりとスキルを上げてきたことを実感するようなステージングだ。オープニングアクトにしておくのが勿体無い。それほどのライブだった。

 

輪廻 セットリスト

1.命短し食せよオコメ

 

都内某所 セットリスト

1.ハバナイスデーイ
2.クッキー

 

豆柴の大群 セットリスト

1.MUST GO
2.りスタート

 

Hump Back

 

3人がドラムに集まるように小さくまとまり、拳を合わせる。それに対して客席から拍手を送られる。正直なところ拍手の大きさはそこまで大きくなかった。会場のほとんどはBiSH目当ての清掃員だったし、Hump Backにとってはアウェイな空気が流れていた。

 

しかし林萌々子が弾き語りで『がらくた讃歌』のサビを歌い始めると、空気は一転する。観客は吸い込まれるようにステージに集中し始めた。

 

「僕らの歌をうたいにきたぜ!AGE STOCKよろしく!うちらが大阪Hump Back!やろうぜ!」と林が叫ぶと、盛大な拍手と歓声が送られる。そのまま3人の演奏で『がらくた讃歌』が演奏されると、観客は身体を揺らしたり腕を上げたりとしっかりとお盛り上がっている。アウェイを一瞬でホームにしてしまった。

 

「むちゃくちゃやろうぜ!」と叫び『LILLY』へとなだれ込み、「でっかいライブハウスやな」とつぶやいて『オレンジ』を衝動的に演奏する。1万人以上収容できる代々木体育館を、ライブハウスと変わらない熱気で包み込む。「知らないなら教えてやるわ!うちらがHump Backや!」と堂々と宣言し林がマイクスタンドと共に倒れ込みながら歌う姿は、彼女たちがどんな場所でもロックバンドであることを示しているようだ。

 

さらに「みんなを置いてくぐらい駆け抜けるんで着いてきてください」と言って『宣誓』を続ける。むしろ普段のライブハウスよりも熱いライブをやっていると思ってしまうほどのパフォーマンスだ。

 

ほとんどが清掃員の観客だが、すでにHump Backに心をつかまれたようだ。歓声の数も増えていたし、歓声も大きくなっている。

 

そんな歓声をイジりながら「ニャンちゅうみたいな声のお客さんがいるな。ニャンちゅうのモノマネでニャンちゅうが言わなそうなセリフを言ったろか?」と話し、ニャンちゅうのモノマネで「確定申告!」と言う林。さっきまでの熱気が嘘のように静まり返る会場。モノマネも似ていなかった。

 

ライブハウスでロックバンドを観たことがない人もいるとは思う。本当はそんな人も置いてかないように優しくやらなあかんけど、そんな余裕はないんで置いてかれないように着いてきてください

 

そう宣言して『ひまつぶし』を演奏し、ニャンちゅうのせいで静まり返った会場の熱気を再び上昇させる。〈箸休めにもならない〉という歌詞がある曲だから、会場のハシヤスメアツコ推しは、別の意味でテンションが上がったかもしれない。自分はアユニを推しているので、普通に良い曲と思いながら聴いた。

 

しかしHump Backは盛り上げるだけではない。胸を昂らせる演奏だけでなく、胸に沁みる演奏だってできる。『僕らは今日も車の中』や『ナイトシアター』などのミドルテンポの楽曲がそれだ。ニャンちゅうのモノマネをした時と同じぐらいに観客は静かになったが、今度は観客はステージに集中して感動しているように感じる。ニャンちゅうのモノマネとは大違いだ。

 

「うちらは楽器を持ったアイドルとして呼ばれました!ようこそでっかいライブハウスへ!」と叫ぶ林。そして〈研音部の部室で歌っていたんだ 大好きなチャットモンチー〉というフレーズから、アドリブで歌い始めた。今回は学生団体が主催だからか、自身の学生時代を振り返るような言葉で歌っていた。

 

ロックンロールは若い者のためにあるんだ年齢の話じゃないぜ

この歌が響いた人は若者なんだ

 

バケモノなんて気にしないぜ

僕らにはロックンロールがあるのさ

 

『BiSH-星が瞬く夜に』のフレーズを引用していた。会場の清掃員も湧き上がる。そのまま『拝啓、少年よ』へとなだれ込み、再び盛り上がりを加速していく。手拍子の音も大きくなってきた。さらに『ティーンエイジサンセット』を畳み掛ける。観客のほとんどはBiSH目当ての清掃員だ。そんな中で「歌おうぜ!知らなくてもいい!”あー”でも”わー”でも叫べば歌や!」と林が叫ぶと、それぞれが自由な言葉で叫び歌う。これはロックバンドが人の心を動かした瞬間が、形として現れたのだ。

 

『僕らの時代』では手拍子を巻き起こし『番狂わせ』では「ここはでっかいライブハウス!ライブハウスに来るやつにまともなやつはいません!一緒に道を踏み外しましょう!」と煽り、代々木体育館をライブハウスと変わらない熱気につつんでいく。

 

BiSHと初めて出会ったのはオールナイトイベントでした。その時にチッチとアイナちゃんが「聴いてます」と話しかけてくれました。でも当時は尖ってたから変な対応してしまって......。

 

でも今は友達だと思っています。向こうは思ってないかもやけど(笑)

 

BiSHとの出逢いについて語る林。そのイベントはおそらく新木場STUDIO COASTで行われた『LOVE MUSIC FESTIVAL2018』だ。当時はHump Backはまだ知名度が低かったし、BiSHやあいみょんすら人気がそれほどない時期だった。自分も参加していたが、今思えば大規模フェスと変わりないメンツをライブハウスで観れる貴重なフェスだったと思う。

 

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そんなエピソードを語ってから『きれいなもの』『月まで』を、しっとりと歌い演奏した。ライブハウスは騒ぐだけの場所ではない。生の音楽の凄さを実感する場所だ。だからバラードもライブハウスにもロックバンドにも必要だ。代々木体育館も彼女たちにとっては大きなライブハウス。そんな場所でもしっかり生の音楽の凄さを伝える。

 

「楽しかった!またライブハウスで会いたい!また会えますように!」と林が叫んでから、最後に演奏されたのは『星丘公園』。サビではアリーナ中央天井に設置されたミラーボールが周り、会場を星のような光だ包み込む。でっかいライブハウスの代々木体育館だからこそできる粋な演出だ。

 

MCで「年齢は関係ない。うちらの曲が響いた人は若者や」と話していた。おそらくこの日の観客はみんなHump Backが響いてしまった。だからみんな若者だ。そういう意味で、自分が過去に行ったライブで最も少年少女が多いライブだったかもしれない。

 

セットリスト

1. がらくた讃歌
2. LILLY
3. オレンジ
4. 宣誓
5. ひまつぶし
6. 僕らは今日も車の中
7. ナイトシアター
8. 拝啓、少年よ
9. ティーンエイジサンセット
10. 僕らの時代
11. 番狂わせ
12. きれいなもの
13. 月まで
14. 星丘公園

 

BiSH

 

照明が落とされてオープニングムービーが流れた時点で、会場は大歓声で盛り上がっていた。

 

今回は声出し可のライブ。このライブが開催された時点では、BiSHのワンマンで声出しは不可だった。3年以上ぶりにBiSHのライブで一緒に歌えることを期待している人が多いのだろう。そんな期待と興奮が開始前から観客から漏れていた。

 

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そんな歓声はメンバーが勢いよく登場すると、さらに大きくなる。1曲目は『BiSH-星が瞬く夜に』。ステージの音をかき消すほどの大きさで、清掃員がコールをしたりメンバーの名前を呼んでいる。コロナ禍以前は「うるせえ!」と思うこともあったが、今は清掃員の声も愛おしい。メンバーは最初から花道に飛び出して煽りながら歌い踊っていた。最初からBiSHも清掃員も全力だ。

 

ハシヤスメのAGE STOCK!まだまだ行こうぜ!」という煽りから『ぴょ』が続く。やはり清掃員も一緒に歌っている。サビでタイミング良く手拍子が揃う瞬間も最高に気持ちいい。その勢いを保ったまま『ぶち抜け』へとなだれ込む。そういえばこの2曲はコロナ禍にリリースされた楽曲だ。そんな2曲も今では清掃員も一緒に歌える。そんなことにも感動してしまった。

 

3曲続けてから「AGE STOCK元気か!」というチッチの声かけからMCが始まる。それに対して大声援を贈る清掃員。そんな声を聞いて「みんなの声が聞けて、すごくすごく幸せです!」と言って笑顔を見せるチッチ。

 

「今日は応援したい気持ちが伝わるような曲を選んできました」と話してから『I am me』からパフォーマンスが再開。たしかに前向きで元気がでる曲だ。サビの後に「OK! ハッ!へいへいへぇ〜い」という掛け声をするアユニ・Dがかわいい。アユニが可愛い。アユニが可愛い。アユニが可愛い。 

 

目指した未来ににゃんだってにゃぁやんどぅわぁり 

ちゃっかんしっとぅあ

こんな僕がありえにゃぁあい 必死に生きろ

 

落ちサビをこのような発音で歌うアユニも可愛い。可愛い。可愛い。

 

『Story Brighter』が披露されたことは、個人的にこの日のアユニの可愛さと同じぐらいに驚いた。イブの披露数は最近は減っている1stアルバムの収録曲だからだ。そして自分はこの曲がアユニと同じぐらいに好きだ。この曲も前向きな曲だ。

 

今回のセットリストは代表曲やライブ定番曲が少ない。しかしその代わりにチッチが話した通りに「応援したい気持ちが伝わるような曲」をパフォーマンスすることを、今回は特に大切にしているのかもしれない。

 

パンクの影響を特に感じる『YOUTH』でさらに会場の熱気を上げていく。まさに〈スピーカーの中飛び出して〉きたBiSHの歌声は、力強くて胸を昂らせる。チッチが「行くぞ!AGE STOCK!」と煽ってからは、その熱気はさらに高まっていた。

 

「みんなの熱気がすごいね。あそこに白く曇っているのは雲じゃない?」と客席を指差しながら話すハシヤスメ。そこに雲はなかった。おそらくハシヤスメ意外に雲は見えなかった。

 

チッチ「去年も出演したんですけど、AGE STOCKの代表の方がライブを終えた後に涙をながしながら挨拶に来てくれました。熱意がある人が作るライブは良かったと思えることが多いです。」

ハシヤスメ「実行委員の人がとても熱い。通るたびに丁寧に挨拶してくれる!」

 

ハシヤスメは挨拶ができる人が好きらしい。

 

次に披露する曲が『飲ませろ』だと伝えるリンリン。彼女の作詞曲だがタイトルと歌詞について「BiSHはライブ中に水が飲めない。渡辺淳之介に水を飲めない苦しさを伝えてやろうと思って書いた歌詞」と説明していた。

 

この曲はサビの振り付けを同じように踊ってほしいらしく、アユニによる振り付け指導が行われた。指導するアユニが可愛い。可愛い。可愛い。

 

どうやら会場の全員がアユニを可愛いと思っているようだ。思わず漏れてしまった溜息のような「かわいい.......」という大量の囁きが代々木体育館に響く。

 

ハシヤスメ「アユニ!お客さんの可愛いって声が漏れてるよ!もっと大きな声で可愛いって言っていいんだよ?」

清掃員「ぎゃわ゛いいいいいいいいいふぃおsrhごいrへいおrgじぇおpfじおえjごぺw!!!!?!?!”」

アユニ「こんなに可愛いと言われたことはないんで嬉しいです(棒読み)みんなも可愛いんで踊ってください!」

 

アユニの可愛さで盛り上がった勢いをそのままに『飲ませろ』へとなだれ込む。メンバーだけでなく清掃員も水を飲ませない渡辺淳之介への怨み辛みをぶつけるかのように騒いでいた。サビではもちろん清掃員もBiSHと同じ振り付けで踊る。熱いライブかつ一体感もあるライブだ。

 

BiSHにとって新境地と言える楽曲『脱・既成概念』も、すでにライブで確実に盛り上がる鉄板曲に育っている。今度は会場全体が自由に踊りながら楽しんでいた。そして真っ赤な照明に包まれながら『サヨナラサラバ』をクールにパフォーマンス。今回は近年リリースされた楽曲が中心のセットリストだが、改めてBiSHの音楽性の幅がさらに広まっていることを実感する。

 

モモコグミカンパニー「みなさん温まってますか!?後ろの方!両側面!前!」

清掃員「いええええええええええい!!!(両側面......?)」

 

モモコの独特な煽りに動揺しつつも盛り上がる清掃員。そんな動揺と熱気が入り混じった混沌した空気の中。アユニが真っ直ぐな目で清掃員に語りかけた。

 

私たちと皆さん方はただの他人ではないと思います。常に今を必死に生きている仲間だと思っています。

 

今日は一緒に過ごしてくれて、ありがとうございます。

 

私は音楽と出会って優しさを知りました。音楽と出会えて、ここにいるあなた方と出会えて良かったなという曲を、次はやります。

 

そしてアユニが作詞した『スーパーヒーローミュージック』のイントロが流れると、興奮に満ちた歓声が代々木体育館に響く。清掃員は「オイ!オイ!」と叫び盛り上がっている。この楽曲はコロナ禍にリリースされた。この楽曲をライブで声を出しながら楽しんだのが初めての清掃員は多いかもしれない。声出しありでの盛り上がりを考えると、この楽曲は清掃員の声によってより魅力が引き出されて歓声されたのではと感じた。

 

そんな熱気の中、少しだけ曲間が開く。そしてチッチが「オーケストラ」と囁く。息を呑むようにステージを見ているに思わず漏れてしまったかのような清掃員の声が、会場に響き『オーケストラ』が始まった。

 

この楽曲はBiSHが飛躍するきかっけを作った楽曲に思う。BiSHにとっても清掃員にとっても大切な曲だ。清掃員は再びメンバーの名前を叫ぶ。その声が響く中で魂を込めるように歌うBiSH。アリーナ中央天井のミラーボールが周り、満点の星空が輝く夜空のような景色を作り出す。メンバーのパフォーマンスはもちろん、演出も感動的で最高だ。

 

チッチが「ありがとうございました!今日の自分を愛して、明日の自分を信じて、また会おうぜ!」と叫んでから『beautifulさ』が始まる。これが最後の曲だ。

 

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メンバー全員が花道に飛び出し、観客を煽る。チッチの「最後だから!一緒に歌おうよ!」という言葉やアイナの「ラスト行こう!」という言葉に応えるように、客席全体が一緒に踊り歌っていた。

 

最高の盛り上がりを作り、チッチが「またどこかで会いましょう」という言葉を残し、メンバーはステージを後にした。

 

当然アンコールを求める拍手が巻き起こったが、アンコールはなかった。その代わりイベントの司会をしていたNONSTYLEの井上裕介とキャスターの谷尻萌が出て来た。

 

井上がアンコールがないことを告げると、落胆したようなため息が漏れる客席。そんな客席を観て「俺もBiSHをもっと観たいねん!不満や文句は俺にぶつけてくれ!」と言う井上。

 

その瞬間、代々木体育館を埋め尽くす観客からブーイングが巻き起こった。これほど大人数の大声のブーイングを、自分は初めて聞いたかもしれない。

 

最高のイベントは、大ブーイングで終わった。

 

■セットリスト

1.BiSH-星が瞬く夜に
2.ぴょ
3.ぶち抜け
4.I am me
5.Story Brighter
6.YOUTH
7.飲ませろ
8.脱・既成概念
9.サヨナラサラバ
10.スーパーヒーローミュージック
11.オーケストラ
12.beautifulさ