2020-08-14 【レビュー】sora tob sakanaラストアルバム『deep blue』を聴いて思ったこと sora tob sakana レビュー オリジナルアルバムではない 9月で解散するsora tob sakanaのラストアルバム『deep blue』。 ベスト盤的な位置づけのアルバムだと思う。11曲収録のアルバムだが新曲は2曲だけ。残り9曲は既存曲だ。 しかしただ過去の代表曲を集めただけではなく、全曲が再録音している。歌だけでなく演奏もだ。 その音を聴くと「ただのベスト盤ではない」と感じる。他のアーティストやアイドルのリリースするベスト盤とは位置づけが違うようだ。 集大成として「今のsora tob sakana」の魅力を詰め込んだアルバムに感じた。 約6年間の活動の中で多くの名曲を作ってきたということを伝えるアルバムでもあって、凄いグループに成長したことを伝える作品なのだ。 歌唱の変化 再録と過去の録音と聴き比べると、メンバーの歌唱力がバツグンに進化したとわかる。特に表現力の進化が素晴らしい。 例えば1stアルバム収録曲の『夜空を全部』を聴き比べるとその差を強く感じる。 夜空を全部 sora tob sakana J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 当時は10代前半のメンバーも多く初々しい歌唱をしていた。そして文字の一つひとつをハッキリと発音しているように聴こえる。ボーカロイドのように感情をあまり感じない淡々とした歌唱だ。ピッチも危うくて子供っぽい歌声で危さを感じる。 それがハイレベルな演奏と合わさることで、独特な違和感を生み出していた。 曲自体はオルタナティブロック。マニアックなジャンルである。それがアイドルのフィルターを通し、歌モノとしてことポップスへと昇華したことが斬新で衝撃的だった。 夜空を全部 sora tob sakana J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes しかし再録された『夜空を全部』は少しだけ違う。 言葉一つひとつに感情を込めているように感じる。原曲よりも裏声を綺麗に響かせたり、語尾の伸ばし方を工夫したりと表現力が段違いで進化していた。ユニゾンで歌ったときのメンバーの歌の重なり方も以前より美しく聴こえる。 歌唱方法を大きく変えたわけではない。それなのに『deep blue』のバージョンとは違う聴こえ方がする。 かつてはハイレベルな演奏と初々しいアイドルの歌唱が組み合わさることで個性が生まれていた。ある意味「ハイレベルなイロモノ」として面白がられていた部分があった。 それが今のオサカナではオルタナティブロックをアイドルが歌うことが個性になっている。 初々しくて危うい歌声ではなく、アイドルとしての堂々とした歌声に成長している。だからイロモノではなく「オルタナティブロックとアイドルの融合」という新しい価値観を作り出したのだ。 活動初期から「オルタナとアイドルを組み合わせる」という価値観は存在していたし、それがコンセプトの一つであったとは思う。しかし完璧に実践できていたわけではない。活動を続けてメンバーが成長したからコンセプトを実現できたのだ。 演奏の変化 sora tob sakanaはハイスイノナサのコンポーザーである照井順政がプロデュースしている。 コアな音楽ファンに支持されており、高い演奏能力も評価されているオルタナティブロックバンドだ。 オサカナの楽曲を演奏している動画がYouTubeに投稿されていゆ。これを聴けば演奏力の高さを実感できるはずだ。 しかしハイレベルなバンドの演奏も、オサカナメンバーの成長に合わせて変化と進化をしている。録音の音量バランスも変わっている。 1stアルバム収録曲で『deep blue』でも再録された『広告の街』を聴くと、その変化はわかりやすい。 広告の街 sora tob sakana J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 変拍子でオーケストラヒット満載の、バンドのグルーヴ感と演奏力の高さを感じる楽曲。この時点で完成された演奏に思う。 しかし再録バージョンでは演奏が変化している。 広告の街 sora tob sakana J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 原曲の方がシャープで尖った音色だ、再録バージョンでは少し柔らかい音色になっている。 しかし各楽器の音が聞き取りやすくなって生々しい音。録音して調整された音を聴いているというよりも、スタジオで録った音をそのまま聴いているような生々しさ。 ボーカルの音が再録では大きくなっており、演奏の音は小さくなっていることも違う部分だ。 かつてのオサカナは「照井順政がプロデュースしている」ことがコアな音楽ファンの間で話題になっていたように思う。メンバー以上にプロデューサーや演奏が注目されていた。 それが悪いとは思わないし強みだとも思う。しかしそれはメンバーの危うい歌唱力や表現力を誤魔化せる話題性や演奏スタイルでもあった。 アイドルでありながらメンバーが主役ではなく脇役になっていると感じる時もあった。 しかし今のsora tob sakanaはメンバーが脇役ではなく主役になれるだけの実力を持っている。だから再録ではメンバーの歌声を活かすような演奏と音量バランスになったのだろう。 少しづつ進化してアイドルとして魅力がどんどん増していった結果が、録音された音楽として現れているのだ。 最後まで進化を続けている 『deep blue』には2曲の新曲が収録されている。『信号』と『untie』だ。この2曲は他の楽曲と比べると、バンドの演奏が落ち着いていて音数も少ない 信号sora tob sakanaJ-Pop¥255provided courtesy of iTunes 『信号』は打ち込みの音も使われているミドルテンポで美しい演奏。歌詞も少なく一つひとつの言葉を丁寧にメンバーが歌い表現している。 この曲はデビュー当初のオサカナでは歌うことができなかったと思う。過去の表現力ではただ退屈な歌になってしまったはずだ。 しかし今のメンバーならば演奏の魅力をいかしつつも、楽曲の世界観を表現する歌唱ができる。 『信号』はアルバムの1曲目に収録されている。この曲を皮切りに2曲目以降は再録曲が続くのだ。 新曲によってグループの変化を感じさせ、その流れで再録曲を聴かせることで進化を感じさせるようなアルバム構成である。 untiesora tob sakanaJ-Pop¥255provided courtesy of iTunes もう一つの新曲『untie』は最後に収録されている。 ピアノの音が印象的なシンプルで落ち着いた楽曲。音数はかなり少ない。メンバーがユニゾンでアカペラで歌うパートもあったりと、特に歌声をフィーチャーしている。 『untie』は日本語で「解放する。解き放つ」などの意味がある。まるでグループを解散して新しい道へ進むメンバーのことを表しているようなタイトルだ。 海を眺めている星の夜 砂の上波は産まれたばかり理由もなく 好きな形 (untie / sora tob sakana) 海をテーマにしている曲である。 1stアルバムの1曲目は『海に纏わる言葉』というタイトルのインスト曲であることや、グループ名自体が海と関連する「魚」という言葉が使われていることを考えると、グループの歴史を締める意味合いを含んだ楽曲かもしれない。 だから成長したメンバーの姿を見せるために、歌声を強調した編曲と演奏になったのだろうか。 星が降るようだ星が降るように君が生きている (untie / sora tob sakana) 最後のフレーズはsora tob sakanaが、流れ星のように流れていく様子を表現しているように感じる。 流れ星のように美しく目の前から消えていく様子が頭に浮かんでくる。グループの進化と変化を伝えるラストアルバムを集大成としてまとめる役割を『untie』持っているようだ。 『deep blue』はラストアルバムとしてふさわしい集大成的な作品である。聴いていると解散することを勿体ないと思ってしまう作品でもある。 これほど楽曲も演奏も歌声も素晴らしい。最高の作品を最後に残してくれた。 しかし結成6年目でメンバーもまだ若い。もっと上を目指せるだろうし、まだまだ伸び代もあると思う。もっと活動を追っていたかった。 でも、仕方がないことで、メンバーの将来を考えると解散が必要なことなのだろう。それに残した作品も映像も消えることはない。思い出からも消えない。彼女達の歴史はずっと残るはずだ。 だから解散してもCDを再生すればまた彼女たちの音楽に触れることができる。星が降るように流れてくる音楽に耳を傾ければ、そこにはsora tob sakanaが生きている。