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Saucy Dogは新曲『結』でスリーピースロックバンドとしてJ-POPに食い込もうとしている(歌詞・レビュー・感想)

勝負曲だと思った。

 

Saucy Dogの新曲『結』を聴いて、ファン以外の多くの人に響く勝負曲を完成させたと思った。大げさな話ではなく、あいみょんや髭男ぐらいのヒットを狙ってきているのではと感じた。

 

『いつか』というロックバラードがヒットしブレイクしたSaucy Dog。

 

最近のロックバンドがバラードで人気を獲得することは珍しい。彼らの演奏や歌声の魅力はミドルテンポやスローテンポでこそ最大限に発揮されるように思う。それは強みであり個性だ。繊細なボーカルと情景豊かたな歌詞の表現とゆったりとした曲調の楽曲は相性が良い。

 

いつか

いつか

  • Saucy Dog
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

それでいてスリーピースバンドとして、三人の演奏だけで楽曲を表現していることも印象的だ。限られた音でも単調な演奏にならないように、各楽器のフレーズを工夫している。

 

『いつか』のAメロではベースがメロディを奏でる役割を担っていたり、ドラムはロックバンドでは珍しくマーチのようなリズムを奏でている。1番と2番とで演奏のパターンも変えている。そのような工夫があるので三人の音だけでも深みのある演奏になっている。

 

そのような工夫や個性は新曲『結』でも感じる。しかし『いつか』とは少し違う部分もある。狙った上で「J-POPに食い込もう」としているように感じるのだ。

 

Saucy Dogの個性とJ-POPの新しい定番を取り入れた楽曲

 

『結』演奏からは『いつか』と近い雰囲気を感じる。メンバーの演奏に焦点が当てられているバラードだから。

 

 

 

曲はカウントの代わりにしているかのようなベースの演奏から始まる。そこからギターとベースの音が重なる。その重なった瞬間に「Saucy Dogの音」になる。

 

ドラムのリズムパターンも乾いた音作りのエレキギターもバンドの個性を感じる。基本的に音作りは曲ごとに大きく変えることなく、一定の音作りをしているように感じる。

 

一番と二番とで演奏のパターンを変更もしている。限られた音でも飽きさせない工夫がされていることもバンドの特徴の1つだ。

 

演奏ではバンドの個性を取り入れつつも『結』では最近のヒットソングの特徴も取り入れている。それが新曲の持つ今までのSaucy Dogになかった部分かもしれない。

 

最近はSpotifyやApple Musicなど定額配信サービスが普及したことで間奏の短い曲が増えている。

 

例えばKing Gnuは最新作『CEREMONY』の前半収録曲4曲はイントロがない曲で揃えられている。菅田将暉『まちがいさがし』やLiSA『紅蓮華』などサブスクでの人気曲もイントロがない。

 

歌声は求心力が強い。イントロで惹きつけるよりも歌で惹きつける方が簡単ではある。そのためイントロが短い曲が増えているのだ。

 

『結』もイントロが短い。最初のイントロは12秒。ベースソロからという珍しい始まり方で惹きつけた上でも、この長さに収めている。代表曲の『いつか』のイントロは25秒なので半分以下の時間だ。これも近年のヒット曲の傾向を意識した部分があるのかもしれない。

 

 

ヒット曲の定石を取り入れた歌詞

 

歌詞に使われている独特な言葉や情景描写の繊細さは、作詞した石原慎也のいつも通りの個性を感じる。

 

しかし最近のヒット曲の歌詞構成と通ずる部分があるのだ。

 

手を繋いだのは君の方から

ちょっと慣れた素振りに

なんか悔しくなったな

もっと不器用なとこを見てみたかったの

君の過去がチラついてしまうよ

 

焦ってたんだ柄にもなく

着飾ってみたり 傷ついてみたり

ふわふわ飛んで逃げていきそうで

その手を離したら終わっちゃいそうでさ

 

もう心配性 気が狂いそう

いっそこのままふたりだけの世界を生きてたいよ

そしたらきっと 更なる一歩

ずっと見ていたいよ 君の全部を

 

果てしない今日からの日々を

過ごそう 作ろう 守ろう

 

声をかけたのは僕の方から

「一緒に帰ろ」ってたった一言すら

裏返ってしまう

『格好悪いところ嫌いじゃないよ』って

悪戯に笑う君とも今では

 

ずっと楽しい事ばかりじゃないけれど

それも愛じゃないかな

危ない時もあるけれど

不器用なのはお互い様で

口ベタな所もその分たくさん話せば良いよ

それもふたりに必要な時間でしょ?

 

「ねぇこっちおいでよ」さっきはごめんね

それさえ言えたら何度すれ違っても構わないさ

遠回りしようよ 手繋いでさ もっと近くで

これからも僕たちの

 

天気は気まぐれ 時々にわか雨

やっと築けた ふたりだけの世界はここにあって

この手紙には結末は無くていい

君との未来にまだ取っておくよ

 

拙い僕からの思いを

綴ろう 描こう 繋ごう

(Saucy Dog / 結)

 

 

韻を踏んでいる部分が多い。フレーズ終わりの母音を揃えることで言葉がスムーズに耳に入ってくる。そのため心地よく聴こえる。

 

2019年最大のヒット曲であるOfficial髭男dism『Pretender』でもAメロやサビでは韻を多く踏むことで心地よい楽曲にしている。

 

君とのラブストーリー それはいつも通り

いざ始まれ 一人芝居

グッバ 君の運命の人は僕じゃな

辛いけど否めな でも離れ難いのさ

その髪に触れただけで 痛いや いやでも 甘いな いや いや

(Official髭男dism / Pretender)

 

Saucy Dogの『結』も同じように、多くのポイントで韻を踏んだり語尾の母音を揃えている。 

 

ふわふわ飛ん逃げいきそう

そのを離した終わっちゃいそうで

 

もう心配 気が狂いそ

いっそこのままふたりだけの世界を生きてたいよ

そしたらきっと 更なる一歩

っと見ていたい全部

 

果てしない今日からの日々を

過ごそうろうろう

 

 これは偶然このような言葉を続けて歌詞を組み立てたのではなく、意識的にテクニックを使って組み立てられた歌詞に思う。

 

Saucy Dogは2017年以降、毎年少しづつ人気と知名度を拡大している。

 

今では大型音楽フェスの常連にもなり、日比谷野外音楽堂など三千人規模の会場でもワンマンライブを行うようになったが、知名度が高いわけではない。邦ロックが好きなリスナーに存在は知られていても、それ以外の音楽リスナーにまでは名前も曲も浸透していない。

 

2020年のSaucy Dogは新しい層にもアピールして、さらに大きなバンドになろうとしているのかもしれない。そのため2020年最初の新曲である『結』で多くの人を取り込めるような工夫をこらしたのだと思う。

 

しかしJ-POPにただあわせようとしているわけではない。バンドの軸はブレていない。

 

Saucy Dogは「J-POPバンド」に変化しようとしているのではなく「スリーピースロックバンド」としてJ-POPに食い込もうとしているように感じるのだ。

 

スリーピースロックバンドとして爪痕を残す

 

『結』のようなミドルテンポのラブソングならば、ストリングスを入れて壮大で感動的な楽曲にすることが良くも悪くもJ-POPの定番である。小●武史だったら絶対にサビでストリングスを入れていた。もしもコバ●ケがこのタイプの曲をプロデュースしたら絶対にストリングスを入れてくる。コバ●ケはそういう人だ。

 

しかし演奏はメンバー三人だけ。音作りや編曲の個性もいつも通りのSaucy Dog。だから今までのファンも安心して受け入れられる。

 

楽曲の構成も王道のJ-POPをなぞっているようで、少しだけ違う。

 

Aメロ→Bメロ→サビ→Aメロ→Cメロ→Cメロ→サビ2回

 

〈Aメロ→Bメロ→サビ〉という王道J-POPの曲展開を避けている。それでいてAメロもサビも一番と二番ではメロディが一部違う。これは歌詞の文字数が違うのでどうしても変化していまうのだ。

 

歌詞を先に作り後から曲を作った場合、このようなメロディになりことが多い。曲先で楽曲を作る場合、曲のメロディに合わせて歌詞を書いていくが、歌詞先行の場合は歌詞に合わせて符割りやメロディを組み立てていくためだ。

 

Saucy Dogがどの順番で楽曲を作っているのかはわからないが、これによって最初から最後まで新鮮な気持ちで聴くことができる。『いつか』など他の楽曲ではメロディが一番と二番で大きくは変わっていないので、もしかしたら意図的に飽きさせない工夫をしているのかもしれない。

 

つまりSaucy Dogはテレビで流れているヒット曲が好きな人たちにも引っかかるポイントを含みつつも、軸は自分たちの音楽性からブレていないということだ。なんならロックバンドの魅力を伝えてロックの沼に引きずりこもうとしている。しっかりと計算した上で楽曲を作っている。

 

感性だけで作っても良い曲を作って良い演奏ができるバンドなのに、なかなかひねくれていて憎らしいことをする。

 

ちなみに「Saucy Dog」を日本語訳すると「生意気な犬」という意味だ。バンド名と同じように、バンドもなかなか生意気だ。

 

でも自分は生意気なバンドも生意気な曲も嫌いではないし、なんなら好きだ。生意気な犬がJ-POPシーンを引っ掻き回して噛み付きまくるところを見てみたい。

 

Yui - Single

Yui - Single

  • Saucy Dog
  • ロック
  • ¥255