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THE BLUE HEARTS『青空』の歌詞に共感できない人が増えた方が良いのかもしれない

生まれた所や皮膚や目の色でいったいこの僕の何がわかるというのだろう

 

片平里菜がTHE BLUE HEARTSの『青空』をカバーしていた。

 

2月23日に行われた新作アルバムのリリースイベントでの出来事。前日のニュースでは日本人の新型コロナウイルス感染者が100名を超えたということが報道されていた頃の話。

 

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彼女の人気や知名度からすると、少し寂しい客入りではあった。新型コロナウイルスの影響だろう。入り口横にはアルコールが設置されており、お客さんはみんなマスクをしていた。「マスクをして対策してくださってありがとうございます」とMCでは話していた。

 

もともと片平里菜が弾き語りでライブをする時に『青空』をカバーすることは多い。以前から「好きな曲だ」と語っていた。すでに客入りしている最中に行われたリハーサルで本番10分前に『青空』を歌っていた。

 

 

生まれたところや皮膚や目の色で

いったいこの僕の何がわかるというのだろう

(THE BLUE HEARTS / 青空)

 

サビの歌詞が胸に突き刺さった。

 

THE BLUE HEARTSが歌い演奏する『青空』はCDで何度も聴いていた。それなのに、いつにも増して、歌詞の意味について考えてしまった。

 

『青空』は31年前の曲だ。それなのに2020年に書かれた歌詞と言われても納得してしまう。名曲は古くならないということなのかもしれない。しかし『青空』は「古い歌詞扱い」されるべき歌詞だと個人的には思っている。

 

2020年になっても「いったいこの僕の何がわかるというのだろう」と思うことはなくなっていない。31年前から世の中は全然変わっていないと感じてしまった。だから『青空』を聴いて考えさせられてしまったのだ。

 

差別問題について歌っている?

 

『青空』は政治的抗議のメッセージを含んだプロテストソングとしても捉えることができる。

 

「カッコつけた騎兵隊がインディアンを打ち倒した」というフレーズからインディアンの差別についても触れている歌詞に思う。

 

ブラウン管の向こう側 

カッコつけた騎兵隊が

インディアンを打ち倒した

ピカピカに光った銃で

できれば僕の憂鬱を

打ち倒してくれれば良かったのに

神様にワイロを送り

天国へのパスポートを

ねだるなんて本気なのか

誠実さのかけらもなく

笑っている奴がいるよ

隠しているその手を見せてみろよ

生まれたところや皮膚や目の色で

いったいこの僕の何がわかるというのだろう

運転手さんそのバスに僕も乗っけてくれないか

行き先ならどこでもいい

こんなはずじゃなかっただろ

歴史が僕を問い詰める

まぶしいほど

青い空の真下で

 

アメリカでの差別は15世紀から始まる。

 

アメリカの先住民の大多数であるインディアンに対するものがアメリカでの最初の人種差別だった。コロンブスがアメリカ大陸を発見し、侵略するためにインディアンを大虐殺したのだ。

 

インディアンへの差別は19世紀後半まで続く。奴隷解放宣言を行なったリンカーンも黒人奴隷の解放を命じたが、インディアンは迫害していた。19世紀後半までインディアンは人間扱いされていなかった。20世紀以降も差別や偏見は残っていたと思う。

 

インディアンスが先住民のロゴ使用を取りやめ、2019年シーズンから国際ニュース:AFPBB News

 

21世紀もインディアンへの差別が話題になったことがある。差別は根強い。今では「インディアン」という言葉自体が「差別用語」として扱われている。

 

 「かっこつけた騎兵隊がインディアンを打ち倒した」時代にテレビはなかった。しかし「ブラウン管」という言葉を出すことで「差別は現代でもずっと存在している」ということを表現しているのだと思う。

 

そしてブラウン管テレビがなくなった2020年でも差別は存在している。『青空』の歌詞の中なくなった物といえば「ブラウン管」ぐらいだ。

  

新型コロナウイルスによる差別

 

 新型コロナウイルスの蔓延により、いまだに世界中で人種差別がされていることが、より可視化された。

 

 

フランスの日本料理店には「コロナウイルス、消え失せろ」とスプレーで落書きされた。

 

CNN.co.jp : 東アジア系留学生、ロンドンで集団暴行の被害 新型ウイルスで募る差別感情

 

ロンドンでは中国系シンガポール人男性が人種を理由に暴行された。

 

パレスチナでは日本人女性が「コロナ、コロナ」と言われ誹謗中傷を受け暴行を受けている。ドイツでは日本人観光客の団体がサッカーの試合を観戦している際に「コロナの疑いがある人は入場できない」と会場を追い出された。これも人種を理由にした差別だ。

 

「目立たない行動を」 海外での差別被害防止に―新型コロナ:時事ドットコム

 

一般社団法人海外邦人安全協会は「自衛のために目立たない行動をするように」と呼びかけている。海外では日本人が普通に出歩くことも危険な状態になっているらしい。

 

人種差別は海外だけの話ではない。日本でも「人種差別」はある。

 

「中国人お断り」掲げた店主、「国民の命はいいのか」の葛藤

 

箱根の駄菓子屋店では「コロナウイルスをばらまく中国人は入店お断り」と中国語で書いた張り紙を掲示した。静岡のラーメン店では「チャイナ・アウト」と言って中国人の客に退店を促した。日本にいつから滞在しているかも関係なく「中国人」をひとまとめにして入店拒否する対応を取っていた。

 

デリケートな問題に対しては差別と区別の違いをはっきりさせることが難しいことかもしれない。そこが有耶無耶になりやすいからこそ、気軽に差別が起こってしまうのかもしれない。元々あった差別の感情が新型コロナをきっかけに簡単に表に出てしまっているとも言える。

 

中国では武漢出身者を差別し、日本では中国人を差別し、ヨーロッパではアジア人を差別している。世界中で差別がされている。差別をしている人種が他の国では差別され、負の連鎖が起こっている状態だ。

 

 

人種だけでなくメディアでの報道を理由に特定の職業が差別される場合もある。

 

ライブハウスでの感染について報道されれば音楽関係者は差別される。

 

仕方がない理由だったとしても「自粛要請」によって一部のエンタメ業界は仕事がなくなり、生活のために仕事をしたエンタメ業界関係者は世間から叩かれ、SNSで批判を超えた誹謗中傷を受けてしまう。

 

マスクやトイレットペーパーの供給不足によって、ドラッグストアの店員に八つ当たりし暴言を吐く人も出てきた。

 

思い返すと新型コロナが蔓延する前から差別はあった。人種差別も性別差別も年齢差別も地域差別も学歴差別も。

 

時には差別の撲滅を訴える人が無意識に差別をしている場合もある。差別に気づかずに差別している状況が最も恐ろしい。今はその「恐ろしい状況」になっているように感じる。

 

生まれたところや皮膚や目の色で

いったいこの僕の何がわかるというのだろう

 

31年前の楽曲であり当時の情勢についても歌っている楽曲を聴いて、現代の問題として考えさせられることがおかしい。純粋に「良い曲だ」と思って感動すべきだ。

 

「良い曲だけど歌詞は当たり前のことを言っているよね」「昔はこういう時代だったんだね」と言われるべき曲なのだ。

 

高田渡の『自衛隊に入ろう』や岡林信康の『チューリップのアップリケ』のように、時代背景を調べなければ歌詞の意味が伝わらない歌になるべきなのだ。

 

自衛隊に入ろう

自衛隊に入ろう

  • 高田 渡
  • シンガーソングライター
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

THE BLUE HEARTSには『チェルノブイリ』のように時代背景を知らなければ意味が伝わらない曲もある。『青空』もそのような楽曲になるべきだった。

 

チェルノブイリ

チェルノブイリ

  • THE BLUE HEARTS
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかし31年たっても『青空』の歌詞は現代の人たちに伝えるべきメッセージを含んだ曲として存在している。片平里菜は歌に込められたメッセージを届ける必要性を感じたからカバーしたのかもしれない。

 

『青空』は名曲だと思う。しかし聴いていると様々なことを考えてしまう。それはマイナスな意味も含んでいる。

 

この曲を聴いて変えなければと思う人が1人でも増えれば良いのかもしれない。しかし31年前の時代背景を表す楽曲に、現代の問題について考える役割を与える状態は不健全だ。

 

2020年になっても歴史が僕を問い詰める。まぶしいほど青い空の真下で。

 

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