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木村拓哉『Go with the Flow』はリスペクトに溢れたアルバムだった(アルバムレビュー・感想・評価)

歌のない『Flow』を1曲目にする必要性

 

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木村拓哉のソロアルバム『Go with the Flow』の1曲目を聴いて驚いた。

 

この曲は小山田圭吾が提供した楽曲。日本だけでなく世界中でリリースやライブをして評価されているアーティスト。

 

『Flow』というタイトルの曲。コーネリアスの個性が詰まった曲だ。

 

歌詞のないインストゥメンタル。様々な音を組み合わせた複雑な曲。歌がないので曲だけ聴いても、木村拓哉の曲だとは思えない。

 

それなのにこの曲はアルバムにおいて重要な曲にも感じる。アルバムタイトルは『Go with the Flow』。『Flow』という曲名をアルバム名に取り入れている。

 

『Go with the Flow』は英語のスラング。日本語に訳すと「流れにまかせる」「流れに乗って前に進む」という意味だ。

 

このアルバムはまさにそういう意味が込められたアルバムかもしれない。

 

このアルバムからは、木村拓哉からの楽曲提供者へのリスペクトを感じる。逆に楽曲制作者からも木村拓哉へのリスペクトを感じる。

 

『Go with the Flow』はリスペクトに溢れた作品だと思った。「リスペクト」という想いに、木村拓哉も楽曲提供者も「流れに乗って前に進む」ことで良い作品になっていると思った。

 

木村拓哉のために作られた楽曲

 

1曲目の『Flow』に歌はない。しかし木村拓哉も楽曲には参加している。

 

小山田圭吾(コーネリアス)

今回、不思議なご縁で木村さんのアルバムに参加することになりました。
木村さんのアイディアで、木村さんがサーフボードのワックスを塗る音を使って曲を作りました。
木村さんの奏でるワックスサウンド、ぜひお楽しみに。

 (引用:木村拓哉Special Sitet)

 

 これは『Go with the Flow』のアルバム特設サイトに掲載されている、小山田圭吾のコメントだ。

 

木村拓哉は歌ってはいないものの、楽曲制作に関わっているようだ。サーフボードのワックスを塗る音を音楽に変換するという発想は、小山田圭吾も楽曲提供がなければ、思い浮かばなかったと思う。

 

ただ楽曲を提供するのではなく、木村拓哉へのリスペクトの想いがあるからこその作品に楽曲になっている。小山田圭吾も木村拓哉への楽曲提供というGo with the Flow (流れに乗って前に進む)ことで作品作りに参加したのだ。

 

公式サイトの楽曲提供者コメントは、木村拓哉へのリスペクトの想いを語っているものばかりだ。

 

稲葉浩志

私が見て話して遊んで感じて自然に浮かび上がった「生身の木村拓哉像」を歌詞にさせて頂きました。文字通りOne and Onlyです。

森山直太朗

誰もが過ごすであろう、たった一人自分と向き合うその束の間を、木村さんになぞらえて作ってみました。

槇原敬之

自分の誕生日に木村さんがギターをかき鳴らしながら歌ってくれたりしたら、すごく素敵だなぁと想像しながら作ったこの歌を、皆さんも気に入ってくださるとうれしいです^^

 

稲葉浩志や森山直太朗や槇原敬之は、木村拓哉が歌うことを想像しながら制作したことを語っている。Uruや川上洋平は木村拓哉と作品を作ることができた喜びを感情的に語っている。

 

[ALEXANDROS]のナンバーとして、ゲーム「JUDGE EYES」のエンディングテーマ的なところで、洋平が作ってくれて[ALEXANDROS]の楽曲として成立してくれていた曲なんですけど。
洋平の中では、「JUDGE EYES」に曲を作る時点で、僕をイメージして作ってくれたらしいんですよ。
「木村さんをイメージして作った曲なので、ご本人に歌って頂いたらすごく嬉しいです」という意向を僕は聞いていたので、「じゃあ、やらせていただきます」という流れになりました。

(引用:木村拓哉のFlow - TOKYO FM 80.0MHz - (2019年12月1日))

 

Your Song

Your Song

  • [Alexandros]
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

『your song』は【Alexandros】の楽曲のカバーだが、楽曲自体が木村拓哉をイメージして作られた作品で、川上洋平から歌ってほしいと言われたらしい。

 

作詞や作曲に木村拓哉が直接関わったわけではない。それでも木村拓哉が歌うべき楽曲や、歌うことで魅力が引き立つ楽曲が揃っている。

 

 

提供者の個性の強さ

 

木村拓哉をイメージして制作を行った楽曲提供者も多い。しかし「木村拓哉に合わせよう」としたわけではない。アーティスト本人の個性が爆発している曲ばかりだ。

 

槇原敬之が提供した『UNIQUE』はイントロから槇原敬之の王道ともいえるポップで切ないイントロが印象的だ。

 

森山直太朗提供の『ローリングストーン』のアコースティックギターによるアルペジオの演奏は「直太朗節」とも言えるような個性。

 

『My Life』の英語と日本語が半々で組み合わさった歌詞を、メロディにテンポよく乗せる手法もOVE PSYCHEDELICOにしか作れない。

 

『Leftovers』なんて【Alexandros】の新曲として出しても違和感ない名曲になると思う。

 

 

若手アーティストも遺憾無く個性を発揮している。

 

Uruが提供した『サンセットビーチ』のミドルテンポでメロディアスな雰囲気は、Uruの持っている強みの1つ。

 

 

 

 『One and Only』は稲葉浩志とSuperflyのコンポーザーでもあった多保孝一との共作だ。珍しい組み合わせだが、両者の個性を強く感じる。

 

作曲は多保孝一。Superflyの『Alright!!』などのロックチューンにも通ずる気持ちの良い演奏。

 

それに稲葉浩志の歌詞が乗る。

 

「プライドはなんてちっちゃいの」「叫ぼうや」「燃えようや」と少し砕けた表現を取り入れつつも、重要なメッセージはしっかりと伝わる。それは稲葉浩志の歌詞の魅力の1つに思う。

 

木村拓哉への楽曲提供がなければ実現しなかった組み合わせだが『One and Only』では両者の個性がしっかりと共存し、カッコいいロックナンバーが出来上がった。

 

楽曲提供者全員が自分の個性を全開にしている。

 

木村拓哉のことを思い浮かべながら制作された楽曲も多いが、それでも作詞作曲したアーティスト本人が歌っても名曲になる楽曲ばかりだ。

 

しかしそれは木村拓哉が望んだことかもしれない。

 

「この夏に、一瞬でしたが、間近で木村拓哉のステージ熱のようなものを感じました。そろそろ木村拓哉の思い切り歌う姿を見たいなと単純に僕は思っているということです。(※2018年夏のB’zライブに木村がサプライズ出演)」という稲葉浩志からの言葉をもらうことによりこのプロジェクトは始動し始める。

 

その後 [ALEXANDROS]、LOVE PSYCHEDELICO、森山直太朗とアーティストゲストが来るたびに音楽の話になり、各アーティストからの楽曲提供の話も浮上し、このプロジェクトの骨格が築き出されていく。

 

そしてついにアルバムがリリース出来るまでの楽曲が集まり、Flowという番組を中心に様々なアーティストの後押し、さらには番組リスナーからの多数の音楽活動をやってほしいと言う声を聞いた木村のスイッチが入り、アルバムリリースの運びとなった。

 

(引用:木村拓哉 アルバム『Go with the Flow』2020年1月8日発売!)

 

 

『Go with the Flow』はラジオ番組をきっかけに、木村拓哉と親交のあるアーティストや好きなアーティストとともに作った作品だ。ラジオをきっかけに楽曲提供を依頼したアーティストもいるようだ。

 

参加アーティストのことを木村拓哉はリスペクトしている。彼らの音楽の魅力を感じている。

 

だからこそアーティストの個性が爆発している楽曲が提供されたことは望んでいることではと思う。

 

木村拓哉は歌で想いを返す

 

「そろそろ木村拓哉の思い切り歌う姿を見たいなと単純に僕は思っているということです。 」

 

アルバム制作のきっかけになった、稲葉浩志の言葉。

 

これは他の参加アーティストも思っていることだと思う。アルバム特設サイトに掲載された楽曲提供者コメントは、木村拓哉へのリスペクトに溢れていたのだから。

 

木村拓哉はこの想いに、歌でしっかり返している。

 

提供アーティストの個性が強い曲でも、相手の歌い方に合わせない。SMAPとしてスーパースターであり続けていた時と同じ声で、同じように歌っている。

 

アルバムには様々なタイプの楽曲が収録されているが、どの曲も自身の表現方法で、思い切り歌っている。

 

その歌声は色気があって、かっこよくて、楽しそうで、最高だ。グッとくる。

 

「木村拓哉の思い切り歌う姿を見たい」と言っていた稲葉浩志の言葉は、ファンの想いを代弁していたのかもしれない。

 

いや、きっとファンの想いだけではない。SMAPや木村拓哉は国民的スターだ。彼の歌声を知らない人なんてほとんどいない。SMAPの曲や歌声に救われた人や元気をもらった人がたくさんいる。日本国民の想いを代弁していたとも言える。

 

自分は熱心に追っていたわけではないが、自分にとってSMAPは、自分が子どもの頃からずっとテレビで歌っていた大スターだ。

 

また木村拓哉の思い切り歌う姿を見れて、自分も嬉しい。

 

 

 木村拓哉が歌い方を変えた唯一の曲

 

『弱い僕だから』という曲が最後に収録されている。この曲だけ他の曲とは木村拓哉の歌い方が違う。違う人が歌っているかと思うぐらいに。

 

この曲の作詞作曲は忌野清志郎。元々はRCサクセションで演奏されていたもので、1970年代に制作された楽曲だ。

 

RCサクセションも忌野清志郎もヒットを出せていない不遇な時代の楽曲。そのためかスタジオ録音がされていなかった。

 

それを1997年に発売された『SMAP 011 ス」というアルバムに木村拓哉のソロ曲として提供された。『Go with the Flow』に収録されているものはそれのセルフカバーだ。

  

今回は忌野清志郎さんていう母体から生まれた曲なので、忌野清志郎さんのDNAをもうちょっと強めにしたかったんです。
だから、演奏者として今回手伝っていただいたのが三宅さんという、清志郎さんのサポートギターやコーラスとしてずっと一緒に活動されていた三宅伸治さんにギターを弾いてもらって、三宅さんが率いる高橋さんだったり、ケニーっていうドラムだったり、フラッシュ金子さんっていうキーボードだったりに入ってもらいました。

 (引用:木村拓哉のFlow - TOKYO FM 80.0MHz - 木村拓哉)

 

 

 

 

『Go with the Flow』に収録されている歌は、忌野清志郎を意識しながら歌っている。発声方法や歌の癖も似せようとしている。

 

『弱い僕だから』は収録曲で唯一、木村拓哉のために作られたわけでもないし、木村拓哉をイメージして作られたわけでもない。

 

忌野清志郎が自分のバンドのために作ったものを、木村拓哉に譲り渡した曲だ。

 

この曲を再録した理由はきっと、彼にとって特別な曲だからだと思う。大切な曲を譲ってくれた忌野清志郎への感謝やリスペクトがあるのだと思う。

 

「忌野清志郎さんていう母体から生まれた曲なので、忌野清志郎さんのDNAをもうちょっと強めにしたかったんです。」

 

この言葉の通り、 木村拓哉はキヨシロウのDNAを受け継いだような歌を聴かせてくれる。そこにはリスペクトの想いを強く感じる。

 

今作のために制作された楽曲は、木村拓哉として歌うことで提供者へ想いを返している。『弱い僕だから』はキヨシロウのDNAを強めるなことでリスペクトを伝えている。

 

色々な想いが込められたアルバムだと思う。個人的に好きなアルバムだし、良いアルバムだと思う。

 

クオリティも高いと思う。音も良いしポップスとして作り込まれていると思う。でも『Go with the Flow』を良いアルバムだと思った理由は、他にある。

 

関わった全員がそれぞれ想いを込めて、リスペクトし合って完成させたように思うからだ。その想いを聴いていて感じるからだ。

 

だってこのアルバムに関わっているアーティストと木村拓哉に「愛し合ってるかい?」と聴いたら、全力で「いえええええい!」て叫びそうでしょ?

 

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M1: Flow
 (作曲編曲:小山田圭吾)
M2: One and Only
 (作詞:稲葉浩志 作曲編曲:多保孝一 ブラスアレンジ:村田陽一)
M3: I wanna say I love you
 (作詞作曲:Uru 編曲:富樫春生)
M4: UNIQUE
 (作詞作曲編曲:槇原敬之)
M5: NEW START
 (作詞:いしわたり淳治 作曲:水野良樹 編曲:TAKAROT)
M6: Leftovers
 (作詞作曲:川上洋平 編曲:川上洋平、佐瀬貴志、宗像仁志)
M7: ローリングストーン
 (作詞:御徒町凧 作曲:森山直太朗 編曲:小名川高弘)
M8: Speaking to world
 (作詞:前田甘露 作曲:Fredrik “Figge” Bostrom , 佐原康太 編曲:佐原康太)
M9: サンセットベンチ
 (作詞作曲:Uru 編曲:富樫春生)
M10: Your Song
 (作詞作曲:川上洋平 編曲:清水俊也)
M11: My Life
 (作詞作曲:KUMI, NAOKI 編曲:LOVE PSYCHEDELICO)
M12: A Piece Of My Life
 (作詞:西田恵美 作曲:川口進, Christofer Erixon 編曲:清水俊也)
M13: 弱い僕だから(session)
 (作詞作曲:忌野清志郎 編曲:三宅伸治)