2019-12-15 「あいみょんのハルノヒの歌詞に北千住が出てくるから共感できない」←ん? コラム・エッセイ あいみょん 北千住がわからない 「あいみょんのハルノヒって北千住ってワードが田舎モンにはよくわからん。そこだけがもったいない気がする」 「あいみょん『北千住駅の〜』の出だしで大阪人の僕としてはいきなり感情移入出来ない」 以前Twitterであいみょんの『ハルノヒ』という曲の歌詞について、このような感想ツイートを見かけた。 ハルノヒ あいみょん J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 北千住は全国の誰もが知るような有名な場所ではない。渋谷や新宿のような大都市でもない。東京23区内だが埼玉方面の土地。首都圏以外に住む人は知らなくて当然。 東京都民でも馴染みがない人や地名を知らない人がいるとは思う。メジャーな地名だと思っているのは足立区民だけ。たぶん。 自分は何度か行ったことはあるが馴染みの土地ではない。思い入れもない。『麺屋 音』というラーメン屋が美味しいことは知っているが、それぐらいしか魅力を感じない。 マジで美味いので行って欲しい。店名が『麺屋 音』なので音楽好きに響く味なのかもしれない。 このツイートのように、知らない地名が歌詞に出てくると曲の共感できないという考えがあるのかもしれない。それに理解も納得もできる。たしかに歌詞は具体的になればなるほど、自分の生活や思想とは違う内容になりやすい。共感しづらいかもしれない。 しかし自分はあまり気にしたことがない。むしろ知らない地名でも出てきたら嬉しさを感じる。極論だが全ての歌詞に地名が出てきて欲しいとも思っている。 あいみょんが「北千住」を出した理由 あいみょん自身も北千住と深い関係があるわけではないと思う。 彼女の出身は兵庫県西宮市。上京してどこに住んでいたのかは明かされていないが、メジャーデビュー前は路上ライブを渋谷のTSUTAYA前などで行なっていた。北千住でライブをやったという話は聴いたことがない。 では、なぜ北千住という言葉を出したのだろうか。 『ハルノヒ』は『映画クレヨンしんちゃん 新婚旅行ハリケーン ~失われたひろし~』の主題歌。期間限定でテレビアニメ『クレヨンしんちゃん』のエンディングにも使われていた。 野原ひろしがみさえにプロポーズした場所が北千住なのだ。これは『クレヨンしんちゃん』の原作の中にもある話。タイアップ先に合わせて『北千住』という地名を出したのだ。 北千住駅のプラットホーム 銀色の改札 思い出話しと 想い出ふかし 腰掛けたベンチで 僕らは何も見えない未来を誓い合った 『ハルノヒ』の冒頭の歌詞はプロポーズの様子を書いているように受け取れる。サビでは家族を思い浮かべるような内容。まるで野原家についてうたっているようにも感じる。 どんな未来が こちらを覗いてるかな君の強さと 僕の弱さを わけ合えばどんな凄いことが起きるかな?ほら もうこんなにも幸せいつかはひとり いつかはふたり大切を増やしていこう クレヨンしんちゃんの舞台は埼玉県春日部市。 曲名の『ハルノヒ』を漢字にすると『春の日』になる。タイトルで春日部を表現している。タイアップがついているからこその意味を、タイトルや歌詞に込めている。 その意味を理解した時『ハルノヒ』には共感できるかどうかとは違う価値があるのだと気づく。「北千住」を歌詞に出す必要性があると知る。楽曲がより魅力的に感じる。北千住のことを愛おしく感じる。 知らない地名が出てくると共感はしづらい。その代わり行ったことのない土地の景色が、音楽によって頭の中に広がることもある。 その瞬間が自分は大好きなのだ。 地名が含まれた歌詞 地名が含まれる曲は『ハルノヒ』以外にもたくさんある。 特に演歌や歌謡曲の名曲には様々な土地出てくる。 「津軽海峡冬景色」「箱根八里の半次郎」など。半次郎とか誰も知らない人物も出てくる。 他にも日本のロックやポップスに強い影響を与えているアーティストも地名を出すことかある。 サザンオールスターズは多くの曲で湘南の地名が出てくる。デビュー曲の『勝手にシンドバッド』も「砂混じりの茅ヶ崎」で始まる。それでも聴けば盛り上がるし日本のロックシーンに残る名曲だと思う。 LOVE AFFAIR~秘密のデート サザンオールスターズ J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes マーリンルージュで愛されて 大黒埠頭で虹を見て シーガーディアンで酔わされて まだ離れたくない。 自分は大黒埠頭に行ったことはない。横浜にある埠頭だということしか知らない。 それでも自分がサザンで最も好きな曲は『LOVE AFFAIR〜秘密のデート』だ。行ったことのない土地なのに景色が浮かぶ。 見たことないのに大黒埠頭から見る虹が素晴らしい景色だと想像できる。美しいメロディに乗せられた「大黒埠頭で虹を見て」というフレーズで感情が動かされる。それだけの力をこの曲は持っている。この曲が大好きだ。 ゆずも地名をそのままタイトルにした 『桜木町』という曲がある。歌詞の内容も桜木町を舞台にしている。「大きな観覧車」「海沿いの道」など知っている人が聴けばどの場所かわかるであろう具体的なフレーズもある。 桜木町 ゆず J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 自分はほとんど行くことがなかった土地。それでも聴けば景色が想像できる。切ない気持ちになる。名曲だと思う。 One more time,One more chance 山崎まさよし J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 山崎まさよしの『One more time,One more chance』の中にも「桜木町」というフレーズは出てくる。歌詞の中で唯一具体的な地名として出てくる場所が桜木町。 他の山崎まさよしが君を探している場所はリスナーによって想像する場所は違うと思う。基本的に抽象的なばしょを歌われているからだ。 しかし、その中で「桜木町」という具体的な地名が唯一出てくる。それによって自分には馴染みのない土地なのに、主人公に感情移入してしまう。 1つのワードによって抽象的だった主人公の住む街や生活がパッと想像できる。具体的な地名が出てくることでリアルを感じるのだ。 さわって・変わって スピッツ ロック ¥250 provided courtesy of iTunes スピッツの『さわって・変わって』でも同じようにリアルを感じる。 天神駅の改札口で君のよれた君の笑顔 行き交う人の暗いオーラがそれを浮かす 最初のフレーズで歌の世界観に引き込まれる。 自分は天神駅に行ったことはない。それなのに、歌われている景色が、脳内に具体的に浮かび上がる。 天神駅に立っているよれた笑顔の君も、行き交う人の姿も、それを見ている主人公の姿も。行ったことのない天神駅の景色と共に頭の中に浮かぶ。 「天神駅」というワードが出たことで登場人物についても自然と想像してしまう。 福岡に住んでいる人なのだろうとか。ヒロインは「ばってん」とか「好いとうよ」と博多弁を話すのかなとか。博多弁、かわいいなとか。博多弁、かわいいなとか。博多弁、かわいいなとか。 地名が出てくることで歌詞にリアリティを感じたり、想像力をより掻き立てる場合もある。たった一言で歌の景色を鮮やかにしてくれる。 それは共感とは違う感情だ。でも、自分は歌の景色をリアルに感じたり鮮やかに感じる瞬間が、たまらなく感動的で好きなのだ。 この記事で最も伝えたいこと ここまで読んでもらって申し訳ないが、ここまでの文章は全て前振りだ。 この記事で伝えたいことはあいみょんの『ハルノヒ』についてでも他の地名が出てくる楽曲についてでもない。 とあるバンドを紹介したかったのだ。あいみょんを利用してインディーズバンドを紹介しようという嫌らしい手段を使ってみた。 UlulUというインディーズバンドを知っているだろうか。東京を拠点に活動しているスリーピースバンド。バンド名はウルルと読む。 ウルルの『夕方のサマーランド』という曲がたまらなく好きなのだ。メロディや演奏も良いのだが、何よりも歌詞が胸に突き刺さった。 子供たちは眠りについて 恋人たちは夜へ向かう 裸に近い女たちはクラブへ向かう途中 今日はいろんな景色をみたな 見たくないものだって見たよな 夜な夜な夢に出て来るような 怖くていかついヤツ 遠く離れても思い出すのはサマーランド 友達と遊びに行ったよな 夕方のサマーランド赤い太陽は燃えて 夕日に照らされた人たちが一瞬サカナに見えた 自分はサマーランドに行ったことはない。それでもこの曲を聴いて、サマーランドの景色が頭に浮かぶ。夕日に照らされた人たちがサカナに感じるような景色。はっきりと想像できる。 その部分だけではない。前半で歌われている景色も想像できる。 「裸に近い女」というフレーズでは女性変質者に感じるが「クラブへ向かう途中」と続くことで、裸に近い女がどのような服装なのか想像ができる。 そして主人公がクラブへ行く女に対してどのような目で見ているのかも伝わってくる。歌詞で歌われる風景や主人公の価値観も想像できるので、歌の世界に簡単い入り込むことができる。 核爆撃でクジラが何頭も死んだと言う 貧しき子供たちに贈る第二奨学金 この世の人たちは結局なにがしたいのか 何より分からなかったのは私の心の中 2番で歌われているのは主人公の感情。それに共感できるかというと、自分は共感できるわけではない。主人公も感情がぐちゃぐちゃになっている歌詞。共感はできないけど、気持ちは分かる気がする。 それは1番の歌詞で主人公の見た景色を共有できたからだ。「サマーランド」という具体的な地名がでてきたことで、より曲の世界観が伝わったからだ。 UlulUはまだ知名度もない。それはバンドの実力不足ではなく、まだ知られる機会が少ないからだと思う。知ってもらう機会が増えれば、このバンドの音楽が伝わる人も、もっと増えるはずだ。 『夕方のサマーランド』は『話をしようよ』というEPに収録されている。他の曲も最高なんだ。ぜひ聴いてみて欲しい。 話をしようよ - Single UlulU ロック ¥611 地名が出てくるせいで感情が無になることもある 自分の知らない地名が出てくることで、共感はできなくなってしまうかもしれない。興味をなくしてしまうかもしれない。 しかし、それはもったいないとも思う。知らない地名が出てきたとしても、その地名から想像をふくらませることもできる。名曲ばらば知らない地名が出てきても簡単に歌の世界に入ることができる。 まるで音楽によって知らない土地に移動した気分になれる。そこにいる人たちの生活を少し覗いた気分になれる。 知っている土地が出てきた場合は別の楽しみ方もできる。 歌の景色と自分が見た景色を重ね合わせることもできるのだ。歌詞では描かれていない自分の知っている景色や情報も音楽に加えて楽しむことができる。 例えばあいみょんの『ハルノヒ』ならばクレヨンしんちゃんの主題歌だから歌の主人公は春日部に住んでいるはずと想像できる。 それなら北千住駅のプラットホームはJRや東京メトロではなく、春日部に行くことができる東武スカイツリーラインなんだろうなと想像をふくらませて楽しめる。 だから自分は地名が出てくる歌詞が好きだ。どんな土地が出てきても、想像がふくらむから。 しかし、例外もある。地名が出てくる歌なのに、感情が「無」になってしまう曲があるのだ。 森高千里の『ロックンロール県庁所在地』という曲。 タイトルに『県庁所在地』とあるのにMVては森高千里のバックには地球。日本を歌っているのに世界規模の壮大なMV。日本の位置から放たれる謎のエフェクトの不気味さ。そのシュールさに言葉を失う。 盛り上がりどころがあるわけでもなく同じメロディと演奏が続く。同じような映像が続く。 淡々と全国の都道府県と名物を歌い続ける森高千里。その音楽とMVに呆然としてしまう。呆然としていると曲が終わる。 感情が無になる。共感するかどうかのレベルまで達していない。自分が何を聴いて何を見ていたのかさえわからなくなる。 それなのに、また『ロックンロール県庁所在地』を繰り返し聴きたくなる。なぜか中毒性があるのだ。これはこれで素晴らしい曲だ。 「あいみょんのハルノヒって北千住ってワードが田舎モンにはよくわからん。そこだけがもったいない気がする」 「あいみょん『北千住駅の〜』の出だしで大阪人の僕としてはいきなり感情移入出来ない」 『ハルノヒ』に共感できるかどうかなんてどうでもよくなってきた。 だって『ロックンロール県庁所在地』には知っている地名がいくつも出てくるのに、全然共感できないんだもん。感情が無になるんだもん。共感できるかどうかを考えることがバカバカしくなるんだもん。 もしかしたら感情を無にして楽しむこともアリなのかもしれない。『ロックンロール県庁所在地』を聴いた後『ハルノヒ』を聴けば、誰もが北千住のことなど気にせずに楽曲を楽しめるのかもしれない。 感情が無になったせいで、この記事で何を伝えようとしていたのかわからなくなってしまった。感情が無になったから仕方がない。 そうだ。北千住の美味しいラーメン店を紹介しようと思っていたのだ。 みなさん、北千住で1番美味しいラーメン店『麺屋 音』でラーメンを食べましょう。特選煮干そばが有名だが、個人的には特選鶏塩そばがオススメ。これが伝えたいことだ。 北千住駅から徒歩5分。『麺屋 音』。是非最高のラーメンを堪能して欲しい。 ↓関連記事↓