オトニッチ

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Lucie,Tooを観て「ガールズバンド」というジャンル分けは消滅してもいいと思った

Lucie,Tooを不思議なバンド思った

 

Lucie,Tooというバンド。自分が存在を知ったのは2017年の終わり頃。『LUCKY』というミニアルバムのタイトル曲がきっかけだ。

 

 

1分42秒の短い曲。疾走感のある演奏とキャッチーなメロディに惹きつけられた。この曲はYOUTUBEで250万回以上再生されている。多くの人に届いたLucie,Tooの代表曲。

 

演奏はロックバンドとして芯が通っていてカッコいい。短くてシンプルな曲構成だが、純粋に良い音楽を鳴らそうとしているように思った。カッコいいロックを鳴らすガールズバンドがまた1組出てきたと思った。

 

でも、少し違和感もある。

 

他のロックバンドと雰囲気が違うように感じた。正統派ロックバンドなように見せかけて、全く正統派ではない表現をしているような、不思議な違和感を感じた。

 

 

自然体ではなかったガールズバンド

 

チャットモンチーがデビューしてヒットしたことは個人的にガールズバンドにとって革命だと思う。

 

Lucie,Tooが直接的な影響を受けているのかはわからないが、チャットモンチーのヒットはLucie,Tooの活動にも影響しているように思う。

 

デビュー当初のチャットモンチーははTシャツにジーパンでステージに立っていた。

 

女性らしい服装やオシャレをしているわけではない。メディアやライブ用の衣装があるわけではない。まるで近所に買い物にいくかのような服装で自然体に思えた。

 

 

チャットモンチーに影響を受けたバンドはたくさんいる。チャットの影響でTシャツにジーパンなど飾らない姿でステージにたち演奏をするガールズバンドが増えたようにも思う。SHISHAMOなど現役の人気ガールズバンドもそのような服装で演奏することが多い。

 

女性ミュージシャンは男性以上にルックルも注目されがちだ。まだまだ判断されることも多い。それは女性に対する差別や偏見だに思う。

 

チャットモンチーの登場により、良い音楽とそれを伝える演奏があれば、きちんと評価される時代になっと思った。

 

でも、それは違った。自然体に見えたのは自分の勘違いだ。

 

福岡「わかるわ〜! 中音を大きくするの、めっちゃわかる。(チャットモンチーの地元である)徳島でもガールズ・バンドはすごく少なかったし、最初は女のバンドとして見られるのがすごく嫌で、〈ジーパンとTシャツ〉みたいな格好で、絶対に女の子らしくはしない、ということもやってた。あと、楽器に詳しくならなきゃ、とか思ったりね。男性の先輩って楽器教えたがるんですよ」

(The Wisely Brothers×福岡晃子(チャットモンチー済)対談 | Mikiki)

 

The Wisely Brothersと元チャットモンチーの福岡晃子の対談ではこのように話していた。

 

ジーパンとTシャツは自然体ではなかった。その姿で演奏することで戦っていたのだ。

 

Tシャツとジーパンは「音楽だけ」をきちんと届けるための服装だった。そのせいで自分を押し殺している部分もあったのかもしれない。

 

服装によって音楽の魅力がしっかりと伝わった面はあるかもしれない。チャットモンチーのヒット以降、ガールズバンドに対する偏見や差別も少なくなったようにも思う。

 

Lucy,Tooの服装はTシャツにジーパンではない。彼女たちが着たい服を自由に着て演奏しているように思う。

 

他の若手バンドも服装はより自由になったように感じる。リーガルリリーもワンピースを着ていたりする。活動後期にはチャットモンチーもより自由な服装でライブやメディアに出ていた。

 

バンドの音で評価する人は増えたようにも思う。それでも、Lucie,Tooはやはりロックバンドとしては少し不思議だと思う部分もある。

  

 

尖っている歌詞のガールズバンド 

 

風吹けば恋

風吹けば恋

  • チャットモンチー
  • ロック
  • ¥255
 タイトルをクリックでダウンロード
  • provided courtesy of iTunes

 

はっきり言って努力は嫌いさ

はっきり言って人は人だね

 

チャットモンチーは『風吹けば恋』でこのように歌っている。キャッチーでポップな曲と思わせておいて、尖った歌詞を含ませている。その姿勢にロックの精神を感じた。「若い女がやっている可愛らしいバンドではない」と表明しているような棘のある感じにかっこよさを感じた。

 

リッケンバッカー

リッケンバッカー

  • リーガルリリー
  • ロック
  • ¥250
 タイトルをクリックでダウンロード
  • provided courtesy of iTunes

 

音楽も人を殺す

 

 この尖ったフレーズは印象的で衝撃的だった。リーガルリリーの『リッケンバッカー』という曲。

 

Lucie,Tooとは同年代のバンド。ライブでも轟音を鳴らし最後はノイズを残したままステージをさる姿がカッコいいバンド。

 

そこには「女だけど男に負けない」という尖った気持ちを音楽に込められている部分があるかもしれないが、楽曲や演奏のカッコよさに性別などどうでもよくなってしまう。

 

しかしLucie,Tooからはそれを感じないのだ。尖った表現を感じないし、何かと戦おうともしていないように思う。それでも他のロックバンドと変わらずロックを鳴らしていてカッコよく思う。

 

 

 

発売されたばかりのEP収録曲でも、そのように思う。尖っていないけど、疾走感があって、胸が熱くなるロックサウンド。

 

やはりLucie,Tooを他のガールズバンドと比べると不思議なバンドに思うのだ。

 

 

Lucie,Tooのライブを観て感じたこと

 

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Lucie,TooのEP『CHIME』のレコ発ライブを観た。ライブを観ても不思議なバンドだと思った。 

 

演奏も歌も立ち振る舞いもカッコつけていなかった。終始笑顔で楽しそうに演奏していた。尖ったパフォーマンスはない。激しい演奏で客を煽ったりはしない。

 

それでも演奏は芯がある。ロックバンドだけが鳴らせるロックンロール。

 

自分たちが好きな音楽を、好きな人たちと、ただただ鳴らしていると思った。「ロックの精神性」的な価値観や主義主張はすっ飛ばして、音楽ジャンルとしての「ロック」が好きで曲を作り演奏しているように観えた。

 

演奏された曲は全16曲。改めてこの曲数を聴くと、Lucie,Tooは様々なタイプの曲があるのだと気づく。

 

代表曲の『Lucky』や『キミに恋』のような疾走感のある曲だけでなく『オレンジ』のように胸に染みるミドルテンポのナンバーもある。『カラー』では音源以上に激しくメロコアバンドのように演奏していた。

 

カラー

カラー

  • Lucie,Too
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 「Lucie,Tooと初めて対バンした時は同じガールズスリーピースバンドだから、どんなもんじゃいとこっちは尖ってたんですけど、実際に会ったらみんな良い子でかわいらしくて初対面でも尖ってなくて仲良くなって、今では一緒にカレーを食べに行く仲です」

 

この日対バン相手だったUlulUはMCでこのように話していた。

 

Lucie,Tooはライブでもステージ裏でも変わらないようだ。ライブでは好きな音楽を奏で、ステージ裏では好きなバンドと交流をしている。対バン相手の演奏も最初から最後までしっかり聴いているようだった。

 

ただただ音楽が好きなバンドなのだと思う。ロックミュージックが好きなのだと思う。好きだから芯のあるロックな演奏ができるのだと思う。

 

だから自分は他のロックバンドとは違う不思議な魅力を感じつつも、ロックバンドとしか言い表せないバンドに感じたのだ。尖っているカッコよさもあるとは思う。でも尖っていないカッコよさもあるのだ。

 

それがLucie,Too他のロックを奏でるガールズバンドとは違う個性で魅力に思う。そしてガールズバンドに対する価値観を帰るバンドにもなり得るのではとも思う。

 

 

ガールズバンドという言葉の違和感

 

女性だけのバンドをガールズバンドと呼んだり、女性メンバーがいるバンドを「男女混合バンド」と呼ぶことは多い。

 

メンバーに一人だけ女性メンバーがいると「バンドでは紅一点のベーシスト」などと演奏スタイルよりも性別を付け加えられて説明されることが多い。

 

 個人的にそれが悪いことだとは思わない。紹介をする際に説明しやすくなることもある。しかしそれが重要なことかと考えるとどうなのだろうか。

 

福岡「わかるわ〜! 中音を大きくするの、めっちゃわかる。(チャットモンチーの地元である)徳島でもガールズ・バンドはすごく少なかったし、最初は女のバンドとして見られるのがすごく嫌で、〈ジーパンとTシャツ〉みたいな格好で、絶対に女の子らしくはしない、ということもやってた。あと、楽器に詳しくならなきゃ、とか思ったりね。男性の先輩って楽器教えたがるんですよ」

(The Wisely Brothers×福岡晃子(チャットモンチー済)対談 | Mikiki)

 

チャットモンチーの福岡晃子の言葉を思い出す。

 

そういえば「ボーイズバンド」という言葉をあまり聞かない。「バンドは男性がやることが一般的」という価値観があるのかもしれない。「ガールズバンド」というカテゴライズによって、もしかしたら苦しんだり悩んでいる女性がいるのかもしれない。

 

少しづつ価値観は変わってきているとは思う。チャットモンチーをはじめとする女性ミュージシャンが音楽を通じて変えてきたのだと思う。性別関係なく純粋に音楽を評価する人も増えてきたとは思う。

 

Lucie,Tooは「女の子らしくしない」「男に負けない」という価値観は持たずに音楽をやっているように感じる。逆に「かわいらしく」「女の子らしく」やっているようにも思わない。

 

自分が好きな格好をして、好きな音楽を好きな人たちと作って、好きなように演奏しているように感じる。好きな音楽と最高の演奏だけを考えて活動しているように見える。

 

そこに「ガールズバンド」という名称やカテゴライズは必要ない。男性だろうが女性だろうが「音楽」を生業にしているのならば平等に音楽で評価するべきだ。性別関係なく「バンド」と呼べば良いのではと思う。

 

チャットモンチーは女性がやっても「バンド」として評価される強力な土台を作った。そしてLucie,Tooは「バンド」としてロックを鳴らしライブハウスで演奏している。

 

そもそも「Lucie,Tooは不思議なバンド」と思っていた自分も、女性がバンドをやることに偏見があったのかもしれない。色眼鏡を外して観れば、不思議なバンドではなくカッコいいバンドだと気づく。

 

この記事ではあえて使った言葉ではあるが「ガールズバンド」という言葉とジャンル分けは消滅していいと個人的に思う。

 

音楽には性別も年齢も関係ない。老若男女が平等に楽しめるものだし、バンドは平等に評価されるべきだ。

 

「ガールズ」という言葉でジャンル分けする必要かまあるのはガールズバーぐらいだ。ガールズバーにはガールズって付けてくれないと困る。 

 

 セットリスト

1.Chime
2.あなたの光
3.幻の恋人
4.ドラマチック
5.新曲
6.同じ話
7.オレンジ
8.May
9.Only Lonely Christmas
10.Fairy Kiss
11.ゆらゆら
12.Heart Wave
13.キミに恋
14.カラー

En
15.My Favorite Music
16.Lucky