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椎名林檎の『三毒史』が怖い〜アルバムレビュー・感想〜

怖い

 

自分は椎名林檎のCDを聴いているつもりだった。

 

しかし再生した瞬間、不気味な男の声が聴こえる。不気味な声で般若心経を歌っている。怖い。

 

ジャケットを確認してみる。椎名林檎がいる。間違いなく椎名林檎のアルバム。『三毒史』というタイトルのアルバム。

 

鶏と蛇と豚

鶏と蛇と豚

  • 椎名林檎
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

1曲目に収録されている『鶏と蛇と豚』という楽曲。不気味な般若心経のバックに少しづつ楽器の音が重なっていく。不気味なお経が少しづつ「音楽」に変化していく。

 

椎名林檎の歌声が聴こえてきた。歌声に惹き込まれる。さっきまで不気味さを感じていたのに。怖さで再生を止めようと思っていたのに。

 

不気味と感じていたのに、かっこよさや心地よさを感じるようになる。『鳥と蛇と豚』は3分の楽曲。たった3分の間で自分の感情が大きく上下する。

 

怖い。自分の感情がこんな短時間で変化することが怖い。そしてそんな音楽を作る椎名林檎が怖い。才能が怖い。

 

怖いのはこの曲だけではない。『三毒史』の全曲を通して怖い。怖いアルバムなのだ。

 

ゲストが怖い

 

もう一度言うが、自分は椎名林檎のCDを聴いていた。しかし2曲目ではパワフルな男性の歌声が聴こえる。「エビバデ!」と叫び出しそうなパワフルな歌声。怖い。

 

獣ゆく細道

獣ゆく細道

  • 椎名林檎と宮本浩次
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

エレファントカシマシの宮本浩次だ。椎名林檎の歌を聴くつもりだったのにこの世は無情。しかし、その迫力ある歌声に惹き込まれる。

 

怖い。椎名林檎の歌声を聴きたかったはずなのに宮本浩次の歌声に惹き込まれる。きっと自分以外のこの曲を聴いた椎名林檎ファンのエビバデも同じ気持ちなはずだ。途中で椎名林檎の歌声も重なる。パワフルさに艶が加わる。色気のある楽曲に変化する。

 

怖いぐらいの変化。エレカシとも違う宮本浩次の魅力が引き出されていることも怖い。このベテラン歌手にまだまだ引き出しがあったことが怖い。

 

宮本浩次(エレファントカシマシ)、櫻井敦司(BUCK-TICK)、向井秀徳(NUMBER GIRL/ZAZEN BOYS)、浮雲、ヒイズミマサユ機、トータス松本(ウルフルズ)

 

『三毒史』では宮本浩次以外にもゲストボーカルが参加している。その全てが怖い。

 

それぞれが別のバンドのボーカリストとして活動している。癖が強いバンドで活動している癖の強いボーカリストばかり。

 

しかしだ、椎名林檎と一緒に歌うとバンドの時とは違う魅力を感じる。椎名林檎に合わせているようでもあり、椎名林檎によって引き出されているようでもある新しい魅力。

 

例えばトータス松本。彼がこれほど色気を感じる歌声だとは思わなかった。櫻井敦司んも驚いた。今までは艶のあるボーカルと思っていたが、力強さや男らしさが現れて驚いた。

 

目抜き通り

目抜き通り

  • 椎名林檎とトータス松本
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
駆け落ち者

駆け落ち者

  • 椎名林檎と櫻井敦司
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

  椎名林檎は自己プロデュースが得意なアーティストだと思う。自身の観せたいイメージ通りの姿を作りあげていると感じる。その姿に魅了される。

 

『三毒史』では他のアーティストまで見事にプロデュースしてしまっている。ゲストボーカルを椎名林檎の音楽の世界に引き込み、新しい魅力を引き出している。自己プロデュースだけでなう他者プロデュースまで見事にこなしている。

 

怖い。椎名林檎の才能がすごすぎて怖い。

 

アルバムの流れが怖い

 

気づいたら宮本浩次がいなくなっていた。怖い。

 

宮本浩次が参加した『獣ゆく細道』を聴き終えるとすぐに次の曲になる。2曲目は椎名林檎が1人で歌う『マ・シェリ』。曲調も雰囲気も全く違う楽曲。それなのに、曲が変わったことに気づかないぐらいに綺麗に次の曲に移った。スムーズすぎて怖い。

 

マ・シェリ

マ・シェリ

  • 椎名林檎
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

このスムーズさは他の曲でも同様だ。櫻井敦司が参加した『駆け落ち者』から『どん底まで』の流れもスムーズ。気づけば櫻井敦司はいなくなっている。その次の『神様、仏様』では唐突に向井秀徳の性的衝動が蘇る。性的衝動が繰り返される。それについて諸行無常に思う。

 

神様、仏様

神様、仏様

  • 椎名林檎と向井秀徳
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

曲間の隙間時間がないため曲が繋がっているように感じるのだ。

 

過去の椎名林檎や東京事変の作品でもこのような仕掛けは多かった。突然曲が変わることで刺激を感じる。アルバムとしてのまとまりも感じる。それが楽曲の魅力を引き立てるとともに、アルバムとして聴かせる意味を持たせているように思う。

 

しかし『三毒史』は過去作とは少し違うようにも感じた。曲の移り変わりがスムーズすぎるのだ。

 

制作された時期も違う。参加ミュージシャンも違う。しかも今回はゲストボーカルの参加も多い。過去作以上にバラエティ豊か。まとめることが難しいような収録楽曲たち。

 

1つ1つの楽曲は名曲だとしても、アルバムとしてはとっちらかった作品になってもおかしくはない。それなのに、過去作以上にまとまりを感じるのだ。

 

ストリーミングサービスが拡まりアルバムを通して聴くよりも1曲単位で聴く人が増えてきている。聴きたい曲だけ聴ければ良いと思う人も増えている。しかし『三毒史』は「アルバム」として聴くことで魅力が強まるように思う。

 

というか、聴き始めたら自然とアルバムを通して聴いてしまう。1曲だけ聴くつもりでも全曲聴いてしまう。自然と時間を奪われる。怖い。自分の意思と関係なく続けて聴いてしまう。意思を操作される。怖い。

 

煩悩に支配されるから怖い

 

アルバムのタイトルに使われている「三毒」という言葉。これは仏教用語だ。「貪・瞋・痴」の3つのことを「三毒」と言う。これは「煩悩」の中で特に克服すべき3つと言われている。

 

煩悩とは「人の心を悩ませる原因」のことだ。煩悩も仏教用語。煩悩をなくすことで安らかな人生を送れると言われている。

 

『三毒史』の怖い部分は煩悩と深い関わりがある。このアルバムを聞いてしまったら煩悩を克服することはできない。むしろ煩悩に支配される。

 

「音楽をずっと聴いていたい」という気持ちになってしまう。アルバムの完成度が高く、まとめて聴くことで楽曲の魅力も引き立つ作品になっているからだ。他にやるべきことがあったとしても、ついついアルバムを最初から最後まで通して聴いてしまう。

 

これは「 欲しいものに執着する」という煩悩だ。三毒の中の「貪」の部分。

 

煩悩に支配られるぐらいの名盤。椎名林檎のアルバムのせいで煩悩まみれの人間になってしまう。煩悩、怖い。

 

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アルバムのジャケットを見て欲しい。ジャケットに写っている椎名林檎は胸元がざっくりと開いている。エロい。見とれてしまう。エロい。

 

これも煩悩の一つだ。色欲を刺激される。エロい。煩悩で頭がいっぱいになってしまう。エロい。

 

上にも書いた通り煩悩は人の心を悩ませる原因であり、それをなくすことで安らかな人生を送ることができる。『三毒史』を聴いていると煩悩まみれになるので安らかな人生など送れるはずがない。今の自分は椎名林檎のせいで煩悩まみれだ。

 

怖い。素晴らしい音楽のせいで安らかな人生ではなくなってしまう。これは怖いアルバムだ。でも多くの人におすすめしたい名盤だ。この矛盾も怖い。あと、エロい。

 

こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。こわい。えろい。こわい。

 

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