2024-09-05 Teleがヤバいライブをした件 Tele ライブのレポート 久々に「なんなんだよ、これ......」と思ってしまうライブを観た。SWEET LOVE SHOWER2024に出演していたTeleのライブだ。 この日のラブシャは滝行かと思うほどに激しい雨が降る時間もあったが、Teleの時間には雨もやみ太陽と青空が顔を覗かせるほどには天候が回復していた。地面に大きな水溜まりがたくさんあったものの、場所選びを間違えなければ気温も涼しく快適に楽しめそうだ。観客も合羽を脱いで、晴れた日の夏フェスと変わりない服装になっている。 語弊があるかもしれないが、序盤はいい意味で予想通りのライブだった。繊細な美声は音源と同じだし予想通りに歌も上手い。ボーカルを支えるようなバンドの演奏は音源よりも迫力がある。一曲目の『ことほぎ』から音源をアップデートさせたようなサウンドで披露していたし、2曲目の『ロックスター』でステージを練り歩きながら煽り歌うTeleの姿はスターのオーラに溢れていた。『金星』の疾走感ある演奏と歌は、やはり音源で聴く以上に高揚してしまう。 それは音源を聴いた時に感じた印象と変わらない。自分が求めていたTeleの姿を、完璧な形で表現してくれている。爽やかだけどカッコよくて、だけど歌声と演奏は心地良くて、予想通りに素晴らしいライブだ。 派手な仕掛けや演出はないものの、ひたすらに良い曲を良い歌と演奏で届けるような、安心して観れるライブである。 だが、そんな時間は束の間で、Teleは突然、想定外の行動をした。もはや事件として扱うべき案件かもしれないし、今後伝説として語り継がれるかもしれない。それほどに衝撃的な出来事だった。 その事件もしくは伝説は『バースデイ』という曲で起こった。 Teleは突然鬼気迫る表情で目を見開きながら、猪突猛進するかのごとくステージから降り、客席エリアのPA卓目掛けて走ってきたのだ。先ほどまで爽やかに歌っていたとは思えない勢いに、観客も動揺し悲鳴なのか歓声なのかよくわからない声をあげている人が何人かいた。世間が思い描くTeleのパブリックイメージとは全く違う。 PA卓の前には大きな水溜まりがあった。Teleはそこに「ぎょぎゃあぁぁいぁああ!!!」的な言葉に言い表せない叫び声を上げながら突っ込んできた。 ちなみに自分はこの水溜まりの中でライブを観ていた。レインブーツを履いていて合羽もまだ脱いでいなかったから水溜まりはそこまで気にならなかったし、ほとんどの観客は水たまりを避けていたので、前方の視界が開けていてステージが見やすかったのだ。足元さえ我慢すれば、最も快適に観れる場所だ。 そんな快適な空間に、Teleが猪突猛進してきた。意味不明すぎて恐怖を感じた。さっきまでは穏やかな気持ちで音楽を楽しんでいたのに。そもそも『バースデイ』は、そんな激しいノリの曲だったのだろうか。 突っ込んできたのはTeleだけではない。「ぎょぎゃあぁぁいぁああ!!!」的な言葉に言い表せない歓声をあげながら、大量の観客も水溜まりのTeleへ目掛けて猪突猛進してきたのだ。誰も服や靴が泥まみれになることなど気にしていない。 そしてTeleを中心に水溜まりの中でモッシュが始まってしまった。「これはマキシマム ザ ホルモンのライブだったか?」と思ってしまう光景だ。いや、同日にホルモンも出演していたが、ホルモンのライブではモッシュをするにしろ水たまりを避けている観客が多かった。ホルモンのライブよりカオスだ。雨がやんで合羽を脱いだ観客ばかりなのに、みんな洗濯が大変になりそうなぐらい泥だらけになっている。 Teleは泥まみれの客をかき分けながら、さらに泥水の奥まで進む。そしてPAブースのカメラの前まで行って、瞳孔をガン開きしながら唾を飛ばす勢いカメラに向かって叫ぶように歌った。江頭2:50を彷彿とさせる動きと表情だ。Teleに江頭が憑依したのだろうか。カメラマンは苦笑いと爆笑が入り混じったような独特な笑顔で、Teleのドアップを撮っていた。 自分はモッシュやダイブをすることに反対はしない。むしろ文化として大切にしたいと思っている。だがモッシュやダイブは衝動をどうしても抑えきれなかった時のみ許されると思っている。 暴れることを目的としてライブに参加する人のことはあまり好きではないし、お決まりのタイミングで定番行事として行うモッシュやダイブは不要だと思っている。かつてマリンスタジアムでELLEGARDENがライブを行った時、細美武士が「危険だし、やっちゃダメだ。でも細美さん、supernovaは我慢できない!周りの人、ごめんさなさい!ああああああああぁぁぁ!というダイブだけ許されます」と話していた。 モッシュも同じだと思う。衝動を抑えきれなかった時のみ許される。自分はそのような音楽の衝動で突き動かされる人を見ると感動してしまうし、自分自身も音楽の衝動で突き動かされた時の興奮は忘れられない。 この日のTeleのライブでのモッシュは、様式としてのモッシュではなく衝動のモッシュだった。「泥まみれになっちゃうからやっちゃダメだ。でも喜多朗さん、あんたが水溜まりに突っ込んできたら我慢できない!周りの人、ごめんさなさい!ああああああああぁぁぁ!」というモッシュだった。感動したし興奮した。自分も泥だらけになった。 Teleは満足したのか、それとも正気を取り戻したのか、今度は方向転換しステージの方向へ突っ走っていった。しかし興奮して正気を失った観客は水溜まりでモッシュを続けているし、しかもTeleに向かってぶつかってきている。 そんな観客に「どけえええぇぇぇえええ!!!」と叱るように叫ぶTele。叱られて反省したのか、正気を取り戻し道を開ける観客。Teleがステージに戻った時、心なしか表情に疲労感が見えた気がする。 その後のTeleは、荒ぶることはなかった。『バースデイ』以外の曲では江頭が憑依しなかった。 後半のライブは前半と同じように、良い意味で自分の予想通りに良い曲を良い歌と演奏で届けるライブだった。『花瓶』での大合唱は多幸感に満ちていて、先ほどまでの鬼気迫るカオスな状況が嘘のようだ。観客も何事もなかったかのように穏やかに身体を揺らしている。 カオスな状況ではあった。服や靴が泥まみれになって取り返しがつかないほどに汚れてしまった観客もいたとは思う。だがみんなとびっきりの笑顔だった。その表情に後悔は見えない。服や靴を犠牲にしても構わないぐらいに最高の瞬間だったのだ。 Teleも衣装を泥まみれにしたことをスタッフに怒られるかもしれないが、観客から最高の笑顔を引き出したのだから、きっと後悔はしていないと思う。 ステージに戻ったTeleは「普段は、はしゃがないんです......真ん中に大きな水溜まりがあるのが気になって、みんなが濡れてるのに自分が濡れないのは、フェアじゃないなと思っちゃって.......。水溜まりがない時は、はしゃがないライブをやってるんです......。だからまた観にきてください......」と言っていた。どうやらこんなライブをやったことは初めてらしい。普段と違う姿を見せてしまって、自分自身で困惑していたのだろうか。 この話をしている時、Teleは照れていた。