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山下達郎はサブスク解禁しなくていいけど、ハロプロとジャニーズはサブスク解禁して欲しい

先日、Yahoo!に山下達郎のインタビュー記事が掲載されていた。その記事は多くの人の間で話題になっていた。

 

特に彼のサブスクに対する考えが注目されているようだ。そこには自身の楽曲をサブスク配信しない理由について書かれていた。

 

 

どうやら「表現をするアーティスト本人ではなく、システムを作った側がアーティストを搾取する形で儲けを取っている」ことに懐疑的なようだ。

 

自分は山下達郎の意見には賛同している。その理由については、過去に別の記事で書いた。

 

 

作品の発表方法は創った者が自由に決めればいい。サブスクを解禁するかどうかも自由だ。やりたいならばやればいいし、嫌ならばやらなければいい。

 

『炭火焼きレストランさわやか』が静岡以外に出店しないことと同じように、『牛たん ねぎし』が関東の出店に絞っているように、届く範囲を自分でコントロールしたいアーティストやミュージシャンもいる。山下達郎も海外デビューを断っているぐらいなので、老若男女世界中全ての人々に自身の作品を届けたいわけではないのだろう。

 

しかしファンが「要望」としてサブスク解禁を求めるのは悪いことではないが、ファンだからと「強要」することは間違っている。今ではサブスク未解禁のミュージシャンやアーティストは少数派だ。解禁を求める声が出るのも当然である。

 

そんなファンや世間の意見に対して、山下達郎は自身の考えを述べて断った。客は神様ではないし、全てに応える必要はない。売る側にも客を選ぶ権利はあるのだ。

 

山下達郎以外にもサブスク解禁していないアーティストやミュージシャン、アイドルもいる。山下達郎がサブスク解禁しない理由を持っているように、そのどれもに解禁しない理由がそれぞれあるのだろう。

 

ハロープロジェクト所属アイドルの楽曲も、解禁を求める声が多いものの、解禁される可能性が低い音楽のひとつだ。

 

かつてハロプロの総合プロデュースを担当していたつんく♂は、サブスクについてこのように語っている。

 

例えば、バンドマン達なら自分たちで全国ツアーをやればいい。ライブの動員収入も、グッズ売り上げも総計算の収支で黒字ならばOKでしょう。

 

という意味では、サブスクでもYouTubeでもいいから曲を知ってもらって『気に入ったらライブに来てね!』となる」と自身の経験も踏まえ解説。「でも、それはバンドだから成立する。もし、曲を作る人がメンバーにいなかったら、作家はどう回収をするのか。Tシャツの売り上げを分配してくれるの?って話になる。

 

『10曲入りのアルバムうち3曲書いているから、10分の3ね』とか(笑)。そこら辺が見えてこない。作家側への分配スキームがないから、正のスパイラルが成り立っていないんだよね

 

自分が歌手のうちは『ライブで稼げばいいや』と思う。でも、僕みたいに歌えなくなった人間は死活問題。新曲を書くけど、CDが売れないと印税が入ってこない。サブスクで1億(回)再生して、なんぼ入ってくるのかというのが問題だよね。中古車も買えないんじゃないかな

 

※引用:つんく♂が語る“サブスク全盛時代”の音楽のあり方 近大新入生にメッセージ「聞いた言葉から何を学ぶか」

 

自分はつんく♂の考えに賛同したい。作家は基本的には印税で収入を得ている。関わる人が多いメジャーアイドルの楽曲では、売上単価が低いサブスクで作家が十分な収入を得ることが難しい。それを考えるとサブスクの解禁に二の足を踏むことも理解できる。きっとアイドルビジネスとしては、CD販売に比重を置くことが最適解だ。ハロプロは作家を大切にしているのだろう。

 

しかし賛同をすると同時に「ハロプロはサブスク解禁してもいいのでは」とも、自分は思っている。ハロプロが現在行っているCDの複数枚商法は、ファンが金銭的に搾取されているからだ。

 

ハロプロに限らずアイドルのファンは、同じCDを何枚も購入する。CDを複数枚購入すれば、アイドル本人と写真を取れたりサインをもらえるからだ。

 

例えばモーニング娘。22'は最新シングル『Swing Swing Paradise/Happy birthday to Me!』で、このようなイベント参加を特典に付けてCD販売をしている。

 

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厳密に言うとCDのジャケットや付属している特典Blu-rayは違うものだが、CDの収録内容は同じである。それをバージョン違いで4枚買うことで、2ショットチェキかサイン会に参加できる。両方に参加したいならば、同じ組み合わせでさらに4枚追加購入し、計8枚の購入が必要だ。

 

他にも個別トーク会に参加する場合は、さらに1枚追加購入が必須だし、複数のメンバーとのイベントに参加する時は、さらに追加購入することになる。

 

阿漕な商売ではあるが、CDが売れない時代ならば仕方がない。これによって楽曲を提供した作家にはしっかり印税が入る。購入したファンも納得はしているだろう。

 

しかしこれは「音楽によって適正な収益を得ている」と自分は思えない。

 

接触イベントのために同じCDを複数枚買う人は、音楽に対してお金を払っているわけではない。アイドルとの接触のためにお金を払っている。そのために聴くつもりがない不要なCDを、何枚も無駄に購入している。ファンが音楽のために払っている金額は、1枚のCDに対してだけだ。

 

作家が儲からないことは改善したい。しかしCDの複数枚商法は、本来の音楽の需要よりも過剰な額を作家に還元している。本来は音楽が聴かれたことの対価として収入を得る職業が、音楽の作家であるはずだ。だからファンは聴かないCDを買うことで過剰に金銭を搾取されているし、作家は聴かれないCDによる売上によって過剰に金銭を受け取っている。

 

きっとハロプロメンバーとの2ショットチェキ券をCDを付けずに6000円で売っても、買う人は多い。アイドルとの交流を求めて接触イベントに参加するファンは、イベント参加券の代わりとしてCDを購入しているだけなのだから。

 

それに作家やレコード会社に還元する分だけ、アイドルの取り分は減ってしまう。特典会で作家は何かをするわけではないし、実際に働くのはアイドルだ。その部分ではアイドルのメンバーも搾取される対象かもしれない。

 

それならば収益構造に問題があるとしても、売上単価が低くなるとしても、サブスク解禁して真っ当な手段で作家へ収益を還元する方法を模索した方がマシだ。CDの複数枚商法を作家を守る手段にしてしまうと、その犠牲として他の誰かが搾取される構造になってしまう。

 

もちろんアイドルとの接触イベントも楽しいしアイドル文化のひとつではあるが、もっと真っ当な商売方法でそれを提供する方法を模索して欲しい。

 

一部の楽曲や一部所属グループの楽曲は解禁されているものの、ジャニーズも基本的にサブスクを解禁していない。ダウンロード販売すらしていない状況だ。

 

自分はジャニーズもサブスク解禁すべきに思う。こちらもファンから搾取している部分が少なからずあるからだ。

 

ジャニーズは接触イベントをほとんど行っていないが、ファンの間では新曲がリリースされると、同じCDを複数枚買うことが文化として根付いている。それは好きなグループに「売上枚数を前作を超えるため」「オリコンやビルボードのランキングでトップを取らせるため」などの、売上枚数ランキングへの対策が大きな理由だ。ファンがアイドル支えるという文化が、過剰になった結果だろう。

 

この行動は「追い〇〇(〇の部分には新曲のタイトルが入る)」と呼ばれている。SNSでファン同士が「CDが完売している店舗」の情報交換をして、まだCDが余っている店舗へ遠出し「追い〇〇」をすることで店舗在庫を完売させる文化までも生まれてしまった。

 

これはファンの間で自然発祥した文化だが、レコード会社も事務所もCDショップも、それを知らないはずがない。売れたCD枚数の多くが聴かれていないことも知っているはずだ。それでも売上と利益を最大化するため、問題視せず放置しているのだろう。

 

タワーレコードなどの販売店は、複数枚購入を推奨するツイートを、公式アカウントがすることも多い。例えば新宿店は公式アカウントで「追い〇〇」のワードまで出して販促している。

 

 

これは「ファンがアイドルを応援したい気持ち」を利用し複数枚購入を煽ることで、ファンの金銭を搾取してはいないだろうか。

 

CDは音楽を聴くことを目的に作られていて、音楽を提供する対価として販売側は金銭を得ていたはずだ。

 

それなのにファンの想いを利用し金銭を巻き上げるための道具として、聴かれないCDが売られている。聴かれることがないことを理解しつつ販売しているならば「NO MUSIC, NO LIFE.」という言葉は矛盾でしかない。

 

聴かないCDを購入しているファンは、音楽を道具だとは思っていないはずだ。ジャニーズのファンは好きなアイドルを広めたいという想いから、ランキング上位に入れるため複数枚同じCDを購入している。むしろ音楽を大切に思ち大切な音楽を広めたいからこそ、追加で自身が聴かないCDを買っているのだ。

 

もちろん「応援の形」として納得して購入しているならば、それを他人が否定する筋合いはない。好きなアイドルを応援するファンの姿は最高だ。その想いが果たされて欲しいとも思う。

 

しかしファンが必死にCDを買い漁って販売週にオリコン1位を取ったところで、世間にはそれほど広まらない。情報番組でほんの少し紹介される程度だ。もしもそれをきっかけに興味を持った人がいたとしても、サブスクで配信されてないならば、わざわざ手間とお金をかけて聴こうとする人は少ない。わざわざCDを買って聴こうとする一見さんなんて、今時ほとんどいないだろう。

 

だからジャニーズにはサブスクを解禁して欲しいのだ。もしかしたら売上や利益は減ってしまうかもしれないが、CD販売にこだわっていては、ファンの「好きなアイドルを広めたい」という想いが報われない。音楽は聴いた者の感情に訴えかけ心を救うものなのだから、販売方法もファンの心に寄り添ったものであって欲しい。

 

実際に近年のSexyZoneなど、コアな音楽ファンの間で話題になったハイクオリティな楽曲をリリースしたグループもいる。しかしサブスクを解禁していないこともあってか、その話題性は一瞬で冷めきってしまった。多くの人に広まるこ何度も幅広い層に受け入れられるきっかけはあったものの、全て逃してきた。せめてダウンロード販売だけでも行っていたならは、結果は違ったかもない。

 

もちろんどのようにCDを売るかも、どのように売上を作るかも、法律違反していなければ自由だ。複数枚商法に賛同しているファンもいるだろうし、複数枚商法のおかげで倒産しなかった会社や生活が安定した関係者もいるだろう。CDの複数枚商法が音楽に関わる多くの職業を救ったことは確かだ。

 

サブスク解禁しないアーティストを叩くことがファンのワガママであることと同じように、複数枚商法を批判することも、ファンのワガママかもしれない。嫌なら買わなければ良いし、気に食わないなら聴かなければいいのだから。

 

しかしアイドルとの接触イベントを餌にして同じCDを複数枚買わせる商法も、ファンの想いを利用して複数枚購入される文化も、これからは変えていくべきに思う。やはり阿漕な商売を当然のものとして認め続けることは駄目だ。そこから脱却する方法を模索する必要がある。

 

CDが売れない時代に音楽でビジネスをするならば、CDの複数枚商法をすることに致し方がない事情があることは理解出来る。全てを否定したいわけではない。

 

しかし音楽に携わる人達には、音楽を大切にして欲しい。音楽をしっかり届ける方法で音楽を売って欲しい。ファンの想いを蔑ろにしたり、利用しないで欲しい。

 

単価や利益は少ないものの、 サブスク配信は売上にはなる。少しでも興味を持った人は気軽に音楽に触れることができる。そこからファンになる人もいるはずだ。一部のファンから搾取するのではなく、多くのファンから適正なお金を貰うビジネスへと回帰することも悪くないだろう。

 

作家に適正な金額が還元されない可能性もあるが、かといってファンから搾取することもおかしい。もしかしたらサブスク解禁によってファンが増え、結果的に作家に適正な金額が還元されるかもしれない。誰も損するとがない仕組みを目指すべきだ。

 

自分はハロプロもジャニーズも嫌いではない。つばきファクトリーとアンジュルムとJuice=Juiceのワンマンライブに行ったことがあるし、嵐とSexyZoneと関ジャニ∞のライブにも行ったことがある。

 

だからアンチとして「悪徳な商売をしている」と言って難癖をつけたいわけではない。応援しているからこそ、この商法のメリットを理解しつつも、疑問を感じてしまうのだ。

 

CDが売れない時代となり、過去の定石だった手法は通用しなくなった。だから音楽業界は様々なことを考え悩み葛藤しながら、音楽をビジネスても文化としても未来に残す手段を考えているとは思う。だからここまで自分の書いた文章は、業界の人からすれば余計なお世話だろう。

 

しかし自分はひとりの音楽好きとして、音楽が金儲けのためだけの道具に成り下がる瞬間を見たくない。購入されても聴かれないCDが存在することが悲しい。だからとりのユーザーの意見として、こうして持論を書いている。

 

業界の人達にはCDの複数枚商法を脱却する方法を模索して欲しい。複数枚同じCDを買う文化を消滅させて欲しい。

 

もしかしたらサブスク解禁が、その足がかりになるかもしれない。実際にサブスクでのヒットをきっかけに、CDが爆売れしたバンドや、国民的アーティストになったパターンもあるではないか。それは万が一の確率かもしれないが、CDにこだわっているまままでは、その万が一も存在しないし、既存のファンから大量のお金を絞り出すビジネスから抜け出せない。ファンの絶対数が増えれば、ファンから搾取する必要はなくなるはずだ。

 

だから自分はハロプロとジャニーズにはサブスクを解禁して欲しい。山下達郎のように特別なポリシーがあって解禁しないならば納得できるが、CDの複数枚商法を行うならば納得できない。可能なら複数枚商法を止めてほしい。

 

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