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「会いに行けるアイドル」のおかげで日本の音楽業界は救われたのかもしれない

湯川れい子が日本のアイドルのCD販売のシステムについて言及していた。おそらく握手会などで同じCDみを1人のファンに大量に買わせる商法についての言及だろう。

 

このツイートへの反応は賛否が分かれている。日本のアイドルファンは湯川のツイート内容に否定的な人多いようだ

 

 

キツイ言葉を使っているし、日本のアイドルやキャバクラに対する偏見があるようにも受け取れる。そもそもキャバクラのシステムと「会いにいけるアイドル」は、仕事内容も求められる内容も全く違う。そのことを指摘している人もいた。この発言はアイドルに対してもキャバクラに対しても失礼だ。悪意があるとも感じる。

 

しかし自分は湯川れい子の意見に、100%ではないものの同意している。

 

自分も「会いにいけるアイドル」が作った国内循環型のシステムには、大きなデメリットがあると思っているからだ。

 

CD販売は1998年をピークに年々減少している。2000年代になりダウンロード販売に移行し始めたこともあるが、それ以上に違法ダウンロードが問題になったことが理由だろう。

 

その対策のためにパソコンでのデジタルコピーを防ぐ「コピーコントロールCD (CCCD)」が流通された。

 

しかし通常のCDよりも音質が低下することや、自身が購入したCDでもパソコンに取り込めなかったりと品質や利便性が悪いことで音楽ファンからも批判されてしまった。これをきっかけにCDの購入を控えるようになった人もいるだろう。

 

エイベックスはCCCDを導入した2003年のCD売上額は前年から20%落としている。違法コピーを防ぎ売上を回復させるはずが、真逆の結果になってしまった。

 

 

 

 

そんなタイミングで登場してCDを大量に売ったのがAKB48だ。

 

「会いにいけるアイドル」をコンセプトに活動し、専用劇場を使ってライブを行ったりCDを購入した人との握手会を大きな規模で行った。

 

「握手会」は以前も存在したが、これをイベントとして拡大し大きくしたグループがAKB48なのだろう。さらにはシングル表題曲を歌うメンバーを決める「AKB総選挙」というイベントを立ち上げ、CDに投票権を入れたりもした。

 

つまり「CDを購入する人が減ったのならば買ってくれる人に複数枚買わせよう」という戦略だ。良く言えば「コアなファン、太い客を増やす」という戦略である。

 

好きなアイドルと触れ合いたい人は多い。顔を覚えて貰えたら嬉しい。そのような刺激を求める人は同じCDを何枚も買って握手をしてくれる。好きなメンバーがシングル表題曲に参加させたいと思うファンは、投票券のために何枚もCDを買ってくれる。だから飛ぶようにCDは売れる。

 

これはビジネス的には大成功した。「CDが売れない」と言われた時代に数十万枚を当たり前のように売り上げる方法を見つけたのだから、これは画期的な販売システムだ。

 

2010年に『ポニーテールとシュシュ』『ヘビーローテーション』で一般知名度を獲得して以降のシングルCDは、ほぼ毎回100万枚以上のCDを売っている。CD不況を救った存在がAKB48かもしれない。

 

「アイドルは儲かる」と思われたのか、この流れに乗るように多くのアイドルグループが結成されデビューした。「AKB商法」をさらにアップデートさせて1人のファンから多くのCDを買わせる販売手法までも現れた。

 

例えば現在はライブを中心に収益を出しているももいろクローバーZも、ブレイク前のももいろクローバー時代にはCDリリースの数ヶ月前からCDのリリースイベントを開催しファンの購入を煽ったり、CDを50枚購入したファンにはオリジナルDVDをプレゼントしたりと、販売方法はAKB以上に過激なものもあった。

 

これはAKBやももクロだけでなく、他のアイドルも同様だ。「アイドル戦国時代」と呼ばれるほどに大量のアイドルが出ては「AKB商法」を参考にした方法で大量のCDを販売していった。

 

それもあってか年々右肩下がりで売り上げが減っていたCDをはじめとする音楽ソフトは、AKBのブレイク後は売上の減少が下げ止まった。「アイドル戦国時代」真っ只中の2012年には売上高が上昇している。CDが売れる時代へ回帰する兆しが見えたのだ。

 

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引用:特集:日本の音楽産業 | トウシル 楽天証券の投資情報メディア

 

コンサート・ライブの市場が拡大したこともあって、2018年には2005年よりも音楽産業全体としては市場が拡大している。CDがまだギリギリ売れていた時代よりも音楽産業全体は成長した。

 

コロナ禍で変わってしまった部分もあるが、音源よりも音楽イベントが求められる時代になったのだろう。2010年代になり音楽フェスがバブル的なブームになったことが最も大きな影響だとは思うが、「AKB商法」によって音楽に関わるイベントに参加する楽しさを知った人も少なくはないと感じる。

 

そのような部分で「AKB商法」は偉大だった。音楽業界を救った一つの革命だった。多くの売り上げを作ったことで音楽で食べていける人をたくさん生み出した。

 

今までなら活動資金を集めることも困難で生活するような収入を貰えなかった地下アイドルも、「趣味」ではなく「仕事」としてきちんと活動ができるようになった。活動するハードルが下がって、多くの才能が世に出るきっかけになったとも思う。

 

 

 

 

しかしAKB商法は副作用の強い劇薬でもある。

 

消耗品ではない同じ商品を、1人の客に複数買わせる商法は異常だ。酷く阿漕な商売だと思う。自分はアイドルは好きだが、それによって救われた音楽関係者がいるとしても、複数枚商法に対しては否定的だ。

 

2014年以降もAKB48はミリオンヒットを連発している。関連したグループの乃木坂46や欅坂46のブレイクもあり秋元康のプロデュースするグループのCD売上は右肩上がりだったと思う。CDの複数枚商法も定番となりアイドルに限らずバンドやシンガーも行うようになった。

 

それなのに2014年以降はゆるやかではあるが、また音楽ソフトの売り上げが下がってきた。

 

ダウンロードがより一般的になったことが理由かもしれない。YouTubeなどの影響もあるだろう。音楽ファンがライブにお金を使うようになったからとも考えられる。

 

大きな理由はそれらだと思うが、自分は「CDの販売方法への不信感」を持つ人が増えたからではとも思う。表に出ない人の感情の変化も影響しているはずだ。

 

アイドルファンは早くから複数枚商法が当然の文化になってしまったし、音楽よりもアイドル自身に魅力を感じる人も少なくはない。

 

だから「仕方がなくCDを買う」という発想になって納得した上で買い続けている人もいるのだろうが、例えばバンドのファンはその発想を持っている人は少数だ。バンドのメンバーに会って話したい人もいるが、音楽を最も求めている人が多い。アイドルと同じような商法をされると冷めてしまう。

 

さらには特典違いの初回盤を複数枚出したりと、イベントや接触ではなく音楽を求めている人まで複数枚買う必要がある商法が当然になった。それに嫌悪感を覚えてCDを買わなくなったり、音楽を聴くことから離れてしまった人もいるのではと思う。

 

複数枚商法で「CDが売れる世の中が復活した」のではなく「CDが売れる世の中が延命した」のだ。この販売方法はメリットもあるがデメリットも多い。長くは続かないだろうし、長く続けるべきではない。

 

CDが売れることで助かった関係者は沢山いるとは思うが、売り方は変えなければならない時が必ずやってくる。今の音楽業界はCDを買ってくれる人はまだまだいるからと、自らが阿漕な商売をしていることについて、麻痺していないだろうかとも思ってしまう。

 

湯川れい子の言うように「国際競争力が失われている」かはわからないが、1人に複数枚同じCDを買わせる国内循環型のシステムでは、新しいファンを引き込むことが難しい。それだけの資金力があるファンを作り、CDを大量に買わせるぐらいに熱中させる必要があるからだ。

 

それに阿漕な商売はじわじわと購入者に不信感を与え、結果的に離れていく結果になりやすい。収益のことを過剰に考えて、客のことを舐めた商売をしているのだから。

 

しかしK-POPは今後も安泰かというと、それはないと自分は予測している。K-POPはAKB商法以上にファンから金銭を搾取させる酷く阿漕な商売をやっているグループも多いからだ。

 

K-POPが世界で流行ったとしても、アイドル以外の韓国発アーティストが全然海外で流行らない。これも日本と同じように「アイドルだから成立する商法」で売上を確保していたからではないだろうか。AKBは国内循環型のシステムだったが、K-POPは世界循環型のシステムをしているのだ。

 

 

 

 

K-POPは日本のアイドル以上にCDについている特典の種類が多い。しかもランダムで入っているので、全てを揃えようとしたり目当ての特典を手に入れるためには、複数枚買わなければならない。日本の特典商法をさらに発展させているのだ。

 

日本のアイドルのように接触イベントもあるが、K-POPの場合はCDを購入したからと確実に好きなアイドルやアーティストと接触できるわけではない。

 

抽選券がCDに挿入されており、それを応募して当選した場合のみ、サイン会やヨントン(テレビ電話)のイベントに参加できる。購入すれば確実にイベント参加できる日本のアイドルが良心的にすら感じてくる。

 

ちなみに日本のアイドルでも抽選式のイベントもあるが、抽選で当選したファンのみが購入して参加できる仕組みだ。落選すればCDを購入する必要はないシステムである。

 

韓国は日本以上に国内で音楽をビジネスにすることが難しかったので、このような形になっていったのかもしれない。

 

韓国は人口が約五千万人と少ない。日本の半分ほどだ。そのため国内需要だけではCDを多く売ることはできない。かといってライブで収益を確保することも困難だ。以前の韓国はライブに行く文化や、ライブにお金を払う文化がなかったからだ。

 

基本的に韓国のコンサートは、スポンサーが資金を負担し観客は無料で参加できることが多かった。お金を取れるアーティストは超人気アーティストだけだし、そもそもワンマンができることも滅多にない。そのため数千円出してライブへ行く文化が根付いている日本と違い、頻繁にライブを開催することはできないし、大きな売り上げや利益を上げることが難しかったのだ。

 

そのため国策としてK-POPの海外進出を2000年代初頭から考え始め、海外で売り上げを作ることを考えていたのだろう。

 

当然ながらパフォーマンスや楽曲のクオリティは高いしそれに魅了された人が多数だとは思うが、そこで掴んだファンを複数枚商法によって複数枚CDを購入させて支える仕組みを作ったのだ。これは世界規模のAKB商法である。

 

日本のアイドルやK-POPの商法について批判的なことをここまで書いてきたが、自分はアイドルもK-POPも好きだ。

 

日本のアイドルは多種多様だからこそ面白いと思うし、坂道やハロプロやスタダにだって良い曲はたくさんあると思う。BTSもBLACKPINKも好きだ。TWICEならばツウィを推したい。K-POPが世界で評価されていることは素直に凄いと思う。

 

しかし自分は音楽業界が救われた画期的な発明だとしても、CDの複数枚商法には疑問を感じる。今は厳しいとしても、早くこの商法から業界は脱却して新しいCDの在り方を見つけて欲しい。

 

そしてもうひとつ思うことがある。日本のポップスが「国際競争力」を持つ必要性はないのではということだ。海外で活動したいアーティストは挑戦すべきだとは思う。しかし国内でやっていけるし国内でやりたいアーティストがいるならば、作り手もファンも国内循環で音楽を楽しんでも良いはずだ。

 

 

 

 

日本は良くも悪くもガラパゴスである。そのためか独自の文化が育っている。

 

音楽においてもそうだ。もともとは洋楽の影響を受けていたはずのJ-POPも独自の進化と変化をしている。楽曲構成が複雑でメロディ重視で厚みのある音のポップスは、世界的にはトレンドではない。それを時代遅れと感じるか個性的と感じるかは人それぞれだが、J-POPが日本にしかない独特な音楽になっていることは確かだ。

 

CDの複数枚商法によって星の数ほど生まれたアイドルもそうだ。CDを1人のファンに大量に買わせるためには、注目されて熱狂的に好きになってもらう必要がある。だからか多種多様な音楽に挑戦するアイドルが現れたし、表現も様々で独自の文化が生まれた。日本のアイドルソングのような音楽は、おそらく海外には存在しない。

 

初音ミクをはじめとするボーカロイドも面白い。アニメソングやヴィジュアル系も独自の文化を形成し、唯一無二のジャンルへ育ったと思う。

 

これらのジャンルは海外のトレンドを意識せず、内需だけを考えていたからこそ生まれた日本の音楽に思う。ボーカロイドに関してはクリエイターが面白がって作っていただけで、内需すら考えていなかったのかもしれない。

 

これらの音楽が海外で評価されるとは限らない。国際競争力を考えたら、海外のトレンドを意識したり楽曲の作り方やアーティストの見せ方も変えた方が結果は出やすいだろう。

 

しかしそのような音楽を、日本のアーティストが狙って作る必要があるのだろうか。それを支えるスタッフも海外を意識することが正解なのだろうか。それよりも目の前の聴いてくれる人や、応援してくれるファンのために届けることが最重要ではないだろうか。

 

世界で認められる音楽を狙って作るよりも、アーティストが作りたい音楽を作って、伝えたい方法で表現して欲しい。それが海外のトレンドからかけ離れていたとしても、クオリティが多少低くても構わないと思う。

 

それよりも「これは良いんじゃないか」「これは面白いんじゃないか」という純粋な気持ちで作られた音楽を、自分は聴きたいし評価したい。ハイクオリティな音楽や最新のトレンドを取り入れた音楽よりも、魂のこもった音楽を自分は求めている。

 

むしろ海外を意識せずに作られた、日本の独自さを感じる音楽の方が、埋もれずに個性を発揮し海外で注目されるかもしれない。

 

例えばジャスティンビーバーに偶然見つかってバズったピコ太郎。海外メディアに面白がられニュース記事になったことで注目されたBABYMETAL。

 

FLOWやthe pillowsはアニメタイアップをきっかけに海外人気を獲得し、日本と変わりない規模のライブやツアーを開催した。そういえば乃木坂46は上海で9割以上が現地客の中で、約1万人を集めてワンマンライブをやっていた。

 

1980年代のシティポップが2020年代に海外で評価されるなんて、40年前に制作された当初は誰も想像していなかっただろう。

 

それらのアーティストは海外を意識して音楽を作ったわけではないと思う。「面白い音楽をやろう」「自分が信じるクールな音楽をやろう」ということを最も意識していたはずだ。その結果、偶然が重なって海外でも評価されたのだろう。

 

「国際競争力がある」といえるほど海外でヒットしているわけではないが、国際競争力を意識せずとも受け入れられる例はあることを示しているとも思う。

 

そして皮肉にも「会いにいけるアイドル」という国内循環型だったシステムは、海を超えて海外にも進出している。

 

AKBグループは海外にいくつもの支店が生まれているし、ベトナムの支店グループであるJKT48に移籍したのちに卒業した仲川遥香は、インドネシアで国民的人気タレントとなっている。

 

特にタイではAKB48のバンコク支店であるBNK48が大ブレイクし、そこから日本のアイドルに影響を受けたアイドルが大量に生まれた。今では日本に近いアイドル文化が形成されているようだ。※モンゴルとタイ、文化と結びつく両国のアイドル事情とは? | ブルータス| BRUTUS.jp ※海外から見た日本のアイドル(前編)- 音楽ナタリー

 

もちろんグラミー賞を受賞したり英語圏で大ヒットを飛ばすような、強い国際競争力を持っている日本のアーティストや音楽は皆無である。

 

しかし日本の『会いにいけるアイドル』は、独自の文化を築いたことによって、海外にも進出している。世界的ヒットを出してグラミー賞を取る事はないかもしれないが、日本を飛び出て活躍していることは事実である。

 

日本の「会いに行けるアイドル」、日本の音楽の国際競争力を失わせるどころか、国際的にウケる部分を持っているのでは?

 

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