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【レビュー・感想】リーガルリリー『Cとし生けるもの』、1月リリースなのに今年のベストアルバムにしたいほどの名盤

 

『Cとし生けるもの』で、リーガルリリーは何かが変わったと思った。

 

決して音楽性が変わったわけではない。演奏はオルタナティブロック。儚くも求心力のある歌声はいつも通り。リーガルリリーの個性は変わっていないし、表面的な作風は“いつも通り”である。

 

では自分はどの部分で「何かが変わった」と思ったのか。それは今まで以上に間口を拡げ、外に向けた音楽になっている部分だ。

 

今作は「君」「僕ら」という言葉が使われた楽曲が序盤に多い。たかはしほのかは自身の内省的な歌詞が多いが、今作は聴き手に向けて言葉を綴っていると感じる。

 

1曲目の『たたかわないらいおん』からしてもそうだ。

 

〈メッセージ信じて〉という言葉を何度も繰り返し、最後は〈今日も僕は願うから〉というフレーズで曲が終わる。歌詞の物語に沿った歌詞ではあるが、それに加えてリスナーに向けて語りかける歌にも聴こえる。

 

その日暮らしの僕ら ひぐらしを聴いて
明日の暮らしビールで流す
そんな暮らしでも
笑えることあったんだなあ

 

『セイントアンガー』の歌い出しも、やはり聴き手に向けているようだ。

 

〈僕ら〉と括ることで、リーガルリリーの音楽に共鳴した人を巻き込んで仲間にしようとしている。ささやかな幸せを共有しようとしている。

 

だから自然と歌の世界に入り込んで、リーガルリリーに共感してしまう。

 

とはいえリーガルリリーは楽観的に前向きな音楽をやっているわけではない。絶望の先の希望や、絶望の裏にある希望について歌っている。

 

光と闇は表裏一体だ。そんな現実や日常と向き合った上で、希望について歌っているのだ。

 

例えば『教室のドアの向こう』では〈中央線は今日も人が死んでしまったね〉と悲しい日常について歌いつつも、〈わたしの泣いてる黒い場所 虹がかかる隙があるんだ〉と歌っている。絶望も希望も毎日の中に、両方存在することを表現しているようだ。

 

代表曲の『リッケンバッカー』では〈おんがくも人を殺す〉と歌いつつも、最終的には〈おんがくよ人を生かせ〉と叫んでいる。これも1つの物事に絶望と希望の両方が存在することを歌っている。

 

2021年には『天国』『地獄』という2曲を発表した。真逆の意味を持つ言葉をタイトルにしたことも、彼女たちのブレない想いがあるのかもしれない。SEKAI NO OWARI『天使と悪魔』をカバーしたことも、そういうことなのだろうか。

 

活動初期から彼女たちが音楽に込めるメッセージは変わっていないのだ。その上で『Cとし生けるもの』ではそのメッセージがより洗練され、強固なものとなった。伝えるべきメッセージへの迷いがなくなった。

 

もしかしたらコロナ禍が影響しているのかもしれない。世の中に様々な闇や絶望が溢れているからこそ、リーガルリリーは音楽の力で闇や絶望の中から光や希望を見つけようとしたのかもしれない。

 

昔々遠い晴れた国の空と 今も距離を保って生きてるよ

 

上記はアルバムの最後に収録されている『Candy』の最後の歌詞だ。

 

やはりリーガルリリーは闇の中に射す光について表現している。アルバム全体を通して、それを伝えようとしている。多くの人に光を与えようとしている。

 

音楽は人を生かすということを、音楽を鳴らすことで証明するリーガルリリー。そんな彼女たちの、メッセージ信じたい。