2021-03-31 【レビュー・感想】『筒美京平 SONG BOOK』が他のトリビュートアルバムと比べて異質に感じる件 筒美京平 レビュー 筒美京平のトリビュートアルバム 『筒美京平 SONG BOOK』を聴いても、トリビュートアルバムを聴いている気分にならなかった。 トリビュートアルバムは敬意を持った上で参加アーティストが楽曲をカバーする企画作品である。参加アーティストは自身の個性を加えた上で、楽曲を再構築し表現する。 自身の楽曲以上に個性を出そうとする参加アーティストが多い。 「原曲をどうすれば超えられるか」ということを考えている場合も多いのだろう。たまに、バチバチした空気を感じる。それがトリビュートアルバムの面白い部分だ。 今までリリースされたトリビュートアルバムはそのようなものばかりだった。スピッツも椎名林檎もザ・ブルーハーツも宇多田ヒカルも。 『筒美京平 SONG BOOK』はトリビュートアルバムとして発売されているし、トリビュート相手への敬意を感じる内容ではあった。 参加アーティストは個性的で才能もあるアーティストばかりだ。彼らは原曲とは違う表現方法で、楽曲に新しい魅力を加えている。 それでも「トリビュートアルバム」としては異質に思った。どちらかというと「コンピレーションアルバム」に感じた。 さらに言うとボーカリストが全曲違うのに統一感があって、「オリジナルアルバム」のようにも感じた。 なぜなら参加アーティストが、積極的に自身の個性を出そうとはしていないのだ。 他のトリビュートアルバムと違う理由 自身で作詞作曲編曲を行うアーティストも多く参加している。しかし他のトリビュートアルバムのように、アーティスト主導で楽曲ごとに編曲や演奏をしているわけではない。 あくまで彼らは歌うことに徹している。 『筒美京平 SONG BOOK』は武部聡志、小西康陽、本間照光、松尾潔、亀田誠治、西寺郷太の6名による共同プロデュース作品だ。そのためこの6名の誰か、もしくは共同で編曲をしているのだ。 そのためかプロの客観的な視点からボーカリストを選び、ベストマッチな選曲をしていると感じる。 例えば1曲目の『人魚』。これはLiSAが歌っているが、普段の彼女にはないタイプの曲調と編曲だ。 人魚 LiSA J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes これは意外な選曲かもしれない。 しかしLiSAのボーカリストとしての特徴を的確に捉え、彼女の声質や歌唱方法にあった楽曲を、プロデューサー視点で客観的に選んだ結果ともいえる。 miwa『サザエさん』も意外ながらベストマッチとも言える組み合わせだ。 サザエさん miwa J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes miwaの明るい声質とはっきりと発音する歌唱が『サザエさん』と相性がいい。モータウン的な編曲でありながらも、現代のJ-POPらしさも感じる音色でもある。 きっとmiwa自身が主導となっていたら、この曲を選ぶことはなかっただろう。 意外性のある組み合わせが多いかと思いきや、「このボーカリストならばこの選曲以外ありえない」と感じる、予想通りながら最高の組み合わせの曲もある。 北村匠海『また逢う日まで』が、まさにそれだ。 また逢う日まで 北村匠海 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 北村匠海はエモーショナルで真っ直ぐな歌声が魅力的だ。その歌声はミドルテンポのバラードと相性抜群である。 だから同じようにミドルテンポのバラードの『また逢う日まで』が、相性抜群で最高の出来になることも予想できた。 そして予想通りで期待通りのカバーになったている。アルバムの中でも特に優れたカバーに思う。 トリビュートアルバムとしての新しさ トリビュートアルバムとしては、前代未聞な楽曲もある。武部聡志が編曲し生田絵梨花が歌った『卒業』だ。 卒業 生田絵梨花 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 原曲は斉藤由貴が歌ったものだが、こちらの編曲も武部聡志が行っている。 つまり編曲者によるリテイクとも言える。しかし作曲は筒美京平なのでトリビュートとしてのカバーとしても機能している。 このようなカバーをトリビュートアルバムで行なった例は、おそらくないはずだ。 これは筒美京平と生前から交流があったり、一緒に仕事をしたプロデューサーが主導となって行なったトリビュートアルバムだからこそ、実現したのだろう。 参加アーティストは若手からベテランまで様々だ。 筒美京平が最も多くの作品を発表していた90年代以前を知らない世代も参加している。 逆に一青窈など90年代以前を知っていたり、前田亘輝のように当時から活動していた世代も参加している。 さらば恋人 前田 亘輝 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes そして『SONG BOOK』は若手のカバーが前半に集中しており、後半にベテランのカバーが集中している。 つまり前半は若手アーティストが歌うことで、筒美京平の残した名曲を知らない世代に伝える役割を担っている。 そして後半はベテランアーティストが筒美京平の偉大さを知っている世代に、改めて魅力を共有する役割を担っている。 そしてアルバムを通して聴くことで、若い世代は普段聞かないベテランの歌声を聴き、筒美京平を知る世代は馴染みのない若手の歌声を聴き、お互いの魅力をしることができるのだ。 「知らない歌手だったけど、ベテランの歌声は凄い!」「最近の若者も良い歌を歌うなあ」と。 筒美京平は2020年10月7日に80歳で亡くなった。 亡くなっても功績は色褪せないし、むしろトリビュートアルバムのリリースによって、偉大さや魅力はさらに多くの人に伝わっている。 そして様々な世代が歌い継ぐことで、世代間の溝も埋めてしまっている。 アルバムの共同プロデュースは日本では珍しい。それが今回のトリビュートアルバムで、大物プロデューサー6人によって共同プロデュースが実現した。 これを機に共同プロデュースが増えていくかもしれない。 『筒美京平 SONG BOOK 』は素晴らしいアルバムだ。筒美京平の偉大さを改めて伝える作品になってる。 しかしあまりにも偉大すぎて、ここまできたらトリビュートアルバムをリリースしたという時事実自体が、偉大さを伝えているとも考えられる。 この作品のために多くの日本を代表するアーティストが参加し、日本を代表する6人のプロデューサーが協力し、新しい挑戦をしているのだから。 筒美京平SONG BOOK (特典なし) アーティスト:VARIOUS 発売日: 2021/03/24 メディア: CD