2020-09-02 【ライブレポ・セットリスト】東京初期衝動『全国逆ナンツアー』@恵比寿LIQUIDROOM 2020.8.16 東京初期衝動 ライブのレポート ライブから2週間経った 東京初期衝動が恵比寿リキッドルームでツアーファイナルを行ってから2週間弱経った。このライブはキャパを抑えた上で観客を入れて行ったライブである。 ライブに参加したメンバーやスタッフ、来場したお客さんから新型コロナウイルスの感染者は発生しなかったらしい。無事に開催され無事に終わったことが証明されたということだ。 普段はライブ終了後はなるべく早くライブレポートを書き投稿している自分だが、今回は「万が一にも感染者が出たら」と思った時、自分が書いたレポートによってバンドや関係者に迷惑がかかることが有り得るかもしれないと思ったので、2週間以上経過してから投稿すると決めていた。 決して危険な会場だったと思っているわけでない。感染症対策をしっかりと行った上で開催したライブに思う。 個人情報を登録するアンケートに答えなければ入場は不可だったし、検温と消毒も行った。密にならないようにと人数を細かく区切りながら入場もさせていた。マスク着用義務もあったし大きな声を出さないようにとアナウンスもあった。 フロアの足元には立ち位置の表示シールが設置されていて、その場から移動せずにライブを観るように指示され、お客さんは全員それに従っていた。来場者も最大限協力してライブを成功させようとしていたように思う。 やりたいことをやっているだけさ 口だけのやつはおいていくぜ あの国がミサイルをぶち込む前に 自分の居場所は自分で守れよ (再生ボタン / 東京初期衝動) 東京初期衝動の『再生ボタン』という楽曲に上記の歌詞がある。この日のライブはまさに〈自分の居場所は自分で守れよ〉という言葉を実践しているようなライブだった。 バンドもファンも「ライブハウス」という自分の居場所を守ろうとしていた。 前半 Tommy february6『je t'aime ★ je t'aime』がSEで流れる中、メンバーが出てきた。 盛大な拍手がフロアから送られるが、歓声は一切ない。それだけが今までのライブとは違う。 バンドが爆音を鳴らしSEを掻き消す。ライブハウスでないと体験できない、体が震えるほどに響く音圧。今のご時世では簡単に体験することができなくなってしまったライブハウスの魅力。 Becauseあいらぶゆー 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 1曲目は『Becauseあいらぶゆー』。ゆったりとしたリズムで歌い始める。パンクバンドが衝動を抑えつつ鳴らすスローテンポの演奏は美しさを感じる。そしてサビになり演奏が激しくなる。 「東京初期衝動です!」 ボーカルのしーなちゃんが叫ぶ。それに対しオーディエンスは腕をあげたり拍手をして応える。 客は声も出せない。前に詰めることもできない。モッシュやダイブなんてもってのほか。様々な制限がある中でも、バンドの演奏にしっかり届けようとしている。 東京初期衝動も制限がある中で、必死に自分たちの表現をしているように感じた。『高円寺ブス集合ではしーなちゃんがハンドマイクでステージを動き回りながら歌う。 彼女は演奏中にステージにダイブすることも少なくなかった。しかし今日はフロアのギリギリまで前に出ても飛ぶことはない。ギリギリ耐えながらも感情をぶつけるようにパフォーマンスを続ける。 そのもがく姿がカッコ良かった。この状況でライブを成立させるための意思を感じた。 流星 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 『流星』『商店街』と激しい演奏とポップなメロディが共存した楽曲を続ける。尖った演奏と歌声だけど、メロディや歌詞は優しい。だから自分は東京初期衝動に惹かれてしまうのだ。 立て続けに演奏を続けたが、ここで少しの間が空く。無音になる。 その中でゆっくりと『BABY DON'T CRY』を歌い始める。 BABY DON'T CRY 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes そしてバンドのアンサンブルが重なり演奏が激しさを増す。 何度かマイクから離れてフロアに歌うように催す場面もあった。しかし腕をあげたりして応えるものの、大声で歌うファンはいなかった。 それは音楽が届いていないわけではない。しっかり音楽は届いている。制限がある中でファンも必死にライブを成立させようとしているのだ。 STAND BY ME 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes 『STAND BY ME』では〈ここでつまづくなよ 東京初期衝動〉と歌詞を一部変更して叫んでいた。 そしてサビでは「いくよ!」とフロアに言って叫びながら歌った。ここでもフロアは大声で歌うことはない。でもきっと全員が心の中で叫びながら歌っていたはずだ。 エレキギターの弾き語りで始まった『中央線』。序盤、歌っている途中で間が空いた。しーなちゃんが泣いていた。そして涙声で歌を再開した。 中央線 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes あなたと歩いたときに 聴いた曲は全部 全部思い出になるよ 走馬灯のようにあなたに投げた雪が溶けないよ 全部 全部 さよならは言わないさよならは言わないでさよなら中央線 (中央線 / 東京初期衝動) この日のライブはツアーファイナルであり、このメンバーで最後のライブでもあった。ベーシストのかほが脱退するのだ。 かほに向けて歌っているようにも感じた。想いのこもった歌を聴くと、心が動かされてしまう。 この日の『中央線』は上手いか下手かも超えた、心を動かす演奏と歌だった。 後半 再生ボタン 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes そして雪崩れ込むように次の曲へと続く。 次は『再生ボタン』。今の東京初期衝動にとって代表曲に一つである。 フロアのギリギリまで近づいたりマイクをフロアに向けることはあった。ギリギリの中でライブハウスという「自分の居場所」を守ろうとしていた 。思うようにできない状況でもライブをやるということを大切にしている演奏だった。それによって自分は熱い気持ちになった。 しかし『再生ボタン』では違った。 しーなちゃんはフロアにダイブした。コロナ禍になる前のライブのように、飛び込んでいった。 密を避けるようにフロアは間隔を開けてライブを観ている。そんなスカスカなフロアに飛び込んだので、オーディエンスも慌てて前に詰めてしーなちゃんを支えた。 そしてフロアに降り、動き回りながら叫ぶように歌っていた。それに対してフロアは腕を上げて応える。 感染症対策を考えたら、ダイブしたこともフロアに飛び込んだことも褒められたことではない。 もしもコロナ感染者がこのライブから発生したとしたら問題になってしまう行動かもしれない。批判されても仕方がない行動だ。 でも、自分はその姿を観て、カッコいいと思った。 最高だと思った。語弊があるかもしれないけれども「もっとやっちまえ!」と思った。 「コロナ禍で安全にライブをやる」という意味で守ろうとしていることと「ライブハウスでバンドが大切にしている表現をする」という意味で守ろうとしていることは違う。 それはどちらも大切なことだが、どちらかを守ろうとすると矛盾してしまう部分もある。 しかしどちらかだけを守ろうとしたら「ライブハウスの文化」も「バンドとしての表現」も両方守ることができないかもしれない。 そのバランスを取ることは難しいが、今は「コロナ禍で安全にライブをやる」ということがどうしても優先されてしまう。 それは当然のことだし世間にとって「悪者」に一度はなってしまったライブハウスのイメージを変えるためには最も必要なことかもしれない。 今は我慢の時期かもしれないが、今のライブハウスは自分が知っているライブハウスの姿とは違って、特にパンクバンドがライブをやる場所としては違和感を感じる雰囲気になっていた。 それでもライブをやってくれることは嬉しい。しっかりとルールを守るお客さんも最高だ。音楽を愛する人たち全員がライブハウスを守ろうとしている。 でも今までと同じようにダイブしてしまった姿を観て「これがライブハウスだし東京初期衝動だよな」と思った。 これも〈自分の居場所は自分で守れよ〉ということかもしれない。自分たちが好きだった頃のライブハウスに戻すため、そんな以前の雰囲気を取り戻しさすための行動で衝動だと思った。 だから自分はカッコいいと思った。 ステージに戻り曲を連投する。『黒ギャルのケツは煮玉子に似てる』ではまたステージを動き回り歌った。「東京初期衝動大好き!」と自ら叫んでいた。 『愛のむき出し』は音源以上に激しい演奏をして『兆楽』ではパンキッシュな演奏を衝動的に鳴らす。 兆楽 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes しかし『再生ボタン』のときと違ってフロアにダイブすることもなかった。 ステージ上で精一杯に表現していた。これが東京初期衝動なりのコロナ禍でライブをやることに対する姿勢であって、不器用ながらもバランスを上手く保とうとしている表れかもしれない。 本編最後に演奏されたのは『ロックン・ロール』。この曲にバンドの全てが詰まっていると思った。 ロックン・ロール 東京初期衝動 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes ロックンロールを鳴らしているとき今世界のどっかできみを待ってるロックンロールを鳴らしているとききみを待ってる ここで待ってる いつかきっと (ロックン・ロール / 東京初期衝動) ライブに行きたくても行けない人がたくさんいると思う。特にコロナ禍だと自分の判断だけではライブに行く選択を選べない人がたくさんいるはずだ。 東京初期衝動がロックンロールを鳴らしているとき、この場にいる人だけでなく、来ることができなかった人に向けても演奏しているように思った。 だからロックンロールを鳴らし続けるのだと思った。 歓声がない拍手だけのアンコールに応えてメンバーが出てきた。挨拶もせずに演奏を再開する。 アンコールの1曲目は『SWEET MERODY』。ベースのかほが脱退の意思をメンバーに話した次の日に、しーなちゃんが描いたというミドルテンポの優しいメロディの楽曲。 しーなちゃんはかほの方へ体を向けながら、かほを見つめながら歌っていた。 それまではほとんどフロアに歌を投げつけるようにオーディエンスに向けて歌っていたが、この曲だけは違った。 その姿が切なかった。 かほはベーシストとして素晴らしい才能と実力を持っていると思う。バンドの中でも特に楽器が上手かったし「こういう展開をするのか」と思うような個性的なベースラインが多い。バンドを屋台骨を支えるような演奏だ。 そんな大切なメンバーが去ってしまうことを改めて実感した。 ライブではMCを一切せず、脱退についてメンバーがライブ中に語ることはなかった。でも語らずとも音楽でメンバーへの想いも伝わってくる。だからファンである自分は必死に今の東京初期衝動を目に焼き付けようとする。 切ない余韻が残る。しかしそれを一瞬で掻き消すようにパンクサウンドが鳴る。 ラストは『東京初期衝動』。バンド名と同じタイトルの楽曲。 BPMは早い。衝動的に激しくパンキッシュに演する。これがこのメンバーで最後の演奏曲。 「このステージにいつまでもいます!」と曲中に叫んでいた。これがメンバーが脱退したとしても、バンドを止めないことの宣言に思えた。 曲が終わると「今日が東京初期衝動の第二章の始まりでした!」と叫びステージを去っていった。 MCなしの1時間弱のライブ。音楽だけで去っていくメンバーを見送り、音楽だけでバンドの意思を表明し、音楽だけで未来に期待をさせるライブを行った。 最後に森田童子『僕たちの失敗』がSEで流れる。 途中でしーなちゃんが出てきて、SEに合わせてカラオケで歌った。歌い終わってから「ありがとうございました」と一言だけ挨拶をして頭を下げた。 最後に挨拶するしーなちゃんはライブ中とは違い穏やかだった。ライブを全力でやり切ったことと無事に終わったことへの安堵感からだろうか。 現在バンドは新しいベーシストを募集している。9月にはすでにライブの予定もある。歩みを止める気はないのだ。 東京初期衝動は今日もロックンロールを鳴らしている。世界のどっかで君を待ってる。 東京初期衝動『全国逆ナンツアー』@恵比寿LIQUIDROOM 2020.8.16 ■セットリスト 1.Because あいらぶゆー2.高円寺ブス集合3.流星4.商店街5.BABY DON'T CRY6.STAND BY ME7.スタバ8.中央線9.再生ボタン10.黒ギャルのケツは煮玉子に似てる11.愛のむきだし12.兆楽13.ロックン・ロールEN1.SWEET MELODYEN2.東京初期衝動