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打首獄門同好会『日本の米は世界一』の歌詞は矛盾だらけで納得いかない(感想・レビュー・評価)

 『日本の米は世界一』は米を讃える歌ではない

 

打首獄門同好会は素晴らしいバンドだ。

 

演奏はかっこいいしライブは他では体験できない楽しさがある。歌詞も個性的。コミックバンドとして扱われることも多いが、優しくて温かいメッセージが込められている曲もある。

 

しかしだ。『日本の米は世界一』の歌詞には違和感がある。

 

日本の米は世界一

日本の米は世界一

  • 打首獄門同好会
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

打首獄門同好会の代表曲であり、ライブの定番曲。

 

自分も大好きな曲だが、何度聴いても心の奥底で引っかかるものがあった。違和感があった。その違和感の正体がわからずにモヤモヤしていた。

 

一緒に「日本の米は!世界一!」と叫びたいのに、叫ぶ気持ちになれなかった。

 

改めて歌詞を読んでみた。その違和感の正体がわかった。曲名と歌われている内容が矛盾しているのだ。

 

『日本の米は世界一』は「日本の米」を讃える歌ではなく「白米を使った外食を讃える歌だった。

 

だから自分は一緒に「日本の米は世界一!」と叫べなかったのだ。

 

 

家庭料理がほとんど出てこない

 

歌詞を読んでみてほしい。出てくる食べ物に注目しながら読んでほしい。

 

Everybody eat 牛丼 Everybody eat カツ丼
Do you wanna eat まぐろ丼? 親子丼 いくら丼

 

Everybody eat 天丼 Everybody eat 豚丼
Do you wanna eat 中華丼? チャーシュー丼 すき焼き丼

 

刺身定食 食!食! 唐揚げ定食 食!食!
焼き鮭定食 食!食! さんまの塩焼き定食
餃子定食 食!食! 焼肉定食 食!食!
いつもいつでも 食卓支える 主食!主食!主食は

 

日本の米 We want 米 至宝の愛
真っ白に炊きたてごはんが輝く 白米が美味いんじゃない?

 

日本の米 君の元へ Keep on the rice
この国 日本の食を支えてる 誇れよ我らの米を
日本の米は世界一

 

コシヒカリ キヌヒカリ みつひかり イクヒカリ ヒノヒカリ
ヤマヒカリ なすひかり ナツヒカリ ユメヒカリ ゆきひかり
加賀ひかり フクヒカリ ちゅらひかり 能登ひかり さきひかり
ササニシキ チヨニシキ アキニシキ みのにしき あきたこまち

 

鯖味噌定食 食!食! 天ぷら定食 食!食!
スタミナ定食 食!食! カツオのたたき定食
ステーキ定食 食!食! トンカツ定食 食!食!
食べる者皆 あまねく讃えよ 米を!米を!米を!米を!
米を 米米を

 

日本の米 We gatta 米 未曾有の愛
おかずのチョイスが無限に広がる 食べない手は無いんじゃない?

 

日本の米 いつもここへ 希望のRice
あったかいごはんを無心でかきこんで 日本の米は世界一

 

日本の米 We want 米 至宝の愛
真っ白に炊きたてごはんが輝く 白米が美味いんじゃない?

 

日本の米 君の元へ Keep on the rice
この国 日本の食を支えてる 誇れよ我らの米を
日本の米は世界一

 

おわかりだろうか。わかりやすいように歌詞に出てくる食べ物をまとめてみたので、確認してほしい。

 

丼物

牛丼・カツ丼・まぐろ丼・親子丼・いくら丼・天丼・豚丼・中華丼・チャーシュー丼・すき焼き丼

 

定食

刺身定食・唐揚げ定食・焼き鮭定食・さんまの塩焼き定食・餃子定食・焼肉定食・鯖味噌定食・天ぷら定食・スタミナ定食・カツオのたたき定食・ステーキ定食・トンカツ定食

 

22品の米を使った料理が登場する。これを並べたときに2つの共通点がある。それも下記にまとめた。確認してほしい。

 

1・白米を使っている料理ばかり

2・外食では一般的だが家庭料理では珍しいものが多い

 

この共通点から「白米」であることを重要視していることと、家庭料理よりも外食をメインに讃えているということがわかる。

 

もちろん家庭料理でも親子丼を作ったり唐揚げを揚げることも多いとは思う。しかし「丼」と「定食」という言葉を使っている。この二つの言葉からは家庭料理よりも外食をイメージしやすい。

 

バンドとしても「外食」をイメージして楽曲を制作しているようだ。MVを観ればそれを感じるはずだ。

 

MVから伝わってくるメッセージ

  

 

MVに出てくる料理写真は、どれもが飲食店で出てくるであろう綺麗な器に美しく盛り付けされたものばかり。

 

MVは一部ドラマ形式になっている。お腹をすかせたサラリーマンが飲食店で酒を呑みご飯を食べている映像。そこから伝わってくるメッセージは「外食でご飯を食べると美味しい」というものだ。

 

もちろん外食産業は重要だ。

 

快適な食事環境を創造し美味しい料理を提供してくださる飲食店には頭が下がる。白米の魅力を最大限に感じるような料理を作る飲食店は讃えるべきだ。それに対して異論はない。

 

しかし打首獄門同好会は、このように歌っている。

 

いつもいつでも 食卓支える 主食!主食!主食は

日本の米 We want 米 至宝の愛

 

米が食卓を支えていることを伝える歌詞。

 

しかし歌詞やMVに込められたメッセージは「食卓」というよりも「外食」だ。

 

食卓のことを歌うのならば、家庭料理に出てくることが多いであろうメニューも歌詞に入れるべきだ。

 

この国 日本の食を支えてる

誇れよ我らの米を

日本の米は世界一

 

「米」への誇りを語る歌詞。だから違和感を感じるのだ。この歌で讃えているものは「丼」と「定食」だからだ。米全般を讃えているわけではない。

 

日本の食卓について歌うのならば、日本の米を讃えるのならば、他にも讃えるべき料理がある。それを忘れてはならない。

 

カレーライスとオムライスだ。

 

 

カレーライスの重要性について

 

小学生の頃。夕方5時まで遊んでからの帰り道。 どこかの家から香る美味しそうな匂い。「美味しそうだな」と思いながら家路を急ぐ。自分の晩御飯もカレーがいいなあと思いながら。ただの日常の出来事なのに、自分の記憶にはっきりと残っている。

 

自分はカレーが大好きだ。日本の食卓を支えてきた料理の1つだと思う。家庭料理としては定番。外食ではスパイスにこだわった美味しいカレーが食べられる。日本の食文化において重要な食べ物だ。

 

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カレーライスの発祥は日本ではない。インドで生まれた料理であった「カレー」をもとにイギリスで生まれた。

 

それが日本に輸入されて独自の進化をして現在の形になった。発祥は外国だが日本独自の進化を遂げ、日本の料理といっても過言ではないほど日本人の味覚に合う進化を遂げた。

 

じゃがいもや玉ねぎなどカレーに定番の野菜が日本で多く作られるようになったことも、カレーライスが影響していると言われている。

 

じゃがいもや玉ねぎは「西洋野菜」。明治時代以前は日本では一般的ではない珍しい野菜だった。それが未開拓地であった北海道で作られるようになり、北海道は開拓が進んだ。カレーライスによって北海道は栄えたのだ。

 

カレーは明治時代は高級料理だった。多くのスパイスを使用し調理に手間もかかり、当時は日本で生産量が少ない食材を多く使用していたからだ。

 

大正時代になりハウス食品が簡単に作ることができるインスタントのカレー粉を作り販売した。高級料理ではなく安価に楽しめる一般食になった。

 

昭和になるとスプーンが家庭にあることも常識になってきた。カレーが普及する前はスプーンも一般的ではなかったのだ。

 

スプーンは小さな子供がカレー以外を食べる時も使える便利な食器として普及した。使う食器までカレーは変化させてしまったのだ。

 

ちなみに日本で初めてカレーを紹介した書物は福沢諭吉の「増訂華英通語」と言われている。カレーは諭吉がカモンしたのだ。

 

カモン諭吉

カモン諭吉

  • 打首獄門同好会
  • ロック
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カレーライスは日本の食文化の進化や変化の過程において重要である。今でも多くの人に愛される料理である。もちろん白米を使うことが多い料理だ。

 

しかし打首獄門同好会は、カレーライスを無視した。

 

 

オムライスの重要性について

 

オムライスの上にケチャップでイラストやメッセージを書いたことがある人は、多いと思う。

 

好きな漫画のキャラクターだったり、家族の名前だったり。

 

食べるだけでなく、料理によってコミュニケーションをとることができる。そのような料理は珍しい。他にはバースデイケーキぐらいだろうか。

 

卵に包まれたケチャップライス。卵と一緒に食べると絶品だ。家庭でも簡単に作ることができるし、ケチャップで文字を書いたりと想いも込められる。専門店でふわふわの卵に包まれたプロの技を味わうのも最高だ。いつでもどこでも美味しいのだ。

 

真っ白に炊きたてごはんが輝く 白米が美味いんじゃない?

 

打首獄門同好会は「白米至上主義」。ケチャップライスを使用しているオムライスを否定している。

 

 オムライスも日本の食を支えた料理だ。ご飯に味をつけることで、新しい米の楽しみ方を教えてくれた。

 

洋食だと勘違いしている人も多いが、オムライスの発祥は日本だ。ペルシャ料理のオムレツと日本の誇りである米を組み合わせたことで生まれた。

 

西洋の文化を取り入れつつ、そこに日本の個性をミックスさせることで生まれた料理。そのような料理はオムライス以前は珍しかったように思う。

 

オムライスがなければトマトケチャップは日本に浸透しなかったかもしれない。

 

トマトケチャップは明治期にアメリカから伝わったが、それほど普及していなかった。

 

カゴメが1908年から販売を進めたがなかなか売れず、ウスターソースを製造するための中間生成物として販売していた。それがケチャップライスやオムライスを作る飲食店が増えたことや、簡単に作れる調理方法が評価され家庭料理で作られることが一般的になり、ケチャプの製造数が莫大に増えた。

 

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メイド喫茶が多くの人に支持され海外の観光客にも人気になったことにも、オムライスは貢献している。

 

ケチャップでメッセージを書くことができる。ケチャップライスも工夫してかわいらしくアレンジできる。それがメイド喫茶の「萌え」と相性が良い。

 

その可愛らしさにトキメキを感じる。それに萌える。

 

メイドさんも「萌え萌えキューン♪」とオムライスに魔法をかけてくれるので、さらに美味しくなる。そんな気分になる。これは牛丼や唐揚げ定食では体験できない。オムライスだから体験できることだ。

 

オムライスは日本の食文化だけでなく、日本のサブカル文化にも大きな影響を与えた。日本のオタクカルチャーが世界規模になった理由に、オムライスは大きく貢献している。

 

しかし打首獄門同好会は、オムライスを無視した。

 

 打首獄門同好会とカレーライス&オムライスの共通点

 

打首獄門同好会がカレーライスとオムライスを無視した理由も理解はできる。

 

カレーライスとオムライスを歌詞に含めると曲が長くなってしまう。メロディにも載せづらいのかもしれない。他にもハヤシライスやドリアや寿司など米を使った料理は多い。全てを取り扱おうとしたらキリがない。

 

しかしカレーライスとオムライスについては歌ってほしかった。

 

なぜなら打首獄門同好会はカレーライスとオムライスに似ているからだ。

 

打首獄門同好会は自らの音楽ジャンルを「生活密着型ラウドロック」と名乗っている。

 

ラウドロックはヘヴィメタルやハードコアから発展したロックミュージックのジャンルの1つ。つまり日本発祥の音楽ではない。

 

しかし打首獄門同好会は日本で活動し日本語で歌う。日本人の生活について歌う。海外の文化を取り入れて日本らしさをミックスさせている。それによって打首獄門同好会は唯一無二の音楽を作っている。

 

それはカレーライスやオムライスと同じだ。

 

カレーライスはもともとインド料理のカレーをもとに作られたイギリス料理を発展させ、日本独自のカレーライスを作り出した。オムライスもペルシャ料理だったオムレツを発展させ、日本独自の料理として完成した。

 

良いものは積極的に取り入れ、個性を加えて新しいものを作り出す。

 

それは日本文化の良い部分に思う。だからカレーライスもオムライスも国民的料理として愛されている。打首獄門同好会も最高にカッコいいバンドになっている。

 

だからこそ日本の米を誇るのならば、カレーライスやオムライスについても歌って欲しかったのだ。カレーライスやオムライスを蔑ろにしないで欲しかった。

 

そう思っていた。しかし自分の勘違いだった。

 

打首獄門同好会はカレーライスもオムライスも重量な料理として扱っていたのだ。

 

ちなみにjunko手作りカレーがライブイベントで振る舞われる時は、フードではなく「アトラクション」というジャンルで提供される。

(引用:打首獄門同好会公式サイト)

 

公式サイトのプロフィールにはライブイベントでカレーを振舞うことが書かれている。ツイッターでもカレーを振舞っている様子が投稿されている。彼らはカレーライスを愛していたのだ。

 

https://i0.wp.com/jouhou.nagoya/wp/wp-content/uploads/2020/01/1726dba0dc3736b44084cc65c27b1d98.jpg

 

まさに「布団の中から出たくない」モードのコウペンちゃん!フワフワの卵を布団にしてグッスリ眠っています。 

(引用:名古屋初!『コウペンちゃんカフェ』が栄・ラシックにて2020年1月23日(木)から期間限定オープン。 | 名古屋情報通)

 

打首獄門同好会の『布団の中から出たくない』のMVのキャラクターだったコウペンちゃんのコラボカフェではオムライスが販売されている。打首獄門同好会の曲をイメージしたような盛り付けになっている。

 

スーパーデリシャスうまい棒 ウルトラデリシャスうまい棒
アンビリーバボーうまい棒 スペシャルスティックファンタスティック

カニシューマイ ピザ オムライス カニチャンコ レッドロブスター
What's 豆リカン

(デリシャスティック)

 

うまい棒について歌っている『デリシャスティック』ではオムライスを歌詞に登場させている。「うまい棒オムライス味」というマニアックな味があることを彼らは知っていた。きっとオムライスへの愛があるから知っていたのだ。

 

自分は打首獄門同好会のことを勘違いしていた。

 

白米至上主義で外食を讃える代わりに家庭料理を貶していると勘違いしていた。申し訳ない気持ちになった。カレーライスやオムライスを愛していることは前提として、白米を讃えていたのだ。

 

今なら『日本の米は世界一』を聴いても違和感を感じない。気持ちよく聴くことができる。バンドと一緒に日本の米を讃えることができる。

 

だからこそ打首獄門同好会と一緒に叫びたい。日本人として、米を愛する人間として。

 

「日本の米は!世界一!」