オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【感想・レビュー】椎名林檎のベスト盤「ニュートンの林檎」の選曲に不満しかないので語ってみた

ニュートンの林檎への不満

 

椎名林檎のオールタイムベストという名目の『ニュートンの林檎』という二枚組のアルバム。この内容に不満がある。

 

曲が悪いわけではない。むしろ最高だ。演奏や歌も素晴らしい。問題は選曲だ。この内容でオールタイムベストだとは認めたくない。

 

 

Twitterの公式アカウントまで「20年余りにわたる軌跡」と言い出している。本気だろうか。軌跡とするには選曲がやっつけ仕事に思う。そういえば『やっつけ仕事』も選曲から漏れてるじゃないか。何も良いと思えない。余り憤慨もしない。

 

オールタイムベストなのに、椎名林檎の活動において重要な期間の曲がごっそり抜けている。

 

本作は「リスナーから特に高く支持されている」という観点で選曲された2枚組のベストアルバムである。DISC 1は1998~2003年、DISC 2は2007~2019年の楽曲で構成されている

椎名林檎「ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~」インタビュー|デビュー21年目の“初めまして” - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

 

ナタリーのインタビュー記事の冒頭には『ニュートンの林檎』について上記のように解説されている。

 

2004年から2006年までの空白。この期間も椎名林檎は音楽活動を行なっていた。素晴らしい音楽を創り出していた。この期間の楽曲は全てベスト盤の選曲から漏れている。

 

2007年から2012年までも多くの名曲を作っていたが、ほとんどの楽曲がベスト盤の選曲から漏れている。

 

それが不満なのだ。

 

しかしこの期間の楽曲が『ニュートンの林檎』から漏れたことに理解はできる。音楽活動をしてはいたが「椎名林檎」としての作品は少なかったからだ。

 

当時の椎名林檎の音楽活動で発表される作品のほとんどは東京事変としての発表だったた。

 

教育を聴いた時の衝撃

 

2003年に椎名林檎は東京事変というバンドを結成した。

 

東京事変の曲を聴いた時、ソロの時とは違うバンドサウンドでなければ表現できないことを表現しようとしているように感じた。もしくは必然的にそのような音楽性や形態になったように思った。

 

ソロ時代の作品にもバンドサウンドの楽曲はある。売上全盛期の頃はそれが椎名林檎の特徴の1つでもあった。

 

それでも東京事変のバンドサウンドはソロでの楽曲とは少し違う。ソロ時代の主役は椎名林檎。楽曲でもライブでも椎名林檎が最も目立っていて、バックバンドはその魅力を引き立てるようなサウンドやパフォーマンス。

 

東京事変は椎名林檎が主役ではない。いや主役ではあるのだが五人組戦隊ヒーローのレッドのようなポジション。他のメンバーもそれぞれ個性があり目立っている。全員が主役。むしろ椎名林檎を食ってしまうような個性派揃い。

 

歌を引き立てるというよりも、全員がぶつかり合うような個性炸裂な演奏をしている。それが不思議と合わさると他では聴けないような演奏になる。これが東京事変の個性だ。

 

東京事変のレコーディングは基本的に一発録り。ライブを行うことと同じように全員で「せーの」で演奏している。その空気も音から感じる。緊張感やヒリヒリした感じや演奏を楽しんでいるような感じ。それに対して椎名林檎も全力で個性をぶつけて歌っている。

 

りんごのうた

りんごのうた

  • 椎名林檎
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes
りんごのうた

りんごのうた

  • 東京事変
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

1stアルバム『教育』の1曲目は『りんごのうた』。ソロ時代にリリースした楽曲のリアレンジ。ソロ名義でのバージョンとは全く違う編曲と歌い方。これが1曲目であることから自然とソロ時代と比較してしまう。

 

そしてバンドを結成したことで椎名林檎自身のミュージシャンとしての新たな一面が大発見されたと気づく。

 

東京事変も椎名林檎の21年のキャリアの中で重要なことなのだ。それなのに、ベスト盤には1曲も選曲されていない。

 

他人に作曲を委ねた椎名林檎

 

東京事変結成前、椎名林檎はカバー曲で他人の作詞作曲作品を歌うことはあったが、オリジナルアルバムは自分の作詞作曲作品ばかりだった。

 

それが東京事変で変わった。バンドメンバーに作曲を任せる作品も発表した。椎名林檎が作詞し紡いだ言葉が他の人物が作った曲に乗っかる。それはソロ時代では体験することのなかった新鮮さ。

 

群青日和

群青日和

  • 東京事変
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

『群青日和』の作曲はH是都M。椎名林檎のソロ作品では少なくなっていたストレートでキャッチーなロック。それに椎名林檎の作詞が加わりソロとも違う東京事変でしか作れない楽曲になった。

 

東京事変は2005年にメンバーチェンジをした。H是都Mと晝海幹音が脱退。浮雲と伊澤一葉が加入した。

 

 2ndアルバムの『大人(アダルト)』では新メンバーの伊澤一葉は全員でのレコーディング前からスタジオにこもり、バンドで演奏する前のデモ音源を製作したりと重要な役割を担っていた。そのため『教育』とも違う音作りになっている。

 

『教育』が日本のロックシーンに衝撃を与えるようなマニア受けするロックアルバムだとしたら、『大人(アダルト)』はロックアルバムでありつつもJ-POPとしてもヒットチャートのド真ん中で通用するような音楽。

 

新メンバーの加入により「バンドである意味」がより強くなった。音作りにおいても存在としても。

 

バンドの名刺代わりとも言えるシングル曲でも椎名林檎以外のメンバーの作曲作品を発表するようになった。

 

『キラーチューン』は伊澤一葉の作曲作品。キャッチーなメロディと跳ねるようなリズムが心地よい。椎名林檎もそれに連られてか普段とは少し違う方向性の作詞になっているように思う。

 

キラーチューン

キラーチューン

  • 東京事変
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

ライブの定番曲であったシングル曲の『OSCA』は作詞作曲共に浮雲。初めて他のメンバーにも作詞も委ねた。それでも「東京事変の音楽」と感じる。それは椎名林檎がボーカルであることだけが理由ではない。バンドの演奏が個性的であり全員が主役だから椎名林檎以外の作詞作曲でもバンドの個性を感じるのだ。

 

OSCA

OSCA

  • 東京事変
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

3枚目のアルバム『娯楽(バラエティ)』は全曲椎名林檎以外のメンバーが作曲をしている。主に浮雲と伊澤一葉の作品が多い。その後の作品も彼らは作品において重要な楽曲やライブでの人気曲を作った。

 

 4枚目のアルバム『スポーツ』に収録されている『電波通信』(伊澤一葉作曲)や『シーズンサヨナラ』(浮雲作曲)のような曲は椎名林檎の作曲では生まれなかった名曲ではとも思う。これらはファンに人気の曲だ。

 

電波通信

電波通信

  • 東京事変
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

『群青日和』や『OSCA』や『閃光少女』や『透明人間』などなど。東京事変の人気曲やライブ定番曲は椎名林檎以外の作曲作品が多かった。しかしそれでも椎名林檎の歌声や作詞はソロの時と同様に個性的で魅力的で最高。彼女の音楽キャリアを語る上で東京事変の活動は避けては通れない。

 

最後のミニアルバム『color bar』で林檎以外のメンバーがボーカルやった曲はキャリアを語る上で避けてもいいけど。

 

怪ホラーダスト

怪ホラーダスト

  • 東京事変
  • ロック
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 自分にとっての椎名林檎のベストな姿

 

椎名林檎と東京事変は別物だとは思う。椎名林檎以外のメンバーの存在感が強いバンドだったから。そもそも名義も違うしソロでは作ることのできなかった楽曲や世界観を作っていたと思う。

 

桑田佳祐のベスト盤にサザンの曲は収録されない。玉置浩二のベスト盤に『ワインレッドの心』は収録されないし、ポール・マッカートニーのベスト盤にも『Let It Be』は収録されない。

 

そう考えると東京事変の楽曲が収録されないことは当然かもしれない。理解もできる。

 

しかし解散したものの東京事変は9年間活動していた。椎名林檎の音楽キャリア21年のうちの9年間は短くはない。事変をきっかけに椎名林檎を知った人やファンになった人だっている。それに東京事変のベスト盤は発売されていない。

 

今から10年ほど前のお食事の席で、竹内まりやさんから、「(デビューから)10年経ってもベスト盤を出さないなんて」「これから初めて椎名林檎を聴こうとしている人が、どれから聴き始めたらいいかわからない」「入門編がないというのは不親切」「もっとたくさんの人々に聴いてもらうべき」というような意味のお言葉を頂戴しまして。

 (椎名林檎「ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~」インタビュー|デビュー21年目の“初めまして” - 音楽ナタリー 特集・インタビュー)

 

竹内まりやの「もっとたくさんの人々に聴いてもらうべき」という言葉。

 

これは東京事変にも当てはまるのではないだろうか。今は活動を終えてしまったバンドだが、このまま埋もれてしまうのは勿体ない。

 

椎名林檎を語る上で東京事変は必要不可欠な活動だ。東京事変のベスト盤がないのならば椎名林檎のベスト盤に楽曲を収録して欲しかった。

 

『ニュートンの林檎』の選曲に不満はあるが、収録曲は全て素晴らしい楽曲であることは間違いない。椎名林檎の入門編としては最高のベスト盤になっていると思う。

 

ベスト盤をきっかけに椎名林檎を深く知りたいと思ったら東京事変も聴いて欲しい。事変のベスト盤はないけどもオリジナルアルバムはどれも素晴らしい作品だから。

 

東京事変での椎名林檎はロックボーカリストとしてめちゃくちゃカッコいいんだ。ソロとは違う魅力もある。歌い方もライブでの立ち振る舞いも。

 

バンドを引っ張るような圧倒される歌に何度も感動した。逆にバンドに支えられているような姿も素敵だった。

 

椎名林檎のソロ作品も大好きだ。ファンになった時は東京事変結成前でもあったから。それでも自分が思う「椎名林檎のベストな姿」は東京事変で歌うバンドのフロントマンとしての姿。それに心底魅了された。

 

そんな個人的に「椎名林檎のベストな姿」だと思っている東京事変での椎名林檎を知って欲しい。

 

 

 ぶっちゃけると東京事変での椎名林檎がベストな姿だと思う一番の理由は『群青日和』のMVで林檎の色気がヤバいからなんだけどね。

 

↓関連記事↓