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私立恵比寿中学はBiSHを意識している?新曲シンガロンシンガソンから想像するエビ中の今後の指針

売れてます

 

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エビ中の新曲シンガロン・シンガソンがオリコンデイリーランキング2位らしいですよ。売り上げ枚数6万枚。これって今のCDシングルの売り上げ枚数としては多いんですよ。1位の嵐は別格としても今はシングル発売初日に1万枚売れないアーティストも多いわけです。そしてシングルCDでデイリーで6万枚は過去の私立恵比寿中学の作品でもおそらく1番の売り上げ枚数ではないだろうか。

 

今回の新曲は2018年1月3日の日本武道館公演でグループを脱退する廣田あいかの参加するラストシングル。ぁぃぁぃのラストシングルが多くの曲に届くことはうれしいことだが、その他にもこの曲は多くの人に届いてほしいと思う理由がある。

 

それはエビ中を去っていく廣田あいかへの愛が詰まっていることはもちろん、エビ中にとって新しい挑戦や今後の方針を示すような曲にも感じるからだ。もしかしたらシンガロン・シンガソンをきっかけに今後のエビ中の楽曲の雰囲気は過去のものとは変わっていくのではとも思ってしまう。

 

 

廣田あいかのために作られたような曲

新曲のシンガロン・シンガソンの作詞作曲はMrs. GREEN APPLEのフロントマンである大森元貴が担当している。ちなみに廣田あいかはミセスのライブに足を運ぶほどのミセスの大ファン。いつも誰が撮影したのか不明でガチ恋ファンを不安にさせる公式インスタグラムにもそのことが投稿されている。

 

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シンガロン・シンガソン
私立恵比寿中学
2017/11/08 ¥250

(タイトルをクリックでダウンロード)


 

楽曲はかなりのミセス節。メロディも音もミセス。大森くん手癖で作っただろと思えるぐらいに。だって曲のキーを変えたらそのまま「先生でも何にも知らな~い♪」って歌えそうだもん。そこら辺の事情を自分は何にも知らないし曖昧な態度はいらないし悲しみに非はないけども。

 

Speaking
Mrs. GREEN APPLE
2014/04/23 ¥250

(タイトルをクリックでダウンロード)

 

 

 もしかしたらエビ中ファンよりもミセスのファンの方が気に入りそうな曲。つまりミセスの大ファンであるぁぃぁぃが絶対に気に入りそうな曲。エビ中の運営からの脱退するぁぃぁぃへのプレゼントとも言えるだろう。

 

 MVもカラフルでぁぃぁぃの好きなものや好きな雰囲気を詰め込んだようなミュージックビデオ。メンバーの髪の毛はぁぃぁぃのメンバーカラーである黄緑。YouTubeのサムネ画像のセンターは廣田あいかだし1番のサビの最初を歌ったり振り付けでも中心に来ることが多かったりと美味しいところはぁぃぁぃにあげているようなMV。

 



何回だって転んでもいいんです
ギャンギャンギャン泣いてもいいんです

バイバイなんて言いたくないね
またねと手を振りニコっとね
いつまでだって夢を見ていいんです

今日までの全ての日々よ
私はここで言いたい
「大事にして居たいな」
「忘れずに居たいな」
これからもずっと どこに居ようと
何をしようと 何回だって

 

上記の3つはシンガロン・シンガソンの歌詞の一部だ。ナタリーでの廣田あいかとの対談記事によると歌詞を作詞をした大森氏曰く楽曲を作り終えて納品してからぁぃぁぃの転校(脱退)を知ったらしいのでそういった意図はないらしいが、別れをテーマにしているし応援歌にもなっている。エビ中の音源や映像などをしかりと調べて研究して作品を作ったらしいので、偶然なのか何か感じるものがあってこのような作詞になったのかもしれない。ぶっちゃけよくありがちなシンプルな内容の前向きな歌詞だが、エビ中のこれまでの歩みやエビ中で過ごした廣田あいかのこれまでのこと、今後のエビ中のことを考えながら聴くとグッときてしまう。

 

廣田あいか(私立恵比寿中学)×大森元貴(Mrs. GREEN APPLE)「シンガロン・シンガソン」対談|ぁぃぁぃ念願のコラボ実現!初対談で哲学トーク (1/3) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

 

エビ中を去っていく廣田あいかを残るメンバーもファンも気持ちよく送り出してあげようと思えるような歌詞。そしてぁぃぁぃにとってもエビ中をこれからも続ける6人にとっても曲を聴いたリスナーにとっても、背中を押されるような前向きな歌詞だ。

 

しかし、この曲は廣田あいかの転校ソングとして扱う意外にもエビ中にとって重要でターニングポイントになる曲でもあるのではと感じる。

 

BiSHのファンを奪いたい?

 少しだけ話が脱線するが、先日エビ中はBiSHと対バンライブを行った。

 

関連記事:「一緒に行きましょう」と話すBiSHアイナと「連れていくからさ」と歌うエビ中 ~ 〈BiSH vs 私立恵比寿中学〉 TOKUFUKU LIVE Connect Vol.2~ライブレポ - オトニッチ-

 

どのようなライブだったか詳細は上記の記事を観てほしい。個人的な感想だがロック曲中心のセットリストで、エビ中は勢いのあるBiSHをさらに上回る勢いと実力で全力でねじ伏せ、BiSHのファンを奪ってやるぐらいの気合を感じるライブだった。もしかしたらBiSHを支持しているようなファン層をエビ中も開拓していきたいという狙いがあるのではないだろうか。

 

BiSHの獲得しているファン層は「今までアイドルに興味がなかった人」が他のアイドルグループよりも多い。「楽器をもたないパンクバンド」というキャッチコピーを持っていて、メディアで紹介される際もパンクバンドのような激しいパフォーマンスであったり、他のアイドルグループとは違いロックな曲が多いということがピックアップされる。いわゆる「楽曲派」と言われるアイドルでも音楽的な部分を評価するファンや、バンドが好きなロックキッズがバンドを聴く延長で聴いてたりする。

 

それに対してエビ中は「正統派アイドル」と言われることも多い。ファン層の大多数は普通にアイドルが好きな人やアイドルを応援した人だ。メディアで紹介される際もいまだにももクロの妹分と紹介されることも少なくはないし、正統派アイドルのような扱いを受けている。

 

池田貴史(レキシ)、yukio murata(MY WAY MY LOVE)、三浦康嗣(口ロロ)、尾崎世界観(クリープハイプ)、ABEDON(ユニコーン)、TAKUYA(元・JUDY AND MARY)首藤義勝(KEYTALK)、照井順政(ハイスイノナサ)、角舘健悟(Yogee New Waves)、フジファブリック、チャランポランタン、魔法少女になり隊、四星球、大沢伸一、石井竜也、曽我部恵一、鈴木慶一、菅野よう子、後藤まりこ、吉澤嘉代子

 

上記はエビ中へ楽曲に関わったミュージシャンの一部だが、サブカル音楽オタクホイホイ&ロックキッズホイホイなミュージシャンが多い。エビ中も楽曲にはかなりこだわっており、ライブもBiSHに負けないほど熱いパフォーマンスをする。しかしエビ中の音楽面の評価はアイドルファン以外にはあまり評価されていない。評価されていないというよりも、評価される機会が少ない。「この曲は〇〇のオマージュだ」とか「録音や演奏が〇〇だ」とか「コード進行が〇〇」とか音楽知識をひけらかし「自分はわかっている感」を出す痛々しい人(自分)細かい部分まで聴いて語る音楽オタクが少数いるぐらいだ。

 

最近のエビ中はここ数年で歌唱力やパフォーマンス力が上がったこともあり、エビ中はアイドルファンだけでなく、他のジャンルを聴き純粋にCDを買ったりライブに行ったりフェスに行く音楽ファンにもエビ中の音楽を届けたいと思っているのではと感じる。

 

音楽ファンと言っても「藍色のMondayはニューオーダーのBlue Mondayのオマージュだよね」とか「まっすぐのドラムはビートルズの時のリンゴ・スターっぽいよね」とか「紅の詩のセリフはアナーキー・イン・ザ・UKじゃん」とか聞いてもいないのにドヤ顔で語るような人(自分)細かい部分まで聴いて語る音楽オタクではなく、ライブへ行ったり普通に音源を聴いて楽しむような音楽ファンだと思う。

 

そういった部分が今回は顕著になっているかなと思う。アイドルソングとして感じさせないような工夫がされている。そして、その方法がBiSHのやり方に近いんですよね。

 

BiSHを意識しているような歌割り

シンガロン・シンガソンは楽曲提供をMrs. GREEN APPLEの大森元貴が行っている。それだけでも今までとは違うリスナー層も聴くきっかけにはなると思うが、ミセスのファンの大多数のアイドルファンではない人にもスムーズにエビ中の楽曲を受け入れられるような工夫が今作ではされている。それは今までのシングル曲とは違う歌割りだ。

 

今までのシングル曲ではサビの出だしは毎回メンバー全員がユニゾンで歌っていた。しかし今作ではメンバーがソロで歌っている。男性アイドルでも女性アイドルでもサビはユニゾンで歌うことが多いので、アイドルグループがサビをメンバーのソロで歌うことは珍しい。

 

ちなみにBiSHは基本的にサビをユニゾンで歌うことは少ない。サビはメンバーがソロで歌うことが殆ど。これによってどのような効果があるかというと、「アイドルっぽく聴こえない」歌になる。このことはBiSHのサウンドプロデューサーである松隈ケンタ氏が下記の書籍でも語っており、意図的に自身のプロデュース作品はアイドルでもユニゾンで歌わせることは少ないと語っている。

 

 

 サビはメディアで紹介される場合、もっとも取り上げられやすい部分だ。特に1番のサビは取り上げられることが多い。ソロで歌うことでアイドルに興味がない層にも興味を持たれやすくはなるが、その分歌唱力も特に問われるようになる。そのためBiSHは1番のサビはアイナとチッチの歌唱力のある2人が担当することが多い。今作のエビ中は1番のサビは廣田あいか、柏木ひなた、安本彩花のエビ中の中でも特に歌唱力があるメンバーや声に特徴のあるメンバーが選ばれている。

 

歌割りに関してはミセスの大森氏は関わっていない。エビ中のスタッフか編曲の山下洋介氏が意図的に今までとは違うリスナーにも興味を持ってもらうように割り当てたのかもしれない。そして、エビ中は松隈ケンタ氏とも関わったことがあるし、エビクラシーに収録されている春の嵐は楽曲提供した照井順政氏に「BiSHのオーケストラのような曲」と言って発注したらしい。そういったことからこの歌割りにはBiSHのことも意識していた部分があるのかもしれないと想像できる。

 

歌割りだけでなく、シンガロン・シンガソンでは歌の音域もアイドルとしては変わっている。シンガロン・シンガソンンは歌の音域の高低差が2オクターブもあり歌いこなすことが難しい。一般的なアイドルソングは歌いやすいように音域は狭くすることが一般的だ。偶然かもしれないが、これもアイドルソングではなく他の歌手と同じようなポップスとして受け取られる理由になる、新しいファン層を獲得するための工夫かもしれない。

 

以前から新しいファン層を開拓しようとしてた?

 

ちなみに、こういった傾向は今年発売されたアルバム「エビクラシー」でも片鱗はあった。過去のアルバムにはあったインタールード的な扱いのコアなファン以外には需要のないコントメンバーのキャラクターや個性を感じるコントは収録されてなく、音楽しか収録されていない。そしてシンガロン・シンガソンのようにサビをユニゾンで歌っていない曲も複数収録されている。そういったことからエビクラシー発売時も「アーティスト路線」と感想を述べるファンは少なくなかった。

 

もしかしたらエビクラシーの頃にはすでに新しいファン層を開拓を目指していたのではないだろうか。そして夏にはTOTALFATが楽曲提供と演奏を行った「HOT UP!!!」ではメロコアにも挑戦し、ライブではBiSHと同じようにヘドバンを客に求める。これも今までにないジャンル楽曲提供者や音楽性であり、エビ中にとって新しい挑戦でもあった。これも新しいファン層を開拓するための曲かもしれない。そして新しく開拓したいファン層はBiSHが多く獲得しているような「アイドルを今まで聴いていなかったであろう音楽ファン」なのかもしれない。

 

 

大人はわかってくれない

 

今思い出したんだけど、エビ中には「大人はわかってくれない」という名曲がある。これは2012年に発表された楽曲で「Go!Go!Here We Go!ロック・リー」との両A面シングルだった。

 

大人はわかってくれない
私立恵比寿中学
2012/08/29 ¥250

(タイトルをクリックでダウンロード)

 

 そいういえばこの曲はボーカルに加工がされてるけど、サビをソロで歌っている。シンガロン・シンガソンよりも前に既にサビをユニゾンで歌わないシングル曲をリリースしていたわけだ。

 

・・・・・・。

 

というわけで、この記事の内容はすべて忘れてください。全て忘れて普通に曲を聴いてください。

 

それではみなさんごきげんよう。