オトニッチ

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【感想】映画『オトトキ』THE YELLOW MONKEYの再始動後のドキュメンタリー映画に映る普通のおじさんについて

特別なバンド

自分にとって「このバンドは特別だ」と思うバンドはいくつかある。その中で唯一まだライブを観たことがないバンドがある。好きになった時にはすでに活動は休止していたし、再始動後もチケットが取れず予定も合わずで観れていない。

 

それがTHE YELLOW MONKEYだ。吉井和哉とは出身が同じだし、吉井さんの昔の知り合いが学校の担任だったこともあったりと、勝手に運命も感じていたりする。

 

関連記事:担任がイエモンの吉井和哉と知り合いだったらしいんだけどさ・・・・・・ - オトニッチ-

 

そんなイエモンの再始動後の活動を追った映画が公開された。『オトトキ』という作品。自分は解散前のイエモンの活動を知らない。再結成後もライブは観れていない。新曲は聴いているしテレビに出ているのも観ている。でも、本当に活動再開しているという実感がわかない。イエモン世代ではない自分の世代は伝説のバンド扱いか、そもそも存在を知らない人ばかりだから。この作品を観る理由は、自分にとってはイエモンは本当に活動を再開しているんだという実感を感じるためという目的もあったりする。

 

そして新宿バルト9で観てきた。率直な感想を言うと、感動した。いや、感動とも違うかもしれない。グッと来たんだ。心が揺さぶられたというか。

 

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正直かっこいいイエモンの映像は少ない。ダサい映像が多い。ロックバンドが見せなくていい部分も多い。でも、だからこそ心が動かされたのかもしれない。

 

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映画の内容を感想を書こうと思う。ネタバレだらけです。まだ鑑賞しておらずネタバレを見たくない人はこの先は読まずにどうぞ他の記事を読んでください。でも、ネタバレを読んだとしても良いと思える作品だと思う。もしかしたらネタバレを見てから作品を観たらまた違った見方ができる作品なのかもしれないと感じるほどに。

 

 ツアーの映像と無観客ライブの対比

映画は基本的に活動再開後初ライブの代々木第一体育館から時系列に進んでいくが、合間に作品中では最も最新のライブ映像である2017年3月に行われた渋谷La.mamaでのライブが挟まる。

 

渋谷La.mamaでのライブは観客を入れていない。メンバーとスタッフしかいないライブだ。ツアーの映像での演奏シーンの後に渋谷La.mamaのライブ映像が入り、対比させるような形になっている。

 

この対比にも意味はあるのだろうけども、無観客でライブを行った理由も対比するような構成にした理由も作品中では語られていない。この部分は個人的に考察してみたが、これは記事の後半に述べることにする。

 

良い部分だけを映さない

 このドキュメント映画はイエモンのカッコいい部分だけを映した映画ではない。イエモンのメンバーのカッコ悪い部分も映しているし、イエモンに対してマイナス意見とも思われるような部分も映像にされている。

 

映画序盤のツアー初日の代々木体育館の映像もそうだ。ライブ会場前のお客さんのインタビューが収録されていて再結成後初ライブを観る前の気持ちを聞いているわけだが、そのインタビューも普通だったら収録されないであろうインタビューの内容も含まれていた。

 

「期待と不安で半分半分です」

「昔と同じことはできないだろうし、やってほしくない。4人が真剣にやってくれればそれでいいんじゃないですか?」

「復活して欲しいい気持ちも復活してほしくないような気持もある」

「伝説のままでいてほしかった」

 

上記はインタビューされたファンの話だが、再結成を素直に喜んでいる様子ではないようだった。しかし、それがリアルなファンの気持ちだったのかもしれない。解散の理由も明るい理由ではなかったし、最後のライブから15年の月日が経っている。

 

しかし、一瞬でイエモンがそんなファンの気持ちを変えてしまう瞬間も収録されている。

 

復活したTHE YELLOW MONKEYも最高だということを音で証明したのだ。ライブ1曲目に演奏されたプライマル。の演奏が始まり1音目がなった瞬間に証明したのだ。

 

その音には説明が出来ないかっこよさがあった。メンバーのステージに立つ姿もソロの時ともまた違う、イエモンとしての佇まいとオーラだった。この空気感を大画面と大音量で体感できただけでもこの映画は観る価値があった。

 

 バンドマンでなく人間を撮っている

 THE YELLOW MONKEYというバンドのドキュメンタリー作品だが、イエモンの活動とは直接関係ないエピソードも出てくる。それはメンバーの私生活であったりバンド以外での顔についてだ。

 

そういったエピソードの1つにメンバーの菊池英昭(愛称エマ)と菊地英二(愛称アニー)の父がツアー中に亡くなった話が収録されている。神戸でのライブ当日に亡くなり最後を看取ることはできなかった。バンドを仕事にしているから親の死に目には会えないと昔から覚悟していたという話や意識が朦朧としている親を病室に置いてライブ会場へ向かったという話は胸が苦しくなった。

 

『オトトキ』ではイエモンのライブでの演奏が何曲も収録されている。しかし最初から最後までフルで収録されている曲は神戸公演での『球根』という曲だけだ。この曲は菊地兄弟の父が最も好きな曲だと生前言っていた曲らしい。菊地兄弟は「プロだから公演でムラがあってはいけないしどの会場でも同じ演奏をしなければいけないが、人間だからどうしても神戸でこの曲を演奏したときは気持ちが入ってしまっていた」と語っていた。

 

球根
THE YELLOW MONKEY
1998/02/04 ¥250

 

映像からも神戸公演での球根が名演であることは伝わる。そして「神戸でのライブは一生忘れられないライブになった」と語っていた。

 

また、廣瀬洋一(愛称ヒーセ)は自分の18歳の息子が再結成したイエモンのライブを観て感動していたという話をしていた。今までは学校の父兄参観に行っても自分の父親だけ目立って嫌がっていたけど、父親の凄さがわかったみたいだと笑顔で語っていた。その顔はロックバンドのメンバーの顔ではなく普通のお父さんの顔だった。

 

吉井和哉もエマとアニーの父の訃報を聞いて「父親がもしも生きていたらバンドをやることを許してなかったかもなあ」と幼少期に父を亡くしたこともあってかしんみりと語っていた。吉井さんはほかにもメイク前のおばあちゃんみたいな顔をしている表情やトランポリンではしゃいでいる姿も映っている。

 

それらはバンドの活動とは直接は関係なく、メンバー同士の関係性の話でもなく、メンバー個人についての話だ。バンドのドキュメンタリー映画としてとらえると本来は蛇足な部分かもしれない。しかし、それらをピックアップして取り上げることで、メンバーがどのような想いでバンドをやっているのかがより伝わってくる。どのような想いで音楽に向き合っているかが伝わってくる。

 

バンドとしての成長

 もちろんバンドの活動についても映像に収められている。特に印象的だったのはバンドは再結成後もよりレベルアップすべく常に試行錯誤をしている様子だ。

 

例えばライブでイヤモニを取り入れたり、レコーディングでリズムをキープするためメトロノーム代わりにクリックの音を流したりなどだ。解散前の活動では行っていなかったことや新しい方法や技術も取り入れてバンドを進化させようとしている。

 

映画にはデヴィッド・ボウイのプロデューサーでありイエモンの「プライマル。」のプロデュースを務めたトニー・ヴィスコンティのインタビューも収録されている。その中で自身の活動について「20年前よりも自分は成長している。今でもまだ成長をしている」と語っていた。また、イエモンは他にない個性を持っているように感じたとも語っていた。

 

イエモンはトニーと同じように10年前よりも20年前よりも成長しようとしているのではと感じる。”伝説のバンド”ではなく”現役のバンド”という意思も感じる。

 

ダサい部分が目白押し

 しかしカッコいい部分だけ収録されているかと言うとそんなことはない。むしろダサい部分の方が多く収録されている。

 

ライブ後にぐったりしているメンバーやライブ後に今日は最悪だったと落ち込んでいるメンバー。メイク前で普通のおじさんになっているメンバー。スマホで自撮りするおじさんになっているメンバー。それらはロックバンドが見せる姿ではないのかもしれない。完全にオフの姿だからね。

 

そして体調を崩さないように対策をきちんとしているのに体調を崩してライブ前に病院で点滴をする吉井和哉。カウントダウンジャパンのステージで突然声がでなくなりライブを中断する吉井和哉。その姿はかっこいい姿ではないだろう。見方によっては情けない姿だ。

 

でも、その姿が収録されているからこそバンドの魅力が際立つのだ。ライブ前やライブ後は気が抜けて普通のおじさんになっていてもライブ前にスイッチが入った姿は全員ロックスターだしステージでのパフォーマンスは圧倒される。

 

カウントダウンジャパンのステージでも中断後に再度ステージに戻り本調子でない声で歌う姿を観て涙目を浮かべる男性スタッフや涙をこぼしている女性スタッフの姿や、いっしょに歌いながら涙を流しているファンの姿はグッとくる。上手いか下手とか調子が良いとか悪いという部分は置いておいて、確実にTHE YELLOW MONKEYという存在や音楽が人の心を動かしている瞬間に感じる。

 

イエモンはライブ中はカリスマかもしれないしロックスターかもしれない。でも人間臭い部分もあるし泥臭い部分もあると映像を観ていると思う。このドキュメンタリーはバンドそのものよりも、メンバーの人間としての部分を掘り下げて映像に残したかったのではとも感じる。

 

イエモンの本当の再始動

「今回のツアーはおかえりって感じのお祭りだったりお祝いみたいな感じだから、来年からがバンドとして本当のスタートだと思う」

 

ニュアンスや実際に話していた言葉は多少違うと思うが、作品中でヒーセは上記のようなことを語っていた。 再結成しツアーが行われたのは2016年。2017年はイエモンにとって本当のスタートということなのだろうか。

 

冒頭でも話したが、この作品はツアーのドキュメントとともに2017年3月に渋谷La.mamaで行われた無観客のライブの映像が収録されている。個人的にはこのライブこそがイエモンの本当の再スタートなのかもしれないと感じた。

 

このライブはフロアに客がいないメンバーとスタッフだけのライブだ。演奏中のメンバーの表情はツアー中のキリっとした表情とも違い、雰囲気もツアー中の緊張感のあるものとは違うように感じた。少し照れくさそうに笑ったり演奏中にメンバー同士で見つめあったりじゃれたり。フロアに降りて歌いながらメンバーの演奏を客目線で観る吉井さんだったりと。

 

 渋谷La.mamaでのライブ前に今作の監督である松永大司監督は「解散したことや解散後にメンバーはどのようなことを考えていたか聞いたことありますか?今日のライブのMCで聞いてみませんか?」という質問を吉井和哉に投げかけていた。それに対して「聞いたことはないし、ステージで聞くことはない。どう思っているかは去年からのバンドの音を聴いてもらえればわかるんじゃないかな」と答えていた。

 

その答えは渋谷La.mamaでの演奏を観ていれば何かがわかるような気がした。なぜ観客なしでイエモンの原点でもある場所、渋谷La.mamaであえて無観客でライブを行ったのかもわかったような気がする。そして、このドキュメンタリー映画の伝えたい部分はこのライブに一番詰まっているのではと感じる。

 

ちなみに渋谷La.mamaのライブで1曲目に演奏された曲はメジャー1stアルバムに収録されているSubjective Late Showだった。そして最後に演奏された曲はメジャーデビューシングルのRomantist Tasteだった。

 

Subjective Late Show
THE YELLOW MONKEY
1992/06/21 ¥250

 

Romantist Taste (Remastered)
THE YELLOW MONKEY
1992/05/21 ¥250

 

 ホームとして活動していたライブハウスで自分たちのスタートともいえるメジャーデビュー曲や1stアルバムの曲を今のイエモンが演奏をするということは、やはりここが本当の再スタートという気持ちがあるのではないかと感じる。

 

そしてこの映画はバンドの再結成を追った映画でもあり、バンドが再び始まる瞬間を収めた映画でもあるのではと思う。ドキュメンタリー映画ではあるが、起承転結がはっきりしているような内容でもある。しかし、正しくは起承転結起という展開になっている。

 

自分にとって伝説のバンドだったイエモンはリアルタイムで追うことができるバンドになり、しかも始まったばかりなんだと思えるようになった。本当に観ることができて良かったと思える作品だ。