2025-02-08 【ライブレポ・セットリスト】the pillows 『LOSTMAN GO TO CITY 2024-25』at 水戸LIGHT HOUSE 2024年12月15日(日) the pillows ライブのレポート 2024年2月1日。the pillowsが2024年1月31日のKT Zepp Yokohamaで行われたライブを最後に解散したことを発表した。嬉しいお知らせは早めに教えてくれるバンドなのに、悲しいお知らせは全てが終わってからの事後報告たった。 でもそれは最後のライブをいつもと同じように、ただただthe pillowsのロックンロールを浴びて笑顔になる場所とするためだったのかもしれない。 the pillowsにとって結果的に最後の全国ツアーとなった『LOSTMAN GO TO CITY 2024-25』に自分も足を運んだ。自分は高校生の時にthe pillowsの音楽に心を奪われてから、約20年間the pillowsの音楽を聴きライブへ幾度も行って、何度も救われてきた。 この日も「ツアーがあるなら行かなければ」と、いつもと同じように行ける日程と場所のチケットを取って、最高のロックンロールを浴びるために水戸ライトハウスに向かった。 この日はthe pillowsが解散するなど全く思っていなかった。いつも通りにメンバーは出てきて、山中さわおは第一声に「アウイエ!」と言っているし、観客も同じように「アウイエ!」と叫んでいる。いつも通りのthe pillowsのライブの始まりだ。ただいつもよりもメンバーが前方の観客とグータッチしている時間が長かった気はした。 山中さわおが前方に出て煽ってから始まった1曲目は『デブリ』。ライブハウスを一瞬で爆音で包み込み、観客を一瞬で熱狂させる。この楽曲はそれほど知名度が高い楽曲ではないものの、観客はサビで拳を挙げながら一緒に歌っている。どうやらマニアックな楽曲も熟知しているコアなファンが集まっているようだ。 間髪入れずに『ROCK'N'ROLL SINNERS』が続くと、さらに観客は激しく盛り上がり叫ぶように歌う。なんなら代表曲が演奏された時よりも盛り上がっているのではと思うほどだ。それに鼓舞されたのかメンバーもいつもよりも前方に出てきて煽ったりとパフォーマンスが激しい。 そんな観客の盛り上がりを見て「今日はみんなすげえ頭がおかしいじゃないか(笑)いいぞ!ロックンロールは頭がおかしくなるものだからな!」と嬉しそうに話す山中。 「今日は久しぶりじゃないかと思う曲をいっぱいやるよ」と話してから演奏された3曲目は『Wake up! dodo』。 山中が両耳に手を当てて耳を澄ますようなポーズをすると、音源と同じように扉が開くSEが流れ、真鍋吉明がギターリフを丁寧に弾いて曲が始まる。音源よりもそれぞれの演奏のアンサンブルの魅力が生々しく聴こえてくる。音源とは少しだけ違うアレンジになっているようだ。 続く『Skinny Blues』では再び疾走感あるロックンロールな演奏で盛り上げる。個人的に歌詞が特に好きな楽曲のひとつだ。〈闇があるんじゃない 光がそこにないだけ〉というフレーズには何度も救われたし、この日も生で聴くこのフレーズに心をつかまれた。 それにしても今回のライブはレア曲盛りだくさんな上に、全く違う方向性の楽曲が次々と披露され、the pillowsが様々な音楽に挑戦してきた歴史を感じさせるセットリストである。例えば『Binary Star』では複雑な音の組み合わせで、演奏力の高さでしっかりと聴かせて魅せる。その演奏から感じるのは結成35年だからこその貫禄だ。 観客「・・・・・・」 山中さわお「さっきまでの俺たちの人気はどうなったんだよ!」 観客「あういえ!あういえ!あういええええ!ふうううう!」 演奏中は騒ぎまくっているのに、曲が終わりMCになると静かになると静かになる観客にツッコむ山中。以前からそうなのだが、the pilowsの観客は演奏中以外はとても大人しい。変なことをしたら怒られるのではという危惧を、過去に何度かあった山中さわおのライブ中のブチギレから学んでいるのだろう。 山中さわお「宮川くんの実家はこの会場の近所なんだよね」 宮川トモユキ「五軒町1丁目でした。本当にここから歩いて数分ぐらいの場所です」 山中さわお「今は住んでないからって住所を言っちゃうんだ」 今回のサポートベースは茨城県水戸市出身の宮川トモユキ。彼に取っては凱旋公演である。母親も観にきていることを伝えると、2階席にいた宮川の母上が1階の観客に向けて皇族のように上品に手を振って挨拶をした。なかなかロックバンドのライブでは遭遇しない上品な光景である。 「今日は色々なラブソングを歌うから、次の曲は女性客の顔を見つめながら歌うよ」と山中が告げ、女性客となぜか男性客も黄色い歓声をあげてから演奏されたのは『Subtropical Fantasy』。ミドルテンポの心地よい演奏に合わせ優しく歌う。 だが女性客を見つめていたら照れてしまったのだろうか。少しだけ引きつった顔になり、歌詞を飛ばしギターの演奏もミスしてしまい、仕舞いには演奏がとまってしまった。 「変なことを言ったら意識しちゃって何がだかわからなくなった(笑)」と言い訳して、必死に歌詞とギターのフレーズを思い出そうとその場で練習する山中。MC中は大人しかった観客は「ふうううwwww」と言って囃し立てる。 「今度は男性客の顔を見て歌う」と言って仕切り直すと、男性客の野太い喜びの歓声が会場に響いた。今度は完璧な歌と演奏で見事だった。男性客たちは目がハートになっていた。 奇しくも山中が女性客に照れたおかげでステージとフロアの心の距離が近づいたようだ。ポップなリズムが印象的な『Mighty lovers』では、熱気というよりも明るいといった雰囲気の中で観客は踊っていた。 それにしてた今回のセットリストは段丘が多く様々な方向性の楽曲が演奏される。今度は渋いサウンドの『シリアス・プラン』をクールな演奏で奏でた。 かと思えば『Degeneration』では再び疾走感あるロックで観客を興奮させる。どんな曲が演奏されようとも、観客は喜び楽しんでいる。かなりマニアックなセットリストではあるが、それを望んで喜んでいるかのような良い雰囲気だ。 今回のツアーはあまりにも久々の曲ばかりやっていて、まるでthe pillowsのコピーバンドをやってる気分になる。 自分のパートを当時どのように弾いていたか忘れているから、何回も音源を聴いて確認したんだ。でも、何回音源を聴いても自分がどうやって弾いてたのかわからない(笑) でもやっていた俺が分からないなら聴いている君たちも元と違ったとしても絶対にわからないはずだ(笑) だから今の気分でやりたいように今のthe pillowsとして演奏しているよ たしかに今回は久々の曲多いが、新たなアレンジや音源とは違う印象を感じる演奏もあった。それは今のthe pillowsとしての表現で過去の曲を再構築しているからなのだろう。 山中が「手を叩いて踊ろうか」と言ってハンドマイクになり披露されたのは『IRIOT』。ステージを練り歩きながら歌い、可能な限り前方まで飛び出て観客とグータッチをしている。さらには頭を差し出し観客に頭を撫でさせる。うちの息子もたまに同じことをしているなと思い、少しほっこりする。 この楽曲もそれほど知名度が高い訳では無い。だが〈寝返りたいヤツは手を上げろ〉という歌詞のフレーズではフロア全体で観客が手を上げたりと、完璧に曲を知っている反応をしていた。 真鍋がゆっくりとギターでイントロを弾き、観客が興奮に満ちた歓声を上げると、そのまま『Before going to bed』が始まる。ギターのちょっとしたフレーズでも観客を沸き上がらせられる真鍋のギターは、唯一無二の魅力があるのだ。 山中はこの楽曲でもハンドマイクで歌い、やはりグータッチをしたり頭を撫でさせたりと観客とスキンシップを取りながら盛り上げていた。 歌い終えて観客に撫で回されて乱れた髪型を整える山中。 山中さわお「髪の分け目、ハゲてない?大丈夫?」 観客「カッコイイ!!!」 山中さわお「俺がカッコイイことはわかってるんだ。髪の分け目の心配をしているんだ」 観客「大丈夫w!」 観客の言葉を信頼して分け目が大丈夫だと確信してから山中が「久々にthe pillowsで新曲を作ったよ」と告げてから新曲『Blank』が披露された。 疾走感がありつつもメロディアスで、the pillowsのポップな部分が遺憾無く発揮されたような楽曲だ。ギターソロもめちゃくちゃ良いフレーズだった。解散の事実を知らなかったこの時は、今後ライブ定番曲になりそうだと思いながら聴いていた。 そこから『カッコーの巣の下で』を重厚な演奏でしっかりと聴かせ、迫力あるサウンドで『Split emotion』を続ける。この2曲はベテランとなったthe pillowsだからこその貫禄を感じるパフォーマンスだった。 今回のライブで特に異質だったのは『Ninny』めある。 山中が繊細な優しいタッチでギターでイントロを爪弾きサビのワンフレーズを歌ってからバンドの演奏が重なる。バンドの演奏も同じように繊細で優しい。そんな美しさと心地良さが混ざった演奏に聴き惚れてしまう。 自分は水戸ライトハウスが初めて立ったライブハウスで、当時はユニコーンのコピーバンドとして立ちました。 自分も他のメンバーも照れてバンド名を決めようとしなかったんで、とりあえず宮川で予約したら、出演バンドの欄に宮川バンドと書かれてしまいました(笑) そんな照れ屋が初めて立ったライブハウスでthe pillowsのサポートベースを弾かせてもらえるとは感慨深いです... サポートの宮川は水戸出身ということで、ライトハウスにも深い思い入れがあるようだ。 家主というバンドとこの間対バンして、その日はボーカルの子と意気投合して話していたんです。 次の日近所のコンビニで若い男の子に「シンちゃん!」て声をかけられて誰だっけかなと思ったら「昨日の家主です!」といわれて。昨日意気投合して話していた人の顔を忘れるという......。その場は「似てると思ったんだよ!」と言って誤魔化しました。 コンビニの店員さんにはアパートの大家とアパートの住人たと思われたかも知れません。 感慨深そうな宮川とは真逆で、ボケボケしたといつエピソードトークを話す佐藤シンイチロウ。彼はいつでもマイペースである。 久々の曲ばかりやっているけれど、どれも良い曲だなと思って演奏しています。 こんな素晴らしい曲がレア曲扱いされるバンドとは、the pillowsは凄いバンドだと改めてと思います。 真鍋は真面目に今回のライブについて想うことを語っていた。それにしてもメンバーそれぞれMCでもキャラの違いがハッキリしている。 「神々の行進曲を知っているか?」と山中が言ってから演奏されたのは『MARCH OF THE GOD』。 一応はワンフレーズの歌詞を繰り返す部分はあるものの、歌ではなく演奏で聴かせて魅せるインスト的な楽曲だ。このような楽曲だとthe pillowsのロックな部分や演奏力やサウンドの個性が際立つ。それもあってか観客は他の楽曲以上に盛り上がっていた。 その盛り上がりの勢いのまま『サードアイ』へと雪崩込む。真鍋が前方に出てきて観客を煽りながらイントロを弾き、疾走感あるバンドの演奏が加わる。当然ながら観客はみんな腕を上げてサビでは歌ってと大盛り上がりだ。音源よりも長めのアウトロも最高。 ライブも後半なので全てを出し切るかのように演奏は勢いをましていく。さらに曲間なしで『Sleepy Head』れと雪崩込みさらに観客を踊らせた。メンバーもテンションが上がっているのか、前方に出てきて煽ったり叫ぶように歌っていた。 ライブ後半の定番曲のひとつ『Locomotion, more! more!』が最後に演奏されると、観客のボルテージは一気に最高潮に。〈5・4・3・2・1!〉の歌詞を観客が叫ぶタイミングもピッタリで、演奏と同じぐらいに観客の歌声は大きい。 いつも通りに最高の盛り上がりを作り出し本編を終え、いつも通りに颯爽とステージを去るメンバー。この時にはきっと既に解散は決まっていたと思うが、そんなことを微塵も感じさせない姿だった。だから観客も当然のようにいつも通りにアンコールの拍手を鳴らす。 アンコールに応えて再びステージに登場すると山中が「アンコール、サンキュー」と一言だけつぶやいて『ジョニー・ストロボ』が演奏された。 ミドルテンポながらも演奏も歌もエモーショナルな楽曲だと、その感情的な部分がライブだとより生々しく感じる楽曲だ。それを聴いているとやはり心が震えるし、これこそ“永遠じゃなくたって価値がある夜”なのだと思う。 次に演奏されたのは『Gazelle city』。なかなかにマニアックな曲ではあるものの、この楽曲でもフロアからは大きな歓声が湧き上がる。山中と真鍋のギターリフのハーモニーがクールながらもメロディアスで美しい。サビでは観客も歌いながら拳を上げている。音源よりも長くなったアウトロも、ライブの余韻を噛み締めるような演奏に感じてグッときた。 珍しい曲ばかりやったけど面白かったかい?この35年間を振り返ると、本当に色々な歌を作ってきたと思うよ。 曲によっては歌っている俺の方がギターが難しかったりするんだよ。おかしいだろ!だから本当はライブでやりたくない曲もある(笑) なんでそんな変なことをしていたかといつと、色々なことに挑戦して面白いことをやり続けたいと思って作ってたんだよな。 ここにいるみんなは『Gazelle city』みたいな曲が好きな変わり者ばかりだろ?普通は『Funnybunny』が好きだし『この世の果てまで』で喜ぶんだよ(笑) そんな君たちにとっては、今日のライブは最高だっただろ? 俺はあの手この手を使って、自分の好きな曲だけをずっと作ってきた。だから俺はこれまでずっとthe pillowsに飽きなかった。 でも飽きなかったの1番の理由は、君たちがどんな曲だとしても、the pillowsの曲を楽しみに待っていてくれると知っていたからだよ。 ありがとう。 演奏を終えて山中が感謝の言葉を伝え、ステージを後にするメンバー。 今思えば今回のライブは周年ライブでもないのに、これまでの活動を振り返る話を丁寧にしていた。ファンへの感謝の伝え方も、いつも以上に丁寧で優しい声色だったように思う。 BGMで新曲『Blank』が流れる中、ダブルアンコールを求める拍手が大きな音で鳴り続ける。 それに応えて出てきたメンバーはビールを片手に持っていて、この日1番リラックスした表情をしていた。 35年も続けたらキャリア的に先輩よりも後輩の方が多くなってきた。後輩と言っても髭とかは仕上がっているというか、もう手遅れというか、そういうキャリアも長くなった後輩バンドもいるけれど(笑) でも本当に若い若手とも会ったりするんだ。今の若手はみんか歌詞も曲もしっかりしていて演奏も良い。 でもオーラがない。それに比べて俺にはオーラがある!歌詞を間違えて演奏をやり直してももオーラがある!歌詞を間違えてもカッコイイ! 女性客に照れて歌詞を間違えたことをネタにする山中。観客は笑いが入り交じった歓声をあげる。 今日は水戸まで車で来たんだが、高速のサービスエリアでthe pillowsのTシャツを着た男性とすれ違ったんだが、気づかれなかった。俺はTシャツを着た男性に気づいたのに! オーラ、なかった......(笑) ロックバンドのフロントマンなのに、情けないエピソードはまだまだ続く。観客もやはり笑いが入り交じった歓声をあげる。 「ここに来てるだろ?『I KNOW YOU』のTシャツを着ている君!?」と山中が言うと、2階席の男性が手を上げた。 「俺は君に気づいたぞ!君は俺よりもオーラがあったぞ!」と山中が言うと、その男性に対して歓声をあげる観客。その歓声はとても大きかった。たしかにこの男性ファンはオーラがあるのかもしれない。 「最後に騒いで終わろう」と山中が言ってから、最後に演奏されたのは『EMERALD CITY』。 メンバーも前に出て煽ったり叫ぶように歌ったり、騒ぐようにパフォーマンスしている。観客も拳を上げたり、身体を揺らしたりと、自由に楽しんでいる。共通しているのは、この場の全員が楽しそうにしていることだ。 この曲が今回のライブの最後の曲かつ、結果的にthe pillowsのライブツアーで最後に演奏された曲かつ、自分がthe pillowsのライブて最後に聴いた曲になった。最後に騒げて良かった。 『EMERALD CITY』のタイトルや歌詞の内容の元ネタは『オズの魔法使い』で、EMERALD CITYとは主人公のドロシーが向かった街で、魔法使いのオズが住む街である。 物語の詳細なあらすじは省略するが、オズは本当は魔法使いではなく人間のおじいさんで、魔法を使えなかった。 そんな物語をテーマにした楽曲を最後に演奏し〈ドロシー 君と魔法でもっと遊びたかった〉という歌詞を歌ったことには、何かしらの意図があったのだろう。それはライブに参加した人が、それぞれ自分の中で答えを見つけることだと思う。 自分は解散が発表した今、改めて最後にこの曲が演奏されたら理由について考えて、そこから寂しさや悲しさも感じたけれど、the pillowsからの「君は大丈夫」というメッセージのひとつだったのではとも思っている。 バスターズがドロシーだとしたら、みんな魔法の靴を持っているということなのだから。 だから自分はマイフットの踵を3回鳴らし、好きな場所へ行こう。the pillowsの音楽を愛し聴き続けてきた人たちなら、それができる。たとてthe pillowsが解散してしまったとしても。 今夜も良い夜だった。永遠じゃなくたって価値がある夜だった。 ■the pillows 『LOSTMAN GO TO CITY 2024-25』at 水戸LIGHT HOUSE 2024年12月15日(日) セットリスト 1.デブリ2.ROCK'N'ROLL SINNERS3.Wake up! dodo4.Skinny Blues5.Binary Star6.Subtropical Fantasy7.Mighty lovers8.シリアス・プラン9.Degeneration 10.I RIOT11.Before going to bed 12.Blank13.カッコーの巣の下で14.Split emotion15.Ninny 16.MARCH OF THE GOD17.サードアイ18.Sleepy Head19.Locomotion, more! more! アンコール20.ジョニー・ストロボ21.Gazelle city ダブルアンコール22.EMERALD CITY