オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】PEDRO『後日改めて伺います』のレコ発ライブで感極まるアユニ・Dとジャージを着て照れる田渕ひさ子

「PEDROです。よろしくどうぞ」

 

アユニ・Dが小声で挨拶すると、それに反比例するような爆音が鳴らされる。その瞬間にZepp Tokyoを埋め尽くす観客の身体と心が震える。

 

この一瞬で何もかもを変えてしまうことが、ロックバンドの凄さだと感じる。そんな凄みをPEDROは持っている。アイドルがお遊びでやっている企画バンドではなく、本気のロックバンドなのだと、改めて思う。

 

f:id:houroukamome121:20211123202632j:image

 

PEDROの3rdフルアルバム『後日改めて伺います』のリリース記念ワンマン。1曲目の『人』が鳴らされた瞬間に3人は会場を掌握し、自分達の空気に変えてしまった。

 

どことなく張り詰めた空気が流れていたが、それはあまりにもバンドの演奏が鋭かったからだろう。物凄い集中力で演奏する姿は、観ているとヒリヒリする。そんな姿から目が離せなくなる。

 

2曲目の『魔法』は特にヒリヒリした。田渕ひさ子のハウリングするギターノイズから始まった時点で、胸がザワついた。緊張感に満ちた危うい雰囲気に、じわりと引き込まれてしまう。

 

そんなロックのヒリヒリした空気を感じるライブではあるが、少しずつ緊張を解しフロアとの心の距離を近づけていく。演奏だけでそれができるのが、ロックバンドの凄さだ。

 

自然と客席から手拍子が鳴らされた『吸って、吐いて』は、まさに緊張を解すようなパフォーマンスだった。この曲で緊張を解し、親密な近さを感じるロックバンドのライブへと変化させる。

 

そして〈ぶきっちょな私たちはここで何を残せるか〉というサビの歌詞が胸に刺さる『ぶきっちょ』で、盛り上げていく。

 

田渕ひさ子がギターソロを弾いているときに、アユニと毛利匠太が向き合いながらリズムをキープする姿を観て、この3人がバンドとして良い状態なのだと確信する。この頃には緊張感はなくなり、会場全体が1つになっていた。

 

ここまでMCをせずに、新作アルバム『後日改めて伺います』と全く同じ曲順で演奏したPEDRO。次は『死ぬ時も笑ってたいのよ』が披露されたが、これもアルバムと同じ曲順である。

 

そして、気づく。これはアルバムの再現ライブなのだと。

 

ツアー中にも関わらず、ツアーの一環ではなく『リリース記念ワンマン』として別物としてライブが行われた理由は、これが理由なのだろう。

 

この後もやはりアルバムの曲順通りに、MCをせずに『安眠』『いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください』とライブが進んでいく。しかもただ曲順を再現するだけではない。ライブにより進化させたサウンドで届けるのだ。

 

特に『万々歳』の演奏には痺れた。ナンバーガール『鉄風鋭くなって』のイントロを思い出させるゴリゴリのベースが会場に響いた瞬間、鳥肌が立った。音源を超える迫力に感動する。その後の『おバカね』の衝動的な演奏で、フロアがぶち上がる光景も最高だった。

 

このようなライブでしか体感できない音圧と、生演奏でなければ生まれないグルーヴがあるからこそ、ライブは必要だし、ライブによってバンドは最も輝くのだ。

 

少しの無音の間を空けてから、「雪の街.....」とアユニがボソッと呟いき、『雪の街』が演奏された。アルバムの最後に収録されている楽曲であり、ライブ本編の最後に演奏された楽曲だ。?

 

オルタナティブなギターと、重低音が響くベース音と、力強いドラムが重なり、PEDROだけしか鳴らせない唯一無二のサウンドが生まれる。アユニとひさ子が猫背になりながら自らの楽器を掻き鳴らす姿は、音に魂を込めているようだった。

 

北海道という雪の街から東京にやってきて活動の幅を拡げ、今では作詞作曲をこなし、バンドのフロントマンとして堂々と立つアユニ・D。

 

大声で泣けばいいと思っていたあの頃
こんなに大きくなったよ
かなしいもうれしいも全てを愛してくれた
私が抱きしめる番

 

そんな彼女が歌うこの歌詞は、自らのことを表現しているのかもしれない。活動休止前、最後のアルバムのラストソングにこの曲を選んだことも、意味があるのだろう。

 

「ありがとうございました」と一言だけ告げて、ステージを去っていくメンバー。このライブはアルバムの再現であり、アルバムを進化させて披露する内容でもあった。

 

しかし再現だけでライブは終わらない。ひさ子と毛利は上下ジャージ、アユニはTシャツにジャージのズボンに着替え、アンコールに応えて再登場した。

 

ひさ子はジャージ姿に照れているのか、変な動きで小走りをしながら登場した。かわいい。

 

今日はアルバム再現ライブをさせてもらいました。このアルバムは、初めて全ての曲を自分で作詞作曲しました。

 

私の全てが詰まっているようなアルバムで、恥ずかしいぐらいに想いを詰め込みました。今は音楽はどこでも簡単に聴けるし、身近なものだと思います。でも1枚のCDを作るのは凄く大変です。1人では作れないものです。

 

上手くいかない時はひさ子さんや毛利さんや、周りの人に支えてもらい、ようやく完成させることができました。

 

誰かにとってはありふれた音楽かもしれないけれど、あなた方にとっては生活に交わる音楽になれたら嬉しいです。

 

アンコール、たくさん演奏します!

 

アルバムへの想いを語り、演奏が再開。アンコールというよりも「第二部」と言う方が正しいと思うほどに、多くの曲が演奏された。

 

そんなアンコールのセットリストは「PEDROが今フェスに出たら、このセトリでは?」と思うような、キラーチューンと代表曲満載のベスト的なものだった。

 

アンコール1曲目は『東京』。メンバーは笑顔で演奏していて、アルバム再現時とは違いリラックスしているようだ。だからか会場が華やかな空気で包まれる。

 

その空気を残したまま、毛利が「1、2、3、4!」とカウントしてから『NIGHT NIGHT』で一気に盛り上げる。自然と大きな音のクラップが鳴り響くフロアが印象的だった。

 

かといってこれが最高潮の盛り上がりではない。続く『GALILEO』で、さらに熱気が上昇する。

 

「ヘイ!」と叫びながら飛び跳ねるアユニ。それに合わせてファンも一緒に飛び跳ねる。この曲が盛り上がりのピークに感じた。

 

PEDROにはロックを軸にしつつも、様々なタイプの楽曲がある。『生活革命』のようなミドルテンポの楽曲でも、バンドの魅力は発揮される。

 

力強いリズム隊の演奏と。切ない音色のギター。そこに切ないメロディの歌声が乗ることで、極上のロックバラードになる。PEDROは胸を突き刺す演奏だけではなく、胸に沁みる演奏もする。

 

MCで「PEDROでライブをやるごとに人が増えていく感じがして嬉しい」と語るひさ子。喜ぶ姿がかわいい。

 

それに共感しつつ、なぜか観客に向かって朝5時の松屋のバイト店員みたいなテンションで「いらっしゃいませ~」と言うアユニ。吹き出すひさ子。2人ともかわいい。

 

アユニに無理矢理ジャージを着させられたという、バンドメンバー。ひさ子は「学生以来のジャージです。嬉しいです/////」と言って、なぜか照れる。かわいい。

 

毛利もジャージは学生以来らしい。アユニに「ジャージだと足が早い陸上部みたい」と言われるが「補欠でした...」と低いテンションで呟く毛利。かわいそう。

 

かわいさと切なさが入り交じるMCの余韻を吹き飛ばすように、『空っぽ人間』で轟音を鳴らすバンド。ジャージ姿に照れていたとは思えない、堂々とした佇まいでギターを掻き鳴らす田渕ひさ子。かっこいい。

 

陸上部の補欠で可哀想だった毛利も、ドラムを叩いている時はかっこいい。赤い照明に照らされながら激しくドラムを叩く姿からは、補欠とは思えない凄みを感じる。きっと軽音楽部ならばエースだった。

 

そんな毛利のドラムが響く中、アユニが「自律神経出張中!」と叫び、次の曲が始まる。演奏曲はもちろん『自律神経出張中』だ。

 

PEDROの代表曲の1つであり、盛り上がることが確実のキラーチューン。今は一緒に歌うことはできないものの、サビでは全力で拳を上げるファンが沢山いる。

 

そのまま曲間無しで『感傷謳歌』へと繋げる。こちらもライブ定番曲で、確実に盛り上がる求心力のある楽曲。

 

生きていればいつかきっと
良いことがあるらしいが
良いことは生きていないと起こらない
やってやろうじゃないか

 

この曲は真っ直ぐすぎて、青臭い歌詞だと思う。しかしアユニの等身大で嘘偽りない言葉は胸に刺さる。青いからこそ、心が動かされる。この歌に救われた人もいるだろう。自分もその1人だ。

 

熱気と感動が合わさった、多幸感に満ちた空気に包まれた会場。ライブが終了したような雰囲気だったが、アユニが感極まった様子で声を震わせながら、再び語り始めた。

 

アルバム発売日の今日は、待ちに待った日でした。

 

ボロボロな姿ばかり見せて申し訳ないと言う気持ちと、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうの言葉だけじゃ伝えきれないです。でも、ありがとう。

 

ここに集まってくれた人も、インターネットで観てくれている人も、私は他人ではないと思っています。あなた方が思っている以上に、私はみんなのことが大好きだし、支えられています。ありがとうごいます。

 

今日は特別な夜にしたいので、次は『浪漫』という曲をアコースティックアレンジで歌います。

 

そう言ってひさ子のアコースティックギターと毛利の優しいドラムの音に合わせ、丁寧に『浪漫』を歌った。

 

PEDROは12月に行われる横浜アリーナ公演で、活動休止する。3人がライブを行う回数も限られてきた。それでも〈きらめく世界、ここでずっと〉という『浪漫』の歌詞は、嘘偽りない言葉として響く。

 

活動休止しても、音楽は残る。中盤のMCで「あなた方の生活に交わる音楽になれたら嬉しいです。」とアユニは言っていた。

 

たとえ活動休止したとしても、再生ボタンを押せばPEDROの音楽は、必ず生活に交わるだろう。この日の演奏のように、心を震わせてくれたり、優しく包み込んでくれたり、何度も心を救ってくれるはずだ。

 

『後日あらためて伺います』を、改めてよろしくお願いします。

 

私にとっては全部大切な曲ですけど、特に1曲目の『人』を大切に思っています。誰かに迷惑をかけても生きて良いと思います。人間はそういうものだと思います。お互い様なんです。

 

でも、だからこそ、大切な人には優しい気持ちで接したいです。そんな曲です。

 

全ての楽曲を披露し終えても、最新アルバムやファンへの想いが溢れ出るのか、感謝とアルバムの魅力をひたすらに語り続ける。

 

『後日改めて伺います』はアユニの音楽人生の中で、特に大切で特別な作品になったのかもしれない。ファンにとってもそのような作品になることを望んでいるのだろう。

 

長く話しすぎですよね?もう帰れって感じですよね?帰りますよ!

 

お家に帰るまでがライブです。手洗いうがいを徹底して、温かい湯船に浸かって、ぐっすり寝てくださいね。

 

長く話しすぎたことを自覚して、自暴自棄になるアユニ。かわいい。最後はファンのお風呂事情を心配してから、ステージを去っていった。かわいい。

 

田渕ひさ子は相変わらずジャージ姿が恥ずかしいのか、小走りでステージを去っていった。かわいい。毛利は普通に帰っていった。

 

PEDROの最初で最後のZepp Tokyoワンマンは、アユニのアルバムやファンへの愛と、ジャージを着た田渕ひさ子のかわいさを感じるような、最高のライブだった。

 

■11月17日(水) PEDRO 3rdアルバム「後日改めて伺います」リリース記念ワンマンライブ at Zepp Tokyo セットリスト

01.人
02.魔法
03.吸って、吐いて
04.ぶきっちょ
05.死ぬ時も笑ってたいのよ
06.安眠
07.いっそ僕の知らない世界の道端でのたれ死んでください
08.万々歳
09.おバカね
10.雪の街

 

EN1.東京
EN2.NIGHT NIGHT
EN3.GALILEO
EN4.生活革命
EN5.空っぽ人間
EN6.自律神経出張中
EN7.感傷謳歌
EN8.浪漫 ※アコースティックVer

 

↓関連記事↓