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【ライブレポ・セットリスト】PEDRO 『TOUR 2024「慈(ミカタ)」』at Zepp Haneda 2024年3月5日(火)

自分がPEDROのライブを最後に観たのは2021年。横浜アリーナで行われた無期限活動休止ライブだった。素晴らしいライブだったが、どことなく「BiSHのアユニ」が時折顔を出すようなパフォーマンスだった。あくまでもBiSHがある上でのプロジェクトに感じる部分は拭えなかった。

 

それから時を経て活動再開し、現在のアユニのメインの活動はPEDROになった。そんな今の彼女は「PEDROのアユニ」としての姿でステージに立っている。それをPEDROの全国ツアー「慈(ミカタ)」のZepp Hanedの公演を観て感じた。

 

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最新アルバム『赴くままに、胃の向くままに』の1曲目『還る』をSEに登場した、アユニとギターの田渕ひさ子とドラムのゆーまお。PEDROはアユニのソロユニットではあるものの、実際はスリーピースロックバンドのように活動している。だからか3人の佇まいは尖ったロックバンドに見える。

 

佇まいだけでなくパフォーマンスも尖っているてロックだ。SEが終わった瞬間、薄暗い真っ赤な照明の光に包まれる三人が爆音を鳴らす。ベースを掻き鳴らしながらステージ中央に駆け寄り会場を煽るアユニの姿は、ロックスターに見えた。それは逞しくてPEDROのフロントマンとしてのオーラに溢れていた。

 

そのままドミコのさかしたひかるがプロデュースした『グリーンハイツ』を叫ぶように歌う。時折目を大きく見開いて感情をむき出しにして歌う姿に痺れてしまった。

 

雪崩込むように続いた『万々歳』で会場の熱気をさらに高めていく。サビで万歳する観客が楽しそうで良い。アウトロの田渕ひさ子のギターソロも最高だ。

 

今のPEDROは過剰に煽ったり演出を入れることはない。純粋にクールな演奏によって観客を満足させたいのかもしれない。代表曲『自律神経出張中』をやった時にそれを感じた。かつては曲名を叫んでから歌ったりと、煽ることが多かったが、今回は煽ることなく丁寧にロックサウンドを鳴らしている。

 

ミドルテンポで心地よいリズムの『赴くままに』を優しい表現で歌ったり、ギターのリフが印象的な『清く、正しく』を重厚なサウンドで披露することからも、それを感じる。勢い任せに観客をぶち上げるのではなく、ロックバンドとしてしっかり”音楽”をやって感動させようという意図があるのではないだろうか。

 

自分にとって前半のハイライトは『音楽』だ。このタイトルを付けることには勇気がいるとは思うが、それぐらいに熱い想いと大切なメッセージが込められている楽曲だと思う。

 

アユニは真っ直ぐな目でフレーズごとに違う感情を込める表現で歌っていた。だから音源以上にメッセージが響くし感情を揺さぶられる。そこからキャッチーなメロディの『安眠』を優しく歌う展開が続く。これらの楽曲では田渕の弾くギターの音色も優しい。それはナンバーガールなど彼女が参加した他のバンドとのサウンドとは違う。

 

今のPEDROは赤裸々なメッセージを、優しく包み込むようなサウンドで届け、聴く者の心を震わせる。それはロックバンドとして観客を興奮させるよりも難しいことで、ロックバンドとしても最も大切な軸となるものだろう。

 

休憩なしで7曲披露したところで最初のMCが行われた。「足を運んでくださりありがとうございます。東京に帰ってきました」とアユニが照れながら挨拶すると、会場から温かな拍手が響く。田渕ひさ子も同じように歯に噛みながら挨拶していた。先ほどまで轟音を鳴らしていたとは思えないほどに、ほんわかした空気が流れている。

 

だがゆーまおだけ様子がおかしい。大声で「ゆーまおです!」と自身の名前を連呼し、観客に歓声を求める。最初は笑っていたアユニや田渕もだんだんと呆れ顔になっていた。

 

観客も「これ、いつまで言い続けるの?」と思いつつも、ゆーまおが名前を連呼する都度に歓声で応えていた。歓声をあげるのにも疲れてしまう回数の連呼だ。しかし空気が和んでステージと客席の心の距離は縮まったとは思う。

 

演奏は『洗心』から再開。歌声も演奏も優しい表現で聴いていて心地よい。MCの空気感を保ったままのパフォーマンスだ。曲名通り心が洗われる気持ちになる。

 

かと思えば重厚なサウンドが印象的な『ナイスな方へ』で轟音を鳴らす。歌唱もクールだ。それなのにサビはキャッチーで楽しい。そんなギャップも良い。

 

ライブ中盤のハイライトは『感傷謳歌』だ。イントロが鳴った瞬間に、空気がガラッと変わったからだ。

 

Aメロで大きな手拍子が鳴り響き、サビではみんな腕をを上げる。以前から存在する代表曲のひとつだが、今回のライブでは「ここぞ」のタイミングで見事に演奏されたので、盛り上がりの爆発力はものすごいものになっていた。

 

その勢いを保ったまま、ゆーまおのカウントから『吸って吐いて』へと雪崩れ込む。イントロで観客が「オイ!オイ!」と叫んだりと、キラーチューンの連発で観客のテンションは最高潮になっている。まるでアンコールのラストナンバーかのような大盛り上がりだ。

 

それにしても今回のPEDROは曲順が良い。各曲が最も映えるようにセットリストが構成されている。次に演奏された『生活革命』はスローテンポのロックバラードだ。盛り上げた後にしっかり聴かせるナンバーを丁寧に演奏する。そのギャップによって曲の魅力が引き立つ。暖色のスポットライトに照らされながら歌うアユニの美しい姿にも見惚れてしまう。

 

一昨日自分の故郷の札幌でライブをして、昨日東京に帰ってきました。

 

久々に実家にも行ったけれど、帰れる場所があるって安心すると実感しました。東京で張り詰めた日を過ごしていたら特に。でも実家に帰ったら帰ったで、早く東京に戻りたいとは思っちゃうんですけどね(笑)

 

こうして音楽をみなさんの前でやって、音楽によって旅ができて、とても幸せだなと思います。やっぱりツアーを続けてると東京に帰りてえなって思っちゃうけど(笑)

 

生き方が分からなくなることもあるんですけど、大好きな音楽をならせて、それを一緒に楽しんでくれる人もいて、わたしはこの空間に来る都度、生きていると実感します。

 

PEDROの存在や今日のこの時間を、あなたも生き方が分からなくなった時に、思い出してもらえたら嬉しいです。あなたが安心して暮らせますようにと、想いを込めて歌います


言葉を選びながら想いを語った後、『飛んでいけ』が演奏された。〈安心して暮らして 安全な体温で 安全な言葉で〉と歌う声が温かい。PEDROは尖ったロックサウンドを鳴らすけれど、そこに込められたメッセージは温かくて寄り添ってくれるものが多い。だからPEDROの音楽に救われる。

 

激しいロックナンバーの『ぶきっちょ』もメッセージは優しい。〈ぶきっちょな生き方でいい なかったことにしないで 笑って、笑って、帰って、眠ろう〉というサビの歌詞は、全てを肯定してくれているかのようだ。

 

ライブも後半。だが今回のPEDROは後半に向けて盛り上げようとはしない。ロックをじっくり聴かせて、しっかりと想いを伝えるミドルテンポの曲を続けた。

 

『春夏秋冬』も重厚なロックサウンドながらもミドルテンポのじっくり聴かせる曲だ。だが演奏も歌も熱量が高く、音で圧倒させている。プロデュースをしたさかしたひかるの影響もあるのだろう。〈今ここにいることが本当だよ〉という歌詞を、音源とは全く違う叫ぶような歌唱をする姿に胸が震えた。

 

最後は『余生』。暖色のスポットライトに照らされた田渕ひさ子のギターとアユニの歌だけで演奏を始め観客を集中させ、そこからの爆音で観客を圧倒させる。アユニは〈生きねば 生きねば〉と何度も繰り返す歌詞を、感情的に歌っていた。

 

PEDROの歌は「それでも生きる」をテーマにしたものが多い。それは最新作だけではない。『自律神経出張中』では〈私は最高な負け犬人生を〉と歌っているし『感傷謳歌』では〈生きていればいつかきっと良いことがあるらしいが 良いことは生きていないと起こらない〉と歌っている。

 

そして最新アルバムでも、それは変わらない。むしろその想いは強くなっている。アルバムの最後も収録曲も、ワンマンライブの本編最後の曲も、〈生きねば〉という言葉を何度も歌う『余生』で終わるのだから。

 

アンコールでは「寄ってらっしゃい。見てらっしゃいしてください」と言ってグッズ紹介するアユニ。「コロナの自粛期間中に壁に話しかけながら描いた絵を使ったTシャツ」がオススメなようだ。

 

喜怒哀楽のどの感情も大切にしているけど、ニコニコが1番大切だと思います。

 

だからみなさん、またニコニコでお会いしましょう!

 

アユニがニコッと笑いながら想いを伝えてから『人』が演奏された。やはり耳を劈く爆音のロックだが、歌声からは当然のように温かさを感じる。〈大変な未来しかないわけないだろう
きっとそうだろう〉と歌う声は、聴き手に生きる希望を与えるかのように優しくて力強い。

 

ラストは『雪の街』。暗くなったステージから雪のように真っ白な照明の光が客席へと伸びる。まるでアユニの故郷札幌の夜空に、しんしんと雪が降り積もるかのように。そんな美しい景色の中で、この日一番の轟音を鳴らすバンド。演奏に負けない感情的なボーカルを乗せるアユニ。

 

ここまで演奏された全ての曲が素晴らしかった。だが最後に演奏されたこの曲は、次元が違うレベルの凄まじさだった。特にアウトロのシューゲイザーバンドかのような轟音セッション。ひたすらに音を掻き鳴らし、音に感情を乗せるような演奏。観客は傍観してしまうほどに衝撃を受けているようだった。

 

凄まじい演奏をやり遂げて、ステージを去っていくメンバー。観客は圧倒されすぎて拍手のタイミングが遅くなっていた。

 

大満足のライブではあったものの、またすぐにPEDROを観たいと思ってしまうライブでもあった。だって〈どうかまださよならはしないで〉という歌詞が締まる曲がラストナンバーだったのだから。名残惜しいではないか。

 

でもPEDROのライブは生きていないと行くことができない。だから、生きねば。生きねば。生きねば。

 

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■PEDRO 『TOUR 2024「慈(ミカタ)」』at Zepp Haneda 2024年3月5日(火) セットリスト

1.グリーンハイツ
2.万々歳
3.自律神経出張中
4.赴くままに
5.清く、正しく
6.音楽
7.安眠
8.洗心
9.ナイスな方へ
10.感傷謳歌
11.吸って、吐いて
12.生活革命
13.飛んでゆけ
14.ぶきっちょ
15.春夏秋冬
16.余生


17.人
18.雪の街