2022-12-20 ナンバーガールの解散を自分は求めていた NUMBER GIRL コラム・エッセイ 俺が昔、CIBICCOさんだった頃、ナンバーガールは水色だった。テレビと小学校の授業で扱われる音楽が全てと思っていた自分は、現役バリバリのバリヤバなナンバーガールに出会うことができなかった。 俺が昔、水色だった頃、ナンバーガールは透明だった。なぜなら自分がナンバーガールの存在と魅力を知った高校生の時、既にバンドは解散していたからだ。 ずっと自分とナンバーガールはすれ違い続けていた。「あと数年早く産まれていれば生でライブを観れたのに」と、どうすることもできないことで後悔したこともある。 それから10年以上の月日が経った2019年。自分とナンバーガールの時間軸が一致した。バンドが再結成したからだ。俺が東京だった時、ナンバーガールも東京だった。そんな時が奇跡的に訪れた。 再結成した年の12月。自分が客として参加したカウントダウンジャパンに、ナンバーガールが出演した。何度となく聴いたこの部屋ではなく、ライブ会場で初めてナンバーガールの音楽を聴くことができた。 生で聴く4人の音はCDとは全然違った。物凄い音圧で半端ない迫力だった。鼓膜だけでなく身体まで音の振動で震えるほどだ。だけど景色はライブDVDやライブ盤で想像してたものと、全く同じだった。いや、想像や映像を超える凄まじさだった。 向井秀徳は「金を稼ぎたい」ことを再結成の理由としてあげていたが、懐メロバンドになるつもりはなさそうだ。勢いある若手バンドを喰ってしまうほどの、衝動的なライブをやっている。再結成というよりも完全復活と言うべきかもしれない。伝説のバンドから現役のバンドに戻ったのだ。ナンバーガールが令和の日本のロックシーンに存在することを心から嬉しく思った。 それなのに自分とナンバーガールが同じ時間を過ごせたのは、たったの3年である。2022年12月11日。彼らは再び解散したからだ。彼らは再び透明になり、伝説となった。 今までも好きなバンドが解散したことは、何度かある。その都度に寂しさや悲しさなど、マイナスな感情が心に渦巻いた。しかしナンバーガールの解散を知った時は違う。不思議と清々しい気持ちになった。 再結成の目的のひとつは『RISING SUN ROCK FESTIVAL』に出演することである。しかしコロナ禍や台風の影響でフェスが中止になったため、その目的はなかなか果たせなかった。そのため目標を達成したのは再結成から3年後の2022年。 そのステージでナンバーガールは、バンドの解散を発表した。 「金を稼ぎたい」と言いつつも、バンドの活動としての目的を果たしたことで解散する潔さをカッコよく思った。寂しさや悲しさを上回るぐらいにカッコよすぎる姿だったから、解散にも納得されてしまった。音楽だけでなく終わり方まで、ロックバンドとして最高だ。 そして何よりも「2002年以前のナンバーガールを知らないファン」が観たかったもののほとんどを3年間で観せてくれたから、解散することに清々しさを感じるのである。コロナ禍になってしまったものの、まるで当時のナンバガールの活動を凝縮させ進化して再現するような再結成からの解散だったと思う。 再結成してから何度もライブを開催していた。ツアーを回っていたし、音楽フェスにもたくさん出演した。その都度、文句のつけようがない最高のライブを行っていた。 「ドラムス、アヒトイナザワ」という向井秀徳の煽りからアヒトのドラムソロが続き『omoide in my head』へとなだれ込む流れをライブで観れた時。独特な台詞回しの煽りから『透明少女』が始まり田渕ひさ子が弾くギターリフを聴いた時。『鉄風 鋭くなって』での中尾憲太郎のゴリゴリなベースソロを聴いた瞬間。そのどれもが「永遠に観れないと思っていたナンバーガール」だった。 話題性のためだけに再結成したバンドでありがちな「あの頃とは違うんだな」とファンが感じてしまうような、ダサい再結成ではない。あの頃よりも進化した姿で再結成した意味を演奏で伝えつつも、あの頃の追体験をさせてくれる。 そして「解散」までも追体験させてくれた。 期間限定ではない再結成バンドは、再び解散をすることは珍しい。再結成がグダグダになってしまったりトラブルがない限りは、長く続くイメージだ。だから自分は再結成した好きなバンドが解散した経験がない。 運良く2度目の解散ライブのチケットは手に入れることができた。アリーナの8列目。最高の座席だ。 ナンバーガールは最初の解散ライブの音源を『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』というタイトルのライブ盤としてリリースしている。 サッポロ OMOIDE IN MY HEAD状態 アーティスト:NUMBER GIRL ユニバーサル ミュージック (e) Amazon これは素晴らしい音源だ。自分はオリジナルアルバムよりも多くの回数聴いた。ナンバーガールのアルバムで最も好きなアルバムが、このライブ盤だ。 特に最後の『IGGY POP FANCLUB』が最高だ。かっこいいのに切なさもある。元々そのような性質を持った楽曲ではあるが、この日の演奏はその切なさが際立っていたんじゃないだろうか。聴いていると映画のエンドロールのような、感動的な大団円を迎えている景色を想像してしまう。 IGGY POP FAN CLUBナンバーガールロック¥255provided courtesy of iTunes 「ナンバーガールの解散ライブ」を、もしかしたら自分は最も観たかったのかもしれない。語弊があるかもしれないが、ナンバーガールが解散する時に鳴らす音を自分は最も求めていたのである。叶うはずもないのに『サッポロOMOIDE IN MY HEAD状態』を、リアルタイムで生で体感したかったのだ。 もちろん2002年の解散ライブを生で観ることは不可能である。しかし2022年の2度目の解散ライブは観ることができた。そのライブは2002年と全く同じではないし雰囲気も違う内容だった。しかし2022年のナンバーガールだからこそと言える最高の内容だった。 ワンマンとしては過去最大規模の会場で、過去最多曲数を披露した。解散ライブだからこその特別さはあったが、メンバーの立ち振る舞いもサウンドもいつも通り。みんなが求めていて、最後までみんなが心を奪われたナンバーガールの姿であり続けてくれた。それに心底痺れた。変わらずに進化していることが嬉しかった。 観客もいつも通りに熱狂していた。ライブハウスと変わらない熱気と盛り上がりだった。でもいつもよりも、空気感は温かかった。例えば最後に演奏された4回目の『透明少女』の時。イントロで自然と盛大で温かな手拍子が鳴らされていて、そう思った。 透明少女ナンバーガールオルタナティブ¥255provided courtesy of iTunes いつもならワンマンでこのような手拍子が鳴らされることはない。そもそもナンバーガールのライブで、温かな雰囲気になったことなど皆無だ。 おそらく手拍子にはファンからバンドへの、労いや感謝や賞賛の気持ちが込められいたのだと思う。ナンバーガールらしい最後かはわからないが、最後ぐらいは愛と多幸感に満ちていても良いではないか。 4回目の『透明少女』を演奏する前に向井秀徳は「客電は付けたままでいいです」と言って、客席が明るい中で演奏を行った。メンバーは穏やかな表情で、時折笑顔を見せながら演奏していた。だから観客から自然と手拍子が鳴らされたし、温かな空気が流れていた。 この『透明少女』を聴いて、最後にバンド史上最高のライブをやってのけたと確信した。2002年以前のナンバーガールを生で観ることはできなかった。でも過去最高のナンバーガールを観ることができた。 再び活動することで当時を追体験させてくれるだけでなく、当時を超える体験をさせてもらえた。文句の付けようがない。 そしてやっぱり自分は『IGGY POP FANCLUB』が1番好きだとも確信できた。2002年の解散ライブの音源を聴いた時、いつも映画のエンドロールが流れて感動的な大団円を迎えるような景色が頭に浮かんでいた。 そんな妄想が現実として2022年に目の前にある。生で観た再解散ライブの『IGGY POP FANCLUB』でも、映画のエンドロールのような景色が広がっていた。妄想が記憶に変わった。 この曲を最後のライブで観れたことで、自分の中のナンバーガールは、ハッピーエンドとして完結した。 pic.twitter.com/SpqWNFojwc— NUMBER GIRL (@numbergirl_jp) 2022年12月11日 ナンバーガールは、再び伝説になった。 その伝説はこれからも語り継がれるはずだ。 もしかしたら2度目の再結成もリアルタイムで体感できなかった、後追いで知ったもっと若い世代のファンも出てくるかもしれない。きっと『Girl meets NUMBER GIRL』みたいな曲を作る若いバンドが、再び出てくるだろう。そんな世代が増えてきた時、また金儲けのために再再結成して欲しい。絶対に大儲けできるから。 解散に文句は無いし納得もしている。なんなら解散ライブを観させてくれたことに感謝をしている。 でもナンバーガールの存在をomoide in my headしておくしかないのは、勿体ない。 とりあえず今は再再結成される日まで以前と同じように、何度となく聴いたこの部屋でレコードを再生し、ナンバーガールの騒やかな演奏を響かせておこう。