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Hi-standardの『THE GIFT』を買う若者はハイスタの音楽の良さは理解できない?【新譜の感想】

18年ぶりのアルバム

 

Hi-standardが18年ぶりにアルバムをリリースした。

 

きっと、メジャーデビューしている大人気バンドがアルバムをリリースするより話題になると思うし売れると思う。

 

語弊があるかもしれないが、どんな内容でもリリース前からヒットが約束されているようなものだ。

それだけHi-standardがアルバムをリリースするということは、日本の音楽シーンで注目されることだし期待されていることだ。

リアルタイムでハイスタの活動を知っていたファンにはもちろん、ハイスタの事をリアルタイムで知らない人や詳しく知らない人も購入する人が多いだろう。

 

それは「伝説のバンドの新譜」という接続詞がどうしても付いてしまうからこそ、大きく注目されるのだろう。

 

 

 

ハイスタの持つ伝説

 

日本の音楽ファンは「伝説のバンド 」「凄いバンド」というイメージを持たれているハイスタ。

 

・メジャーレーベル所属ながら当時珍しい全曲英詞

・メジャーから独立し自主レーベルを立ち上げ

・インディーズでリリースした作品が海外も含めてアルバムが100万枚を超える大ヒット

・日本のメロコアシーンの中心的バンドでありパイオニア

・アーティスト主催フェスのパイオニアとしてAIR JAMを主催

・今尚多くの人気バンドや若手バンドがファンであることや影響を受けたことを語っている

・ビヨンセやリンプ・ビズキットを思わせるような事前告知なしのCD販売

 

上記はハイスタの行なったことや影響を与えたことのごく一部。

そもそも「ハイスタ世代」という言葉が当たり前に使われている時点で他のバンドとは違う凄みや特別感はあるわけです。

 

そのためハイスタが何かしら活動をすれば大きな注目を集めるし、何かしらの発表をすればSNSでバズるわけです。

 

世代ではない若者も注目するハイスタ

 

今回18年ぶりのアルバム発売により、CDショップはお祭り騒ぎになっている。

往年のファンも待ちに待った新譜を購入する人も沢山いるが、世代ではない20代や10代の若者も多く購入しているようだ。

 

活動休止期間もあったが、Hi-standardは結成26年になるベテランだ。

例えばベテランでもミスチルやスピッツのように、メジャーシーンの第一線ど真ん中でずっと活動し、今でもオリコン上位のヒットを飛ばすバンドならば若いファンも多いとは思う。

 

しかしハイスタは違う。

メンバーはソロでも休止期間は活動していたが、ハイスタほど大きく売れていたわけでもないし、メジャーど真ん中な活動をしていたわけではない。

 

他の活動休止をしていたベテランバンドは、再始動後のアルバムだとしても世代でない若者に大きく注目されることは少なかった。

 

例えば、伝説のバンド扱いされていたユニコーンの再結成時も、アリーナツアーやドーム公演も行っていたTHE YELLOW MONKEYの再結成時も、ハイスタほど若者に大きく注目されることはなかった。

もちろん若者のファンも増えたことは否定しないが、割合としては多いわけではない。

 

 

下の世代と積極的に交流をするハイスタ

 

他の再結成や再始動したバンドよりもハイスタが若者に注目される理由の1つに、若者に支持されているバンドと積極的に交流を取っていることがあるかと思う。

 

ハイスタの下の世代である10-FEETやマキシマムザホルモン、アジカン、モンパチ、マギー、ワンオク、WANIMAなどハイスタのファンであることを公言している人たちとも多く交流をして絡んでいる。

ハイスタ主催のAIR JAMはハイスタと同世代の盟友ともいえるバンドが中心に出演していた。

しかし、2011年以降のAIR JAMではハイスタから影響を受けた下の世代のバンドマンも多く出演している。

そしてAIR JAMに出演した喜びやハイスタへのリスペクトの言葉や想いを語る。

 

ハイスタは新譜の『THE GIFT』を引っ提げて全国ツアーを行うが、ワンマンツアーではなく対バン形式をとっている。

そしてその対バン相手はほとんどがハイスタよりも下の世代や、若者に人気のバンドが対バン相手だ。

 

休止や解散をしなかったハイスタと同世代のバンドでは、これほど自分のフォロワーやファンを公言している若手と交流を行い、共にライブを行っているアーティストは少ない。

共演した下の世代のバンドはハイスタへの熱い想いを語るわけで、それを聞いた若者は「ハイスタってすごいバンドなんだ!」と感じ興味を持つことになる。

 

もしかしたら、ハイスタの存在はビートルズやはっぴいえんどに近い伝説の存在になっているのかもしれない。

 

『THE GIFT』は若者に伝わるのか?

 

👇画像をクリックで動画になります



 新しいアルバム『THE GIFT』のタイトル曲でもありリードトラックのMVはYouTubeに公式動画がアップロードされている。

 

疾走感のある楽曲。

昔のハイスタのアルバムに収録されていても違和感のない、ファンが期待していたであろうノリの曲だと感じる。

アルバム全体を通して聴いてみたが、疾走感のある曲もメロディアスな曲もあり、かつてのハイスタを彷彿させるようなアルバムに感じた。

 

このアルバムはかつてのファンに向けて作られたギフト的なアルバムにも感じた。

良くも悪くもハイスタが活発に活動していた90年代を感じさせるようなメロコアだ。

そのため、正直な話、楽曲の力だけでは新しく若者のファンを取り込めるようなアルバムではないようにも感じた。

 

今のメロコアが好きな若者がよく聴くバンドはWANIMAや04 Limited Sazabysだと思う。(この2組はメロコアじゃないとかいう意見はとりあえず置いといて)

 

ともに

ともに

  • WANIMA
  • ロック
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

 

Squall

Squall

  • 04 Limited Sazabys
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

で、そういったバンドを好きな若者が「WANIMAやフォーリミがリスペクトしてる伝説のバンドの新譜だ!」というテンションでCDを購入したら「何か違う」と思うのではないだろうか。

「なんで日本語で歌わないの?」とか「英語の発音下手くそじゃん!細美さんやようぺいんの方が上手♡」と言う若者もいるかもしれない。

 

しかし、多くの若者は『THE GIFT』を聴いてしっくりこない部分を感じつつも、自分を納得させるかのように「ハイスタはすごい!」と言うのではとも思う。

 

 

音楽だけでなく物語も重要

 

ハイスタを語る上では、どうしても楽曲以外の部分を語る必要が出てきてしまう。

音楽が優れていたことは前提としても、ハイスタの成し遂げてきたことの偉大さやバンドとしての物語が面白いことが理由に感じる。

そういった物語の積み重ねもあり「伝説のバンド」になったのだと思う。

 

それはハイスタだけではない。

はっぴいえんども伝説のバンドと言われるが、それは楽曲の力だけでなく、日本語ロックのパイオニアであったり、所属メンバーの解散後の活動の凄さであったりと物語として語るべきことが多いからでもある。

 

風をあつめて

風をあつめて

  • はっぴいえんど
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

さらに昔でいうとベートーヴェンが他のクラシックの作曲家よりも音楽ファン以外に存在や曲が知られている理由も同じものだと思う。

聴力を失い苦悩の中で作曲を続けたり、それまでの音楽家ではありえなかったような、パトロンを拒否し大衆音楽を作るという、音楽を庶民に広げたパイオニアであったりと物語として魅力的な部分が多い。

音楽も素晴らしかったが、こういった物語があるのでクラシックファン以外にも特に知られる存在なのかもしれない。

 

もちろん楽曲が良くなければ注目されることもないし、伝説の存在になることもない。

しかし、曲を作った人物の存在や物語も音楽に意味を加えて、より魅力的に感じさせることも事実である。

そういった物語を知らなかったり偉大さを知らない場合、感じる魅力は半減してしまうとも言える。

 

ハイスタの場合、メンバー3人が揃って音を鳴らし作品を作ることに意味もあり、それが作品の魅力を引き立てる重要な要素にもなっていると思う。

もしもこれがメンバーのソロで、ken Yokoyama名義だったりNAMBA69名義の作品であれば、大きく注目されることもなかったであろう。

 

 

ハイスタはやはり魅力的

 

自分は「ハイスタ世代」ではない。

好きなバンドがハイスタから影響を受けているバンドがいたので、後追いでアルバムを聴いたような人間だ。

 

過去のアルバムを聴いてもピンと来ない部分はあった。

楽器も歌も英語も上手いとも思わなかったし、最初は何が良いのか全然わからなかった。

しかし、また聴きたいと思ってしまう魅力や聴いているうちにハマってしまう魅力があった。

それは「ハイスタのメンバー3人の魅力」が自然と音に表れていたからかもしれない。

その後ハイスタの過去の活動を調べて、より楽曲や存在により魅力を感じるようになった。

自分にとってハイスタは神聖かまってちゃんのロックンロールは鳴り止まないに出てくるビートルやピストルズのような存在だった。

 

そして今回の『THE GIFT』。

この作品は個人的には手放しに絶賛できるような作品だとは思っていない。

それでも既に3回アルバムを聴いている。

やはりハイスタはこの3人で音を鳴らしていれば魅力的なのだと思うし、耳から離れない音なのだ。

 

正直、今の10代や20代前半の若者は若手のバンドを聴いたほうが趣味嗜好に合うとは思う。

わざわざハイスタを聴く必要はないと思う。

でも、それでも聴いてほしいという気持ちはある。

 

難波章浩と横山健と恒岡章の3人で鳴らす音は、ハイスタを知らない人にも引っかかるような言葉に表せない「何か」がある。

「古臭いな」とか「よくわからないな」と初聴で感じても、また聴きたくなって耳から離れなくなってしまう。

聴いた人全員がそう感じるかはわからないが、バンドとしての魅力や成し遂げてきたことの凄みが音に表れていることは確かではと思う。

それは幻想でただの勘違いかもしれないが、バンドが好きな人があると信じている「バンドマジック」という物だと思う。

音楽を聴いてそういった経験をすることは、若手のバンドを聴いても体験できないことではないだろうか。

 

『THE GIFT』を買う若者はハイスタの音が好きというよりも、ハイスタという伝説のバンドの存在興味がある人が多いのだと思う。

リアルタイムで伝説のバンドであるハイスタが新譜をリリースし、それを購入するという「体験」をしたいと思っている若者が多いのではと思う。

 

今作は過去のファンには昔を思い出させるような熱い気持ちにさせるようなギフトでもあり、若者には今まで経験しなかったような伝説に触れる体験をくれるギフトでもあるのだと感じる。