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【ライブレポ・セットリスト】SHISHAMOがライブで生足を隠すようになった代わりに、他のモノを出すようになった 〜SHISHAMO ワンマンツアー2021秋「寝ても覚めてもかわいい君と死にたくなるような恋がしたい」〜

コロナ禍になる直前の、2020年1月。

 

Zepp Tokyoで行われたSHISHAMOのワンマンライブで、宮崎朝子は「うちらもう20代半ばなのに、いつまでTシャツに短パンでライブやるんだろうね?まだ足を出し続けるのか?」と話していた。

 

 

その言葉に、驚いた。Tシャツと短パンは彼女たちがステージに立つ時のトレードマークになっていたからだ。

 

生足に喜ぶ変態なファンも少なからずいた。そんな変態も少数ながらいた。大袈裟かもしれないが、バンドが自らの個性を1つ捨てるようなものだ。

 

それから約1年後の2021年4月。ついに、SHISHAMOが、長ズボンで、ステージに立った。

 

朝子「今日は初めて長ズボンの衣装を履いてみた。ライブで初めてハーフパンツ以外を履いたんですよ。わたしの生足を目当てに来てくださった方には申し訳ないです」

吉川「そんな人いないから!」

朝子「みんな生足を楽しみにしていたとは思います。生足目当ての方にだけ返金処理します」

 

日比谷野外音楽堂での出来事だ。MCでは長ズボンを履いたことに言及してた。生足目当ての客には謝罪をしている。返金してもらおうかと思ったが、ライブが素晴らしかったので返金せずにお布施した。

 

 

これはバンドの歴史において、大きな変化だ。自らの個性を1つ捨てた瞬間でもあった。

 

その代わり新しい挑戦をしたライブでもある。ライブ定番曲やシングル曲は少なめで、新曲や意外な選曲が中心のセットリスト。いくつかの既存曲は音源とは違うアレンジで演奏された。

 

短パンという個性を捨て、生足目当ての客を排除したことと引き換えに、新しい個性を手に入れて進化したとも言える。

 

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そして2021年11月。SHISHAMO ワンマンツアー2021秋「寝ても覚めてもかわいい君と死にたくなるような恋がしたい」のZepp KT Yokohama公演。

 

そこでもSHISHAMOは、長ズボンを履いていた。次のステージへ進んだことを、生足を隠すことで伝えているのだろう。

 

その代わり生足目当てのファンも唸らせるような「最新で最高のSHISHAMO」を感じさせるライブが繰り広げられた。

 

1曲目の『君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!』からしてもそうだ。

 

野音でも披露はされていたが、宮崎朝子の弾くシンセサイザーから曲が始まるアレンジに、久々にライブを観たファンは驚いただろう。生足のファンも、今までにない演奏スタイルに驚き、生足ではなく音楽に興奮したはずだ。

 

そして『警報』『人間』とロックバンドとしてのクールさを感じさせる楽曲を続ける。この2曲では松岡彩と吉川美冴貴のコーラスワークが印象的な楽曲だ。

 

スリーピースだと楽器の数が限られてしまうが、2人のコーラスを上手く組み合わせることで、音楽性の幅を広げている。ここまでコーラスワークが要となる楽曲は、今までなかった。生足の代わりに新しいSHISHAMOの魅力を出すようになった。

 

新しいアルバムのリリースツアーをやることは2年ぶりで、関東でワンマンライブをやるのも久々です。4月の野音ぶり?そこまで久々ではなかったですね(笑)

 

札幌や仙台は2年ぶりだったからそれと比べるとね。でもこうやってツアーを回れるようになったのは嬉しいです。

 

挨拶を兼ねた短めのMCをしてから『明日の夜は何が食べたい?』『はなればなれでも』とミドルテンポの落ち着いた楽曲を続ける。

 

序盤のクールな演奏とは違う、心地よい演奏を会場に響かせる。今までのライブはアップテンポの楽曲を序盤に披露し、熱気を一気に上げることが多かった。しかし今回は少しずつ会場の雰囲気を作っていく感じだ。

 

吉川「最近ツイッターがアップデートされてエゴサができなくて困ってるんですよ!時系列がバラバラになって出てくるから!今日もまだ札幌のライブの話をしているツイートばかり出てくるの!「SHISAMOの札幌ライブ楽しみ♡」みたいな!」

松岡「それってずっと変わらないのかな?」

吉川「それは困るから署名を集めてツイッターに意見を言わないと!そういえば柏木由紀さんも困ってた。ゆきりんも「エゴサできない!」って言ってめちゃくちゃ困ってた。仲間だ。もう5ちゃんねるを見るしかなのか?」

松岡「5ちゃんねるは絶対に見たらダメって、昔から言われ続けてましたよ」

吉川「前に見た時は辛辣な言葉ばかり書かれてて、マジで傷つくんだよね」

松岡「見たことあるんだ・・・・・。ここに来ている人は、そんなことを書かない人だと信じています・・・・・・」

吉川「インスタでもいいんだけど、エゴサでストーリー見ちゃうと相手に履歴が残っちゃうじゃん。吉川が見てると思われたら恥ずかしいから見たくないんだよね」

 

ツイッターへの文句を言い続ける吉川。その怒りはなかなか収まらない。エゴサは彼女のライフワークでありアイデンティティなのだろう。

 

吉川「わたしが見たいのは1時間前のツイートなんだよ!6日前のツイートに興味ないんだよ!」

宮崎「もう気が済んだ?」

吉川「気が済んだ」

宮崎「じゃあ、曲やりまーす」

 

吉川の怒りMCはバッサリと切り捨てられ、演奏がさいかい。『キスをちょうだい』というポップでキュートな楽曲で、吉川の怒りを浄化させる。ツイッター社への怒りを忘れるほどに、温かな空気を作っていく。

 

3人が向き合ってから演奏を始めた『妄想サマー』では、会場の熱気を温かさから熱さへと変化させた。

 

序盤はセットリストの流れも影響してか落ち着いて聴いていたファンが多かったが、この曲では会場全体が腕を上げて盛り上がっている。

 

可愛らしいメロディと歌詞が魅力の『ドライブ』では、松岡のベースからイントロが始まった時点で大きなクラップが会場に響いた。緊張感ある序盤のクールさから一転して、温かな空気で会場が包まれる。

 

それを見て笑顔になる朝子。新しい挑戦をしても、と楽しくて笑顔になれる今までのライブも忘れていない。

 

演奏を終えるとステージに黒い幕が降り、「SHISHAMOのハーフタイムレディオ」と書かれた大きなセットが登場した。客席の換気をしている間に、ファンから事前に集めたいくつかの質問や相談に答えるコーナーが行われたのだ。

 

最初は「今回のツアーのイラストにはブーツ、マフラー、ミルクコーヒーなどが12月にリリースされるEP『ブーツを鳴らして』の収録曲のタイトルと同じものが描かれていますが、EPをイメージしたのですか?」という内容の質問。

 

その質問に「うわ!本当だ!奇跡だ!」と驚くメンバー。偶然だったらしい。単純に冬だから寒そうな絵にしたかったという。ファンの深読みは奇跡を呼ぶことがある。

 

特に印象的だった質問のは「SHISHAMOのことが大好きで一緒にライブにも行っていた彼氏と別れました。辛いです。好きな人はどうすれば忘れられますか?助けてください」という相談だ。悲しい質問なのに、なぜかメンバーと客席から笑い声が漏れる。少し可哀想である。

 

吉川「辛いよね。好きだった人との別れは辛いよ。わかるよ」

朝子「わかるんだwwwww」

吉川「なに笑ってるんだよ!そりゃあ、忘れられないよ。恋は引きずっちゃうものだよ。でも無理して忘れる必要はないよ。」

客席「wwwwwwwww」

吉川「なに笑ってんだよ!お前が恋愛を語るなってか!?」

客席「wwwwwwwww」

朝子「失恋しても気づいたら忘れてることが多いからね。泣くことは良いことだよ。泣いてスッキリしてさ。悲しいことなんてずっと覚えてられないよ。」

客席「wwwwwwwww」

朝子「なにが面白いんだよ!」

吉川「あそこに座ってるやつ、めちゃくちゃ笑ってた!」

松岡「名指しで怒ったらダメ!怖がって泣いちゃうから!」

客席「wwwwwwwww」

 

ファンを爆笑させてコーナーは終了。そして再び演奏が始まる。

 

黒い幕が開くと先ほどまではなかった床から天井まで埋め尽くすバンドロゴの幕が見える。それをバックに『中毒』を爆音で堂々とした佇まいで演奏するSHISHAMO。

 

今回のライブは2部構成に感じた。前半の第1部は今までとは違う魅せ方で音楽性の幅広さを伝えることを目的としていて、後半の第2部はSHISHAMOの演奏力やライブでの爆発力を見せつけようとしているように見えた。

 

『二酸化炭素』のような繊細な楽曲では、演奏技術の高さを感じたし、『かわいい』のような彼女たちの得意分野であるアップテンポのポップロックでは、バンドの一体感を強く感じた。それによって客席も湧き上がるように盛り上がっていた。

 

このツアーは新作『SHISHAMO7』のリリースツアーですけど、アルバムは聴いてますか?聴いてない人にとっては、今日は知らない曲だらけだと思います(笑)

 

前回の『SHISHAMO6』は配信ライブではライブで楽曲を披露はできたんですけれど、リリースツアーがコロナの影響で全公演が中止になってしまいました。ライブで披露して初めて楽曲が完成すると思っています。だからこうしてツアーを回れることは嬉しいです。

 

ツアーやライブへの想いを語る宮崎朝子。そして「新しいアルバムを聴いてない人は知らない曲ですが」と再び言って、『SHISHAMO7』の収録曲をさらに続けて披露する。

 

『通り雨』では赤と白の照明で作られた光が、上から下へと流れる演出があった。これは雨をイメージしていたのだろうか。楽曲の世界観を表現する演出が、感動を増大させる。

 

『ごめんね』の演出も素晴らしかった。赤と白の照明でカエデの木をイメージした光がステージの後方に映る。切ない失恋ソングの世界観を見事に表現していて、その美しさでと切なさで、涙腺が緩む。

 

切ないのは楽曲や演奏だけでない。吉川がMCで話した「小学校の頃に好きだった男の子に、ずっと自身がが男子だと勘違いされていた」というエピソードも切なかった。その悲しさと切なさで、涙腺が緩む。

 

そんな切なさは音楽で浄化させるのがSHISHAMOだ。「ここから終盤戦ですが、行けますか!?」と煽ってから、ライブ定番曲でキラーチューンの『ねえ、』を披露。ひたすらに盛り上げ、切なさを楽しさへと変えていく。

 

中盤まではコロナ禍以降に発表された新曲ばかり演奏していたが、ここからは過去の名曲を矢継ぎ早に披露していく。

 

曲間を開けずに『きっとあの漫画のせい』を続ける。最後のサビ前に〈笑わせないでよ〉と歌う朝子の嘲笑うような声と表情には、毎回ゾクッとする。その表現にロックバンドとしての凄みを感じる。

 

音源よりも長めの吉川のドラムソロが響くいてから『恋する』で盛り上がりは最高潮になる。イントロのギターソロでは前に出て客席を煽る朝子。

 

それに大きなクラップで応える客席。サビでは後ろまで腕を挙げて盛り上がっている。それを見て満足気な表情をするメンバー。この日のライブで、最もステージと客席が1つになった瞬間に思う。

 

「残り2曲です」と伝えてから、『明日も』が演奏された。紅白歌合戦でも演奏された楽曲で、おそらくリリース以降はほとんどのライブで演奏されている代表曲だ。

 

イントロが鳴った瞬間に、自分の前の席の制服を着た高校生の女の子が、飛び上がって喜んでいた。

 

頻繁にライブへ行っている人は、聴き飽きている曲人かもしれない。他の曲を聴きたい人が多いかもしれない。それでも自分の前の席にいた女の子を見たら、代表曲を演奏する意味や必要性を感じた。彼女にとってSHISHAMOがヒーローなのだろう。

 

ラストは『明日はない』。最後にこの曲を選ぶことも、ロックバンドとしての尖った精神を表明していると感じる。

 

音源よりも早いテンポで衝動的に演奏された。歌声は音源よりも感情的に聴こえた。彼女たちにしか鳴らせない音を掻き鳴らしてから、颯爽とステージを去っていく。その姿に痺れる。

 

アンコールでは、また違った一面を見せる。

 

ステージにアップライトピアノが設置され、宮崎朝子によるピアノの弾き語りで『壊れたんだ』が披露された。

 

客席に背を向けてピアノき歌っていた。この曲だけはファンを見ることはなかった。

 

ファンに向けているというよりも、自身と向き合うように歌っていると感じた。それをファンが静かに見守り、感情移入する空間になっていた。

 

作詞は物語を書くようなもので、基本的にはフィクションだと、彼女はよく話している。

 

しかしこの曲は〈言葉にはできなかった でも歌にはできたんだ〉など、自身の感情について触れていると感じる言葉も多い。だからバンドではなく弾き語りで披露し、客席に背を向けて演奏し歌う演出にしたのだろうか。

 

いつもと違う演出と演奏の余韻が残る中、吉川と松岡も登場しバンドの演奏が再開。新曲『マフラー』で最新のSHISHAMOを見せつけ、今回のライブの感想を1人ずつ語った。

 

松岡「今日は1席空けじゃなくパンパンに埋まっていて嬉しいです。なかなか満員の会場でやることが難しい時期が続いていたので」

 

吉川「世の中に音楽は沢山あるし娯楽も色々あるのに、SHISHAMOを好きになってライブに来てくれたことに運命を感じます。そんな奇跡が起こってると思うと幸せだなと思う」

 

朝子「それぞれが違う生活を送っていても、ここに集まって同じ音楽を楽しめることは凄いことです。今は頻繁にライブへ行く人は減ったと思う。わたしたちもライブをやる機会は減ってしまいました。だからこそライブをやって会えることは特別だと思うし、幸せに思います」

 

コロナ禍でもSHISHAMOは工夫しながらライブを行っていたが、以前と同じような環境でのライブは難しかったのだろう。まだ制限はあるものの、少しずつ以前のように楽しめる環境が戻ってきたことを実感しているのかもしれない。

 

最後に演奏されたのは『SHISHAMO7』のラストナンバーでもある『夢で逢えても』。

 

失恋ソングではあるが、ライブで聴くと〈夢で逢うだけじゃ足りないよ〉という歌詞が、こんな世の中でもライブ会場へ行くファンの気持ちを代弁しているようにも感じた。ライブ会場でなければ聴くことができない生の演奏と音圧を感じながら、そんなことを思った。

 

 

そういえば『SHISHAMO6』をリリースした際のインタビューで、このようなことを宮崎朝子は語っていた。

 

自分の作りたいものを作って、何のイメージもないところで評価されたほうが、どういう結果であれ、音楽をやってる身としてはうれしいかなって。ここ何年か、音楽以外のところでのこだわりを持って作っていたところもあったので、シンプルな状態に戻そうと。自分たちがいいと思うものを自然に作ろうということですね。

 

最新作ではその傾向がさらに強まり、ライブにも反映するようになったのかもしれない。

 

だからこそ今までのイメージを変える挑戦や演奏、演出を取り入れたのだろう。きっと今がバンドにとって、最もフラットでやりたいことをやれている状態なのだ。

 

生足を隠して長ズボンを履いたことも、世間のイメージするSHISHAMOから離れた自由な活動の一つなのかもしれない。生足のファンは可哀想ではあるが、生足のファンは長ズボンの足もオシャレで魅力的だと気づくべきだ。

 

今までの魅力も残しつつも、最新で最強のSHISHAMOを感じれる挑戦的なライブだった。そして7枚のアルバムを作っても尚、さらに進化する伸びしろを感じるパフォーマンスでもあった。

 

SHISHAMOは生足を隠すようになった代わりに、音楽的な新しい魅力を出すようになったのだ。

 

■2021年11月10日(水)SHISHAMO ワンマンツアー2021秋「寝ても覚めてもかわいい君と死にたくなるような恋がしたい」at Zepp KT Yokohama セットリスト

01.君の目も鼻も口も顎も眉も寝ても覚めても超素敵!!!
02.警報
03.人間
04.明日の夜は何が食べたい?
05.はなればなれでも
06.キスをちょうだい
07.妄想サマー
08.ドライブ
09.中毒
10.二酸化炭素
11.かわいい
12.通り雨
13.ごめんね
14.ねぇ、
15.きっとあの漫画のせい
16.恋する
17.明日も
18.明日はない

 

EN1.壊したんだ
EN2.マフラー
EN3.夢で逢えても

 

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