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音楽フェスが続々と中止になることについて想うこと

音楽フェスが続々と中止に追い込まれている。”追い込まれている”という表現は間違っているかもしれないが、ライブエンタメ業界の疲弊を考えると使いたくもなってしまう。

 

茨城県で開催予定だったROCK INJAPAN FESTIVAL 2021の中止には、特に大きな衝撃を受けた。日本最大級の規模で業界への影響力も強いフェスだが、地元の医師会からの要請を受けて開催を断念した。

 

それに次ぐ衝撃だったのは、MONSTER baSH 2021の中止だ。こちらは開催4日前に香川県知事からの中止要請を理由に、開催を断念した。開催直線のタイミングなので、おそらく設営も進んでいたと思う。出店する飲食店は食材の発注や準備も完了していたはずだ。

 

あくまで香川県は要請を出しただけなので、補償はしない方針らしい。

 

 

他にも中止に追い込まれた音楽フェスやイベントはたくさんある。その数を数えることは億劫になるし、数えることで心が荒んでくるので、数えることは諦めた。おそらくモンバスと同様に、補償されないパターンが多いのだろう。

 

音楽フェスやイベントが中止になることに対して、個人的に異論はない。今のご時世ならば仕方がないと思っている。

 

東京都では陽性者数が5,000人を超える日が増えてきた。数千人単位が当たり前になってしまった。緊急事態宣言地域やまん延防止等重点措置地域は過去最大数になっている。8月18日現在、全国の26都道府県がどちらかの措置を行っており、8月20日以降はさらに増える予定だ。

 

不要不急の外出の自粛を呼びかけられているのだから、大規模イベントの開催が批判されることは当然だ。

 

それでも開催を決行する場合があるのは、ライブエンタメ業の従事者の収入が途絶えてしまうので、生活のために批判を覚悟の上で致し方がなく開催しているのだろう。

 

本来ならば国難である今、大規模なイベントを開催するべきではない。しかしだからといって、ライブエンタメ業界など一部の業種が感染拡大に対する責任を負い、感染を抑え込められなかったことの尻拭いをさせられることは間違っている。

 

これは政治家が責任を負うべきだ。国や自治体は一般企業を助けるべき立場であるはずだ。まるでライブエンタメ業界が、生贄となり犠牲となっているように見える。

 

SNSでは音楽フェスの公式アカウントに対し、開催に懐疑的な人からの批判的なリプライが送られることがある。リプライでなくとも批判的な投稿を連続でする人もいる。その中には音楽フェスが好きな自分でも、納得や共感できる意見もある。全くもってその通りだと思うこともある。

 

しかし攻撃的な言葉を使ったり、ライブエンタメ業界で働く人への敬意がない意見も少なくはない。

 

その中でも「怖くて仕事にいけなくなります」というリプライを見た時、なんとも言えない気持ちになった。その恐怖を取り除くために、他人の仕事を奪おうとしていることに気づかないのかと。ライブエンタメ業界で働く人にとっては、不要不急と言われるイベントの開催が仕事なのだ。

 

 

 

開催中止が発表された音楽フェスに対しては「ありがとうございます」「安心しました」などといったリプライが送られる。自分にはこれらが狂気を隠した言葉に見えてしまう。

 

その「ありがとう」や「安心」のために、どれだけの人が経済的にも精神的にも身体的にも損失を被ったのだろうか。それを想像した上での言葉だろうか。自分のために誰かが犠牲になっていることを自覚しているのだろうか。

 

それを自覚した上で「ライブエンタメ業界で働いている人は犠牲になるべき」と考えている人もいるのかもしれない。そのような仕事に就いたのだから、全て自己責任と考える人もいるのだろう。

 

メンタリストのDaiGoが「生活保護の人にお金を払うために税金を納めているわけではない。だったら猫を救ってほしい」という発言を自身のYouTubeでしたことで、批判され炎上した。

 

対象がホームレスではないだけで、特定のコミュニティや職業に対し、無自覚の差別意識を持っている人もいる。ライブに興味がない人は「音楽業界を救うために税金を納めているわけではない。だったら猫を救ってほしい」と思っている人がいても、不思議ではない。

 

批判的立場であることが悪いとは思わないが、その批判を音楽フェスの主催者に向けることは間違いに思う。

 

ほとんどのライブイベントは「これなら感染症対策がバッチリだしリスクが低い」として国や自治体が定めたガイドラインに従って開催しているし、それを超える徹底した感染症予防対策を行なっている。

 

運営側も批判されることを前提として、認めてもらえるように、理解してもらえるようにと、コロナ禍になってから1年以上努めてきた。

 

ガイドラインを無視しているならば運営側を批判すべきだと思う。しかしルールに沿って開催する音楽フェスに不信感があるならば、まずは国や自治体が許可を出したことに対して批判するべきだ。一般企業がこの状況でも開催せざるを得ないほどに、補償も保証が足りない状態へと陥れている国や自治体に対して抗議するべきだ。

 

もちろん音楽フェスの運営側に責任が一切ないとは思わないが、全責任を負わせるには重すぎるし健全ではない。彼らも感染症の被害者であり政治の犠牲者だ。やはりライブエンタメ業界が生贄となり犠牲となっているからこそ、バッシングを受けやすい状態になっているのではないだろうか。

 

 

新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長の提言では、感染リスクが比較的低い場所として「観客が声を出さないコンサート」が例に挙げられている。今はロックバンドのライブだとしても声を出す観客は皆無だ。音楽フェスも同様である。

 

今のライブイベントの感染症対策は、日常的に多くの人が行くであろうコンビニやスーパーよりも徹底しているし、3密を防ぐように心掛けている運営も多い。

 

おそらく都心の電車やバスの方が密になる状況が多いと思う。毎日通勤している人が、全員エッセンシャルワーカーだとは思えない。

 

エンタメ業界と同様に「不要不急」と言われるものに関わる職業の人も、普通に出勤しているのだろう。もしかしたらライブエンタメを批判する人も、その中には含まれているかもしない。「仕事」として考えたら、平等に扱うべきに思う。

 

ライブ会場や音楽フェスの会場自体は「リスクが低い場所」と扱っても問題ないかもしれないが、イベントが開催されるならば、県境を超えた移動もある。人の流動を促していることは確実だ。絶対的に安全とは言えない。その部分では感染拡大の原因の一つにはなりえる。

 

しかし有観客の公演を全て取りやめて、無観客配信だけでライブエンタメを続けることは難しい。

 

そのためには多くの機材を用意しなければならない。それを扱える専門のスタッフも必要になる。その代わり警備など有観客を前提としたスタッフは仕事がなくなる。守れなくなる雇用が発生してしまう。

 

現状無観客ライブは有観客と同じ値段のチケット設定では、なかなか購入に踏み切ってもらえない。有観客の半額ほどが今の相場だ。これでは経費は増えるのに売り上げは減ってしまう。

 

居酒屋やファミレスがデリバリー専門店になることが難しいことと同様に、簡単に仕事内容を変化させることはできない。

 

だから業界の仕事や雇用を守るためにも、有観客を続けざるを得ない部分がある。そもそも国がガイドラインでは、条件付きではあるものの開催が認められている。専門家が作成したガイドラインだ。それを 安全だと信じて遵守している。決して悪いことをしているわけではない。

 

とはいえ音楽フェスの主催者側も、地元の人を犠牲にしたり迷惑をかけていることも、理解し自覚すべきではある。開催することで不安を与えていることも確かなのだから。

 

 

 

今週末にはFUJI ROCK FESTIVAL’21が開催される。地域とも協力して対策を進めていることは評価できるし、無事に開催され成功することを祈っている。

 

しかし主催者のイタンビューや公式サイトのガイドラインの内容を見て、一抹の不安を感じている。あまりにも参加者の良識に任せすぎていると感じたからだ。

 

特にキャンプサイトがありそこで寝食をすることや、そこでのルール遵守の確認が難しいことに不安を感じる。インタビューでの「自分のことは自分でというのがフジロックです。」という発言も気になる。

 

自由に楽しめることが音楽フェスの魅力だとは思うが、コロナ禍になってから様々なことが変わってしまった。今は自由を捨てて我慢しなければならない状態になっている。

 

それに全ての参加者がルールやマナーを守るとは限らない。開催を成功させたJAPAN JAM やVAVA LA ROCKでも違反する客はいた。フジロックだけが例外にはならないだろう。

 

参加者にルールを徹底させるための、仕組みや罰則が必要だ。おそらく開催ガイドラインに書いていないだけで、ルールを徹底させるための仕組みや取り組みは他に行うと思う。部外者が心配する必要はないのだろう。

 

自治体にも認められて新潟県知事にも「感染症対策を徹底して行うので見守りたい」と言わせるほどなのだから、物凄い準備をしているはずだと信じたい。

 

しかし実際はどうなのかは、始まるまで関係者以外は知る術もないし、わからない。音楽フェスに興味がない人にとっては、音楽ファン以上に不安を感じるだろう。その部分の具体的な対策を表明すれば、開催反対派にも少しは理解してもらえるかもしれない。

 

「音楽フェスを開催する」ということによって分断が起こっているように見えてしまうが、音楽フェスが悪いわけでも、それに反対する人たちが悪いわけでもない。全ての原因はコロナにある。音楽フェスではなくコロナによって分断が起こっているのだ。

 

開催に賛成する人も反対する人も、「元の生活に戻りたい」という想いを持っていてるはずだ。賛成派は「コロナ禍でも音楽フェスを開催することで文化や雇用が失われないよう守りたい」と思っている。反対派は「今は自粛をすることで元の生活に早く戻したい」と思っている。

 

道筋や手段や大切にしているものが違うだけで、向いている方向は同じだ。導きたい結果は共通している。だからこそ分断が起こることが悔しいし悲しい。

 

自分は徹底的な対策をするならば音楽フェスの開催に賛成の立場だ。だから反対派の意見に傷ついたりイラついたりすることもある。この記事の中でも過激な反論をしてしまったかもしれない。それに対して自己嫌悪をしてしまう。

 

どの立場だとしてもお互いを思いやり、その想いの背景を想像しあうことができればと思う。分断するのではなく一致団結して、上手に落とし所を見つけたいと思う。

 

しかし今の社会情勢では難しい。原因はコロナにあるが、お上の判断に振り回されて分断が加速している。みんな頑張っている分、終わらない緊急事態に想定以上に疲れている。その苛立ちや不信感が、意見や立場の違う人へ言葉の刃になって向かってしまう。

 

だから政治家の皆さん、早くこの状況をなんとかしてくださいよ。一部の業種や業界を生贄にして犠牲にしないでくださいよ。

 

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