2020-11-29 【レビュー】赤い公園『オレンジ』を聴いた感想 赤い公園 コラム・エッセイ 赤い公園を聴く「きっかけ」 「最近ギタリストの人が亡くなったバンドだよね」 それぐらいの興味本位でもいい。どんなきっかけだとしても、赤い公園の音楽に触れてくれるなら、それでいい。 この考えはファンの総意ではないだろうし、バンドや関係者はどう思っているかはわからないが、自分はそれでいいと思っている。 フジファブリックの志村正彦が亡くなったことがきっかけで、フジファブリックの音楽に触れた人も沢山いたかと思う。 最初は興味本位で深く聴くつもりがなかった人でも、彼の音楽や彼の作ったバンドの演奏に魅了されたはずだ。 特に『若者のすべて』は志村が居なくなってから再評価され、今では夏の終わりの名曲として多くの人に愛されている。 彼の残した音楽は今でも生きているし、これからもずっと生き続けるはずだ。 赤い公園もカッコいいバンドだ。彼女たちの鳴らす音楽は最高だ。 音楽によって沢山の人に希望を与えてきた。まだ出会っていないだけで、赤い公園の音楽を必要としている人がまだ沢山いるだろう。 だから理由やきっかけは何でもいい。これほど素晴らしいバンドを知らない人が、まだ沢山いることが勿体ないと思うから。 オレンジ 「この曲が津野米咲の遺作か」 そう思いながら新曲の『オレンジ』や『pray』を聴く人も居るだろう。遺作ということをきっかけに、初めて赤い公園の曲を聴く人も居るはずだ。 悲しい出来事ではあるが、「メンバーの死」はファン以外にとっては話題性のあるニュースの1つなのだから。 どちらも別れをテーマにした楽曲なので、必要以上に楽曲の背景を想像や妄想してしまう人もいると思う。 『オレンジ』の<最後くらいカッコつけたい>というフレーズや『pray』の<I pray for you それじゃ、またね>というフレーズに、津野米咲のことを思い浮かべてしまう人もいるだろう。 それに嫌悪感を持つファンも居ると思う。赤い公園のことが好きであればあるほど、モヤモヤした感情を持ってしまうだろう。その気持ちは痛いほどわかる。 それでも自分は、聴いてくれるならそれでも良いと思う。 両A面シングルで最新作の『オレンジ/pray』。 この2曲は今までの赤い公園の楽曲と比べると、素直な演奏でメロディはキャッチー。今まで以上に多くの人の心を掴みそうな曲だ。きっと新規ファンの獲得も意識して制作したのだと思う。 オレンジ赤い公園ロック¥255provided courtesy of iTunes 特に『オレンジ』は求心力が強い。曲が始まった瞬間に、ギターの演奏と歌声に耳が惹き付けられてしまう。 この曲は不思議な曲だ。力強いロックサウンドでありつつも優しく包み込んでくれる音色でもある。 ベースの藤本ひかりとドラムの歌川菜穂による重低音響くサウンドとクールなプレイスタイルは、痺れるぐらいにロックの衝動を感じてカッコいい。 石野理子は真っ直ぐ通る歌声だし、声質は透き通っていて心地よい。それでいて優しく丁寧に表現している。それがリズム隊のキレッキレなロックな演奏とのバランスが取れている。 これが『オレンジ』がロックバンドとしか言いようないサウンドでありつつも、優しい曲に感じる理由の1つに思う。 しかし津野米咲の演奏が「ロックなのに優しい」と感じる最も大きな理由に思う。この曲で津野は独特で個性的な演奏をしているのだ。 歪んだ音色とクリーンな音色がバランスよく組み合わさっているエレキギター。静と動のバランスも絶妙。 イントロやAメロではクリーンな音色で優しく弾いているが、サビでは乾いたサウンドながら演奏が激しくなる。 そして中盤のギターソロでは歪んだ音で、チョーキングなどの技術も駆使しながら弾き倒す。2番ではピアノの音色も加わり、切なさを強調させている。 それでいてギターもピアノも印象的なフレーズが多い。彼女の存在感が強さが演奏を引っ張っている。 この絶妙なバランスによってロックの衝動を持ちつつも、ポップスとしての優しさも持つ不思議で魅力的な楽曲になった。 演奏する姿が頭に浮かぶ音楽 赤い公園は音源を聴いていても、メンバーが演奏する姿が頭に浮かんでくる。 一流のスタジオミュージシャンを集めても、この雰囲気は出すことが難しい。バンドとして活動しているからこそ出せる不思議な魅力だ。 他の多くのバンドからもそれは感じることだが、赤い公園は特に頭の中にハッキリと姿が思い浮かぶ。 津野米咲がコンポーザーとして引っ張りつつも、完成系を共有してメンバー全員が同じ方向を向いている。 それを前提として個性をぶつけ合っている感じ。これがあるからこそ、演奏する姿が目に浮かぶのだ。 新曲のミュージクビデオも公開されている。 自分の脳内に浮かんでいたメンバーが演奏する姿が、そのまま映像になったように思えた。とても良いMVだ。 MVを観たらライブで演奏している姿が、ハッキリとリアルに頭に浮かんでしまった。4人だからこそ出せるバンドの雰囲気が、MVの姿から滲み出ているからだ。 MVと同じようにライブで演奏しても「最後ぐらい」どころか、最初からずっとカッコいい演奏をパフォーマンスで魅せてくれるんだろうなと思う。 ライブでもMVと同じように、津野米咲は途中でピアノを弾いていたのだろうか。最近は『Yo-Ho』でシンセパッドを使用したりと、ライブで新しい挑戦もしていたのでありえなくはない。 ギターソロの前には理子が「ギター!津野米咲!」と紹介して、ギターソロを聴きながら頭を振ってそうな気がする。藤本ひかりは上手側の客を煽って盛り上げていただろう。うたこすは笑顔で見守りながら、力強いドラムでバンドを支えているはずだ。 米咲はステージ前方に飛び出してギターソロを弾いて、弾き終わったらギターをフロアに向かってクールに掲げるのだろう。それを観たファンは歓声を上げて、盛大な拍手を贈るんだ。 そんな景色が想像できる。きっと最高のライブなんだろうな。3密上等なライブハウスで、この4人が鳴らす『オレンジ』を生で聴いて観たかった。 でも曲を聴けば、自分の妄想や想像だとしても、そこに津野米咲は存在している。曲の中にもMVの中にも、存在し続けている。 いつだって赤い公園の音楽を聴けば彼女たちが演奏する姿が頭に浮かぶ。それが最高で魅力的だ。 赤い公園の音楽は前向きにさせてくれる。でも〈滲むなオレンジ 笑って見せろ〉と歌われると、たしかに元気はもらえるけれども、たまに切なくなって、オレンジが滲んでしまうかもしれない。 ↓赤い公園の他の記事はこちら↓ オレンジ / pray アーティスト:赤い公園 発売日: 2020/11/25 メディア: CD