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BAYCAMPに行って感じたコロナ禍で行う屋内型フェスの問題点について

コロナ禍以降、日本で最初の屋内型音楽フェス

 

今年初めて国内で行われたであろう屋内音楽フェスの『BAYCAMP 2020 10th Anniversary 』。

 

入場方法からして、去年までの屋内音楽フェスとは全く違うものだった。

 

Googleフォームに個人情報や体調について等のアンケートを応えなければ入場列に並ぶことはできないし、マスクの着用義務もあった。サーモグラフィでの体温確認、アルコール消毒など感染症対策を徹底してから入場した。それに引っかかった人は入場ができない。

 

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入場も整理番号ごとに集合時間を分け、会場付近でも密にならないようにと気を使っているようだった。

 

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コロナ禍になってから少しづつ音楽ライブは再開され始めた。感染症対策を徹底して開催しているので、今までとは違う雰囲気の会場にはなっている。それでも少しづつ「ライブという非日常を楽しめる日常」を取り戻しつつある。

 

最近のライブ会場は、飲食店やショッピングモールなど多くの人が集まる他の場所以上に、徹底した感染症対策を行っている。今のところクラスターも発生していないし、先日約2万人を集めて開催したTHE YELLOW MONKEYの東京ドーム公演でも感染者は1名も出なかった。

 

BAYCAMPは音楽フェスなので、通常の音楽ライブよりも長時間屋内に人が集まることになる。しかも会場内で人が動き回る。感染者を出さない運営をすることについて、通常のライブ以上に気を使わなければならない。

 

だからこそBAYCAMPが成功するかどうかは重要なことだ。大袈裟な話ではなくエンタメの未来を背負っている音楽フェスともいえる。

 

 想いがこもった運営と身勝手な客

  

BAYCAMPは良くも悪くも緩い雰囲気の音楽フェスだった。ルールもゆるくて客のモラルやマナーに任せて、自由すぎる部分もあった。

 

しかし今回の運営は本気だった。感染症対策を徹底した入場方法はもちろん、会場内でも対策を徹底していた。

 

前方のスタンディングエリアは一人分のスペースを床を黄色い枠で囲って、そこからはみ出ないように見なければならなかった。

 

自由席の椅子席も両隣に人が座らせないように張り紙を貼っていた。ライブを観る時はソーシャルディスタンスが取れるようにしている。現時点でできる安心で安全な環境を整えようとしていた。

 

 

換気についても気を使っていたと思う。外気を大量にずっと取り入れていたからか、会場内でも野外と同じぐらいに寒気を感じるほどだった。会場の扉も定期的に開けていた。それに加えてスタッフはマスクの上にフェイスシールドをしている。

 

ダスキンのスタッフが1日中巡回して手すりや椅子などを消毒していたことも印象的だ。

 

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対策を徹底してはいたが、堅苦しい雰囲気にならないようにも工夫している。

 

ステージの上には星をイメージした電飾が飾られ、転換時のスクリーンには例年フェスが開催されている川崎市東扇島東公園の映像が流れていた。

 

本来のBAYCAMPは夏の野外で行われるオールナイトフェス。フェスを主催している(株)エイティーフィールドの青木勉社長は「屋内でもオールナイトのような気持ちになれるようにステージを作りました」と開演前の挨拶で語っていた。

 

音楽フェスとして、BAYCAMPとして、制限がある中でも最高の感動を創ろうとしている。

 

「自由に楽しんでもらいたいので、皆さんもご協力をお願いします」

 

開演前の挨拶では、このようにも語っていた。

 

アーティストやスタッフの力だけで良いライブやフェスが作られるわけではない。来場者も含めた全員で創るのだ。

 

しかしコロナ禍によって様々なことが変わった。だからこそ、そこに認識のズレや混乱があったようにも思う。

 

観客側も「絶対に守らなければならないこと」は意識しているようだった。

 

マスクを外している人は見た限り居なかったし、ライブ中に騒いだり声を出す人もほとんど居なかった。みんな一定の距離感を保ちながらライブを観ていた。

 

しかし感染症対策と直接的には関係しないことや、禁止の理由が曖昧なことについては、破っている人も沢山いた。

 

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椅子席の場所取りは禁止されている。時間帯やエリアによっては、座っている人よりも場所取りの荷物の方が多かった。

 

バンドのグッズで場所取りしている人もいる。その青色と赤色のタオル、バンド名書いてあるよ。ファンの民度によって、アーティストの評判も落とされるよ。

 

しかし座席に荷物を置く場所取りについては、会場内でアナウンスをしていたわけではない。

 

公式サイトの注意事項にも書いていなかった。開演中に公式Twitterが禁止であることを1回ツイートしただけである。

 

 

スタンディングエリアは床に座ることが禁止だった。

 

エリアを分ける柵に注意事項が書かれた紙が貼られていたし、スタッフも頻繁に座っている人に注意をしてる。それでもステージの転換中には座る人も多かった。

 

注意されても無視したり、スタッフがいなくなったらまた座り込んだりと、自分勝手な行動をする人も目立っていた。だからか同じ人が何度も座っては注意され立ち上がり、また座って注意されてを繰り返す。目当ての出演者になるまで移動せずに待機し続けるひともいるようだった。

 

「楽しくても 思いやりとマナーを 忘れるな」

 

こんな言葉をメンバーが発言したり、この言葉を書いた横断幕をワンマンライブで飾っていたバンドのファンが、そのバンドのTシャツやタオルを身につけて、そのような行動をしていた。残念に思う。

 

 

ルールを破った客が悪いのか?

 

椅子に荷物を置いて場所取りした人は、それが常識で正しいことだと思っていたのかもしれない。

 

スターバックスやマクドナルドなどの飲食店では、注文前に「お席の確保をお願いします」と店員が声かけをすることがある。それらの店舗ではそのルールとしてあるからこそ、トラブルを防げているのだろう。

 

今までのライブで自由席の音楽フェスは少なかった。このような形態に慣れていない人がほとんどなはず。だから自身にとって身近なカフェやファーストフード店のシステムを思い浮かべて、それを参考にしてしまったのかもしれない。

 

スタンディングエリアで座り込んだ客も悪気はなかったのかもしれない。

 

禁止の理由は消毒されていない地面に座り込むことは危険だからということかと思うが、禁止されている理由は説明されていなかった。

 

今までの音楽フェスならば最前エリア以外でスペースが空いていれば、座っていても注意されることはなかった。理由が理解できないルールだから、何度も破ってしまう客がいたのかもしれない。

 

もしかしたら運営側が理由も含めた内容で、細かく注意や呼びかけをするべきだったのかもしれない。

 

場所取りはルール違反であることを会場アナウンスで伝えたり、スタッフが座席を監視して場所取りをした人を注意したり、置かれた荷物を撤去しても良かったかもしれない。スタンディングエリアの座り込みも、理由を明確に伝えればルールを破る人はいなかったかもしれない。

 

しかし感染症対策で人手が今まで以上に必要になる。BAYCAMPはコロナ禍になってもチケット代を値上げしなかった。むしろ例年9,500円だったチケットを7,700円に値下げしている。来場者の金銭的負担を減らそうとしている。音楽を止めないために利益度外視で、音楽やライブへの想いだけで開催を決行したのだろう。

 

そんな状態でスタッフが逐一注意して回ったり細かい部分にまで気を使った対応は不可能だ。だからこそ開演前の挨拶で「みなさんもご協力をお願いします」と伝えたのだろう。来場者を管理するよりも信頼しようと思ったのだろう。

 

ルールを破った客にも悪い部分はある。ルールを徹底させられなかった運営にも問題点はあったかもしれない。

 

しかしこれからのライブやフェスにおいては、客側の意識を変えることの方が重要だと思う。

 

 

感染症対策のガイドラインではなくエンタメを守っている

 

「みなさんはマスクをして感染症対策のガイドラインを守っているんではなく、エンタメを守っているんですよね?このご時世でライブに来て罪悪感がありますよね。その分だけ家族や職場の人とか身近な人にいっぱい優しくしてあげてることで返してください。みなさんのおかげでエンタメが守られています」

 

四星球がMCで話していた言葉が忘れられない。この会場にいたほとんどの人が、この言葉に共感し感動したと思う。

 

しかし、ほんの一部だけ、エンタメを守るつもりではない人もいたようだ。

 

エンタメを守ることで音楽を楽しみ、全員が幸せになることを考えているのではなく、エンタメを搾取することで音楽を楽しみ、自分だけが良ければいいと考えている人もいたと思う。

 

ルールを知らなかったならば反省して次回以降に参加する時に気をつければ良いと思う。しかしルール違反であることを知っていて破った人もいるはずだ。

 

「赤信号 みんなで渡れば怖くない」の心理になっていた人もいるのかもしれない。

 

最初はルール違反であることを知らない人が、場所取りで荷物を座席においていたのかもしれないが、それを見て「我慢しているのがバカバカしい」と思って場所取りをした人もいるかと思う。

 

それが少しずつ広がってしまい、大量の場所取りがされていた。「みんながやっているから」と迷惑している他人のことなど考えず、自分勝手な行動をした人もいたように見えた。

 

スタンディングエリアで座り込む人が多かったのも同じ理由に思う。

 

座っている人を見て「立って待っているのがバカバカしい」と思い座り込んだ人もいるはずだ。それが広がって座り込む人が増え、スタッフに注意されたとしてもルール違反を繰り返したのだろう。

 

他人に迷惑をかける最低な行動だとは思うが、感染症のリスクは低いルール違反かもしれない。

 

しかし、もしもこの場で誰かがマスクを外して大声を出したとして、「赤信号 みんなで渡れば怖くない」の精神がそこでも全体に広がってしまったとしたら、取り返しのつかないこととになるかもしれない。

 

ルールやマナーを守れなかった来場者の数を考えたら、ありえないことではないと思う。

 

マスクや声出しについてはモラルがギリギリで保たれていたが、少しのきっかけで崩壊するような、危うい雰囲気のフロアだった。

 

徹底した感染症対策をしてライブが再開され始めてから、自分の知る限りではライブをきっかけにしたクラスターは発生していない。

 

数千人から数万人規模の大規模なライブも行われ始めたが、新型コロナの感染者は発生しなかった。

 

少しづつではあるが、対策を徹底すれば安全に生の音楽を楽しめることが証明され始めている。

 

それでもキャパは半分以下でなければ音楽のライブは開催できない状態は続いている。映画館や演劇の劇場は100%のキャパで実施が可能になったのに、音楽業界はほんの少ししか前進していない。

 

それだけライブ会場は勘違いされているのだ。信用も信頼もされていないのだ。ライブ会場だけでなく、出演するアーティストもスタッフも客も。

 

今はその信用を少しづつ取り戻そうとしている最中なのだ。いや、もともとなかった信用や信頼を作ろうとしている最中なのだろう。

 

今はアーティストもスタッフもファンも、全員が同じ気持ちで一致団結して「絶対に感染者を出さない」という強い意志が必要なのだ。ルールを破ったりマナー違反をしている場合ではない。

 

 

ライブへ行けることは特別なこと

 

ライブに行きたくても行けない人が、今でもたくさんいる。

 

医療従事者や介護職の方々。感染リスクが高い持病を持っている人や高齢者と暮らしている人。家族に止められている若い学生。地方に住んでいて県外への移動を自粛している人。などなど。その人たちも音楽が大好きでライブに行きたいのに我慢している人が、きっとたくさんいる。

 

だからこのご時世でライブに行くことができる人は恵まれているのだ。それを自覚しなければならない。ライブに行けている自分自身の満足だけで終わらせてはダメだ。

 

誰もがまた安心してライブに行くことができる環境を作ることに協力するべきだ。「対策を徹底してくれるから、ライブは安全なんだね」と誰もが思える未来を作るために協力するべきだ。それについて考えて行動し参加するべきだ。

 

音楽業界やエンタメ業界の未来を妨げる行動はしないでほしい。大袈裟かもしれないが、エンタメや音楽シーンの未来を背負ってライブに参加しているぐらいの気持ちでライブに参加してほしい。

 

11月になって新型コロナの感染者が増え始めている。11月27日には東京都の感染者数が570人になり、過去最多になってしまった。

 

もしかしたらライブへの自粛要請や規制が、再び行われるかもしれない。

 

23日にいきものがかりは、グループ結成20周年を記念した全国ツアーの中止を発表した。感染症対策をした上で全27公演実施する予定だった。それでも安全と安心を考えて決断をした。

 

BYACAMPに出演していたWinnersは、24日に年内のライブ11公演を全て中止すると発表した。来年の公演も変更があるかもしれないとアナウンスしている。

 

音楽に関わる人たちは優しい。世の中の多くの人が大切にしていることを守るために、自分たちを犠牲にしている。

 

世間的に音楽は生活に必要がないものだ。それほど大切に扱われているわけでもない。BGMとして流れている音楽を聴く程度で、なくなっても困らない人が大半かもしれない。

 

音楽を聴かなくてもライブに行かなくても、普通の生活をすることはできる。だから音楽を含めたエンタメは真っ先に他の重要なモノの犠牲になって、規制や制限をかけられてダメージを受けてしまう。

 

だからこそ、万が一にでもライブ会場で再び感染者が発生してしまったら、取り返しがつかないのだ。

 

スーパーマーケットでクラスターが発生しても、全国のスーパーが全て営業停止にはならないだろう。山手線でクラスターが発生しても、翌日も電車は動くはずだ。

 

しかしライブ会場で発生してしまったら、全国の全てのライブに影響が発生する。「ライブ会場は危険だ」というイメージが強まってしまう。

 

もしも再び大規模なクラスターが発生したら、今年の3月〜4月のように全国のほぼ全てのライブが中止になる悪夢が戻ってくるだろう。

 

BAYCAMPの出演アーティストは全組素晴らしかったし、運営も頑張ってはいたと思う。

 

このご時世に決行したことも含めて素晴らしいフェスだったとは思うが、フロアは危うさも含んだ雰囲気だった。

 

今ライブに行くならば、自分が楽しむこと以上の意味を持って参加してほしい。色々な想いや意味を背負って参加するつもりで会場に向かってほしい。

 

ここまでの文章は上から目線で他の客に説教したいだけではないし、ライブ運営に文句を言いたいだけでもない。

 

もしかしたら自分も気付いていないだけで誰かに迷惑をかけていたり、危ういことをしているかもしれない。だから自戒も含めた文章だ。

 

全員でエンタメを守らなければと思う。音楽を愛する人が全員で、音楽を止めないために守らなければと思う。

 

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