オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】キンモクセイのGO!GO!夏おじツアー2022 at 原宿RUIDO 2022年9月4日(日) 昼の部

キンモクセイのファーストワンマンライブは、2001年に原宿RUIDOで行われたらしい。今回のツアーは20周年を記念したもの。その千秋楽としてこの会場を選んだことは、バンドにとって特別な会場だからこそなのだろう。

 

f:id:houroukamome121:20220905222805j:image

 

そんな慣れ親しんだホームと言える会場だからか、登場した時からメンバーは穏やかな表情でリラックスしていた。観客は温かな拍手で迎え入れていたし、演奏前から良い空気が流れている。

 

「普段は撮影禁止なんですけど、今回のツアーだけは写真動画撮影OKにしました。SNSに載せる時は短めにしてくださいね」と伊藤俊吾が注意事項を話してから『Summer Music』から演奏がスタートした。

 

9月に入ったもののまだ暑い。この日は最高気温が30度を超えていた。そんな時期のライブとして相応しい楽曲である。

 

伊藤の歌声は絶好調だ。音源と変わらないどころか音源よりも凄みを感じる。演奏は当然ながら上手い。活動再開後のライブ本数は多いとは言えないが、彼らの魅力はライブで最も伝わることを実感する。

 

演出も良い。原宿RUIDOは小規模なライブハウスではあるが、ステージ後方にLEDビジョンが設置されている。そこに映像が流れて、ライブを鮮やかに彩ってくれるのだ。『Summer Music』では水色を基調とした映像により、楽曲の爽やかさを引き立てていた。

 

続く『真っ赤な林檎にお願い』では曲名に合わせてか赤を基調とした映像が映る。そんな演出によってエンタメ性が増している。バンドだけでなくスタッフも良い仕事をしているライブだ。

 

とはいえバンドの演奏やパフォーマンスもエンタメとして最高だ。『太郎のおかたづけ』では『ウルトラマンタロウ』の主題歌のカバーをマッシュアップ的に楽曲に取り入れていた。

 

さらに中盤にはアドリブのセッションまでもミックスさせている。ユーモアと技術力と音楽の魅力によって最高のエンタメを作り上げているのだ。

 

白井雄介「なんでウルトラマンタロウをやったの?リハーサルでやってなかったのに」

伊藤俊吾「だから入れてみたものの終わらせ方がわからなくて困った(笑)」

 

演奏を終えてからのMCで、思いつきのアドリブだったことを明かしていた。さらっと話していたが、これは物凄いことだ。簡単にはできないし、技術やメンバー間の息が合わなければ成立しないことである。

 

それにしても演奏はキレッキレなのに、MCはゆるっゆるだ。「竹下通りがホコ天になる前に車で走れて気持ちよかった」と謎の自慢をしたり、「昔はカトちゃんケンちゃんショップが竹下通りにあった」と中高年しかわからないネタを披露していく。

 

キンモクセイは第2期に入った感じがします。演奏を心から楽しめてる感じがします。来年はまったりと活動するので、勢いあるキンモクセイは今年で出し切ります(笑)

 

まさかの宣言をする伊藤。しかしそれだけ今年のライブには特に気合いを入れているということだろう。だから演奏はキレッキレなのだ。

 

「コロナ禍のご時世にはダメな曲名」とゆるい紹介をしてから演奏された『密室』も、やはり演奏が凄まじい。うねるようなグルーヴは心地良さとカッコよさが共存している。

 

続く『車線変更25時』も、うねるようなグルーヴが印象的な演奏だった。音源以上にビートが力強くなっている。そんな進化をさせた演奏をライブで披露するのだから、自然と身体が動いてしまう。

 

 

この曲が演奏された時、客席の空気が変わった。それも印象深い。

 

終始音楽に聴き入る観客が多かったし、この曲でも静かに聴いている観客が多かった。それでも客席の熱気が上昇したことが伝わる空気だったのだ。シングル曲で人気もある曲なので、聴きたかった人が多いのだろう。そんな喜びに満ちた空気だったと思う。

 

そんな過去の名曲を立て続けに披露した前半だったが、キンモクセイは活動再開してからも新曲を作っていて、それも名曲が多い。

 

都会のビル群の映像に合わせて演奏された『都市と光の相対性』と海や青空の映像が楽曲を彩った『渚のラプソディ』は、どちらも再結成後に作られた楽曲だ。シティポップの影響を感じる演奏で、最新のキンモクセイの凄さを見せつけるような演奏である。

 

メンバーはステージ後方のLEDビジョンが気になるようで、「凄いねえ」「さっき海が映ってたよ」「演奏してて見逃したからもう一度MC中に海を見せてもらえます?」と言ってはしゃいでいた。

 

そして観客に若者が多いことに触れ、初めてキンモクセイのライブに来た人が居るか挙手をさせ答えさせていた。多くの手が上がり新規ファンが多いことを確認して、また嬉しそうにはしゃぐ。

 

白井「竹下通りを車で走ってたらきゃりーぱみゅぱみゅみたいな人が沢山いて、車で引いてつけま飛ばしそうで怖い」

伊藤「もうきゃりーぱみゅぱみゅはもう古いでしょう」

白井「古いとは失礼でしょ!」

伊藤「そうだね...。そういうこと言っちゃだめだよね...。悪い意味じゃなかったんだけど...。本当に申し訳ない......」

白井「わかるよ!時代の移り変わりというかね!きゃりーちゃんも大人になったからね!」

 

きゃりーぱみゅぱみゅに悪いことをしたと思ったのか、伊藤は落ち込んでいた。それを強引に慰める白井。

 

しかしすぐに伊藤は気持ちを切り替えて「大阪のお客さんはクラブみたいなオシャレな横ノリをしていたんで、皆さんもクラブみたいな横ノリをしてください」と観客に無茶ぶりをしていた。

 

クラブと縁がなさそうなファンが多いことを知らないのだろうか。「次から皆さんのノリ方をチェックしながら歌います」とクラブに慣れてないファンをさらに追い込む。

 

しかし伊藤はツンデレだ。「冗談です。自由に楽しんでください」と言ってから『手の鳴る方へ』を続ける。

 

キンモクセイのファンはクラブの横ノリはできないが、綺麗な手拍子は鳴らす事ができる。イントロがなった瞬間から「手拍子も演奏の一部では?」と思うほどにリズムが乱れない手拍子が響く。

 

それなのに後半のジャムセッションでは「横ノリだ!」と言って煽った。

 

動揺する観客。頑張ってクラブのような横ノリを試みている。メンバーも横ノリをやろうとしているが、メンバーもできていない。この場にいる全員が、クラブの横ノリができない。

 

最高の音楽と横ノリの大変さの余韻で包まれる会場。そんな余韻に浸る暇を与えないように、間髪入れず伊藤がキーボードでリバーブのかかった切ない音色を奏でるライブアレンジから、代表曲『二人のアカボシ』が始まった。特別なライブアレンジも最高だ。

 

 

代表曲の後に最新アルバム収録の『セレモニー』を続けるのも良い。過去にすがらない現在進行形のバンドということを、音楽によって伝えているようだ。

 

そんな音楽で感動させるのに、やはりMCはゆるい。「グッズゆうぞう」とグッチ裕三を文字ったオヤジギャグを言ってから、後藤秀人がグッズ紹介を始めた。しかし他のメンバーがBGM代わりにグッズ紹介時にセッションをしていたので、ハイレベルなグッズ紹介になっている。これもキンモクセイならではだろう。

 

そんなグッズ紹介を終えると「ここからはしっとりとした曲を」と言ってから『Pocket Song』を演奏した。

 

さっきまでオヤジギャグを言っていたバンドとは思えないぐらいに、心地よくてオシャレな音楽を奏でている。後半のコーラス部分では、夜空に雪が降るような映像が使われていた。それも幻想的で良い。

 

そこから『同じ空の下で』を続けて会場を多幸感で満たし、伊藤のピアノ弾き語りから始まった『ひぐらし』で優しく観客の心を包み込む。キンモクセイの演奏やメロディの魅力は、テンポの遅い曲だと映えるのかもしれない。

 

しかしライブも後半。ここからラストスパートをかけるように盛り上げていく。疾走感ある『僕の夏』で会場の熱気を上げた。腕を上げて楽しんでいる観客もいる。アウトロのセッションで段々と激しくなる演奏も最高だ。

 

伊藤「後半になるにつれ、皆さんのノリ方が良くなってきました」

白井「ステージも客席もクラブの横ノリを模索してる感じが良かったですね」

伊藤「コロナで無観客配信ライブもやったりしました。配信も良いところはあると思うんです。会場に来れない人も観れるので。でもやはり有観客は良いですね。客席との相乗効果でより演奏が良くなるというか」

 

最後に有観客でツアーを行ったことについて感慨深そうに語っていた。バンドにとってもファンにとっても、配信だけでは埋められない気持ちがあるのだ。

 

本編最後に演奏されたのは『アシタ』。演奏が始まった瞬間に、観客は自然と手拍子を鳴らしていた。それが演奏に彩りを加えている。これも有観客だからこその雰囲気だ。

 

そんな最高の余韻が残る中、アンコールで再登場したメンバー。「夏の曲がまだ残っているので」と言ってから白井のベースから演奏を始めようとしたものの「照れちゃうからハリーのドラムから始めてよ/////」と言って急に恥ずかしがる白井。なんなのだろう。

 

そんなやり取りを経て張替のドラムを皮切りに演奏されたのは『七色の風』。〈夏はカラフル〉と言う歌詞に説得力を持たせるように、ステージ照明がカラフルに輝く。演奏も観客の手拍子も楽曲をカラフルに彩っていると感じる。

 

続いて「さよならするのは辛いけど、さらば!」と言ってから『さらば』を演奏した。この日一番と感じる大きさの手拍子が鳴り響く。

 

 

この曲はアニメタイアップで使われていたので、思い入れが強いファンも多いのだろう。会場が温かくも切ない空気で包まれた。

 

最後に演奏されたのは『生まれて初めて』。この曲も優しくて温かい曲だ。身体を揺らしたり手拍子したりと、みんな自由に楽しんでいる。でもクラブの横ノリをしている人はいなかった。

 

過去の名曲をたくさん演奏していた。新曲も演奏し現役のバンドということを見せつけていた。円熟しているのに勢いも感じる最高のライブだった。

 

伊藤は「キンモクセイは第2期に入った」とMCで語っていた通り、キャリアがあるのに伸び代すら感じた。これからのキンモクセイが楽しみにも思うのだ。

 

もしかしたら今後のキンモクセイは、クラブでDJが流すような横ノリの新曲をリリースするバンドへと進化するかもしれない。

 

■キンモクセイのGO!GO!夏おじツアー2022 at 原宿RUIDO 2022年9月4日(日) 昼の部 セットリスト

1.Summer Music

2.真っ赤な林檎にお願い

3.太郎のおかたづけ

4.密室

5.車線変更25時

6.都市と光の相対性

7渚のラプソディ

8.手の鳴る方へ

9.二人のアカボシ

10.セレモニー

11.Pocket Song

12.同じ空の下で

13.ひぐらし

14.僕の夏

15.アシタ

 

EN1.七色の風

EN2.さらば

EN3.生まれて初めて

 

↓関連記事↓