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back number『クリスマスソング』は洗脳ソング

back number『クリスマスソング』が、12月からずっと自分の脳内にBGMとして流れ続けていた。

 

それがクリスマスシーズンだけならば構わない。ガンガン流してくれと思う。

 

しかし2月初旬までずっと脳内に流れ続けていたのだ。とっくにクリスマスシーズンは終わったし、そろそろ桜ソングがラジオから流れてきそうな時期だというのに。

 

もはや自分はback numberに洗脳されたと評しても過言ではない。

 

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これは新宿でback numberの広告を見たせいである。この広告に洗脳されたのだ。

 

見た者の脳内にback number『クリスマスソング』を流す仕掛けがされている広告たった1枚の写真と簡単な一言で、見た者の脳内にbacknumber『クリスマスソング』を流すような仕掛けがされている。いとも簡単に洗脳してしまうのだ。

 

その技術とセンスに「すっげえわ」と思ってしまうような、作り込まれた広告だ。

 

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まずは「クリスマスソングを聴いた 君に会いたい」というキャッチコピーが目に入る。

 

クリスマスについて歌った楽曲はたくさんある。山下達郎やマライア・キャリーなどなど。

 

だから文字を読んだ瞬間に、各々が好きなクリスマスソングを頭に思い浮かべるのだろう。

 

しかしエモい雰囲気のエモい表情の美女が目に入った瞬間に、山下達郎もマライア・キャリーも脳内から消える。その代わり壮大なストリングスと鐘の音が脳内に流れる。

 

そして広告の下に書かれた『back number』という文字を見た瞬間、脳内BGMの音量が大きくなりback number『クリスマスソング』のサビが脳内に流れる。そして脳内に流れるback numberに感動してしまう。

 

クリスマスソング

クリスマスソング

  • back number
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

キャッチコピーで『クリスマスソング』を意識させ、エモい女性で引き付ける。

 

backnumberといえばエモい美女を多様することに定評がある。エモい美女を見ると自然にbacknumberが脳内に滲みでてくるのだ。

 

そして最後にバンド名を出してトドメを指す。完璧な流れの広告である。

 

文字と写真だけでは、実際に音を流すことはできない。しかし文字と写真の力によって、脳内に音を流すことはできる。

 

この広告は丁寧に順序立てて洗脳することで、back numberの『クリスマスソング』を脳内に流すことに成功しているのだ。

 

 

 

 

自分は広告によって、まんまと洗脳されてしまった。我ながらチョロいと思う。

 

しかし自身のチョロさが原因ではあるが、2ヶ月も洗脳が解けないことには困っている。なんとかして欲しい。

 

とはいえいつ聴いても胸に沁みる楽曲だとは思う。タイトルは『クリスマスソング』なのに、歌詞に「クリスマス」という言葉が出てこないから、全シーズン対応できる楽曲なのだ。だから12月以外に聴いても問題はない。

 

「サンタ」「トナカイ」「聖夜」といった言葉は出てくるが、歌詞全体と見るとクリスマスを意識したワードはあまり出てこない。そのため嫉妬深い妄想変態男の一途なラブソングとして、いつでも楽しむことができるのだ。

 

思い返すと作詞作曲を担当する清水依与吏は、一年を通して妄想しているし嫉妬深いしヤバイ奴だ。

 

夏にはわたがしになりたがる変態だし、大怪我をすれば秋のせいにする理不尽さを見せつけ、春は「君が僕と会えなくても平気なのが悲しい!」と言って病む。冬もきっと嫉妬深い妄想変態男であるはずだ。

 

『クリスマスソング』にも清水依与吏のブレない変態性は組み込まれている。だから彼の変態性に一度でも共感し感動した者は、この楽曲を「クリスマスなど関係なく好きだ!」と想ってしまう。長くなるだけからまとめると、そういうことなのだ。

 

逆に12月に聴くと「クリスマス」を歌詞に使わなかったことが、楽曲をより魅力的に感じさせる理由にもなる不思議さも兼ね備えている。

 

タイトルを知らずに歌を聴くと、愛する人を想うラブソングに感じる。ジワジワと世界観に引き込む物語性のある歌詞も魅力の楽曲でもある。

 

 

 

 

〈寒さが心地よくて〉というフレーズから冬の歌だと想像し、〈聖夜〉とう言葉が出てきて「これはクリスマスの歌?」と思い始め、サビでラブソングだと気づく。

 

順序立てて丁寧に歌詞の世界にリスナーを導いている。まるで新宿に掲示されていた広告と同じように、丁寧に魅力を伝える構成だ。

 

状況の描写と感情の描写が、どちらも丁寧に描かれていることも特徴である。

 

どこかで鐘が鳴なって
らしくない言葉が浮うかんで
寒さが心地よくて
あれなんで恋なんかしてんだろう

(back number / クリスマスソング)

 

例えば歌い出しでは「鐘がなっている」「寒さが心地よくて」という状況の説明と「らしくない言葉が浮かんで」「なんで恋なんかしてんだろう」という感情の説明をしている。

 

また状況描写と感情描写が交互になっているので、そこの繋がりを説明せずとも繋がっているものとして理解できる。スッと頭と心に入ってくるのだ。

 

これはback numberの歌詞の特徴であり、バンドの強みだ。

 

『ヒロイン』では〈君の毎日に僕は似合わないかな〉という自身の感情を説明した後に〈白い空から雪が落ちた〉というフレーズへと繋がっている。それによって雪が降る様子を見て感じたことを歌っているのだとわかる。

 

ヒロイン

ヒロイン

  • back number
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

雪が綺麗と笑うのは君がいい
でも寒いねって嬉しそうなのも
転びそうになって掴んだ手のその先で
ありがとうって楽しそうなのも
それも君がいい

(back number / ヒロイン)

 

サビの歌詞も見事だ。

 

〈雪が綺麗と笑う〉〈ありがとうって楽しそうなのも〉という状況描写を〈君がいい〉という自身の様々な感情を一言に詰め込んだ感情描写によって、楽曲の世界を美しく彩っている。

 

清水依与吏は嫉妬深い捻くれ妄想変態男でありつつも、繊細な感情と具体的な描写を詩的に表現する天才作詞家でもあるのだ。変態と天才は紙一重ということを、彼の仕事ぶりを見ていると納得してしまう。

 

back numberは2020年に発表した『水平線』が、新しい代表曲と言えるほどの大ヒットとなった。

 

この曲もやはり状況描写と感情描写が繊細に描かれているが、他の楽曲とは少しだけ違う部分がある。

 

水平線

水平線

  • back number
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

水平線が光る朝に
あなたの希望が崩れ落ちて
風に飛ばされる欠片に
誰かが綺麗と呟いてる
悲しい声で歌いながら
いつしか海に流れ着いて 光って
あなたはそれを見るでしょう

(back number / 水平線)

 

今までの歌詞は妄想癖の変態男が主人公で、自身の感情について歌っていることが多かった。ヒット曲がたくさんあるバンドだが、歌詞の内容は内省的だった。誰かに向けた歌に感じたことは、あまりない。

 

しかし『水平線』は「あなた」へ向けて歌われている。変態は影を潜めて、変態の代わりに大切な人メッセージを込めているのだ。

 

この楽曲は2020年のインターハイを目指していた高校生たちへ向けて書き下ろされた。

 

コロナ禍を理由にインターハイは中止になってしまったので、それによって悔しい想いをした高校生に向けてのメッセージが込められている楽曲なのだ。

 

今まで妄想の中にいるヒロインを想って書かれることが多かったので、このような歌詞は珍しい。

 

だからこそバンドの「伝えたい」という強い想いを感じ取って感動した人が多いのだろう。だから大ヒットしたのだ。

 

 

 

 

『水平線』は『クリスマスソング』とともに、2月の初め頃まで自分の脳内にBGMとして流れ続けていた。

 

広告をきっかけに「久々にback numberを聴こう」と思い全曲を聴いたところ、『水平線』のメッセージが胸にぶっ刺さってしまったからだ。変態ではないback numberも最高ではないかと思ったのだ。

 

しかしここ最近は、他の音楽が脳内でBGMとして流れ始めてきる。back numberの音楽は脳内から消えていった。

 

今は「うっせえわ!」と言いたくなるほどに、他の音楽が脳内に流れている。

 

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back numberの広告が撤去された後、同じ場所にAdoの広告が掲示されたのを観てから、ずっとAdo『うっせえわ』が脳内BGMとして流れ続けているのだ。

 

目に入った瞬間に「うっせえ うっせえ うっせえわ」という文字が目に入る広告。

 

それによって脳内でAdoの歌声が流れる。手順を踏んで丁寧に洗脳するbacknumberとは違い、Adoは広告を見た瞬間に洗脳してしまうのだ。

 

「うっせえわ」という言葉を見るだけで、サビの歌詞とメロディが脳内に浮かぶ知名度とインパクトを持った楽曲だからこそ成立する広告である。他のアーティストには真似できない。

 

今の日本で「うっせえわ」のサビを一度も聞いたことがない人はいないだろう。その下地があるから広告を見た者を洗脳し、脳内BGMに「うっせえわ」を流すことができるのだ。

 

そんな広告が成立するなんて、Ado、すっげえわ。