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サニーサイドアップ『おちゃのこサニサイ』に感じる違和感について 〜「だから私は推しました」の地下アイドル 〜

Love me 始めよう...

 

噴水の前に立つメンバー。公園のほのぼのとした空気と歌う前の緊張感が合わさった空気。それが独特で見入ってしまう。

 

サニーサイドアップという地下アイドルグループの「おちゃのこサニサイ」という曲のMV。

 

ピアノの旋律をバックに歌いはじめる。スローテンポで丁寧に。メンバーの歌声をユニゾンで届ける。

 

歌詞を噛み締めるように。メンバーが思いを込めながら。みんなを笑顔にするために。

 

メンバーが歌うメッセージを自分もリスナーとしてしっかり受け止めるべく、真剣に聴く。

 

Love me Love me 始めよう

Hug me Hug me 恋しよう

胸をじりじりと

焦がすようなクッキングタイムさ

 

は?

 

何を言っているのかわからない。いや、わかるんだけど、なにこれ。これを噛み締めて歌われて何を感じるべきなのだろう。

 

しかし、そう思った時点で、自分はサニーサイドアップに魅了されていたのだ。これこそがサニサイのアイドルとしての魅力だ。

 

サニーサイドアップとは

 

そもそもこのアイドルグループは実在しているグループではない。

 

「だから私は推しました」という連続ドラマに登場するアイドルグループ。つまりフィクション。現在公開されている楽曲も「おちゃのこサニサイ」のみ。

 

 

企画モノのアイドル。公式Twitterアカウントもドラマが放送される60日間のみ更新される。

 

サニサイのメンバーはアイドルとして成り上がろうとしているわけではない。本腰を入れてアイドル活動をしているわけではない。そもそもドラマ内の話なので実際はアイドル活動は行っていない。

 

それなのに「おちゃのこサニサイ」からは地下アイドルのリアルを感じるのだ。メンバーの雰囲気からも楽曲からもMVからも。

 

フィクションの地下アイドルなのに、そこらへんの地下アイドルよりも魅力的に感じてしまう。

 

しょぼい

 

『おちゃのこサニサイ』は絶妙にしょぼいのだ。正確に言うと「絶妙に完成度が低いように聴こえる」。ここで重要なことは「実際は完成度が高いのに低く聴こえる」という事だ。

 

サビ→なんか掛け声→Aメロ→Bメロ→サビ→ギターソロ

 

JPOPやアイドルソングの定番の構成の曲展開。

 

音階が上下するキャッチーなメロディ。ファンがコールを入れられるポイントを作ってアイドルソングのルールもしっかり守っている。コード進行はシンプル。

 

教科書通りに制作されたJPOPやアイドルソングの王道な楽曲に聴こえる。それは安心して聴けるとも言える。その代わりにひねりがないため印象に残らない可能性が高い製作方法。

 

しかし、なぜか「おちゃのこサニサイ」は耳に残るのだ。王道のひねりがない曲に感じるのに、1度聴いたら忘れられない。

  

「ひねりのない王道アイドルソング」と思わせておいて、よく聴くと個性的で作り込まれている。

 

それが「おちゃのこサニサイ」の魅力だ。

 

B級映画だけど面白くて作り込まれた名作を観たあとのような、読み終わった後に余韻がおさまらないライトノベルを読んだ後のような感覚。

 

気持ちよさと違和感の共存

 

「おちゃのこサニサイ」は韻を踏む歌詞が多い。他のアイドルソングやJPOPでも珍しくはないが、他の楽曲とは少しだけ仕組みが違う。

 

韻の踏み方や歌詞のメロディへの当て方がめちゃくちゃ綺麗で、その後には無理やり当てたかのような違和感あるフレーズを入れる。それが他の楽曲にはない珍しさ。

 

GIVE ME キミ 君 黄身

 

序盤から綺麗に韻を踏むフレーズ。メロディにも綺麗に乗っている。聴いていて気持ち良い。しかしだ。その後に続くフレーズはこれだ。

 

SUNNY SIDE UP ENJOY ENJOY ENJOY

 

ENJOYというフレーズを字余り気味でねじ込むようなフレーズ。綺麗に韻を踏んだ心地よいフレーズの後なので、強引さに違和感を感じる。

 

眩しい確信ぎゅっとぎゅっと

 

サビでも上のフレーズのように気持ちよく韻を踏んでいる。その後には違和感のあるフレーズをねじ込む。

 

キミガタメ ホワイトナイト

 

ホワイトナイトというフレーズも歌いづらそう。このメロディならば4文字が最も心地よく歌詞を乗せられるのではと思う。

 

平凡 平穏 重ねた日々は最強じゃん

2人で決めたサニサイルール

 

綺麗に韻を踏んだ後に「2人で決めたサニサイルール」の部分でマイナーコードを使いサビの終わりに向けて切なさを感じる展開になる。

 

君は半熟外はカリカリでしょ

 

その次のフレーズ。「半熟外」というフレーズが歌いづらそう。「んじゅくそと」という部分は口を開かない音が続くからだ。

 

気持ちよく聴ける展開から違和感を感じる展開に持っていく。その違和感が気になってしまい印象に残る。それは他の王道JPOPや王道アイドルソングではあまり見かけない。

 

そのため新鮮さを感じるのだ。細かい部分の工夫により「普通ぽいのに普通じゃない」と感じてしまう。この違和感を受け付けない人もいるかもしれないが、これが個性であり、自分が惹かれるポイントだ。

 

アイドルソングとして優れた歌詞

 

歌詞は恋愛をテーマにした内容。しかし使われている言葉は一般的な恋の歌とは違う。

 

試行錯誤の神レシピで

大好物なあれ作ってあげよう

 

突然料理を作る展開になる歌詞。しかしその後は料理のことを忘れたかのように相手への愛を語り、キスを求める展開。

 

好きで好きで好きで好きで

そうだ君の代わりはいない

キスしよう

 

料理を放棄しキスを求めて欲情する主人公。驚きを感じつつも聴き続ける。するとサビの後半で料理は放棄していなかったと明らかになる。

 

2人で決めたサニサイルール

君は半熟外はカリカリでしょ

 

忘れていたことを思い出したかのように料理ネタをぶっこむ。

 

「サニサイ」という単語が「半熟外はカリカリ」というフレーズから目玉焼きを表すサニーサイドアップであることがわかる。

 

前半に「SUNNY SIDE UP」というフレーズを使っていた事を思い出す。あれは伏線だったのかと気づき、少しスッキリした気持ちになる。

 

そしてグループの名前がサニーサイドアップであることを思い出す。歌詞のフレーズからグループ名をサニサイと略すことが正しいことを自然とリスナーに伝える。

 

これは少し変わった恋の歌でもあり、グループの自己紹介ソングでもある。歌詞全体がダブルミーニングになっている。聴き終わった後「サニーサイドアップがどのようなグループなのか」を知ることができる仕組みになっている。

 

「おちゃのこサニサイ」はサニーサイドアップにしか歌えない歌詞だ。他の人物やグループが歌うと歌詞の意味が変わってしまう。

 

これは王道アイドルソングの皮を被った、個性的でこだわって作られたアイドルソングだ。

 

最大の違和感

 

「完成されていない魅力」というものがある。

 

アイドルは歌が抜群に上手い子は少ない。作り込まれた楽曲だとアイドル自身が歌いこなせないこともある。それが結果的に曲もアイドルも魅力が半減することもあある。

 

しかし、アイドルの楽曲やアイドルの歌声が、徹底的に作り込まれた渾身の楽曲に負けないぐらい魅力を感じることも少なくはない。一流の歌手の歌声と同じぐらいに感動することもある。

 

プロ野球と同じぐらいに高校野球に胸が打たれるような感覚。プロのイラストレータの絵と同じぐらい子どもが一生懸命書いた絵に心が動くことと同じような感覚。

 

この感覚は意識的に作ることが難しいが、サニーサイドアップの「おちゃのこサニサイ」はこの感覚を作れている。

 

上手くない歌。楽曲も一聴しただけでは作り込まれていないように感じる。それでもついつい聴いてしまう。

 

なぜか耳に残る歌声と歌詞。気づけば鼻歌を口ずさんでしまうメロディ。メンバーやグループも気になってきた。

 

それは「アイドルの楽曲だからこそ」感じるものだ。アイドルソングだけが持っている違和感であり魔法のようなもの。

 

だんだんとサニーサイドアップをアイドルとして応援したくなる。サニサイに会いたくなってくる。ライブや握手会やチェキ会に行きたくなってくる。

 

しかし、サニーサイドアップはドラマの中に出てくるグループ。フィクション。本当は存在しないアイドル。ドラマが放送されている間の60日間のみ存在するアイドル。

 

今は「会いに行けるアイドル」が当たり前の時代。有名なアイドルや人気アイドルもライブや握手会をやっている。そこに行けば会える。

 

サニサイにはどうやっても会えない。それが切ない。会えるのはフィクションのドラマの中だけ。切ない。

 

サニーサイドアップの楽曲には違和感を感じると書いてきたが、違和感を最も感じる部分は楽曲ではない。「アイドルなのに絶対に会えない」という部分だ。会えないことの切なさや儚さや違和感にすら魅力を感じてしまう。

 

この違和感は他のアイドルにはない。他のアイドルにはない魅力だ。

 

サニーサイドアップにしかない違和感がある。それに個性と魅力を感じる。サニサイのことを、だから私は推しました。

 

放送概要

「だから私は推しました」

2019年7月27日(土)スタート(全8回)

毎週土曜 23時30分

NHK総合