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「良い音」と「悪い音」の違いは何か?

YOASOBIの音色・音圧はショボいのか?

 

 

音楽評論家の宇野維正によるYOASOBI評。

 

これには理解や共感もできる部分はある。たしかに自分も自宅で良いヘッドフォンやスピーカーでYOASOBIをはじめとする”ストリーミングやSNS、YouTubeをきっかけに流行ったネット発の音楽”を聴くと「音が良くないな」と思うことは多い。

 

自分は音の良さは重要だと思うし、ライブでは特に音圧を求めてしまう。それがショボいと感じたらガッカリもする。

 

しかし良い音質や音色、音圧レベルだからと音楽が評価されるとは限らない。多くの人を感動させる音楽になるとは限らない。「音は良いけど微妙な曲」と思うことだってある。

 

先日『ヒャダイン×岡崎体育のワンルーム☆ミュージック』という番組にYOASOBIが出演していた。

 

夜に駆ける

夜に駆ける

  • YOASOBI
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

代表曲『夜に駆ける』は9年落ちのノートパソコンによって、基本的に打ち込みで制作したと番組内で紹介されていた。エレキギターは使ったようだが、その演奏と録音は高田馬場のカラオケボックスで録音したらしい。

 

言葉を選ばずにいうと「劣悪な環境で録音された楽曲」が超有名企業でメジャーレーベルのソニーからリリースされているということだ。

 

しかもその曲が2020年の1億回以上ストリーミングで再生され、ビルボードチャートで年間1位となっている。日本の音楽シーンにおいて、最も録音に経費をかけずヒットした楽曲かもしれない。

 

お金をかけて視聴環境を整えているオーディオマニアや、録音環境にこだわっているミュージシャンにとっては、歯痒い気持ちの人もいるかもしれない。

 

しかしこれにも意味があって、またもや言葉を選ばずにいうが「あえてショボい音」と思われる音質にしたのだと思う。

 

田舎の漁港のスピーカーから聞こえるかどうか

 

秋元康の持論に「ヒット曲に大事なのは田舎の漁港のスピーカーから聞こえるかどうか」というものがある。筆者がかつて『別冊カドカワ 総力特集 秋元康』の制作を担当していた時に聞いた話だ。

(乃木坂46の新曲にみる、秋元康の“仮想敵”とは? サウンドの特徴から分析)

 

AKBグループや坂道グループのプロデュースを行う秋元康には、上記のような持論がある。

 

そのためか彼のプロデュースするアーティストやアイドルの音楽は、歌声が前面に出ていて低音域がゴッソリと削られていることが多い。

 

インタビューでは「JBLのいいスピーカーで聴いたら『お、いいね』となるけど、あの漁港のスピーカーからは聴こえない。だから『いいから、一番小さなラジカセを持ってきてくれ』と僕は言うんです」と答えている。

 

こちらも宇野維正は「自宅のスピーカーで聴く音楽じゃない」と評するかもしれないが、そこにはこだわりや理由もある。

 

大衆音楽として世の中の多くの人に聴かせることが目的なのだ。多く人は高級スピーカーもヘッドフォンも持っていないから、ラジカセでは気づかない良い音を収録すること以外の部分を大切にしているのだと思う。

 

「PPAP」はYouTube投稿だから、スマホなどの小さなスピーカーでもきちんと狙った音で聴けるように、あえてそのような音色を使っているんだそうです。

(ヒット理由はスマホだった。ピコ太郎「PPAP」の巧妙な仕掛け)

 

ピコ太郎の産みの親というか本人の別名義である古坂大魔王は、2017年3月19日に放送された『関ジャム完全燃SHOW』にて世界的大ヒットになった『PPAP』の音作りについて上記のように語っていた。

 

ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)

ペンパイナッポーアッポーペン(PPAP)

  • ピコ太郎
  • ダンス
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

 

番組内では戦略的にあえて「スマホでも良く聴こえる音色」を作っていることを語っていた。高級スピーカーでしか聴けないような音は使われていないのだ。

 

つまり「世間に求められている音」は日本だけでなく世界的に変化していて、それはスマートフォンで音楽を聴くようになったことが、大きく影響しているようだ。

 

YOASOBIはYouTubeに『夜に駆ける』のMVを投稿したことから活動が開始した。楽曲がストリーミングとDLで配信されたのはMV公開から一ヶ月後。CDのリリースはそれから約1年後である。

 

活動経歴や制作過程からしても、ピコ太郎と同じようにスマホなどの小さなスピーカーで聴かれることを想定していたと思う。

 

iPhoneのスピーカーでYOASOBIを聴けば、細かい音までは綺麗に聞き取ることができないが、歌は聴き取りやすくメロディの良さが実感できる。

 

ピコ太郎はスマホに最適化された音だから歌がダイレクトに頭に入ってきて、彼の強みであるユーモアな歌詞が印象に残るのだろう。

 

 つまり秋元康の「ヒット曲」についての持論は、音楽を聴く環境が変わったとしても現代も通用していて、それが今の音楽を聴く音として求められているのかもしれない。

 

 

酷い音響でも音楽に感動できる

 

自分が音楽を好きなったきっかけは、ミュージックステーションに出演している椎名林檎を観たことがきっかけだ。

 

当時は地デジ放送が始まる前だったし、テレビはブラウン管だった。テレビに内臓されたショボいスピーカーで観て聴いていた。

 

それでも椎名林檎の音楽に衝撃を受けたし感動した。自分が音楽を好きになった瞬間であり、ロックの衝動を初めて感じた瞬間だった。あの放送を観ていなければ、自分は音楽を主体的に聴くようになることはなかったかもしれない。

 

高校生の頃に最も聴いたアルバムは、銀杏BOYZ『君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命』だ。

 

SKOOL KILL

SKOOL KILL

  • 銀杏BOYZ
  • ロック
  • ¥153
  • provided courtesy of iTunes

 

音は割れているし騒がしいし無駄に音がデカいし、一般的な基準では「良い音」とは言えない音質。むしろ10人中9人が耳を塞ぎたくなるような悪い音だ。自分の母親は「こんなの音楽じゃない」と批判していた。そんな音である。

 

しかし自分の人生において大きな影響を与えてくれたアルバムであり、自分にとって特に大切なアルバムの一つだ。日本のロック史においても重要なアルバムと評する人も多いし、特に今の30歳前後のロックやパンクを愛する人には強い影響を受けた人が多い。

 

そういえば神聖かまってちゃんを初めて聴いたのも、YouTubeの宅録音源のMVだった。『ロックンロールは鳴り止まないっ』を初めて聴いた時の衝撃は忘れられない。

 

大森靖子を初めて知って感動したのも、YouTubeにある隠し撮りみたいな映像と音質のライブ動画だ。とんでもないシンガーソングライターだと思って、すぐに当時リリースされているCDを全て購入した。

 

 

洋楽で言えばNirvanaやPixiesも最初聞いた時は「音がうるさい」としか思えなかったが、だんだんとツボにハマって大好きになった。

 

今まで自分が音楽を好きになる時に、「音の良さ」は関係なかった。どれだけ悪くて酷い音響でも、感動する時はあった。

 

もちろん音の良さに感動することもある。

 

最近のアルバムならばASIAN KUNG-FU GENERATION『ホームタウン』やBase Ball Bear『C3』は音の良さに痺れた。

 

録音へのこだわりを感じるし、バンドを含めて関わった人が一流の仕事をして最高の音を作っているのだと思う。

 

曲で言えばBTS『dynamite』はドラムの音がガツンと来る音圧は最高だ。

 

ホームタウン

ホームタウン

  • ASIAN KUNG-FU GENERATION
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

音の良さは大切なことだが、「音」としてよりも「音楽」として良いと思うかどうかや好きかどうかが、最も重要なことに思う。アジカンやベボベのアルバムもBTSも音が良いだけでなく、音楽としても自分は大好きだ。

 

自分は良い音を聴きたいわけではなくて、好きな音楽や良いと思える音楽を聴きたい。その上で良い音で聴けるならば嬉しい。

 

例えばYOASOBIをきっかけに音楽を好きになった人が「良い環境で音楽を聴こう!」と思って高いヘッドフォンやスピーカーでYOASOBIを聴いたら、音をショボいと思ってガッカリするかもしれない。

 

それでも最初に音楽を聴いて感動した体験や記憶は薄れないし、音の悪さ自体がアーティストや音楽の評価に、大きく影響するわけではない。むしろYOASOBIは時代に合わせた音作りをすることで、楽曲の魅力を幅広い層へ伝えることに成功したと言える。

 

きっと「良い音で聴きたい」よりも「好きな音楽を聴きたい」と思っている人が多いと思う。

 

そもそも音楽の好みが人それぞれ違うように、音の好みも人それぞれ違う。音楽に限らずどのような物事でも、何を理由に「良い」と評価するかは千差万別だ。

 

たしかに最高のレコーディングスタジオで一流の環境で録音されたら、YOASOBIはどのような音を聴かせてくれるのかは気になる。今よりも楽曲が魅力的に聴こえるかもしれない。

 

でも彼らの「音楽」はショボくないから、劣悪な環境(あえてこの表現を使わせてもらう)で録音されたとしても、多くの人に愛されているはずだ。

 

「ビートの単調さと音色・音圧のショボさ」が世間で許容されているのではなく、「魅力的な音楽を作るYOASOBI」と思われているから世間で許容されているのだ。

 

というか「良い音」と「悪い音」の違いは人それぞれの感覚でしかないし、その違いや基準を説明できる人などいないのかもしれない。

 

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