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小松未歩は突然消えてしまったが現在何をしているのだろうか?

いつの間にか表舞台から消えた小松未歩

 

表舞台から消えてしまうミュージシャンや歌手、アーティストは少なくはない。それはヒット曲を持っているアーティストや知名度が高いアーティストにも当てはまる。

 

小松未歩もいつの間にか表舞台からいなくなったアーティストの一人だ。

 

シングル『願い事ひとつだけ』は50万枚のヒット曲となり、2ndアルバムは80万枚のヒット作になった。名探偵コナンなど話題性のあるタイアップも行っていた。聴いたことある人も多いかと思う。

 

願い事ひとつだけ

願い事ひとつだけ

  • 小松未歩
  • J-Pop
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そんな人気アーティストだった小松未歩も、2006年に突然活動を止めてしまった。その理由は説明されていない。そもそも情報を突然シャットアウトされた状態なので、活動休止なのか引退したのか、それさえも謎のまま。

 

音楽活動をしていないという事実があるだけ。

 

小松未歩はテレビやラジオなどのメディアには1度も出演していない。ライブは1回も行わなかった。インタビューを受けたり雑誌でのコラム連載は行っていたが、音源以外の情報は少ない。

 

かつてのビーイング所属アーティストはメディア出演を避ける傾向があったが、ここまで徹底していた例は小松未歩以外にはない。

 

だから彼女は静かに忘れられていった。世間の人達は存在を覚えていないだろうし、若者は知らない人の方が多い。

 

しかし彼女の才能や残した画曲のことは忘れてはならない。今聴いても個性的で魅力的で、素晴らしいポップスに思う。

 

ザ・ビートルズを90年代J-POPと組み合わせた音楽

 

小松未歩は優秀なメロディメイカーだと思う。彼女の書くキャッチーなメロディで一度聴けば忘れられない。

 

音楽作家としても優秀だ。タイアップが多いアーティストだったが、タイアップ先に合わせた楽曲を丁寧に作っていた。

 

テレビアニメ『名探偵コナン』の主題歌になり、彼女の出世作にもなった『謎』もタイアップ先の物語や設定を意識した歌詞になっている。

 

謎

  • 小松未歩
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『ダブルトラック』という手法を徹底的に行っていることが、小松未歩の音楽の特徴である。

 

『ダブルトラック』とは同一人物のボーカルを二重に重ね取りする手法だ。ザ・ビートルズが世界で初めて行った録音手法と言われている。ビートルズサウンドの特徴でとある。

 

日本では中村一義が初期の作品で頻繁に使用したり、Mr.Childrenが『innocentworld』で使用している。ミスチルも中村一義もビートルズから強い影響を受けている。それもあって取り入れているのではないだろうか。

 

innocent world

innocent world

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しかし小松未歩のダブルトラックに対するこだわりは他のアーティストとは少し違う。

 

彼女はデビューから一貫して全曲でダブルトラックのボーカル録音をしているのだ。それも楽曲内の一部分ではなく、全箇所がダブルトラック。それ以外のボーカル録音をしていない。

 

それが小松未歩の特徴で他にはない個性だ。

 

他のダブルトラックを使うアーティストがザ・ビートルズから影響を受けたバンドサウンドが多いのに対して、シンセサイザーや打ち込みやサンプリングなどの電子音を多用していることも、他とは違う特徴である。

 

小松未歩はJ-POP的なサウンドなのだ。いわゆる「ビーイングサウンド」に思う。

 

「ビーイングサウンド」でザ・ビートルズのオマージュを感じる楽曲を作っていることが面白い。編曲の明石昌夫のセンスによるものかもしれないが『錆び付いたマシンガンで今を撃ち抜こう』は『In My Life』の影響を感じるし『青い空に出逢えた』からは『Let It Be』の影響を感じる。

 

青い空に出逢えた

青い空に出逢えた

  • 小松未歩
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Let It Be

Let It Be

  • ビートルズ
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そただキャッチーなだけで消費される音楽ではなく、深く楽しめる音楽なのだ。

 

ビートルズ以外にもオマージュをしている楽曲はある。『sickness』ではビリー・ジョエル『Don't Ask Me Why』をオマージュしている。影響を受けた音楽を自身の作品に取り入れているのだ。

 

Sickness

Sickness

  • 小松未歩
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Don't Ask Me Why

Don't Ask Me Why

  • ビリー・ジョエル
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オマージュを取り入れると玄人受けするマニアックな音楽になりがちだが、小松未歩は大衆向けのJ-POPにきちんと昇華させている。マニアックなことをやっているのに、キャッチーでポップ。

 

それが小松未歩の特に大きな魅力だと自分は思う。

 

 

少しづつ人気が下がって行った小松未歩

 

ビーイング社長のがプロデュースを担当した楽曲が多いが、本人のセルフプロデュース作品もある。 

 

しかしセルフプロデュース作品にヒット曲はない。

 

さよならのかけら

さよならのかけら

  • 小松未歩
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例えば7枚目のシングル曲『さよならのかけら』は、長門大幸がプロデュースした前作からランキング順位と売上を大きく落とした。

 

『さよならのかけら』は5万枚の売上で最高順位は17位。

 

80万枚売れた2ndアルバムの次にリリースされた作品で注目度も高かったのに、急激に売上を落としたのである。

 

しかしその次に発売された長門大幸プロデュースの『最短距離で』と『風がそよぐ場所』は15万枚売り上げている。

 

風がそよぐ場所

風がそよぐ場所

  • 小松未歩
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セルフプロデュースになると売上が下がってしまうのだ。

 

シングル『あながたがいるから』以降の作品は全てセルフプロデュースだが、人気も売り上げもずっと右肩下がり。気づけばTOP20に入ることも難しくなっていた。

 

セルフプロデュース楽曲は派手な曲が少ない。ミドルテンポからスローテンポの落ち着いた曲が中心で、曲も歌詞も影を感じる作品が多い。

 

Last Letter

Last Letter

  • 小松未歩
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セルフプロデュース作品は難解な表現が多い。『ひとは大昔 海に棲んでたから』のような詩的で難解な歌詞は初期は書くことがなかった。『東京日和』のように具体的な地名やワードを使い具体的な描写を描き、生々しさを感じる表現をすることもなかったと思う。

 

ひとは大昔 海に棲んでたから

ひとは大昔 海に棲んでたから

  • 小松未歩
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以前は抽象的ながらわかりやすい言葉を並べ、リスナーを共感させる歌詞が多かった。曲調も明るかった。大衆に開いた表現をしていたのだ。

 

しかしセルフプロデュース作品は内向きで閉じた作品が多い。万人に広く浅く気に入ってもらえる楽曲ではなく、一部の人に深く刺さる楽曲が中心になった。それが活動中期から後期にかけて続いた。

 

かつては「J-POPを作る職人」的な傾向が強かったが、セルフプロデュースを積極的に行うことで、自身のアーティスト性を強めたよつに思う。ヒットを狙うよりも自身の表現を優先して曲作りをしていたのかもしれない。

 

だから楽曲のクオリティが下がってヒット作が出せなくなったわけではない。クオリティは高いまま維持されている。

 

むしろ個人的にはセルフプロデュース作品の方が優れているとすら思っている。最後のアルバムになった『a piece of cake』は最高だ。1番の名盤だと思う。

 

小松未歩はフェードアウトするように活動を終えてしまった。

 

しかし「売れなくなったから辞めた」というわけではない気がする。あくまで自分の想像だが、自身の音楽をやり切って、自らの決断で辞めたのではと思う。

 

 

happy ending

 

小松未歩が最後にリリースした作品は『ones more』というタイトルのベスト盤だ。

 

彼女のキャリアで唯一のベストアルバムであり、9年間の音楽キャリアを総括するアルバムである。

 

ベストアルバムには1曲だけ新曲が収録されている。それが小松未歩にとって最後に発表した楽曲だ。

 

happy ending

happy ending

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タイトルは『happy ending』。

 

ハッピーエンドになりますように 

心からそう願っている

(小松未歩 / happy ending)

 

これは『happy ending』の最後のフレーズだ。

 

まるでこれが最後の曲だと意識して作ったように感じてしまう。

 

彼女が現在何をしているのかはわからない。今後活動するのかもわからない。そもそも「活動していない」という事実はあるものの、活動について何のアナウンスもされていない。そういえば生年月日も本名も明かされていないし、謎が多すぎる。

 

活動しなくなってから14年。まだ小松未歩の謎がとけていかない。