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【レビュー・感想】aikoのアルバム『どうしたって伝えられないから』の歌詞から「あたし」が急激に減った件

ばいばーーい

 

aikoの歌には共感してしまう。

 

聴いた者を歌の世界観に一瞬で引き込んでしまうような物凄い力をもっているのだ。だから聴けば自分が歌の主人公になった気分になる。

 

男も女も関係なく、aikoの音楽を聴けば自分もaikoになれる。カブトムシにだってなれる。昆虫の気分も味わえる。そうやって悲しい日を超えてきた。

 

最新アルバム『どうしたって伝えられないから』をリリースしたaiko。「アルバムを聴いて、また自分もaikoになろう♪」と思いながらアルバムを聴いた。

 

しかし、このアルバムを聴いても、自分はaikoになれなかった。こんな気持ちになったのは初めてだ。

 

それは1曲目の『ばいばーーい』を聴いた時に感じた。

 

ばいばーーい

ばいばーーい

  • aiko
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この歌を聴いた時に自分は歌の主人公ではなく、主人公の別れた恋人の気分になった。このアルバムを聴いたら、aikoではなくaikoの元カレになってしまう。

 

aikoがこちらに語りかけてきた

 

ねえ 合鍵も返さないで何してるの?

 

これは『ばいばーーい』の最初のフレーズである。

 

こちらに語りかけてきたのかと錯覚してしまうようなフレーズ。そう思った瞬間に楽曲の世界に引き込まれる。

 

一瞬で歌の世界に引き込むことのはいつも通りだが、この曲ではリスナーをaikoにさせるのではなく、aikoの恋人にさせた。いや、aikoを振った元恋人にさせられた。

 

『ばいばーーい』を聴けば、誰もがaikoを振った元恋人になってしまう。自分もaikoをフった男になった。合鍵を返さなくて、マジでごめん。

 

この曲は下記のフレーズで終わる。

 

この歌を作り終えた頃 あたしは少し前を向いている

 

生々しい。aikoを生々しく感じる。過去の楽曲を含めて、最もパーソナルな部分が反映されたフレーズに思う。

 

こんなフレーズがあるということは、主人公はaiko自身だと判明したようなものだ。ドキッとしてしまう。

 

そして歌の世界に入り込んで元彼になっている自分は「マジでごめん」という気持ちになる。それと同時に「前を向いているならよかった!」とクズ男な発想もしてしまった。マジでごめん。

 

それぐらい音楽に入り込んでしまう。それぐらいaikoの音楽は求心力を持っている。

 

しこも今作は今までとは違うタイプの入り込ませ方をさせてきた。デビュー24年目のベテランが、新しいパターンで表現をし始めた。

 

 

セルフプロデュース

 

今作はデビュー23年目にして初のセルフプロデュース作品である。だからか彼女のパーソナルな部分が特に反映された楽曲が多いように感じる。

 

しかし照れ隠しなのだろうか、そのパーソナルな部分を少しだけ隠すような楽曲もある。

 

今作は歌詞の一人称に「あたし」が使われることが少ないのだ。

 

『ハニーメモリー』『シャワーとコンセント』『愛で僕は』の一人称は「僕」。『メロンソーダ』『しらふの夢』『片想い』は一人称がない。

 

シャワーとコンセント

シャワーとコンセント

  • aiko
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

こんなに「あたし」を使わないaikoアルバムは初めてだ。約半分の曲で使われていない。そのことにあたしはビックリした。

 

aikoの音楽を聴くと自分もaikoになった気分になれう。

 

それは「あたし」という一人称により身近に感じさせ、それでいて誰もが経験したことがあるような切ない出来事や感情を、わかりやすくも抽象的に表現していたからだ。

 

しかし今作はより歌詞の内容が生々しくて具体的な描写が多い。

 

しかし一人称が「僕」であったり一人称を使わないことで、主人公の性別がわかりづらくなることでバランスが取れているのだ。

 

そのため男である自分は「僕」が一人称の曲が刺さりまくるのである。いつも以上にaikoの曲に泣かされるのである。この仕掛けによって、より生々しくaikoを感じる入り込み方をしてしまう。

 

いつもは自分がaikoになった気分になるのに、今作はaikoが自分になったように感じた。

 

これはセルフプロデュースだから生まれた新しさと魅力だ。

 

 

編曲も今までと違う

 

川谷:マシン・ガン・ケリーの話もありましたけど、ああいうロックとヒップホップみたいに、シティポップと何か、みたいな組み合わせが大事なのかもなって。シティポップだけだったら、昔のものには絶対勝てないと思うので、シティポップと何か……その何かはまだわからないですけど、そこを上手く融合できた人が、もしかしたらアニメ以外の文脈から「海外で最も再生された国内アーティスト」になれるのかもしれない。

(引用:川谷絵音が振り返る2020年の音楽シーン)

 

川谷絵音のインタビューを読んで、aiko『どうしたって伝えられないから』が頭に浮かんだ。

 

aikoは海外進出を目指しているわけではないだろうが、ここで話されている「シティポップと何かの組み合わせ」に最新作では成功していると感じた。

 

「aiko進行」と呼ぶが人がいるぐらいにコード進行が変わっていたり、半音で終わるメロディは唯一無二で個性的であるが、今までのaikoは王道J-POPなサウンドだった。華やかで音が多く重ねられているような感じ。

 

しかし今作は音数が心なしか少ない。ゆったりとした曲が多く繊細に音を積み重ねる編曲が多い。音色の一つひとつへのこだわりを感じる。いつもよりもオシャレな編曲が多い。

 

『青空』は音の隙間を作ることでノリを作っているし、『メロンソーダ』の控えめなギターや印象的なホーンの音もオシャレ。

 

メロンソーダ

メロンソーダ

  • aiko
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

これはシティポップさがある。それでいて王道J-POPらしさも感じるメロディや曲構成でもある。

 

シティポップとJ-POPを組み合わせた作品に感じるのだ。それは今まであったようでなかった組み合わせで、やろうと思っても成功しなかったか組み合わせかもしれない。

 

というかもはや「aikoの音楽」自体が一つのジャンルに思える程に個性的である。

 

つまり「シティポップとaikoの組み合わせ」と評した方が正しいかもしれない。これもセルフプロデュースだからこそ生まれた、唯一無二の個性であり新しい魅力だ。

 

aikoはどの作品を聴いてもすぐにaikoの曲だとわかるほどに個性的だ。それゆえに「似ている曲が多い」と言う人もいる。

 

しかしよくよく聴くと作品ごとに違う個性も持っていて、作品ごとに新しい挑戦もしている。

 

キャリアを重ねるごとに進化している。個性はより強まっていく。だから20年以上第一線で活躍しているのだ。

 

『どうしたって伝えられないから』は特にaikoの新しい魅力が分かりやすく伝わる作品だ。いつまでも『ボーイフレンド』や『カブトムシ』のイメージでいる人も、新鮮な気持ちにさせてくれる作品でもある。

 

リード曲の『磁石』を聴いただけでも、編曲や音色が今までと違うとわかるはずだ。

 

磁石

磁石

  • aiko
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

とはいえここまで感想を述べても、全ての魅力はどうしたって伝えられないから、聴いて確認して欲しい。

 

だからこれ以上の文章の羅列は無駄だ。このあたりで文章を締めようと思う。

 

ばいばーーい。

 

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