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映画『天気の子』のRADWIMPSの音楽に注目した感想・レビュー・評価(ネタバレあり)

鳥肌がたった瞬間

 

映画「天気の子」を観て鳥肌が立つ瞬間がいくつもあった。

 

晴れたり曇ったり雨が降ったりする空の天気と同じように、心ぐらぐら動かされる。笑ったり泣きそうになったり、嬉しくなったり悲しくなったり。

 

2時間の間に何度も、何度も。

 

物語の展開にドキドキして感動した。登場人物の心理描写によって心が動かされた。話題性がある作品ではあるが、話題性ではなく「内容の良さ」が評価されてヒットするはずだ。

 

いい映画だと思った。

  

劇中で使われている音楽が物語に彩りを加えていた。自分が「天気の子」で鳥肌が立った理由は作品で使われていた音楽によるものが大きい。

 

例えば『風たちの声』が流れたシーン。

 

風たちの声

風たちの声

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主人公の帆高が東京に出て来て、圭介の元で働き始めたシーンの後に流れた曲。

 

「東京に出て来て人と食べる初めての食事で、こうして僕の新しい毎日が始まった」

 

帆高の言葉の後に流れる『風たちの声』。この曲が流れた瞬間、映画の空気が変わる。

 

暗い描写が多かった序盤。その雰囲気がパッと明るくなる。主人公の環境の変化や心理描写の動きを見事に表現している。

 

音楽を担当したのはRADWIMPS。

 

「天気の子」は新海誠監督の凄さや出演声優の演技力の素晴らしさだけで成り立っているわけではない。多くの関係者やスタッフ、そしてRADWIMPSの音楽によって素晴らしい作品が作り上げられている。

 

ストーリー・概要

 

「君の名は。」が歴史的な大ヒットを記録した新海誠監督が、天候の調和が狂っていく時代に、運命に翻弄されながらも自らの生き方を選択しようとする少年少女の姿を描いた長編アニメーション。

 

離島から家出し、東京にやって来た高校生の帆高。生活はすぐに困窮し、孤独な日々の果てにようやく手に入れたのは、怪しげなオカルト雑誌のライターの仕事だった。そんな彼の今後を示唆するかのように、連日雨が振り続ける。

 

ある日、帆高は都会の片隅で陽菜という少女に出会う。ある事情から小学生の弟と2人きりで暮らす彼女には、「祈る」ことで空を晴れにできる不思議な能力があり……。

 

「兄に愛されすぎて困ってます」に出演した醍醐虎汰朗と「地獄少女」「Last Letter」など話題作への出演がひかえる森七菜という新鋭の2人が、帆高と陽菜の声をそれぞれ演じる。

 

そのほかの出演に小栗旬、本田翼、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子ら。「君の名は。」に続いて川村元気が企画・プロデュース、田中将賀がキャラクターデザイン、ロックバンド「RADWIMPS」が音楽を担当。RADWIMPSが手がける主題歌には女性ボーカルとして女優の三浦透子が参加。

 

 新海誠監督の『君の名は』でも音楽を担当していたRDWIMPS。今作でも引き続き音楽を担当している。音楽担当は入れ替わっていなかった。

 

この映画の舞台は現代。しかし設定もストーリーもファンタジー。

 

リアリティはない展開の映画。それでも登場人物に自然と感情移入してしまう。登場人物に対して「リアル」を感じるのだ。

 

上映時間は約2時間。その時間で登場人物の全ての心理描写を脚本や映像で伝え切ることは不可能だ。言葉にすることができない感情も。映像にできない感情もある。

 

そのような感情をRADWIMPSの音楽が伝えてくれる。言葉や映像で伝えきれない部分も音楽で補足しくれる。

 

だからファンタジーなのにリアルを感じるのだ。ありえない状況なのに自然と感情移入して物語に入り込んでしまうのだ。

 

音楽を使い分けるRADWIMPS

 

バンドが映画音楽を担当することは珍しくはないが「バンドに担当してもらうこと」に意味を見出している作品は少ない。普段は歌モノをやっているバンドを使う場合は特に。

 

『天気の子』はRADWIMPSが音楽を担当する意味があり、RADWIMPSでなければならない理由があるように思う。歌モノの楽曲は5曲使用されている。どれもがラッドの個性が爆発している楽曲。それらが映画をより魅力的に引き立てる。

 

もちろんインストゥメンタルの楽曲も使用されている。むしろインストの方が多い。

 

RADWIMPSにとって映画音楽を担当することは『君の名は』の公開以前はなかった。新しい挑戦であり音楽性の幅を広げる重要な活動だったと思う。

 

そして再び『天気の子』で音楽を担当した。RADWIMPSはまだまだ進化している。さらに「映画音楽」として素晴らしい楽曲を制作した。

 

『天気の子』のテーマ

『天気の子』のテーマ

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登場人物の台詞が多いシーンで使われることが多い。台詞に込められた感情や補足いたりその場の空気感をよりわかりやすく伝える役割として使われている。

 

逆にボーカル曲は台詞の少ない場面や展開が目まぐるしく変わるシーン、物語において重要なシーンで使われることが多い。「ここぞ」というシーンを強く印象付けるためだろう。

 

男性ボーカルと女性ボーカルの使い分け

 

ボーカルが入ると楽曲の印象も強くなる。

 

そのため使うシーンも音楽に負けないぐらい印象的なシーンでなければ音楽に負けてしまう。

 

『天気の子』の映像は音楽に負けていない。むしろ相乗効果で音楽も映像もより魅力的になっている。ボーカル曲は「どの楽曲をどの場面で使うか」は徹底的に考えられている。

 

祝祭 (Movie edit) feat.三浦透子

祝祭 (Movie edit) feat.三浦透子

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陽菜が「晴れ女」の仕事を始め、仕事が軌道に乗り始めたシーン。いくつもの「晴れ女」の仕事を成功させ、お客さんから感謝されている場面。

 

『祝祭』という曲が流れる。ボーカルは野田洋次郎ではなく三浦透子。

 

僕の中を光らせる鍵をなぜ君に持たせたのか

そのワケをただ知るそのために

生きてみるのも悪くはないよね

 

「晴れ女」の仕事により陽奈だけでなく帆高も自分の存在意義を見つけたようなシーン。それを歌詞でも表現しているように思う。 

 

陽菜や凪が仕事を楽しんでいる様子がより伝わり、少しづつ帆高が陽菜と凪と信頼関係を築いていることが言葉を使わずとも伝わってくる音楽。

 

グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子

グランドエスケープ (Movie edit) feat.三浦透子

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帆高が陽菜を空に迎えに行くシーンで流れる「グランドエスケープ」。物語のクライマックス。最も重要なシーン。それを三浦透子の歌声が彩る。

 

もう少しで運命の向こう

もう少しで文明の向こう

もう少しで運命の向こう

もう少しで

 

陽奈が地上に戻ってくることは運命に逆らうことだ。それに逆らって運命の向こうに行って世界を変えようとしているシーン。そのことを曲でも歌っているように感じる。

 

空から落ちて行く帆高と陽奈。そのシーンは二人が運命の向こうへ進んでいるように見えた。

 

愛にできることはまだあるかい

愛にできることはまだあるかい

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君がくれた勇気だから 君のために使いたいんだ
君と分け合った愛だから 君とじゃなきゃ意味がないんだ

 

愛にできることはまだあるかい
僕にできることは まだあるかい

 

警察の制止を逆らって帆高が代々木の廃ビルの屋上に向かうシーン。陽奈のために行動しているシーン。

 

歌詞もそのことを歌っているようだ。

 

劇中で帆高が言葉にしていなかった感情を音楽によって伝えている。映画をより感動的にしている。

 

大丈夫

大丈夫

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 「あの時の僕たちは世界を変えたんだ。僕はあの人と生きて行くことを選んだんだ。僕たちは大丈夫だ」

 

主人公の台詞の後に流れた「大丈夫」という曲。

 

ラストシーン。帆高が東京に戻って来たシーン。坂道の上に陽奈の姿が見えた時に流れたラストシーン彩った楽曲。

 

取るに足らない小さな僕の

有り余る今の大きな夢は

君の「大丈夫」になりたい

 

君を大丈夫にしたいんじゃない

君にとっての大丈夫になりたい

 

異常気象が続く世界だとしても二人にとっては「大丈夫」になった世界。ラストシーンであり映画のハイライトでもある場面。最後にふさわしい映像と音楽。観終わった後の余韻を強く残してくれる。

 

映画を観ていてボーカル曲の使用方法について気づくことがある。

 

それは主人公の帆高の視点で重要なシーンに野田洋次郎のボーカル曲が使用され、ヒロインの陽奈の視点で重要なシーンに三浦透子のボーカル曲が使用されていることだ。

 

歌で主人公の気持ちを代弁するためだろうか。ボーカリストと登場人物の性別を一致させるように、男性ボーカルと女性ボーカルを使い分けている。

 

歌の性別と登場人物の性別が一致していることで、より登場人物の感情が伝わるような仕掛けになっているのだ。

 

劇中でボーカル曲を使うことの凄さ

 

「天気の子」では5曲のボーカル曲が使用されている。ミュージカル以外の映画ではこれほど多くのボーカル曲が劇中で使用されることは珍しい。

 

歌の力は強い。歌詞という言葉があるからだ。歌では耳に入る歌詞に気を取られてしまうことがある。そのため歌のせいで映画のバランスを崩してしまう可能性もある。歌を作中でしようすることは難しい。

 

しかし『天気の子』ではボーカル曲も上手く使用して音楽が物語を引き立てていた。同じように物語も音楽の魅力を引き立てていた。

 

RADWIMPSが曲も歌詞も映画のことをイメージして製作したことも影響しているとは思う。

 

新海誠監督もそれらの楽曲をどのように使用するべきかを徹底的に考えて使用している。一つの作品として完成度を高めるため、音楽とどのように向き合うべきか考え抜いているように思う。

 

一流の者同士が本気になった時、素晴らしい作品が出来上がる。それを実感した。

 

映画の細かい部分に触れるとツッコミどころはある。回収できていない伏線もあるし、作中で触れるべきだった設定や登場人物の背景も無視している部分もある。矛盾を感じる設定もある。

 

それでも自分は『天気の子』を名作だと感じる。グッとくる映画だった。感情が揺れ動かされた。心を鷲掴みにされた。

 

RADWIMPSの音楽と合わさると映像だけでは伝わりきらなかったであろう物語の意味や登場人物の感情も伝わってくる。逆に映像によってRADWIMPSの音楽により深みを感じ「この歌詞にはこういう意味があったのだろうか」と想像が膨らむ。

 

いい映画だ。多くの人に観て欲しい。RADWIMPSもいいバンドだ。たくさんの人に聴いて欲しい。

 

天気のように観ていて自分の感情もコロコロと変わる。それでも観終わった後は晴れ渡った気持ちになる。たとえ天気が雨だったとしてもね。降っても晴れてもひなた日和。

 

『天気の子』はそんな映画。

 

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天気の子 (角川つばさ文庫)

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