オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

【ライブレポ・セットリスト】BiSH『PUNK SWiNDLE TOUR』 at 大宮ソニックシティ大ホール 2023年3月16日(木)

6月29日にBiSHは東京ドームで解散する。つまり今回のツアー『PUNK SWiNDLE TOUR』はBiSHにとって最後の全国ツアーでもある。だからこそいつも以上の期待と緊張と、いつもと違う寂しさと切なさを感じる清掃員が、少なくなかったと思う。

 

自分が参加した大宮ソニックシティ公演も、客席はそのような独特な空気で包まれていた。しかしBiSHはそんな思いを昇華させるように、全員を楽しませるつもりでいたはずだ。

 

ステージセットは大きな配管がいくつも張り巡らされたような形で、まるで廃工場のような迫力と怪しさがある。そんな壮大なセットを見ているだけで期待が高まるので、解散間近という悲しさを吹き飛ばしてくれる。

 

開演時間をすぎ照明が落とされると、ステージセット中央に設置されたスクリーンにオープニング映像が流れた。

 

バンドメンバーが先に登場し、映像に合わせてジャムセッションをしている。そんな演奏が観客の心を昂らせる。ステージセットだけでなくバンドメンバーの演奏でと「寂しさ」や「悲しさ」を吹き飛ばしてくれる

 

f:id:houroukamome121:20230329134349j:image

 

セッションが終わるとステージセット中央の鉄網の扉が開き、メンバーが登場した。その瞬間に歓声が湧き上がる。そうだった。ガイドラインが変更になったから、このライブは観客が声を出すことができるのだ。

 

そんな歓声をメンバーが浴びる中始まった1曲目は『サヨナラサラバ』。真っ赤な照明に包まれながら、クールにパフォーマンスしている。レーザー照明が飛び交ったりと、ホール公演ではあるがアリーナと変わりない豪華な演出も最高だ。

 

2曲目に『GiANT KiLLERS』が披露されれば、早くも観客のボルテージは一気に最高潮に。この楽曲は清掃員のコールも含めて完成するような楽曲だ。ルールで声量の大きさに制限がかけられていたので、コロナ禍以前ほどの大声ではなかった。しかしそれでよ会場に響く清掃員の声を聞いているだけで、こちらもテンションが上がってくる。

 

アイナ・ジ・エンドは自身の最初のパートの歌詞を全て「埼玉!埼玉!埼玉!」と埼玉を連呼する言葉に変えていたし、アユニ・Dは間奏で「端から端まで見えてるからね!」と客席全体を見渡し指差しながら煽る。メンバーも清掃員に負けないぐらい楽しんでいるようだ。

 

そのまま『ZENSHiN ZENREi』を続けてさらに盛り上げ、自己紹介を含む最初のMCへ。今回のアユニ・DのDは「オラ、野原しんのすけだぞ〜のD」だった。彼女は何を言っているのだろうか。

 

アユニの「特別なダンシングトゥナイトにしましょう」という言葉を合図に再びパフォーマンスに戻る。ここからは前半の熱気を生み出す楽曲とは、違うタイプの選曲がされていた。

 

綺麗な青い照明の中で『HiDE the BLUE』が披露されると、客席は華やかな雰囲気で包まれる。〈ありのままでいいのかな?〉というモモコの歌に対して「いいよー!」と叫ぶ清掃員の声を聞いたのも久々だ。

 

『愛してると言ってくれ』でコールをしたり、『I have no idea』ではメンバーと一緒に「言いたいことない!」と叫ぶように歌っている清掃員もいる。この2曲はコロナ禍にリリースされた楽曲だ。それでも自然発生的にコールは生まれていた。解散は近いしコロナ禍も終わったわけではない。しかしライブを通じて楽曲が成長しているということを、改めて実感した。

 

モモコグミカンパニーの「まだまだライブ始まったばかりだから!気合い入れていけ!かかってこい!」という煽りから『ぴょ』が始まると、再び会場は熱気で包まれる。メンバーの衝動的なパフォーマンスだけでなく、煙が噴き出る演出でも会場を盛り上げる。この楽曲もコロナ禍にリリースされたが、自然と清掃員もコールして盛り上がっていた。

 

セントチヒロチッチの「大宮でワンマンは初めてだね!」という言葉からMCへ。5年ほど前にラウンドワンのCMに出演した際の撮影場所が埼玉県だったりと、BiSHは埼玉県とそれなりに縁があるらしい。チッチは「久喜市のラウンドなんちゃらかんちゃら。なんかラウンドワンとは違う名前だった気がする」と話していた。縁があったわりには記憶が曖昧だ。

 

ハシヤスメアツコ「アユニはさっきしんちゃんのモノマネしてたよね!もう一度やって!」

アユニ「わたしよりも上手い人がいるので、その人が最後にもっと上手なしんちゃんをやってくれると思います」

ハシヤスメ「わたし!?」

チッチ「今日は春日部の人もきてるんだよね?いいなあ!みんな春日部防衛隊なんだね!」

清掃員(は・・・・・・?)

 

MCによってシュールな空気になってしまったものの、それは音楽によってしっかりと塗り替える。

 

続く曲は『My landscape』。壮大で迫力ある楽曲だ。メンバーのパフォーマンスも楽曲の魅力をしっかりと引き立たせる凄みがある。演出もそれに合わせてかレーザー照明が客席に向かって美しく伸びていったりと、幻想的かつ迫力がある。

 

さらに『DiSTANCE』が続き、会場をより壮大なサウンドと歌声で包んでいく。前半の盛り上げるBiSHだけでなく、凄みで圧倒させるBiSHも最高だ。そして解散間際のBiSHが歌うからこそ特別な意味が生まれる『ZUTTO』へとなだれ込む。会場が少しだけ切ない空気で包まれる。もしかしたら今回のライブが、BiSHを最後に観る機会の人もいるかもしれない。そんな人に希望を持ってお別れをしているようにも感じる。

 

そんな空気を悪い意味でハシヤスメがぶち壊す。続く曲がハシヤスメのソロ曲『ア・ラ・モード』だったからだ。他のメンバーをバックダンサーとして従え、意気揚々と歌い踊るハシヤスメ。目から生気が抜ける他メンバーと、動揺する観客。

 

すると曲が途中で止まり、パフォーマンスが中断した。そしてメンバーが口々にハシヤスメへ文句を言う。

 

アユニ「なんでこのツアーでアラモードやらなきゃいけないわけ?」

チッチ「これハシヤスメの曲で誰も聞きたがってないじゃん!」

モモコ「もっとみんなが聴きたい曲やろう?」

アイナ「チッチが髪の毛いじって飽きちゃってるじゃん?他の人気曲やろう?」

リンリン「.....」

 

不満そうな顔をしつつも、渋々と応じるハシヤスメ。そこでメンバーがそれぞれやりたい曲を書いたプラカードを持ってきて、その曲になりきってアピールし、ハシヤスメがその中からアピール力が優れている楽曲を選ぶということになった。は?

 

アユニ→『DEADMAN』

アイナ→『ハッピーエンドじゃなくても』

チッチ→『NON TiE-UP』

リンリン→『OTNK』

モモコ→『KiND PEOPLE』

 

バラエティ豊かな5曲が揃った。曲名が紹介される都度に湧き上がる客席。しかしこの中で披露されるのは1曲のみ。

 

「Mステで歌った曲」「メジャーデビュー曲」などなど各々が楽曲をアピールしていく。アイナはなぜかギャルになりきって曲をアピールしていた。あれは何だったのか。

 

ハシヤスメの独断により、アイナとモモコがにらめっこ対決をして勝った方の曲がパフォーマンスされることとなった。何故だ。

 

にらめっこ対決の結果、アイナが勝利し『ハッピーエンドじゃなくても』が披露されることとなった。

 

メンバーが優しい歌声で『ハッピーエンドじゃなくても』を丁寧に届けることで、先ほどまでの茶番コントとは全く違う、温かく感動的な空気になった。

 

スクリーンには歌詞が映されていた。だから歌のメッセージがよりダイレクトに心に響く。この楽曲はアイナが作詞している。12月のライブでアイナはこの楽曲について「清掃員のことを想って歌詞を描いた」と語っていた。そんな想いをしっかりと伝えようとする歌唱だった。

 

そこから一転して『stereo future 』では、熱くエモーショナルな歌声を響かせる。特にチッチとアユニの歌唱は声量が物凄く、鳥肌か立った。かつてはここまでの凄みを感じる歌唱ではなかったと思う。彼女達は解散間際でも進化しているし、今が最も良い歌をうたえているのかもしれない。

 

チッチが「BiSHの始まりの曲を」と告げてから『スパーク』が披露されると、再び空気が変わった。先ほどまで凄まじいパフォーマンスに圧倒されていた観客は、温かな眼差しで見守りつつ、声を出して盛り上げる。その空気感はコロナ禍以前やデビュー当初と近いものがある。ただパフォーマンスは当時とは比べ物にならないほど完成されていた。

 

そこから続いた『プロミスザスター』もそうだ。メンバーにスポットライトが当たった瞬間に空気が変わり、そこから一気に熱気が上昇した。この楽曲はBiSHの人気が急上昇している最中にリリースされた。当時の勢いで突き抜ける感じとはまた違う、貫禄や深みを感じるパフォーマンスだ。

 

ライブも後半。「埼玉の皆さん!まだまだ元気ですか!?ラストスパート!上げてこうね!」という煽りから『サラバかな』がパフォーマンスされると、観客のボルテージは一気に最高潮に。

 

コロナ禍以前は清掃員も一緒に歌っていた〈その手を離さないよう〉という歌詞のフレーズ。この日は、あの頃と同じように客席からは大合唱が響いた。久々にBiSHと一緒に歌えた。

 

「大宮の皆さんありがとう!みんなと出会えて幸せです!また会えますように!」とチッチが叫び、ライブ後半に披露されることが多い定番曲『beautifulさ』が続く。メンバーも清掃員も、みんな楽しそうに踊り、一緒に歌っている。メンバーの笑顔もこの曲が1番弾けていたように見えた。

 

最高の盛り上がりを生み出し、ライブも終わりかと思いきや、モモコが改まった様子で語り始めた。

 

BiSHは6月29日に解散します。

 

私は8年前に加入して、その時は人前に立つ仕事だからキラキラしてないといけないと思っていました。でも自分はBiSHの8年間では、汚い感情がうずまく時もありました。人から投げかけられる言葉や、自分の中で生まれる感情によって。

 

それは人前に立つ仕事をする上でダメなことだと思っていました。でも、ライブで全力で歌って踊っていて、それを真剣に見てくれる人は、汚い自分を肯定してくれているのだとも思いました。

 

ライブを観て泣いてくれる人もいます。その人の涙の理由はわからないけれど、その涙はとても綺麗に見えます。自分の汚い感情も、もしかしたら黒じゃなくて、綺麗な色も含めたたくさんの色が混ざって、黒になったのかもしれません。頑張って生きてきたからこその、黒かもしれません。

 

BiSHの8年間は綺麗とは言えないです。でもそういった生きてきた証が、私たちを出会わせてくれたんだと思います。

 

これからも一緒に歩んで行きましょう

 

モモコの挨拶が終わり、最後の曲が始まる。ラストは『Bye-Bye SHOW』。再び熱気で包まれる客席。この楽曲は新曲でありBiSHのラストシングル曲。今回のツアーで初めて披露された。

 

しかしすぐに清掃員は振り付けを覚えて一緒に踊っていた。もしかしたら他の公演に参加したファンが多かったからかもしれないが、それでも新曲がしっかり伝わって拡がっているように見えて、その景色は感動的だった。桜の花びらの形をした紙吹雪がステージに舞う姿も美しい。

 

最高の余韻が残る中、ステージを後にするメンバー。すぐにアンコールの拍手が巻き起こる。そして、声出しが可能になったからか。ところどころから「アンコール!」という掛け声も聞こえる。

 

アンコールに応え再登場するメンバーとバンド。エレキギターのストロークの音を合図に『オーケストラ』が始まった。BiSHにとっても清掃員にとっても特に大切な楽曲のひとつだ。美しい照明と魂のこもったパフォーマンスと、清掃員の熱量。それが今回の『オーケストラ』は特に印象的だった。

 

改めて一言ずつライブの感想を告げていくメンバー。アユニは「どんな清掃員に会えるかなといつも楽しみにしています。今日は花粉が凄くてダメだと思ったけど、花粉が消滅するぐらいのライブでした」と語る。花粉症患者を救うため、毎日ライブをやって欲しい。

 

リンリンは血体調が万全ではなかったらしいが「メンバーにぎゅっとしてもらったり、みんなも楽しんでくれていたり、支えられてるなと思いました」とメンバーや清掃員への感謝を伝えていた。

 

ハシヤスメは『Bye-Bye SHOW』の時の客席が印象的だったようだ。この楽曲は桜をイメージした振り付けがある。それを一緒に踊る客席を見て「一緒に桜を作っているみたいで感動した」と感慨深そうに話していた。

 

アイナも同様に客席の景色について触れた。「この会場は客席が斜めだったから、全員が踊る姿が見えて嬉しかった」と笑顔を見せる。そして「『オーケストラ』の振り付けは最初、松隈さんに変な振り付けと言われて、みんなが踊ってくれるか不安だったけど、今日の景色はとても美しかった」と話す。

 

モモコも客席の清掃をしっかり見ていたようだ。「スーツを着てる人もいいて、お仕事がばった後に来てくれたんだと思ったら嬉しいです。私も頑張ります!」とファンを気遣う。

 

「解散は決まってはいるけれど、まだまだ色々なことをして、笑ったり泣いたりする日々を過ごしています。そんな中であなたが目の前にいることが、BiSHが生きる糧です!」と話すチッチの言葉も印象的だった。

 

そして「今日で会えるのが最後の人もいるかもしれない。でも、できれば、また会えたら嬉しいです。また会えることを祈って歌います」とチッチが話してから『ALL YOU NEED IS LOVE』が始まる。

 

優しく語りかけるように歌うメンバー。スクリーンには歌詞が表示されていることもあり、歌詞のメッセージがよりダイレクトに胸に響く。

 

しかし曲の後半はBPMも速くなり演奏も激しくなる。歌ももちろん勢いが増す。客席は再び熱気に包まれた。切なさと熱狂が入り交じったカオスな空間。でも多幸感に満ちてもいる。これがBiSHのライブの魅力のひとつだ。

 

チッチが「まだパワーが残ってる人!?ラスト!BiSH!星が瞬く夜に!」と叫び、アンコールラストの曲が始まる。パフォーマンスされたのは、もちろん『BiSH- 星が瞬く夜に』。

 

ここまでもひたすらに盛り上がるライブだったし、清掃員もメンバーも全力で楽しんでいた。しかしこの曲では全てを出し切るどころか、限界突破したかのような大盛り上がりになっている。銀テープが飛び出たりと演出も盛り上げに加担している。

 

そして忘れてはならないのはBiSHを支えるバンドメンバーだ。間奏でチッチが「BiSHの大切なバンドメンバーを紹介させてください!」と言って、1人ずつソロプレイを挟みながらメンバー紹介された。その1つひとつのプレイはどれもハイレベルだ。そんな演奏にも興奮し、さらに大きな歓声をあげる清掃員。当然ながらバンドもライブに欠かせないメンバーなのだ。

 

今回が最後のツアーではある。今回が最後に観るBiSHのライブだった人もいるだろう。しかし悲壮感はなく悲しさや切なさよりも楽しさが上回るライブだった。「本当に解散するの?」と思ってしまうほどに、いい意味でいつも通りに最高のBiSHのライブだった。

 

それはBiSHが全ての清掃員との思い出を、楽しいままで終わらせたいからかもしれない。とにかく希望と楽しさとハッピーをくれる、いつも通りに最高のライブだった。

 

f:id:houroukamome121:20230411230048j:image
f:id:houroukamome121:20230411230051j:image
f:id:houroukamome121:20230411230045j:image

 

BiSH『PUNK SWiNDLE TOUR』 at 大宮ソニックシティ大ホール 2023年3月16日(木) セットリスト

1.サヨナラサラバ レーザー

2.GiANT KiLLERS

3.ZENSHiN ZENREi

4.HiDE the BLUE

5.愛してると言ってくれ

6.I have no idea

7.ぴょ

8.My landscape

9.DiSTANCE

10.ZUTTO

11.ハッピーエンドじゃなくても

12.stereo future 

13.スパーク

14.プロミスザスター

15.サラバかな

16.beautifulさ

17.Bye-Bye SHOW

 

En1.オーケストラ

En2.ALL YOU NEED IS LOVE

En3.BiSH- 星が瞬く夜に