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【ライブレポ・セットリスト】ずっと真夜中でいいのに。GAME CENTER TOUR『テクノプア』at 高崎芸術劇場 大劇場 2022年10月6日(木)

やはりずっと真夜中でいいのに。のライブへ行くと、開演前から世界観に引き込まれてしまう。

 

GAME CENTER TOUR『テクノプア』と名付けられた今回のライブツアーも例外ではない。

 

ステージ上にはゲームセンターのセットが建てられていた。ホール公演としては壮大すぎるステージセットだ。その見た目はツアーのイメージイラストが、そのままリアルに登場したような感じである。

 

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そんな徹底的に作り込まれた世界観を開演前から見せてくれるから、観客は始まる前からずとまよの世界観に引き込まれるのだ。

 

しかもライブが始まれば、さらに深みへと沈みこませる求心力があるから恐ろしい。

 

開演時間をすぎてギターにベース、キーボード、ドラム、ホーン隊、オープンリールの8人体制の大所帯バンドが登場した。ツアーコンセプトにマッチした衣装を着ていることもあり、存在感が強まく迫力がある。

 

ライブはステージセットに設置された「レトロゲーム高価買取」と書かれたノボリをバンドメンバーが剥ぎ取り、「高崎店」と書かれたノボリが見えたことを合図にスタートした。

 

ACAねを除いた8人によるジャムセッションが繰り広げられる。ずとまよはACAねのソロユニットではあるが、オープンリールアンサンブルの2人が電飾が取り付けられた衣装を来ているのも良い。暗闇の中で動きに合わせて光る衣装は、見ているだけでも楽しい。

 

それにしても、このバンドはめちゃくちゃ演奏が上手い。しかもゲームセンターをイメージした音色やアレンジまでも組み入れてセッションをするのだから、センスも抜群だ。

 

そんな演奏に興奮していると、さらなる興奮が観客に押し寄せる。ステージセットの自動販売機の中から、飲み物を蹴散らしてACAねが登場したからだ。まだコロナ禍で観客は声を出せないが、それでも拍手の大きさや会場の空気感から、観客のボルテージが一気に最高潮になったことがわかる。

 

そんな空気の中で『マイノリティ脈略』のイントロが演奏される。そのバックでは「いらっしゃいませ」「またお越しくださいませ」などの接客挨拶が流れていた。ゲームセンターの店員が話しているという設定なのだろう。曲が始まっても今回のライブの世界観は崩れない。

 

ACAねはシャツにベストにミニスカートにニーハイという、ゲームセンターの客に居そうな衣装を纏っている。衣装も含めて世界観を大切にしているのだろう。

 

コンセプトへのこだわりの強さがずとまよのライブの魅力ではあるが、最も大きな魅力は、やはり音楽だ。1曲目の『マイノリティ脈略』で、全身で歌うかのように後ろに仰け反り熱唱するACAね。その歌声には圧倒させられるし、それを支えるバンドの演奏も半端なく上手い。

 

曲中に「ずっと真夜中でいいのに。です」と挨拶した『はゔぁ』を畳がけるように続け、さらに『ヒューマノイド』を曲間なしでDJのように繋げ、さらに熱気を上昇させていく。この2曲ではACAねもギターを弾いていたが、歌声だけでなくギターを掻き鳴らす佇まいもカッコイイ。

 

『勘冴えて悔しいわ』も曲間なしで続けた。序盤から全てを出し切るかのような怒涛の流れだ。どうやらACAねの側の機材には、ステージに煙を出すボタンが置かれているらしい。彼女の気分で時折煙を出していた。彼女のさじ加減で煙の出るタイミングや量が変わるのだろうか。

 

演出面はスクリーンの使い方が面白かった。そこにはゲームのセリフかのような、ドットで表現されたフォントの文字が映されていたのだ。曲が変わるごとにまるでRPGゲームでモンスターが出てきた時のように、曲名がそこに表示される。やはり細かい部分までコンセプトを体現している。

 

そんな今回のツアー限りのコンセプトを守りつつも、歌と演奏はいつも通りに凄まじい。ライブ終盤で披露されることが多い『MILABO』を早くも披露したが、その熱量はライブのクライマックスかと思うほどに高い。後半にはジャムセッションになり、ACAねも扇風琴をかき鳴らし演奏に参加する。ずとまよのライブは演奏の凄さも魅力のひとつなのだ。

 

この曲ではステージ上のミラーボールは煌びやかに回転し、会場を華やかに彩っていた。ACAねが振るしゃもじの動きに合わせて、同じようにしゃもじを振る観客も楽しそうだ。このような演出やパフォーマンスによって、音楽の魅力を最大限に引き出されている。

 

ゲームセンター テクノプア高崎店へようこそ。ここは「生きる」というゲームを行う人々が集まる場所です。

 

私はACAね。音楽を作ったり猫の世話をする、ミュージシャンというジョブをしています。私もこの世界を生きるひとりの住人です。

 

人生は他人の評価ではなく、自分の経験を楽しむゲームです。

 

せっかくなので楽しいゲームを共に作りましょう。このゲームには、しゃもじ演奏家の皆さんの力が必要です。もしもしゃもじを持っていないならば、手を叩いたり拳で表現し戦いましょう。

 

しかししゃもじは強制するものではありません。じっと立って観ても良し。踊り狂っても良し。このゲームは楽しんだ者が勝者です。

 

駆け抜けるように5曲を披露してから、最初のMCを行ったACAね。その内容はライブコンセプトの説明かつ、自由に音楽を楽しむことの素晴らしさを伝えるものでもあった。話し方や使う言葉も、コンセプトからもACAねのキャラクターからもブレないものである。

 

「あっ!猫が現れた!」とACAねが叫ぶと、スクリーンにドット絵の猫が現れた。まるでRPGでモンスターと出会った時のようなBGMをバンドが演奏し、そのまま『猫リセット』が始まる。やはりコンセプトを徹底的に守ることで、楽曲の魅力を引き出すのだ。

 

それでいて演奏はこのライブでしか聴けない、特別なアレンジになっている。

 

中盤でアンビエントなアレンジになり、ジャムセッションがはじまる。そのセッションはドラゴンクエストのテーマ曲である『ドラゴンクエスト 序章』をマッシュアップしたものへと変化した。やはりここでもコンセプトはブレない。

 

しかもBPMが自在に変化するという、複雑でハイレベルなセッションだ。その演奏に観客は圧倒されつつも、BPMの変化に合わせてしゃもじを見事に叩いている。ACAねの「もっと激しく!」という煽りにもきちんと応えていた。観客はしゃもじ演奏家として一流の仕事をしている。

 

そこから『勘ぐれい』で観客を心地よく踊らせ、早くも代表曲のひとつ『秒針を噛む』が披露された。感染症対策で観客は声を出すことができないが、始まって瞬間に空気が変わったことがわかる。地方公演なのでずとまよを初めて観た人もいるのだろう。そのような人は特に聴きたかった曲かもしれない。

 

この曲でも客席の“しゃもじ演奏家”は、見事な演奏を披露する。後半のサビでACAねによる「大きく」「小さく」「だんだん大きく」というリクエストに応える完璧なしゃもじ拍子を鳴らしていた。

 

しかし「デクレッシェンド(しだいに弱く)」は伝わらなかったようで、観客は楽しそうにひたすら強くしゃもじを叩いていた。それはそれで良い。ACAねも「最高です///」と言っていた。

 

ここまで熱量高い楽曲を続けて盛り上げ続けてきたが、ずとまよは繊細な歌と演奏の曲も魅力的だ。

 

ACAねがゲームセンターのステージセットの上に上がり、鉄筋を演奏しながら歌った『夏枯れ』は、まさにそのような楽曲だった。繊細な歌と演奏に引き込まれ感動する。〈忘れらんない夕日が〉という歌詞に合わせてか、ステージはオレンジ色に染められ、スクリーンには夕焼けの映像が映し出されている。粋な演出が素晴らしい。

 

ACAねとバンドメンバーたけでなく、客席の“しゃもじ演奏家”だって繊細な演奏ができる。

 

ミニマムな演奏の『彷徨い酔い温度』では、特にしゃもじ演奏家の力が重要だ。この楽曲はしゃもじ拍子の音が響くことで演奏が完成する。観客がゆったりとしたリズムに合わせて、見事なしゃもじ拍子を鳴らし、素晴らしい演奏をしていた。この曲では最も「ライブは観客も一緒に作るもの」であることを実感した。

 

「座ってもらえたら嬉しいです」と言って観客を座らせるACAね。

 

そして「テクノプア高崎店へ来てもらえて嬉しいです。高崎には初めて来ました。粕漬けや釜飯を食べました。美味しかったです。群馬を尊敬することにします」と話した。食べ物の話をしただけなのに、観客から盛大な拍手を贈られ照れるACAね。

 

次の曲は今まのライブではなかった、意外な演出が取り入れられていた。ステージに設置された曲名が書かれた紙が入ったカプセルが詰められたガチャガチャを回し、ガチャガチャの中身によって次の曲を決めるというのだ。しかもアレンジはその場の気分で即興で決めるという。ゲームセンターツアーというコンセプトを、ここでも面白い形で守り抜く。

 

ガチャガチャで出てきた曲は『Ham』。ACAねは「泣き笑いっぽいアレンジで」とバンドメンバーに指示をする。あまりにも抽象的な指示に苦笑いするバンドメンバー。「ギターから始める」と指示したので、ギタリストは特に動揺したはずだ。

 

しかし切ないアコースティクな演奏でありつつも、明るいホーンの音が加わることで、見事に「泣き笑い」を表現したアレンジになっている。これはバンドの技術力だけでなく、ACAねとの信頼関係がなければ成立しないだろう。ずとまよはACAねのソロユニットではあるが、実質バンドとして活動している様なものだと改めて実感した。

 

まだまだバンドの凄みを感じる曲が続く。ドラムソロから始まった『消えてしまいそうです』での安定した演奏や、ピアノソロから始まりプログレ的な展開からのアウトロでジャムセッションへとなだれ込む『暗く黒く』では、まさにバンドの凄みを実感する楽曲だ。

 

最近の若者はギターソロやイントロを飛ばして聴くという話もあるが、ずとまよの音楽を聴いていると、そんなことはないのではと思う。ずとまよが音楽における歌以外魅力を伝えることに成功しているとも言える。

 

ライブも後半戦。ここからさらに熱量が上がっていく。代表曲のひとつである『脳裏上のクラッカー』でいっきに盛り上げ、「ジャンプ!ジャンプ!」とACAねが煽った『ミラーチューン』と、畳がける様に勢いある歌と演奏を続ける。

 

『ミラーチューン』では照明がカラフルになり、ステージ上のミラーボールが回る演出も印象的だった。音楽も演出もお祭り騒ぎのように盛り立てる。MVのアニメーションに出てきたハートの付いた銃をイメージした小道具を持って、楽しそうに歌うACAねも印象的だ。

 

『正義』はACAねが鈴が付いた指揮棒を振り、村山☆潤が鍵盤ハーモニカで『ドラゴンクエスト 序章】を演奏するイントロから曲が始まった。これも「ゲームセンターツアー」のコンセプトだからこそのアレンジだろう。

 

曲の後半で「群馬ちゃーーーーん!」と群馬ちゃんへの愛を突如叫ぶACAね。それに共鳴し飛び跳ねる観客。きっと群馬ちゃんも喜んでいることだろう。

 

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ラストは「みんなでヤンキーやりたい!」とACAねが言ってから始まった『お勉強しといてよ』。ラストに相応しい熱狂だ。

 

そんな余韻と興奮が冷めないうちに、アンコールの盛大な拍手が響く。それに応えて出てきたACAねは、ゆっくりと今回のツアーに込めた想いを語り始めた。

 

テクノプアとは、コミュニケーションの歯痒さのことである。それは相手によって変わるものである。誰もが心にテクノプアを抱えているのかもしれない。

 

この有耶無耶な感情を共有したくて、住む世界が違うみんなをここに呼び出したのかもしれない。

 

そう言ってから『Dear.Mr「F」』を歌った。ピアノとドラムという変則的な編成だが、ピアノの美しい旋律とドラムの力強さが組み合わさる演奏が、心地良さと迫力が共存していて良い。

 

〈住む世界が違えば 会えないの?〉という歌詞が印象的な楽曲だが、こうして生活も住んでいる場所も違う人が1箇所に集まり、音楽を通じて気持ちを共有している。その凄さや尊さを、ACAねは伝えたいからアンコールの1曲目に選んだのかもしれない。

 

楽しすぎて、この時間がわたしにとって救いになっています。

 

最後に、みんなでシャイな空騒ぎをしたいです。踊ろう!

 

そう言ってからラストに演奏されたのは『あいつら全員同窓会』。ACAねもバンドも観客も、最後に全てを出し切るように盛り上がっている。

 

最後のサビ前には「みんなともっと対戦したい!対戦してくれる人は手をあげてください!」とツアーコンセプトを意識した煽りでさらに盛り上げる。最後にして最高の盛り上がりを作ってライブは終わった。

 

メンバーがステージを去っていく中、スクリーンには「GAME CLEAR」「来店感謝何卒」と表示されていた。最後までコンセプトがブレない。流石である。

 

ACAねは今回のツアーコンセプトについて「有耶無耶な感情を共有したくて、住む世界が違うみんなをここに呼び出したのかもしれない」とMCで語っていた。

 

これは今回に限らず、毎回近い想いを込めてツアーを回っているのではないだろうか。ずとまよのライブは観る都度に、有耶無耶な感情を共有し浄化させられる気持ちになる。そんな生活環境も住む場所も違う人達が集まり、シャイなから騒ぎをする空間が最高なのだ。

 

■ずっと真夜中でいいのに。GAME CENTER TOUR『テクノプア』at 高崎芸術劇場 大劇場 2022年10月6日(木) セットリスト

1.マイノリティ脈略
2.はゔぁ
3.ヒューマノイド
4.勘冴えて悔しいわ
5.MILABO
6.猫リセット
7.勘ぐれい
8.秒針を噛む
9.夏枯れ
10.彷徨い酔い温度
11.Ham
12.消えてしまいそうです
13.暗く黒く
14.脳裏上のクラッカー
15.ミラーチューン
16.正義
17.お勉強しといてよ


EN1.Dear.Mr「F」
EN2.あいつら全員同窓会