オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

小沢健二『天使たちのシーン』にモヤモヤしていた理由について

好きな歌なのに「聴いていてモヤモヤするなあ」と思うことが、時折ある。それは歌詞の内容が自分にしっくりこない時だ。

 

例えば小沢健二『天使たちのシーン』が、それに当てはまる。

 

もちろん名曲だとは思う。13分30秒もある聴きごたえのある楽曲で、聴く都度に様々な感情が心の中に生まれる。聴き終えた後は深い余韻が必ず残る。その一筋縄では理解できない壮大さが好きなのだ。

 

しかしメッセージの全てまでもは、何度聴いても理解しきれない。それほどに内容が重くて複雑だ。

 

おそらく「命」について歌っているのだということはわかる。

 

それは〈愛すべき生まれて育ってくサークル  君や僕をつないでる穏やかな止まらない法則〉という、印象的なサビの歌詞から推測できる。命が生まれ育っていき、育った命がまた新たな命を作り出す世界を描いているのだろう。

 

このことは繰り返し聴くことで、自分なりに理解ができたが、あまりにも抽象的で複雑な歌詞なので「これは理解できない」と思うフレーズは、まだたくさんある。そのひとつがクライマックスで歌われる〈神様を信じる強さを僕に〉だ。

 

これは真逆ではないだろうか。弱いからこそ実体のない「神様」の存在を信じてしまうのだと思う。むしろ神様を信じない人の方が、強さを持っているはずだ。

 

自分としてはthe pillows『スケアクロウ』に出てくる〈神様より君を信じる〉という歌詞に共感できる。実体がない神様よりも、実体がある君を信じたい。

 

スケアクロウ

スケアクロウ

  • the pillows
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

それなのに最近、〈神様を信じる強さ〉の意味が突然理解できた。自分の解釈なので正解とは言い切れないが、それによって歌詞へのモヤモヤがなくなった。

 

〈神様を信じる強さを僕に〉という歌詞の後に〈生きることをあきらめてしまわぬように〉と続く。これが大切なポイントなのだ。そのことに、ようやく気づいた。

 

状況によっては、生きることをあきらめた方が楽な時がある。それでも自分の弱さを認め、実体のない神様にもすがり、「生きることをあきらめない」選択をすることに強さがあるのだ。そのことを歌を通して伝えるための歌詞なのかもしれない。

 

自分はといえば「神様」の存在を一切信じてなかった。むしろ「信じるものか」と思っていた。アンチ神様である。

 

初詣にすら行かないし、京都観光でお寺に行った時は賽銭箱にお金を入れなかった。無駄な行動としか思えなかった。

 

強さにも種類があるので、各々で必要とする強さは違う。自身が欲する強ささえ持っていれば、それで良い。どうやら自分は「神様を信じる強さ」は必要ない人間のようだ。

 

それなのに『天使たちのシーン』の歌詞の意味を自分なりに理解してから、「神様を信じる強さ」を手に入れたいと思った。「神様を信じても良いかな」と思い始めた自分は、もしかしたら「神様を信じる強さ」を既に持っているのかもしれない。

 

先日、初めて自らの意思で神社へ参拝に行った。そんな行動に出たことを、自分自身で驚いている。

 

行った先は人形町の水天宮。安産の神様がいることで有名な神社で、安産祈願のため足を運ぶ参拝者がたくさんいるらしい。

 

なぜこの神社に行ったかというと、自分にも子どもができたからだ。子どもはまだ妻のお腹の中にいるが、子どもができたことで自分も〈愛すべき生まれて育ってくサークル〉にいるのだと、改めて実感した。それによって価値観や考えが変化し「神様を信じる強さ」を欲したのだ。

 

今のところお腹の中で順調に育ってはいる。それでも「万が一のことがあったら」と、たまに不安になる。妻が妊婦検診に行く都度、少しだけ心がざわめく。今まで全く信じていなかった神様にすがってでも、健康に生まれて欲しいと思っている。

 

だから初めて自分の意思で賽銭箱にお金を入れた。初めて神様という実体がないものに祈った。

 

そういえば自分は今までも実体のない「音楽」を心から信じ愛している。音楽は実体がないのに人の心を動かす。時として人生まで変えてしまう。それが音楽の素晴らしいところだ。同じように神様も、実態を持たずに人を救う特別な力を持っているのだろう。

 

もしかしたら自分のブライドや価値観を捨ててでも、愛する人のことを想い祈ることも「神様を信じる強さ」かもしれない。自分の大切な人を1番に想うなんて、めちゃくちゃ強いではないか。

 

とはいえ自分は神様を他の何よりも信じているわけではない。やはり神様よりも君を1番に信じたい。今でも『スケアクロウ』の〈神様より君を信じる〉という歌詞の方がしっくりくる。

 

でも「神様を信じる強さ」と「神様より君を信じる」は、共存できると思う。信じるものはいくつあってもいい。その中で何を1番に信じるかを選ぶのは人それぞれだ。自分は最も大切な人を1番に信じたい。

 

だから自分は神様に祈りつつも、神様より君を信じる。どうか、君が無事に産まれますように。