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【ライブレポ・セットリスト】私立恵比寿中学『エビ中 秋声と螻蛄と音楽の輝き 題して「ちゅうおん」2021』第2部 2021年9月26日

私立恵比寿中学は毎年9月に『ちゅうおん』というコンセプトライブを行っている。

 

座席は指定席で着席していなければならない。ペンライトも使用禁止。コロナ禍ということもあるが。歓声やコールも禁止。そのようなルールが設けられている。

 

メンバーも普段と違い激しく踊ることはない。基本的には歌に集中してパフォーマンスする。

 

つまり「音楽を聴かせる」ことに注力したコンセプトで、通常のアイドルコンサートとは違う形式で、エビ中のライブとしても異質で特別なのだ。

 

↓2020年のライブレポはこちら↓

 

それに加えて今年は「新体制初のワンマンライブ」「柏木ひなたの芸能活動休止前の最後のライブ」という大切な意味もある。コンセプト以外の部分でも、特別なライブになってしまった。

 

とはいえライブは『ちゅうおん』としてコンセプトを忠実に守りながら進んでいく。それ以外の特別な意味や想いは、言葉での説明ではなく全てライブパフォーマンスに込めていた。

 

バンドメンバーのジャムセッションで客席のテンションを少しずつ上げてから、MONDO GROSSO feat.bird『LIFE』のカバーからスタート。2017年に行われた初回でも演奏された楽曲だ。「音楽を聴かせる」というコンセプトを、言葉でなく選曲と演奏で伝える。

 

新メンバーの桜木心菜、小久保柚乃、風見和香の3人は歌声や佇まいから緊張が伝わってくる。新体制になったばかりだから仕方がないことだが、今回はクオリティ的には高くはなかった。前体制のエビ中が毎回完璧すぎるパフォーマンスだったので、それと比べてしまうことも理由ではある。

 

しかし高いパフォーマンス力を持つ先輩メンバーが、後輩を支えるように力強く歌いフォローする。その姿に心を掴まれる。最高のライブを創ろうとする心意気に胸が震える。

 

自己紹介とライブをサポートする“エビ中バンド”の紹介をして、ここからはエビ中のオリジナル曲が続く。

 

全編ユニゾン歌唱の『summer dejavu』では、9人の魂のボーカルが重なり1つになり、心地よい歌声が秩父の山に響く。

 

メンバーが増えたことでユニゾン歌唱の迫力が増した。これは前体制よりもクオリティが上がった部分かもしれない。サビでは手拍子を煽ったりと、ゆっくりとまったりと少しずつ会場を盛り上げていく。

 

新メンバーの歌唱やパフォーマンスは、まだまだ拙い部分がある。しかし場合によってはそれが武器にもなる。

 

『誘惑したいや』では、まさに新メンバーの歌唱が生かされていた。可愛らしい歌詞に初々しい新メンバーの歌声がベストマッチしていたのだ。狙っても出せない今だからこそ出せる歌唱によって、楽曲の魅力を引き出していた。

 

バンドの演奏によって新しい魅力が生まれた曲もある。『朝顔』はそれが特に顕著だ。

 

原曲は王道アイドルソングといった編曲だが、今回は疾走感あるポップパンク。サビは高速2ビートになっていてメロコアの匂いも感じる。

 

新メンバーによる台詞パートも加えられていたりと、新しい解釈を加えて楽曲を進化させている。過去の楽曲も「今のエビ中の音楽」として披露しているのだ。

 

『頑張ってる途中』では楽曲の持つハッピーな雰囲気に加え、生バンドのホーンが炸裂するような最高の演奏で盛り上げる。

 

イントロで手拍子を煽ったり、サビでダンスをするメンバーのパフォーマンスも印象的だった。頑張ってるメンバーにチューしたくなる。

 

エビ中はアイドルとして可愛らしくポップな表現をするだけではない。クールなパフォーマンスで聴き手を痺れされることもできる。

 

『大人はわかってくれない』では鋭い眼光で鬼気迫る歌唱で圧倒させ、『トレンディガール』では繊細な表現で魅了する。美しいメロディと疾走感ある演奏が組み合わさった『フユコイ』では、表現力の豊かさとカッコ良さの両方を同時に感じた。

 

演出にも拘っているようで、『フユコイ』では雪の結晶をイメージした照明がステージ後方に映り、ライブを感動的に彩っていた。曲中で「好きだよ」とそっとつぶやく中山莉子のことが自分も好きだよ

 

『ちゅうおん』は原曲とは違う特別な編曲で楽曲が披露されることも、特徴的で魅力的なイベントである。

 

新曲『イエローライト』の編曲に驚いた人も多いだろう。原曲は疾走感と力強さのあるポップソングだが、今回はスローテンポでアコースティックアレンジのバラードになっていた。

 

疾走感で奮い立たせるのではなく、胸に沁みる演奏と歌で心地よくさせる。力強い歌声で背中を押すのではなくはなく、優しい歌声で寄り添ってくれる。そんなアレンジになっていた。

 

しかし原曲と同様にKICK THE CAN CREW『Summer Spot』と同じぐらいに複雑な歌割りは健在で、その凄みには圧倒させられてしまう。

 

 

 

『ちゅうおん』では毎年様々な年代の名曲やヒット曲を、メンバーがソロでカバーする企画がされている。

 

過去にはヒゲダンのような旬のアーティストや、バンプや椎名林檎などの大御所や、きのこ帝国のような音楽ファンに高く評価されるバンドの楽曲がカバーされてきた。やはり今年も意外ながらベストマッチな絶妙な選曲だった。

 

今回はノンストップのメドレー形式だったカバーコーナー。小久保柚乃によるチャットモンチー『シャングリラ』のカバーから始まった。拙い歌唱ながらも胸を張って歌い、前を見て歌う姿に希望の光を感じてしまう。

 

新メンバーの初々しさも素晴らしいのだが、先輩メンバーのハイクオリティなパフォーマンスには格の違いを感じてしまう。

 

昨年末にバズったヒット曲Da-iCE『CITRUS』を歌った安本彩花は、自身の声質や歌唱方法を生かした表現をして、自身のオリジナル曲かと思わせるほどに見事さだった。

 

真山りかによる松原みき『真夜中のドア~stay with me』のカバーも流石の出来だ。海外でもヒットしているシティポップの代表的楽曲だが、高い歌唱力で色気を加えた表現で歌いこなす。

 

しかしデビュー間もない新メンバーだからこそ伝わる表現もあるとも思う。

 

風見和香による原田知世『ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ』のカバーは昭和時代のアイドルを感じる透明感を感じる歌唱で、技術を超えた魅力や求心力があった。

 

桜木心菜が歌ったフラワーカンパニーズ『深夜高速』のカバーは、必死に歌う姿が楽曲のメッセージとマッチしていて胸に刺さる。頑張ってる途中であろう拙さだからこそ、胸に響く歌があるのだ。

 

個人的に最も楽曲と歌い手の相性が良いと感じたのは、小林歌穂が歌う大塚愛『黒毛和牛上塩タン焼き680円』だ。

 

温かくて優しい声質を生かしたアカペラの歌唱から曲が始まり、少しずつバンドの音が重なる編曲。それが心地よくて気持ち良い。特徴ある声質が生かされている最高のカバーだった。

 

星奈美怜と中山莉子は、自身の個性を理解したパフォーマンスをしていた。

 

NANA starring MIKA NAKASHIMAの『GLAMOROUS SKY』 をカバーした星名はクールに歌いつつも、イントロでくるりと回ってスカートを綺麗になびかせたりと、今でも360度どこから見てもアイドルだと実感する魅せ方で革命を起こす。

 

中山莉子はミラーボールが回るステージを、縦横無尽に動き回りながら藤井隆『ナンダカンダ』を歌い踊る。常に笑顔で楽しそうだ。ファンも連れられて笑顔になってしまう。後ろで見守るメンバーも座りながら踊っていたりと、中山タイムを楽しんでいたようだ。

 

特に圧倒的な存在感を示していたのは柏木ひなただ。King Gnu『白日』という誰もが知る名曲であり、技術的にかなり難しい楽曲に挑戦していたが、裏声も駆使しながら歌いこなしていた。彼女はステージを重ねる毎に、ボーカリストとしてレベルアップしている。

 

星名「カバーコーナーは元々好きな曲もありましたけど、カバーするために初めて聴いた曲もあったりして、好きな曲が増えていく感じがして毎年楽しみにしています。来年も何をカバーするのか予想しながら楽しんでもらえたらなと思います」

 

星名美怜が来年も『ちゅうおん』を行うことを、さらっと約束する。さらっと革命を起こす。

 

彼女の話す通り『ちゅうおん』のカバー曲を聴いて好きな曲が増えたり、新しい曲を知ったファンも多いのではと思う。このイベントは音楽を楽しむだけではなく、音楽との出会いを与えてくれる場にもなっている。

 

真山の「ここからはエビ中の楽曲でお楽しみください」という言葉を合図に後半戦がスタート。

 

原曲に忠実な編曲で『青い青い星の名前』を披露し盛り上げ、各パートによるソロ回しを含めたバンドメンバーの紹介でさらに盛り上げる。バンドはジャムセッションへとなだれ込むと、さらに盛り上がりは加速する。

 

そのまま曲間なしで『中人DANCE MUSIC』を披露。ミラーボールが回る中で、メンバーが楽しそうに歌う踊る。着席指定を勿体ないと思うほどに、立ち上がって踊りたくなるディスコナンバーだ。

 

真山「もう終わりが近づいてきました。今年もあっという間だったよね。この場所には色々な思い出があります。この場所の雰囲気にぴったりな大切な曲をやろうと思います。丁寧に歌います。」

 

メンバーが椅子に座り、丁寧にゆっくりと、『なないろ』を歌い始めた。

 

グループにとって様々な想いを込めた大切な楽曲で、ファンにとっても様々な想いを感じる特別な楽曲である。

 

サビでは虹色の照明が彩り、それ以外の部分では青い照明がステージを彩る。言葉ではなく、歌と演奏と演出で想いを伝える。それをファンも当然のように受け取り感じ取る。その空間は愛と優しさで満ちていた。

 

なによりも9人になっても『なないろ』を歌い継いでくれたことが嬉しかった。

 

特別な曲だからか、新メンバーにはソロパートの歌割りがなかった。それでもサビのユニゾン部分では歌唱に参加して、しっかりと歌い継いでいた。

 

この瞬間は10人のエビ中を観れた気がした。これからも10人のエビ中を感じさせる瞬間を、作っていって欲しい。

 

さらに特別なタイミングで歌うことが多い『約束』を、生バンドの壮大な演奏で聴かせて感動させる。久々に聴いた安本彩花のフェイクに心を掴まれる。

 

アコースティックギターのアルペジオに合わせて歌が始まった『蛍の光』は、メロディと歌詞の切なさで胸が締め付けられる。

 

原曲は全編ユニゾンで歌っていたが、今回はソロパートを歌い継ぐ歌割りに変更されていた。そのためメンバーそれぞれがこの曲に込める感情や表現を、ダイレクトに感じる。最後のサビではバンドサウンドになり、感動を増幅させる。

 

この3曲の流れは、聴き手を泣かせるつもりのセットリストと歌と演奏だったと思う。特別な曲を立て続けに、素晴らしい歌と演奏で披露していたのだから。まんまとハマってしまい、心と涙腺に響いてやられてしまった。

 

しかしエビ中の本業はアイドル。みんなを笑顔にさせることが一番の仕事で役割だ。「今日は来てくれてありがとうございます!」と安本が叫び、始まったラストソング『イヤホン・ライオット』では、多幸感に満ちた空気を作り出す。

 

新体制になってから初めてリリースされた新曲。立ち上がって笑顔で踊るメンバーを見ているだけで、心が明るくなり笑顔になってしまう。アイドルの凄さやエビ中の魅力を存分に感じる。

 

真山「素敵な演奏で”ファミえん”を彩っ......違う!”ちゅうおん”を彩ってくれたバンドメンバーです!」

柏木「そこを間違えるとか嘘でしょwwwwww」

星名「やりなおし!!!」

真山「・・・・・・素敵な演奏で”ちゅうおん”を彩ってくれたバンドメンバーです!」

 

楽曲を全てやり切った後のMCでも、真山りかはファンを笑顔にしてくれる。

 

そしてこの日の公演がライブCDとしてリリースされることと、年末恒例のアリーナライブ『大学芸会』が行われることを発表した。

 

暗いニュースだらけの世の中に希望を与えてくれる。告知でもエビ中はファンを笑顔にしてくれる。

 

胸がいっぱいになる幸せな余韻が残る中で、「それではみなさん、ごきげんよう!」とお馴染みの挨拶をして去っていくメンバー。

 

柏木ひなたが一人だけ残り、言葉を選びながら、声を震わせながら語り始めた。

 

今日のライブをもちまして、芸能活動を休止します。今は『ちゅうおん』が無事に終わり、みんなの姿も観れて嬉しかったです。年末の大学芸会に向けて、元気になって戻ってきます。わがままにはなりますが、待っていてくれたら嬉しいです。

 

「今後のために休む時間が必要」という理由で、彼女は今日のライブを持って12月下旬まで活動休止することになっている。

 

きっと戻ってきて元気な姿をまた見せてくれると信じている。12月下旬に復帰予定ではあるが、無理せずにマイペースでいいと思う。

 

過去にもエビ中は活動を休むメンバーがいたことがある。

 

それでも他のメンバーでグループを守ってきた。ファンも静かに待ち続けて、戻ってきた時は優しく迎え入れた。そういうグループなのだ。だから誰も不安に思う必要はない。

 

今年の『ちゅうおん』も素晴らしい歌と演奏だった。そして特別な想いと愛に満ちた、素晴らしいライブだった。

 

■セットリスト

01.LIFE Feat. bird ※MONDO GROSSOのカバー
02.summer dejavu
03.誘惑したいや
04.朝顔
05.頑張ってる途中
06.大人はわかってくれない
07.トレンディガール
08.フユコイ
09.イエローライト
10.シャングリラ (小久保柚乃) ※チャットモンチーのカバー
11.CITRUS(安本彩花) ※Da-iCEのカバー
12.真夜中のドア~stay with me(真山りか) ※松原みきのカバー
13.ダンデライオン~遅咲きのたんぽぽ(風見和香) ※原田知世のカバー
14.黒毛和牛上塩タン焼き680円(小林歌穂) ※大塚愛のカバー
15.深夜高速(桜木心菜) ※フラワーカンパニーズのカバー
16.GLAMOROUS SKY (星名美怜) ※NANA starring MIKA NAKASHIMAのカバー
17.ナンダカンダ(中山莉子) ※藤井隆のカバー
18.白日(柏木ひなた) ※King Gnuのカバー
19.青い青い星の名前
20.中人DANCE MUSIC
21.なないろ
22.約束
23.蛍の光
24.イヤホン・ライオット

 

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