オトニッチ

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平井堅がヤバいことになった......

ここ最近の平井堅がヤバい。

 

そのヤバさは年々増大している。2021年はヤバさを超えて狂気になった。いつの間にか日本屈指のヤバいミュージシャンになった。

 

平井堅のヤバさは、2014年前後から少しずつ滲み出始めた。

 

  

 『ソレデモシタイ』という楽曲のMVで、自らを「インド人だ」と言い張った時から、彼のヤバさに気づく人が増えてきた。

 

そのヤバさは国境を越え、インド政府公認ダンサーと共演したりと、国際的な活動へと繋がっている。ヤバい。

 

2018年には吹っ切れたように、急激にヤバさの最高値を更新した。というかヤバさのジャンルを変えてきた。

 

『知らないんでしょ?』という楽曲のMVで、ホラーに挑戦したのだ。

 

本人は「念願のホラーです」とインタビューで語っている。ホラーを念願している歌手は、かつて存在しただろうか。

 

彼はこの曲のMVで「モザイクの気味悪さ」や「モザイクの恐ろしさ」を伝えることに成功した。新しいホラーの表現方法を確立した。ミュージシャンなのに。

 

 

さらにはこの曲でミュージックステーションに出演した際は、目隠しプレイをしながら歌唱した。

 

瞳をとじるどころか瞳を隠した。これも本人の提案らしい。これもある意味でホラーである。

 

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いつしか自身の趣味嗜好や性癖や変態性を、作品に反映させるようになった平井堅。

 

以前に増して自由に活動できるようになったのかもしれないが、最近存在を知った若者は「ヤバい歌手」というイメージを持ってしまったかもしれない。

 

20年近く前は「歌唱力が高いR&Bを得意とするシンガーソングライター」というイメージが強かったと思う。ヤバい人だとは、誰も思っていなかった。目隠しプレイをテレビで披露するとは、誰も想像していなかった。

 

ヤバいことを繰り返すことで、かつてのイメージが塗り替えられてしまった。

 

そして2021年になり、彼のヤバさは最高をさらに更新した。ヤバさに慣れたファンも衝撃を受ける、日本最高峰のヤバさを創り出した。

 

 

生首になってしまったのだ。

 

念願のホラーに挑戦してから3年。さらにクオリティを高めた、人間の狂気を感じる上質のホラー作品を完成させた。

 

生首に愛情を注ぐ男性の姿は、恐ろしいのにどことなく切なく、見ていると涙を誘われる。狂気と感動を共存させる、カオスでヤバい平井堅が誕生した。

 

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自身の生首を気に入っているのだろう。テレビ出演時には生首を持ちながら歌唱した。

 

Mステの視聴者にDIR EN GREY以来となる、トラウマレベルの恐怖を与えるヤバい演出となった。同日出演だったTWICEのファンが泣いていないか心配である。

 

好き勝手やって困惑させていることは、本人も自覚しているようだ。Mステの出演前には、このようなコメントを残していた。

 

 

優しい目で見守れというコメント。ヤバみを感じる。サイコパスにも思う。

 

今の平井堅は誰に何を言われようとも、自由にのびのびと活動をしている。世間のイメージなど気にしていない。「ヤバいですが何か?」と開き直っているように見える。

 

ライブでも股間を指さして「堅のマウントフジはここ。高尾山くらいですけど…」と突然下ネタをぶっ込むヤバさを見せつけている。

 

 

しかしなぜ周囲の関係者は、平井堅のヤバい行動と言動を止めなかったのだろう。彼のヤバみを尊重したのだろえ。

 

それはヤバみが深まることに比例して、作品の深みも増しているからだ。

 

世間はヤバさばかりに気を取られて気づいていないかもしれないが、今の平井堅の才能はピークを迎えている。長年のキャリアで高い技術を身につけたこともあり、多様でクオリティの高い音楽を量産している。

 

ヤバさと引き換えに、最高の音楽を創っているのだ。

 

 

 

先日『あなたになりたかった』というアルバムをリリースした。

 

相も変わらずジャケットからはヤバさが滲み出ているが、楽曲は素晴らしい。聴いた者は「ヤバい」というイメージが拭い去られるだろう。

 

このアルバムの特徴は、「平井堅の歌声の凄み」と「サウンドの作り込みの凄み」の両方を感じることができることだ。

 

1曲目の『ノンフィクション』はアコースティックギターの演奏を軸にした、シンプルな構成と演奏の楽曲だ。そこに繊細ながらも力強い表現のボーカルが重なる。それによってリスナーに感動を与える。

 

歌を引き立る編曲であり、引き立てられるべき最高の歌声が録音されているのだ。

 

2曲目はあいみょんとのデュエットソング『怪物さん』。こちらの楽曲は個性的で刺激的な編曲が印象的である。

 

かと思えば3曲目の『#302』では、再びアコースティックなサウンドで、歌声が引き立つ楽曲が収録されている。

 

このように真逆の方向性の楽曲が、1曲から2曲置きに入れ替わり、それが交互に続くアルバム構成になっているのだ。それにより聴き手の感情を、真逆の方向に何度も揺さぶり続ける。雑多でカオスな曲順になっている。

 

しかし最初から最後まで聴くと、不思議とアルバムに統一感があると気づく。最後の『おやすみなさい』を聴いた後は感動してしまう。聴き終えた後は長く深い余韻が続く。

 

どの楽曲も平井堅のシンガーソングライターとしての個性は変わらない。その個性だけは揺るがない。だから様々なジャンルに挑戦しても統一感があるし、アルバムとしてまとめる意味を感じてしまうのだ。

 

インド人になったり生首になったりする平井堅のイカれた発想と嗜好に「ヤバい」と思ったとしても、騙されたと思って彼の音楽に触れてほしい。印象が大きく変わるはずだ。

 

クオリティの高さと才能の豊かさを実感し、平井堅の音楽を「ヤバい」と思うはずだ。

 

あれ......?「ヤバい」という印象は、音楽を聴いても変わらない......?

 

前言撤回。どう転んでも、平井堅はヤバい。