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スピッツ『夢追い虫』の歌詞が捻くれ者の自分に響く理由

人と比べてしまうこと

 

ロンドンブーツ1号2号の田村淳が『NewsCLUB』という自身のラジオで、リスナーから送られたメールでの相談に答えていた。

 

リストラされ職を失い家賃が払えなくなり、今は日雇い仕事でネットカフェ難民をして食い繋いでいる人の相談。周囲の友人が結婚したり家を建てたりしている姿と比べて辛くなってしまうが、どうすればいいのかという内容だ。

 

周りの人がこうだから自分もこうなるという指針は辞めた方が良い。今の状態から抜け出したいなら、周囲がこうだからと比べない方がいい。

 

自分は人と比べるのが嫌なタイプだから気にしないように、比べるのを辞めると決意して生きてきた。だから後先考えずに東京に来て不安定な芸人の世界に飛び込めたけれど、同級生は結婚したり固定給をもらって幸せに生きているのを20代のときに見たら不安になった。でも「比べるのを辞めたんじゃないか」と思い直して、自分軸で生きるようにと持ち直した。

 

人と比べてゴールを設定するのはシンドイから、自分がどう生きたいかの軸を考えてそこをゴールに設定することが大切だと思う。

 

田村淳はこのように答えていた。それを聞いて、彼は強い人なのだと思った。

 

夢を叶えてやりたいことをやって、それによって裕福な暮らしができているから言えるのだと思った。そんな捻くれた受け取り方をする自分は嫌な奴かもしれない。

 

決して田村淳の言葉を否定しているわけではない。相談内容に対して自身考えを押し付けるのではなく、寄り添うように話していたからだ。

 

そもそもラジオを聞くほどに自分は田村淳に好感を持っている。聖火ランナーの辞退についての考えは全力で支持するし、ロンドンハーツが深夜放送になったことは今でも残念に思っている。

 

でも自分はどうしても人と比べてしまうし、妬み嫉みの感情が渦巻いてしまう。田村淳に対しても嫉妬してしまう。人と比べないなんて、自分には不可能だ。

 

松濤や広尾や白金の高級住宅街には隕石が落ちて欲しいし、帰国子女や資産家の子どもの頭をスリッパで叩きたい。カップルYouTuberは全員別れて欲しいし、菅田将暉や橋本環奈にすら嫉妬する。

 

星野源に対しては日々の恨み、日々の妬みを感じてしまう。『逃げ恥SP』を見ても「金持ちの話だな」と捻くれた方向に受け取ってしまった。これは君が笑っても解決しない。

 

それぐらいに自分と他人を比べてしまうし、羨んだり嫉妬したり恨んでしまう。星野源を羨んでしまう。

 

憧れの対象になる人が感じる生きづらさ

 

プロミュージシャンを目指すことって、楽しそうにやってられるように見えますけど、実はそれだけではなかったりして。喜びを感じる時なんて、何かを成し遂げた一瞬だけで。

 

普通の大人になりたくなかったから音楽を始めたのに、それを不安視してる自分がいて。 

 

なりたくなかった普通の大人になっていく人たちが、妙にすごい幸せそうで。そういう人たちを羨ましく思うようになってきて、また不安なったりして。今日はライブできたからいいんですけど、音楽をやってきた9年間っていうのは、「楽しい」だけではなかったんですね。

 

これはフジファブリックの志村正彦が出身地の山梨県でライブを行った時のMCの言葉だ。

 

芸能の世界で生きる人には、一般人には理解できない悩みや不安があって、報われるかもわからない努力を誰よりも重ねて成功したのだと思う。

 

運だけでやってきたわけではないのだ。一般人の方が幸せな部分があるのかもしれない。

 

きっと田村淳も悩み考え抜いて、誰よりも努力したはずだ。そんな彼から出てきた言葉だから相談への答えにも説得力がある。きっと相談者にも届いただろう

 

でも自分は捻くれ者で頑固な人間なので、「人と比べない」という生き方を選択できないし、そんな自分自身に対して自己嫌悪に落ちいってしまう。

 

 

夢追い虫

 

ラジオを聞いていて頭の中に浮かんだ曲がある。スピッツの『夢追い虫』だ。その最後のサビの歌詞が頭に浮かんだ。

 

 

上見るな 下見るな
誰もがそう言うけれど
憧れ 裏切られ 傷つかない方法も
身につけ 乗り越え
どこへ行こうか?

 

ユメで見たあの場所に立つ日まで
僕らは少しずつ進む あくまでも

 

ユメで見たあの場所に立つ日まで
削れて減りながら進む あくまでも

(スピッツ / 夢追い虫) 

 

この歌詞には人と比べることや妬み嫉みの感情があることを受け入れてる。その感情とどのように付き合って、できる限り傷つかない生き方を模索しているように感じる。

 

笑ったり 泣いたり
あたり前の生活を
二人で過ごせば 羽も生える
最高だね

美人じゃない 魔法もない
バカな君が好きさ
途中から変わっても
すべて許してやろう

(スピッツ / 夢追い虫)

 

しかし序盤の歌詞では「人と比べずに自分の軸を持って生きていくこと」が大切だと心の奥では思っているようにも見える。自分の軸による幸せを望んでいるし、それが変わっても幸せであれる人生を望んでいる。

 

ただそれが簡単ではないことも理解していて、理想と現実の両方を歌っている。

 

かといって理想を必死で追い求めるわけでもなく現実に絶望するわけでもなく、様々な感情を受け入れて適応しつつもなんとか生きていこうとしている。

 

『夢追い虫』は「夢を叶える!」「前向きに生きていく!」と決心したり行動できるほどの強い人の歌ではない。

 

そのような人を羨ましく思ったりしながらも、頑張りたいけれどそこまでは頑張れない人の歌だ。

 

チェリー

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ズルしてもまじめにも生きてける気がしたよ

 

スピッツ『チェリー』にはこんなフレーズがある。

 

これにも『夢追い虫』に近いメッセージを感じた。人間なんて結局どうとでも生きていけるのだ。

 

スピッツの音楽には背中を押すような前向きで力強いメッセージがあるわけではない。かといって絶望を歌うわけではない。それはずっと一貫している。

 

『スピカ』では〈幸せは途切れながらも続くのです〉と歌っている。

 

スピカ

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押し付けるわけでもなく、熱い想いをぶつけてくれるわけでもない。ほんの少しだけ寄り添ってくれて、ほんの少しだけ希望を与えてくれるのだ。

 

「よっしゃ!頑張るぞ!」とはスピッツを聴いても思わないけれど、「まあ、ちょっとは頑張るか」と思わせてくれる。

 

前向きで力強い言葉を素直に受け取れない捻くれ者の自分には、この距離感の音楽がちょうど良い。心が落ち着く。

 

だから自分はスピッツのことが好きなのだ。スピッツにはなぜか嫉妬しない。星野源には嫉妬するのに。

 

それはスピッツのメンバーは多くの人に才能が認められて莫大な収入があるのに、「猫になりたい......」と敵わない相手に憧れて嫉妬し続けている人間が作る音楽だからだ。

 

猫になりたい

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そんなスピッツに共感して、仲間に思えるから嫉妬しないのだ。

 

犬はどんなに頑張っても猫にはなれないんだから、比較して憧れて妬んでも、仕方がないのにね。

 

でも、比べちゃうんだよなあ。わかるよ。自分も猫になりたいし、星野源にもなりたい。

 

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