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【レビュー・感想】崎山蒼志『find fuse in youth』

崎山蒼志のメジャーデビュー

 

「メジャーに行って変わった」

 

これは多くのミュージシャンが言われた言葉だと思う。特にインディーズ時代から人気や評価を集めていた場合は、特に言われるだろう。

 

おそらく崎山蒼志に対しても「メジャーに行って変わった」と思う人もいるはずだ。メジャーデビューアルバム『find fuse in youth』が、これまでに発表した彼の音楽とは方向性が違う演奏や音色の楽曲が多いからだ。

 

彼が注目されたきかっけは2018年のネット番組。そこで披露した『五月雨』の弾き語りが大きな話題になってバズったのである。

 

その弾き語りは衝撃的だった。聴いたことないような歌声と歌唱方法。不思議で耳から離れないメロディと歌詞。独特で簡単に真似できないようなギターのカッティング。

 

「現役高校生」という言葉もセットで話題になっていたが、年齢など関係なく音楽の才能と実力で評価されていた。

 

そのため弾き語りのイメージが強いし、弾き語りを求めていたり、彼が最初から最後まで全て一人で制作する音楽を求めているファンが多いのかもしれない。もしくは諭吉佳作/menや君島大空など交流が深い仲間とともに作った音楽であったりと。

 

だから弾き語り以外の曲も多く、外部の有名プロデューサーが関わっているメジャーデビュー作を聴いて「変わってしまった」と思うことも当然かもしれない。

 

今までとは違う編曲

 

アルバム前半の『Undulation』『Heaven』からいきなり「今までと違う崎山蒼志の音楽」が鳴っている。

 

Heaven

Heaven

  • 崎山蒼志
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

いわゆる邦ロック的なバンドサウンド。音楽フェスで盛り上げているバンドがやっていそうな起伏の大きい演奏である。そこにJ-POP的な多彩な音色も加えられている。インディーズ時代にはやっていなかったタイプの音楽だ。

 

宗本康平やアゲハスプリングスの田中ユウスケや立崎優介、Stereo Fabrication of Youthの江口亮など一流の音楽プロデューサーが編曲に関わっている。そのためクオリティは高いが、マスに刺さるための編曲をしているとも言えるかもしれない。

 

しかし編曲で崎山蒼志の個性を潰しているわけではない。

 

彼の個性的なメロディは他者が編曲したとしても耳に残るのだ。抑揚がついたバンドサウンドだからこそメリハリがついてメロディの良さが活かされているとも捉えることができる。

 

また個性的で誰も真似できないギターの魅力もしっかり活かされている。特に『samidare』は弾き語り時のギターのリフを目立たせる編曲だ。編曲が変わったとというよりも、元々の弾き語り音源をバンドによって、より魅力的にアップデートさせたようなサウンド。

 

Samidare

Samidare

  • 崎山蒼志
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

他の曲も同様だ。彼の演奏するギターが引き立つ部分をしっかり残している。

 

『花火』は激しいロックチューンだがアコースティックギターのストロークはしっかり聴こえるし、ストリングスによって壮大な楽曲になっている『そのままどこか』でも彼のギターが目立つ。

 

花火

花火

  • 崎山蒼志
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

つまり「売れ線」を狙って全く違うサウンドにしたわけではなく、しっかり個性を生かした上で、より多くの人に響くようなサウンドを目指しているのだ。崎山蒼志の才能をわかりやすく伝えるための作品になったとも感じる。

 

もしくは外部の編曲者がキャッチーな音を作ることで、崎山蒼志本人の編曲作品とのバランスを取っているのかもしれない。

 

なぜならば、本人の編曲がマニアックでぶっ飛んでいるからだ。このぶっ飛び編曲とバランスを取るには、キャッチーな曲を加えなければカオスな作品になっていただろう。

 

 

進化する崎山蒼志の表現

 

本人の編曲や弾き語りの楽曲も複数収録されている。

 

『鳥になり海を渡る』と『ただいまと言えば』は弾き語り。彼の個性的なギターカッティングを堪能することができるし、この曲を聴くと環境が変わっただけで、彼の音楽性の軸は変わっていないと実感できる。

 

鳥になり海を渡る

鳥になり海を渡る

  • 崎山蒼志
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

しかし弾き語りはこの2曲のみ。他にも本人編曲の作品も収録されているが、それは弾き語りではない。

 

本人の編曲作品は、打ち込みを使用した実験的なサウンドが中心なのだ。

 

waterfall in me

waterfall in me

  • 崎山蒼志
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

『waterfall in me』ではエフェクトのかかった自身の声を重ねて歌を構築している。

 

中盤で曲調がガラッと変わったりと、まるでプログレッシブロックのような構成。その次に収録されている『目を閉じて、失せるから』も同じような手法で作られている。

 

本来は歌を乗せることが難しいであろう実験的でぶっ飛んだ曲。そこに力技で歌を乗せることで刺激的な音楽になっている。

 

find fuse in youth

find fuse in youth

  • 崎山蒼志
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

アルバムタイトル曲の『find fuse in youth』は弾き語りから始まる曲ではある。

 

しかし少しづつボーカルやギターにエフェクトがかかっていき、後半はシューゲイザーのような轟音に、乾いたギターのカッティングが重なるという独特な音のバランスになる。

 

そして最後は弾き語りに戻るという、カオスな楽曲展開。それなのにメロディは美しいし歌声は耳に残るので、不思議とポップさもある。

 

既に崎山蒼志は「弾き語りが凄い高校生ミュージシャン」ではなくなっている。今では表現方法に囚われずに、幅広い表現で音楽を作るミュージシャンだ。

 

崎山蒼志は変わった。

 

しかしメジャーに行ったから変わったのではなく、様々な音楽を取り入れて成長したから変わった。進化したと言うべきかもしれない。

 

ファンの想像を超える進化をしているし、もしかしたら今作に関わったミュージシャンの想像すらも超える進化かもしれない。

 

2018年に崎山蒼志を初めて聴いたときと同じぐらいの衝撃を、メジャーデビューアルバムでも感じさせてくれた。彼の才能だけは、演奏スタイルや音楽の方向性が変わったとしても、何があったとしても、変わらないのだ。

 

『find fuse in youth』はそんなことを実感させてくれるアルバムである。

 

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