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フジファブリック『光あれ』を聴いて小林武史がバンドをプロデュースすることについて思ったこと

小林武史がプロデュースすることについて

 

自分が好きなアーティストが小林武史にプロデュースされると不安になる。

 

決して小林武史が嫌いだから不安になるわけではない。才能も実力も兼ね備えた天才音楽プロデューサーだと思う。しかし個性が強いプロデューサーなので彼がプロデュースすると「小林武史の音楽」になってしまうのだ。

 

コバタケサウンドと相性がよく成功するアーティストもいるが、アーティスト側の個性が薄れて音楽性が変わったり潰れてしまうアーティストもいた。だから不安になってしまう。

 

フジファブリックの配信シングル『光あれ』を小林武史がプロデュースした。

 

それに対しファンは楽曲解禁前から賛否両論になっていた。不安になったリスナーが多いのかもしれない。

 

現体制になってからはセルフプロデュースが多く、外部のプロデューサーを招き入れることは少なかった。

 

そこに個性が強い超有名大物音楽プロデューサーが入ってきたのである。「音楽性や方向性が変わってしまうのでは?」とファンが不安になるのも仕方がない。

 

 

しかし楽曲解禁後は好意的な意見が増えてきた。

 

今までのフジファブリックとは違う方向性だが楽曲としては完成度が高い。新しいチャレンジだと評価するファンも多い。

 

自分も最初の不安は拭われた。ギターは控えめだがベースラインは個性的で魅力的。キーボードもいい仕事をしている。歌やメロディはしっかり「フジファブリックの音楽」として成立している。

 

そこにコバタケ流の編曲が組み合わさり、今までのフジファブリックでは珍しいタイプの楽曲になった。

 

過去曲の中では『Girl!Girl!Girl!』の編曲に近いが、『光あれ』は小林武史の個性が加えられている。まるでフジファブリックと小林武史のコラボレーションといえる作品だ。

 

 

 

余談だが『Girl!Girl!Girl!』のMVに出演している元乃木坂46の橋本奈々未が素晴らしい。

 

彼女はフジファブリックの大ファンで、MV出演前から曲を聴いたりライブへ行っていたらしい。一番好きな曲は『赤黄色の金木犀』だという。ななみんが尊い。

 

SHISHAMOと小林武史

 

小林武史がSHISHAMOを最初にプロデュースした時も自分は不安になっていた。

 

ずっとセルフプロデュースだったSHISHAMOが初めて招いたプロデューサーが小林武史。コバタケサウンドによってバンドの魅力が損なわれないかと不安になった。

 

水色の日々

水色の日々

  • SHISHAMO
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

完成した曲は『水色の日々』。

 

楽曲前半は小林武史の匂いを感じるサウンドではあるが、曲が進むに連れてバンドの個性が強まっていき、最終的には「新しいSHISHAMOの音楽」になっていて新鮮だった。個性は損なわれていなかった。

 

経験豊富で実力も才能もあるプロデューサーを招き入れたからこそ、音楽性の幅が拡がったのかもしれない。

 

“小林武史さんと一緒にやる”というアレンジを自分たちが選択したんだ、みたいな感じ。特効を入れる、というのに近い感覚でした(笑)。例えば「明日も」だったら、ホーンを入れるときに、人の背中を押す音としての特効を入れる、という意識だったんですよ。今回は小林武史さんという特効を入れるというか、小林さんが入れてくださったすべての音が特効というか。実は最初に自分が作った曲からあまりイメージが変わってなくて。もともとあったバンドのアレンジを大胆に自由に崩して作っていくのかなと思ったら、そのまんまの演奏に小林さんの色を足していくやり方だったので、それがすごくうれしかったですね。SHISHAMOの音楽を尊重した上でやってくださってるんだなって感じました。

頭のピアノのリフも最初から入っていたんですが、なくなるのかと思ったら、使ってくださったり。

 

――この曲を聴いていて、小林さんがSHISHAMOの歌の世界をリスペクトして作っていることが伝わってきました。

 

小林さんが歩み寄ってくれているのはとても感じました。もっとグイグイ引っ張っていく感じなのかと思ったら、ちゃんと私たちのやりたいことを理解してくれて、お互いが納得しながら進んでいくというやり方だったので、とてもありがたかったですね。

 (引用:SHISHAMOインタビュー さらなる飛躍を予感させる2018年第1弾シングルをたっぷり紐解く )

 

そして自分が小林武史に対して勘違いしていたと知る。

 

自分は小林武史は自身の色を加えるプロデュースをすると思っていた。しかし実際はアーティストの意思や考えを尊重し、それを伸ばすプロデュースをしているのだ。SHISHAMOのインタビューを読むことで知ることができた。

 

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お送りしているのは大好きなSHISHAMO先生の『熱帯夜』です。今年はBAYCAMPに行ったんですけど、そこでついに生で見ることができました!熱帯夜も聴けてめちゃくちゃ高まりました!! 本当にかわいいですよね~

(引用:SCHOOL OF LOCK! | 橋本奈々未のGIRLS LOCKS!)

 

余談だが橋本奈々未はSHISHAMOのファンである。SHISHAMOもかわいいですが、橋本奈々未も本当にかわいいですよね~。

 

 

バンドの意思で音楽性が変わっていた

 

自分と同じように小林武史のせいで音楽性が変わったと思っているファンもいるかもしれない。

 

特にロックバンドのファンはメンバー以外の音や意見が作品に加わることに否定的な人が多い。「小林武史のせいで変わった」と思う人が多い気がする。

 

しかしSHISHAMOと同じように、主導権はバンド側にあるのだ。

 

初めてプロデュースしていただく事があれば小林武史さんにして欲しいなってずっと思っていたんです。実は僕、昔からガチファンなんです(笑)。Mr.Childrenさん大好きだし、Salyuさん大好きだし、レミオロメンさんも大好き。どっかのタイミングでご教示いただきたいなと思っていたので、今回それが叶って嬉しかったですね!

 

(中略)

 

ドラム、ベース、ギター、ヴォーカル、ピアノがあって、本当にそれだけのデモ曲を小林さんに投げたんですよ。そしたら「僕がちょっとアレンジ加えるね」ってリターンがあって、もうそれで出来上がったって感じ。メロディも変わってなくて、コードも……コードはちょっと変わったか。でもそれが届いた瞬間、「うわぁ、これ小林武史さんワールドだよ」って嬉しくなっちゃって、特に何も言うことなく進めました。

(引用:[Alexandros]川上「小林武史のガチファン」最新曲「ハナウタ」をアレンジ )

 

小林武史は日本のJ-POPの雛形を作ったと言っても過言ではない。ミスチルに90年代のサザンにと日本の音楽シーンに重要なアーティストと関わってきた。彼に影響を受けたアーティストもたくさんいる。

 

ハナウタ (feat. 最果タヒ)

ハナウタ (feat. 最果タヒ)

  • [Alexandros]
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

[ALEXANDROS]の川上洋平も小林武史のファンで影響を受けているようだ。

 

それもあり『ハナウタ』という楽曲でプロデュースを依頼した。メロディなど楽曲にとって重要な部分はバンドの意思を尊重し、そこに小林武史の編曲によって楽曲の魅力が拡がったことに喜んでいる。

 

[ALEXANDROS]と一緒に新しい曲を作っているんですけど、一期一会とは言え、相当濃密な時間になっているんです。終わるときには離れがたいようなくらいのことがあって。若い頃を思い出したような感じもあったし、自分のプロデュースワークがもう一度浄化されたような気もしたくらいでした。

(引用:小林武史が音楽プロデューサーとして語る、1990年代と現在の変化 )

 

 

小林武史は多くのプロデュースワークをしているが、その全てを濃密な時間にして制作をしている。

 

片手間で仕事をしない。常に本気なのだ。

 

しかもプロデュースすることで自身も影響を受けて進化している。だからこそ長年第一線で活躍しているのだ。

 

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そして大トリ、アレキサンドロスさん!!
光栄なことに最近番組やイベントで共演させて頂くことが多かったんだけど、いやいやいやいやなんで共演できてるんだろうわたしって思うステージでした...
もう一曲目のワタリドリでぎゃあああって声が響いた!笑
そこからもう最高のセットリストで...アンコールまで...スターでした...

 

余談だが橋本奈々未は[ALEXANDROS]と何度も共演している。プライベートで参加した音楽フェスでライブを観るほどのファンだ。

 

RAIN

RAIN

  • SEKAI NO OWARI
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

『RAIN』という楽曲でSEKAI NO OWARIをプロデュースした時も、小林武史はバンドの意見や方向性を尊重していた。

 

尊重した上でアイデアを出している。セカオワも小林武史のファンで、コバタケサウンドを自身のバンドでやりたいという気持ちを持っていたようだ。

 

Fukase 元々プリプロでアレンジしているときから俺の中では「小林武史プロデュースっぽく」っていうコンセプトがあって。それを一回やってみたんですけど、Nakajinが小林さんっぽくしているっていうのが、あんまりクリエイティヴじゃないなと思って。だったら小林さんにやってもらうのが一番いいじゃんと。結構アレンジや曲のイメージが固まった状態でお願いしたんですけどね。


Nakajin ストリングスとかピアノのフレーズとか、いいエッセンスを散りばめてもらって。で、最初の打ち合わせの流れで、そのまま飲みました(笑)。

 

(中略)

 

Saori あと小林さんって「もっとこうしたほうがいい」ってもっと言う人かなと思ったら、「こんなの考えてみたけど、どう?」って聞いてくれる人だったから。ただひとつだけ、Fukaseは毎回自分のボーカルにオートチューンをかけたり、生声じゃなくしたいって言うんですけど、(小林さんは)そこだけははっきりと「いや、絶対に生のほうがいい。良く録れてるんだからこのままでいいよ」って。

 

(引用:SEKAI NO OWARI -「RAIN」オフィシャルインタビュー①.「RAIN」オフィシャルインタビュー② )

 

 

小林武史は自分の意見を強めに言うと思われがちだが、実際は真逆のようだ。

 

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Nakajin先生に『奈々未ちゃんはラーメン好きなんですよね?どこのお店が好きですか?』って聞かれて、最近はソラノイロによく行きますって言ったら『あぁ、ベジソバね!』って即答されて、お店の看板メニューが即座に出るのが本当にすごいなと思いました。

(引用:ななみんニュース! | SCHOOL OF LOCK! |)

 

余談だが橋本奈々未はセカオワとも交流がある。

 

Nakahinとラーメンについて話すような仲だ。ソラノイロという名店を知っている橋本奈々未も本当にすごいなと思いました。

 

アーティストの想いを理解する小林武史

 

小林武史が『ACIDMANをプロデュースした時は、他のバンドがプロデュースされる時よりも衝撃を受けた人が多いかもしれない。

 

3人のバンドサウンドが魅力的で、小林武史が得意とするJ-POPや華やかな編曲とはかけ離れた音楽性だからだ。

 

愛を両手に

愛を両手に

  • ACIDMAN
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

実際に仕上がった『愛を両手に』という曲はストリングスが使われていたりと過去のACIDMANとは違った華やかなサウンドである。ファンの間でも賛否が分かれていた。

 

初めての試みだけど、小林さんだったら何をされてもいいやと思って、覚悟を持ってプロデュースを頼んだんですよ。そしたら、楽曲に手を入れることもなく、原曲のまま、すごく良くしていただいたという印象ですね。

 

――それは、意外にも、というか。

 

そう。もっといろんなアレンジをやってくる方なのかな?と思ってたんですけどね。でも、最初に電話で話した時に、言ってもらったことがあって、“大木くん、この曲はHOLYだよね”と。HOLYだから、僕はそこを大事にするよって。

 

――HOLY=聖なる、ですか。

 

俺からは何も伝えてなかったんですけど、すぐに読み解いてくれて、俺が求めていることをすぐにわかってくれた。

 

(引用:【ACIDMAN 20th特別企画】唯一無二の3ピースバンド、その歴史と思想とは )

 

 しかし大木伸夫のインタビューによると小林武史は楽曲にほとんど手を入れていないことがわかる。今までと違うサウンドになったのは、バンドによる意思だ。

 

楽曲に込められている想いを説明される前に読み取ることができることも、小林武史がプロデューサーとして優れていることの証拠かもしれない。

 

自分はHOLYであることを読み取ることはきっとできない。そもそも「この曲はHOLYです」と説明されたとしても意味を理解できない。HOLYとは何なのか。

 

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余談だが橋本奈々未はACIDMANとは何の関わりもないし、ACIDMANについて言及したこともない。ガッデム。

 

しかし橋本奈々未の存在はHOLYだ。

 

 

「新しい挑戦」をする時に小林武史は起用される

 

小林武史がバンドをプロデュースすると、過去の楽曲と音楽性が変わるバンドが多い。

 

しかしプロデューサーの権限で変えさせたのではない。

 

過去にコバタケプロデュースを依頼したバンドの発言からすふと、どれも「新しいことや大きな挑戦をしたいと思った時」に小林武史へ依頼することが多い。

 

SHISHAMOやセカオワ、ACIDMANのように初めて外部プロデューサーを呼ぶ際に小林武史を選ぶことも多い。

 

つまりバンドの意思によって過去作と違う音楽性や方向性の作品を作っているのだ。

 

そもそも小林武史を起用することがバンドの意思だ。ファンの賛否が分かれることは前提として、「新しい挑戦」のためプロデュースを依頼している。それに対して小林武史はあくまで楽曲の魅力を最大限に引き出すためのサポートをする。それがプロデューサーの役割なのだ。

 

小林武史は個性が強い音楽プロデューサーだ。そのため聴けばコバタケプロデュースだとわかってしまう楽曲も多い。

 

それもオーバープロデュースが理由ではなく、バンドの意思によるものだ。[ALEXANDROS]やSEKAI NO OWARIのように小林武史のファンで、彼のサウンドに近づけたいと思い依頼したバンドも多いかもしれない。

 

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橋本は30日深夜放送のテレビ東京系「乃木坂工事中」で司会のバナナマンにグループ卒業と芸能界引退を報告した。

 

「多趣味で、色んな事に興味あるんですけど、自分が表に立ってというよりはどちらかというと裏、と言いますか、誰かをサポートするお仕事の方が自分の性格には合ってるんじゃないか」という橋本。もともと芸能界に入ったのは金銭的な理由から。「めっちゃ貧乏だったんですよ。水道止まる、ガス止まる、みたいな。実家が。それでもなんとか1人目(の子ども)だから色々してくれたんですけど、弟まで回る余裕があるのかって。私のせいで……弟は男の子だし。それで、なんとかしなきゃって」と話しながら、苦しかった当時を思い出したのか、大粒の涙をこぼした。

 

 しかし弟の学費にもめどがたったという。「弟も大学にちゃんと行けて。今、1年なんですけど彼も勉強をちゃんと頑張ってくれて、学費免除になったんですよ。あと4年あるけど、勉強さえ頑張ってくれたら大丈夫」と話し、安堵の表情を浮かべた。

 

 また、母親からの手紙も引退を決意するきっかけになったようだ。「去年、(卒業を)意識し始めたときに母親から手紙が来て。いつもはお米とか送ってくれるんですけど、そのときはただ手紙だけ便箋3、4枚が入っていて。読んだら『今までごめんね、無理しないで、好きなことをしてください。弟もだいぶ自立してきたし、私も私で生活できるから』って」。

(引用:橋本奈々未が涙 「弟の学費」にめどがつき引退決意 )

 

 

余談だが橋本奈々未は2017年に乃木坂46を卒業し芸能界も引退した。新しい道へ進むことも理由の1つだ。

 

引退理由からして芸能界へ戻ってくることはないだろう。ステージやテレビではキラキラ輝いていたが、ファンを笑顔にする裏では様々な悩みや葛藤があったのだと思う。

 

「5年半、本当にお世話になりました。みなさんの支えがあっての今だと思っています。これから私は私らしくがんばります。皆さんのご多幸をお祈りします。本当にありがとうございました!皆さん、サヨウナラ!」

(引用:「自分で選んだ道の先に正解があると信じてます」乃木坂46橋本奈々未、涙の卒業ライブ)

 

今はどこで何をやっているのかわからない。でもきっと新しく選んだ道で元気にしているのだと思う。今もフジファブリックのファンだろうか。曲を聴いたりライブへ行ったりしているのだろうか。どうか幸せでいて欲しい。

 

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橋本奈々未に「光あれ」。

  

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