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家入レオの歌声と音楽はまだ「未完成」なのかもしれない

2019年以降に変わったJPOP

 

2019年頃からJPOPのトレンドや作り方を変えるアーティストが増えてきたように思う。

 

歌モノが多くてメロディが大切であることは変わっていないが、楽曲の中で何を重要視するのかが変わってきたのだ。

 

以前のJ-POPは音数を増やしたり厚みのある音で歌やメロディの魅力を引き立てていた。それが「リズムによるグルーヴで歌を引き立たせる楽曲」が増えているように思う。

 

それはOfficial髭男dismやKing Gnuのヒットによって変わってきた。

 

特に髭男の影響が強いように思う。ブラックミュージックの要素をバンドとしてキャッチーな音楽にしてJ-POPとして昇華していた。

 

耳馴染みのあるJ-POPにも聴こえるのに斬新にも感じる。それが多くの人の心をつかんだのだと思う。特に『宿命』や『I LOVE...』はそれが顕著だ。

 

I LOVE...

I LOVE...

  • Official髭男dism
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

King Gnuもそうだ。『飛行艇』の音数をしぼってドラムの手数を控え目にすることで独特なリズムを作っている。

 

飛行艇

飛行艇

  • King Gnu
  • オルタナティブ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

乃木坂46は『Sing Out!』という曲でゴスペルを取り入れている。

 

クラップやストンプの音が印象的だ。音を多く重ねて音の厚みで歌を引き立てる編曲が多かった乃木坂46としては珍しい編曲である。これも「リズム」を重要視してポップスを作ったように思う。

 

Sing Out!

Sing Out!

  • 乃木坂46
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

最近話題になっている藤井風も独特なリズムの曲が多い。

 

『キリがないから』らトラップビートを歌謡曲のメロディと組み合わせる新しい方法で作られている。これもリズムによるグルーヴでメロディが引き立てられているパターンだ。

 

キリがないから

キリがないから

  • 藤井 風
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

少しづつJ-POPのヒットの法則が変わりつつある。新しく出てきたアーティストだけでなく、今まで音楽シーンを引っ張ってきたアーティストも変化や進化をしている。

 

家入レオも変化と進化を続けている1人だ。

 

Spotifyなどのチャートで長期間上位にランクインしている『未完成』という曲も「リズム」によってメロディが引き立てられているように思う。

 

家入レオの音楽性

 

家入レオは2012年に『サブリナ』でデビューした。

 

サブリナ

サブリナ

  • 家入レオ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

この曲は疾走感のあるギターロックだ。そこからJ-POPを軸として様々な音楽を取り入れて活動している。打ち込みの音を使うようにもなったし、ジャンルレスで様々な音楽に挑戦している

 

代表曲は2015年にリリースされた『君がくれた夏』だろう。キャッチーなメロディと切ない歌詞。ミドルテンポの歌い上げるバラード。音を重ねて厚みのある編曲の王道J-POPだ。

 

君がくれた夏

君がくれた夏

  • 家入レオ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

2012年はYUIなどギターロックを歌う女性シンガーソングライターが多かった。その流れに乗るように『サブリナ』でデビューしたのだと思う。

 

2015年は西野カナが『トリセツ』『あなたの好きなところ』など王道ポップスでヒットを出していた頃。その空気感を感じたからか王道J-POPの『君がくれた夏』を制作しヒットさせた。

 

家入レオは時代に合わせて自身の音楽性を変化させている。

 

そして2020年になってからも時代に合わせたアップデートをしている。

 

 

『未完成』と『Answer』

 

2019年以降のJ-POPは「リズムによって歌を引き立たせる楽曲」がトレンドで、それを家入レオも理解していて楽曲に取り入れている。

 

未完成

未完成

  • 家入レオ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

『未完成』ではギターの音やピアノの音は控えめ。その変わりドラムの音とベースの音が強調されている。「リズム楽器」が前面に出ているのだ。

 

また歌声でもリズムによってグルーヴを作り出している。

 

サビの〈全部 全部〉というフレーズで歌のアクセントの位置をずらしリズムに変化を出している。シンコペーションという手法だ。それによってリズムが短調にならずに心地よく独特なグルーヴが発生している。

 

Bメロでも歌声によってグルーヴが生まれている。

 

Bメロではドラムとベースの音がなくなり音数が減る。しかし家入レオのリズム感の良い歌声と合間に挟まる息を吸う音によって、歌声だけで心地よいリズムを作っている。

 

家入レオの抜群のリズム感と個性的な歌唱によって、髭男やKing Gnuとは違う方法で「リズムによって歌を引き立たせる楽曲」を作っているのだ。

 

Answer

Answer

  • 家入レオ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

新曲の『Answer』もリズムが心地よい楽曲だ。

 

この曲はAメロ、Bメロ、サビでリズムパターンが変化する流れが印象的である。そしてピアノやギター、打ち込みの音が複雑に絡み合うことで独特なグルーヴを生んでいる。ブラックミュージックを感じる音色も今のトレンドに当てはまっている。

 

『Answer』のEPにはカバー曲も収録されている。

 

POP STAR

POP STAR

  • 家入レオ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

その中でも山口百恵『秋桜』と平井堅『POPSTAR』のカバーは現代のトレンドを取り入れた編曲になっている。

 

リズム楽器の音が強調されて、華やかな音色ではなくリズムでメロディの良さを引き立てている。

 

 

家入レオの個性とは

 

時代に合わせるように楽曲を作っている部分があるかもしれないが、家入レオに個性がないわけではない。

 

彼女は個性的なボーカリストでアーティストだと思う。作品にも自身の個性や作家性を反映させようとしてる。

 

 私が今回のアルバムを作る時にテーマとして真ん中に置いたのは、“私にしか歌えない曲”だったんです。“家入レオ劇場”というものを軸にして制作していこうと決めて。前アルバム『TIME』の時は“普遍的な自分になりたい”という想いが真ん中にあったんです。聴いてくださるみなさんの背景に流れている曲をイメージして。だから、“普遍的な言葉をどれだけ深く届けられるか”ということを大事にしていたんですけど、その『TIME』を持って全国ツアーを回った時に“あっ、私は私にしか歌えないものを求められているんだな”ってステージで感じる瞬間があったんです。あと、ディレクターさんに“レオさんの歌を他の人が歌う時って、自分の想いを託して歌うのではなくて、レオさんに成り切って歌うんですね”って言われたのもヒントになってますね。それで“自分にしか歌えないものを突き詰めてアルバムを制作していこう!”と思って、自分が心から一緒にやりたいと思う方たちに声を掛けて出来上がった一枚です。

 

ーよりシンガー、ヴォーカリストに徹するみたいなところもあります? 今作の深みに通じる部分として。

 

どのジャンルを歌っても、この声だと一本筋が通せるっていうことに気付いて…でも、シンガーに徹するというよりは“家入レオの演出家”というイメージが1番近いかもしれないです。しかも、それはちゃんと“私”で。自分のことだから明確にディレクションもできるし。楽曲制作の時から“こういうものを作ってほしい”というのを、どのクリエイターの方やアーティストの方にも伝えて、出来上がってきたものに対しても“この言葉尻は家入レオっぽくないので変えていただけますか”というようなお願いもしたり。だから、どんどん楽曲に対する想いも深くなっていきましたね。

(引用:【家入レオ インタビュー】自分にしか歌えないものを突き詰めてアルバムを制作していこうと )

 

2019年にアルバム『DUO』をリリースした時のインタビューで家入レオはこのように語っていた。

 

アルバムではKing Gnuの常田大希や相対性理論の永井聖一、小谷美紗子など外部のアーティストに楽曲提供を依頼し作品を作っている。それ以前も杉山勝彦や西尾芳彦、久保田慎吾など有名作曲家が関わっている楽曲も多い。

 

自身の作詞作曲にこだわっているわけではないのだ。

 

しかしインタビューで言っている通り「家入レオの演出家」として本人が自らディレクションを行っている。人気アーティストや有名ミュージシャンに対しても「家入レオにしか歌えない曲」を作ることに拘って徹底するために意見をしているとわかる。そのためには自身が作詞作曲することは重要ではないのだと思う。

 

前作アルバム『TIME』を出した時は「普遍的な言葉をどれだけ深く届けられるか」を大事にしていたと言う通り、普遍的で王道のJ-POPが多かった。

 

それが『DUO』で王道から外れた曲やトレンドを捉えた曲が多くなり、『未完成』『Answer』といった新曲に繋がっている。

 

実際に2020年にリリースされた楽曲は過去作以上に「家入レオにしか歌えない曲」になっている。それは前述した『未完成』や『Answer』のグルーヴを生む歌唱方法からもわかるはずだ。

 

だから「家入レオにしか歌えない曲」にすることができるならばとカバー曲にも挑戦したのだと思う。「この声だと一本筋が通せる」と語っていたことを作品で証明したのだ。

 

悲しみの果て

悲しみの果て

  • 家入レオ
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

ずっと「どこに行けば私は私らしくいられるんだろう」と思っていたけど、やっぱり自分に足りないものがあったんだと思う。ちゃんと土台をもう一度作り直さなきゃいけない時期に来てるなっていうのを、自覚したんだと思います。

(引用:家入レオ、葛藤の末に見出した“答え”は「ひとりぼっちになる勇気」ーー初のEP『Answer』を語る )

 

「土台をもう一度作り直さなきゃいけない時期」と語った家入レオ。その土台を作る過程として『未完成』と『ASWER』が生まれた。カバー曲にも挑戦した。それらは全て素晴らしかった。

 

リスナーとしてはもうすでに土台は作り直されているのではと思うクオリティだ。新しい土台の上で、進化した家入レオすでに歌っているような気がする。しかし本人はまだ満足しておらず、土台を作っている最中なのだろうか。

 

これだけの作品を作っても、家入レオにとってはまだ自身の音楽は「未完成」なのかもしれない。