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Karin.の歌詞がとても良い

すごい歌詞だと思った 

 

 

君の過去など知りたくないけれど良いかな?
「君は自分中心で世界が周って良いね」
そんなこと言われても否めなくて
私そんなつもりなくて
拗ねている君を見て愛されてるって思う
君が生きる街

(Karin. / 君が生きる街)

 

Karin.の新曲『君の生きる街』の歌詞が凄い。彼女の表現力の凄さを感じる。特にサビの歌詞が凄い。

 

〈君〉という言葉がいくつか使われているが対象が変わっているのだ。

 

基本的に主人公が相手に対して呼ぶ二人称に〈君〉という言葉を使っている。しかし「君は自分中心で世界が周って良いね」というフレーズでの〈君〉は相手が自分に対して語りかけているので、〈君〉は主人公のことを指している。

 

このような構成だと違和感を感じたり歌詞の意味をきちんと理解できなくなってしまうこともある。しかし『君の生きる街』を聴いて違和感を感じない。これは凄いことだ。テクニカルで難しい表現方法に思う。

 

それなのに使われている言葉や比喩表現は青臭い部分がある。Karin.自身が高校を卒業したばかりの10代であることも影響しているかもしれないが、青臭くて赤裸々で独特な視点の表現をする。そこには高い技術と未熟にも感じる表現が共存している。

 

その不思議なバランスに惹きつけられる。未熟な感情を高い技術で伝える歌詞なのだ。

 

この曲だけでない。他の曲も同じように惹きつけられる。

 

命の使い方

 

 

ごめんね 昨日の僕よ

またあいつのこと殺せなかった

 

『命の使い方』では歌い出しのフレーズから重い言葉が並ぶ。ピアノの弾き語りから始まるので、歌がダイレクトに耳に入ってくる。言葉の重さが胸にずっしりと伸し掛かる。その重さに最後まで聴くことを躊躇する人もいるかもしれない。

 

重い内容の歌詞だ。確信には触れないし、歌の中で物語は解決しない。悩みも解決せず平行線のまま曲が終わる。

 

〈教えてよ 命の使い方〉

 

このフレーズで終わる楽曲。ただ感情の吐露をするような歌詞だからこそ重みが増す。

 

『命の使い方』はおそらく「いじめ」をテーマに書かれた歌だ。Karin.は公式YouTubeチャンネルにアップロードしたMVのコメント欄で下記のようにコメントしていうる。

 

まだ十数年しか生きていない少年少女が、いじめや人間関係、孤独や社会に耐えられなくてこの世界から消えたときに「思春期だから」という理由で片付けられたくないと思い、それと同時に人の生き方を可哀想だと思ってしまった人間が一番可哀想だと思いこの曲を作りました。

 

 

思い出したくもない 部屋で手首を切った
誰も傷ついて欲しくない
私みたいになってほしくないよ

 

『愛を叫んでみた』では危うい表現のフレーズもある。表現に対してブレーキをかけないのだ。自分が思った感情や考えていることを真っ直ぐ歌詞にする。言葉自体は独特な比喩表現を使うことも多いが、そこに込められた感情は真っ直ぐで赤裸々。だから胸にどっしりと重く響く。

 

ヒットチャートの上位にあるような曲とは方向性が違う。おそらく聴く人を選ぶ曲だとは思う。

 

でもKarin.の歌に救われる人もいるはずだ。100人のうち1人にしか届かない音楽かもしれないが、その1人にとっては大切な歌になるような音楽だと思う。 

 

ヒットしそうな要素もある

 

とはいえ多くの人を惹きつける要素もある。それはKarin.の歌声とメロディだ。

 

透き通った歌声は良い意味で癖がない。聴いていて心地よくなる声質である。メロディはキャッチー。J-POP的なメロディで日本人にとっては馴染みやすい。

 

Karin.の曲はシンプルなバンドサウンドや弾き語りから発展させたサウンドが多い。今はシンプルな演奏の曲はヒットにつながりやすい。最近はTikTok発でのヒットが増えており、シンプルな楽曲の方がTikTokユーザーが弾き語りカバーすることが多くバズに繋がりやすいからだ。

 

最近なら瑛人『香水』やYOASOBI『夜に駆ける』がTikTokユーザーによる弾き語りカバーによってヒットにつながった。

 

Karin.のシンプルなサウンドとキャッチーなメロディは弾き語りでもカバーしやすい。しかしTikTok内でKarin.の曲をカバーするユーザーはほとんどいない。動画に楽曲を使用するユーザーも皆無だ。

 

歌詞が重すぎてカバーしづらいのかもしれない。TikTokでバズった過去の楽曲は明るい歌詞や抽象的で自我が抑えられている歌詞が多い。Karin.の歌詞は他の人が簡単にカバーできたいほどに言葉が重く、本人が歌う意味を感じてしまうのだ。

 

簡単にはヒットしない音楽かもしれない。メロディや声質など多くの人に興味を持ってもらえそうなフックはあるが、簡単に好きになってもらえない音楽かもしれない。

 

でもその中で、100人のうちの1人だけかもしれないけれども、Karin.の音楽に救われる人がいるかもしれない。だから多くの人に聴いて欲しいと思う。

 

特に『命の使い方』は多くの人に聴いて欲しい。

 

メランコリックモラトリアム

メランコリックモラトリアム

  • アーティスト:Karin.
  • 発売日: 2020/02/12
  • メディア: CD