2020-05-07 ラッパーが大麻や薬物で逮捕される度に思うこと コラム・エッセイ 漢 a.k.a. GAMI ラッパーが大麻で逮捕されることについて まずは「一般論」として、「なんでわざわざ今、大麻ごときで日本で捕まるのか理解できない。合法になっている国なんていくらでもあるのに、なんでこんなリスクを冒して大麻ごときをやるのか理解できない」と語った。 さらに「昔からの親友」としての立場から、「(日本のヒップホップシーンを)一緒に盛り上げてきた仲間だから、そりゃ胸がむちゃくちゃ痛いですよ。こんなことで一旦、台無しにしてしまったのが本当に悔しいし、何やってんだよって。シーン全体からしても、日本でヒップホップを根付かせるっていうことを一緒にやってきてるのに……もう!っていう。すごい辛いです」 (宇多丸、親友のUZI容疑者逮捕に嘆き「悔しい」) 上記はラッパーのUZIが大麻取締法違反で現行犯逮捕された時に、RHYMESTERの宇多丸が話していた言葉だ。 「大麻ごときで日本で捕まるのか理解できない」という言葉に共感した。 勘違いしないで欲しいが、自分は大麻の所持・使用を擁護するつもりはない。海外では合法の国もあるし、最近ではカナダが大麻を解禁していた。世界的に合法化の流れはあるかもしれないが、個人的には日本では医療用以外で合法化することには反対の立場である。 それでも大麻ごときで捕まることは理解できないと思う。語弊はあるかもしれないが、大麻の所持はそれほど重い罪だとは思えない。しかし捕まる可能性があるとわかっているのに、大麻ごときを使うことも理解はできない。 「ラッパーだから大麻ぐらい当たり前」 このような意見はファンからも出ている。ラッパーが大麻で捕まる都度、SNSではこのような意見がある。UZIや鎮座DOPENESSが捕まった時も言う人がいた。今回の漢 a.k.a. GAMIの逮捕でも言われている。 ヒップホップと大麻は文化的に繋がりが深いことは知っている。そんなアングラな部分もヒップホップ文化の魅力かもしれない。 しかし「ラッパーだから大麻ぐらい当たり前」という文化かと聞かれると、それは少し違うように思う。「大麻をやらないのが当たり前だけど、自分で責任を取れるならやるのは自由」という文化に自分は感じるのだ。 大麻に反対するラッパーもいる 漢 a.k.a. GAMIは『Rythm Of Street Life』で〈叩けば出てくるホコリ だから誰かが連れてかれるまた一人 あんまり甘く見てると高くつくことになるぜ麻薬のオトリでしばらくはオリの中〉という大麻を連想させるリリックを書いていた。 フリースタイルバトルでも大麻を連想させるラップをしていたし、自伝『ヒップホップ・ドリーム』では大麻の所持や販売をしていたことを遠回しに伝える表現があった。 Rhythm Of Street Life [Track by Drum Gang] 漢 a.k.a. GAMI ヒップホップ/ラップ ¥255 provided courtesy of iTunes 彼が大麻を所持や使用をしていたとして、驚きもショックも違和感もない。もちろんそれが良いことだとは一切思ってはいないが、自分はヒップホップの表現として楽しんで音楽を聴いていた。 しかし全てのラッパーが大麻を肯定しているわけではない。もちろん使用していないラッパーもたくさんいる。 DOTAMAは警視庁の大麻撲滅キャンペーンに参加していた(これには賛否両論あったけれども)。 梅田サイファーは『マジでハイ』という曲で〈静脈にレコード針 打ちます そりゃ まぁ 素面でぶっ飛びます〉と大麻や薬物でなく音楽でぶっ飛ぶと宣言している。 〈よく言われるよ『ラップが上手いだけ』 それ以外に何が必要なんだっけ? 教えてくれMR. HIPHOP MAN〉と大麻を使う文化や、その文化の中にいるラッパーの批判もしている。 マジでハイ KZ, PEKO, ふぁんく, KOPERU, KBD, KennyDoes & R-指定 ヒップホップ/ラップ ¥255 provided courtesy of iTunes 梅田サイファーに参加していたR指定はCreepy Nutsでも大麻や薬物使用を否定する表現のラップをしている。『合法的トビ方ノススメ』という曲をリリースし〈合法的な飛び方を心得よ〉と歌っている。 合法的トビ方ノススメ Creepy Nuts ヒップホップ/ラップ ¥255 provided courtesy of iTunes 般若はUZIが大麻取締法違反で逮捕された際、自身のブログ内に載せたフリースタイルラップでUZI逮捕の件について痛烈なディスをしていた。楽曲でも大麻を非難している。『吸われた街』は大麻を批判する内容だ。 吸われた街 般若 ヒップホップ/ラップ ¥255 provided courtesy of iTunes このように大麻に関して批判的な立場のラッパーもいる。 自分はヒップホップの文化にどっぷり浸かっているわけではないし、ものすごく詳しいわけでもない。詳しい人からしたら「お前の考えは違う」と思われるかもしれないが、個人的に「大麻」の存在は今のヒップホップシーンにおいて重要ではなく不必要に感じる。 守るべき文化もあるが、変えていくべき文化もあるのだ。もしも「大麻」がヒップホップの文化ならば、変えていくべき文化ではと思う。 音楽としてのヒップホップが評価されなくなってしまう 自分は文化や生き方としてのヒップホップではなく、音楽としてのヒップホップに惹かれた。 そもそも入り口はテレビ番組に出ていたRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWだったので、文化的な部分には詳しくないし、正直理解できない部分も多い。 何度か日本でもヒップホップが流行りかけたこともあった。KICK THE CAN CREWが紅白に出たこともあった。スチャダラパーが小沢健二とコラボした『今夜はブギーバック』は今でも多くの人に愛されている。 しかし今でもヒップホップは”悪い意味”でアングラな存在として、世間に扱われることが多い。偏見の目で見られることも多い。 許せねえんだよ オメェもZeebraも カッコばっかで中身がねぇんだ 誰かが逮捕 誰かが逮捕 また一からやり直すのかジェンガ これはUZIが捕まった時に般若がフリースタイルでディスった時のフレーズの一部だ。 現在海外の音楽シーンで中心にあるジャンルはヒップホップだ。例えばドレイクやトラヴィス・スコットは多くのヒットを飛ばし、チャートでも上位に居続けている。しかし日本でヒップホップの楽曲やアルバムが売れることなんて滅多にない。 海外と日本とでは文化や考え方の違いもあるのかもしれないが、定期的にシーンで名の知れたラッパーが逮捕されるせいで、ヒップホップが市民権を得ては手放してを繰り返しているようにも感じる。それによってヒップホップはずっと”悪い意味”でもアングラな存在であり続けているのかもしれない。 ヒップホップの文化や生き方を愛している人はそれでも構わないと思うだろうし、それこそがヒップホップだと思うかも知れない。 でも自分はヒップホップという音楽に惹かれたので、多くの人に偏見をもたれて音楽が届かない状況になってしまうことは寂しく思う。そんなことをラッパーが大麻や薬物で逮捕される都度に思う。