2020-04-15 YouTubeで広瀬香美が『マリーゴールド』を歌いながらブッ壊れた コラム・エッセイ 広瀬香美 あいみょん 米津玄師 Official髭男dism King Gnu 広瀬香美が歌うあいみょん『マリーゴールド』 広瀬香美の動画が話題になっている。3月に突如「歌ってみた動画」の投稿を自身のYouTubeチャンネルで始めたのだ。 3月11日に米津玄師の『Lemon』を歌った動画は話題になり240万再生を超えた。その後もOfficial髭男dism『Pretender』とKing Gnu『白日』の「歌ってみた」も投稿し広瀬香美の個性満載のカバーを披露している。 そして4月10日にはあいみょんの『マリーゴールド』を投稿した。この動画も高評価を集めているのだが、今までの動画とは違う衝撃を視聴者に与えた。動揺した人もいると思う。 広瀬香美が、ブッ壊れたのだ。 楽曲の解説を前半に行い、動画が5分ほど進んだ時から演奏が始まる。 美しいピアノの演奏とまっすぐ突き抜ける歌声。デビュー28年目のベテランの貫禄を感じる。自然と自身の個性を付け加えて、まるで広瀬香美のオリジナル曲のようにすら聴こえてくる。 しかし、サビになると、様子が変わる。 突然激しくピアノを叩くように弾く。パンクバンドのような激しさ。圧倒的な声量に鳥肌が立つ。体全身で歌っているようにだ。揺れたマリーゴールドというよりも、暴れたマリーゴールドという感じ。そんな激しさ。 そこから曲が進むにつれ、どんどん激しくなる。風の強さがちょっと心を揺さぶるのではなく、広瀬香美の強さが心を揺さぶる。 広瀬香美がブッ壊れたと思った。 自分が知っているマリーゴールドとも、自分が知っている広瀬香美とも違った。あまりにも衝撃的だった。 でも不思議なくらいに絶望は見えない。そして気づく。壊れたのは広瀬香美ではない。自分の方だ、と。 広瀬香美がブッ壊れたのならば、聴くに耐えない演奏になっていたと思う。しかし惹きつけられる歌声と演奏だ。最高だ。 広瀬香美はブッ壊れたのではなく、ブッ壊したのだ。多くの人が思い描く『マリーゴールド』のイメージをブチ壊して、楽曲の素晴らしさや音楽の凄さを伝えたのだ。 分析をする広瀬香美 広瀬香美はなぜ『マリーゴールド』に多くの人が思い描くイメージをブッ壊せたのだろうか。それは敬意を持って徹底的に分析しているからだ。 分析してみてすごいところにたくさん気づきました。あいみょんさんは例えるならば「情景を描かせるマジシャン」。映画を観ているように、ゆっくりとストーリーが流れていって、気持ちをさらってくれる。情景を引っ張れることはすごいことなの。音楽的に言うと「休符」のマジシャンだと思う。作曲していると音符を詰め込んでしまうけど、あいみょんさんは引き算が上手。冒頭から休符があってちゃんと休める。すごい。成熟しているよね。展開が優しい。ファンのみなさんに優しく「ついてきなさい」と言っている感じ。だからみんな最後までついていける。勉強になりました。 動画の前半では『マリーゴールド』に対して上記のように分析したことを話している。ベテランミュージシャンの広瀬香美が若手のあいみょんに対して「勉強になりました」と語っている。先輩だからと驕っていない。謙虚で学ぼうとしている。すでに自身の音楽性も確立しているはずなのに。 まだまだ自身を進化させようとしているのだ。後輩であろうと敬意を持っていて、学ぼうとしている。その結果として自身の色を付け加え、新しい『マリーゴールド』を聴かせてくれたのだ。 流行っていたから曲の作りはどうなってるんだろうなと思って練習してみたんだけど、米津玄師さんは私と全く違うタイプの作曲家。だから覚えづらくてすごく練習した。私だったらこういうメロディラインにするなというところを別のメロディラインに行く。私がここは休みだろうなという部分を絶対に休まない。これが流行っている理由かもしれない。すごく勉強になりました。 米津玄師の『Lemon』をカバーした動画でも分析をして「勉強になりました」と語っている。自身とは違う部分を認め賞賛し学ぼうとしている。そして吸収するために練習をし演奏をする。 歌っていて何が気持ちいのかの分析で、どんだけ素晴らしいのかって話だけど、この曲はサビの「グッバイ」を言わせるまでのフリ(イントロ、Aメロ、Bメロ)が上手く作られてる。サビの「グッバイ」の効き目がすごい。作り方が上手。すごく音楽好きなんだな。たくさん効いて分析して解釈して咀嚼して、自分なりのカラーを出している人なのだなと思います。Aメロは下から上にいく短めのメロディ。Bメロは上から下に行くメロディ。AメロとBメロとで逆になっている。そのあとのサビでドンと行くから広がって盛り上がる。良い形。私もこの形で曲を作ろうと思いました。 Official髭男dismの『Pretender』では楽曲の分析を細かく行うだけでなく、作曲者の音楽への想いに共感し尊敬しているようだ。年齢もキャリアも関係なく「ミュージシャンとして、音楽を愛する者として」敬意を払っている。 いろんな味が濃縮された幕の内弁当。どこを食べても美味しい。何回食べても美味しい。やんちゃでロック。それが素晴らしい。その魅力をわかりやすく演奏して伝えることが私の役目。私の演奏を聴いてオリジナルを聴いてください。魅力倍増だと思います。 King Gun『白日』をカバーした際には「魅力をわかりやすく伝えることが私の役目」と語っている。 カバーで自身に話題を集めたいのではなく、楽曲を作ったアーティストの魅力をミュージシャンだけができる方法を使って伝えようとしているのだ。「オリジナルを聴いてください」とも言っている。自身の音楽だけでなく、日本の音楽シーンを盛り上げていきたいという気持ちもあるようだ。 自身の作詞作曲作品で音楽の素晴らしさを伝えることもアーティストの役割だとは思うが、あえてカバーをすることで音楽の素晴らしさを伝える役割もある。それを広瀬香美が教えてくれた。 狙って個性を出しているわけではない 「歌ってみた動画」では広瀬香美の個性がにじみ出ている。広瀬香美のオリジナル曲かと思うぐらいに個性が強い。 しかし「自分の個性を出してやろう」と思ってカバーをしているわけではない。 King Gnu『白日』を歌う前に「魅力を伝えることが私の役目」と語っていた。あくまでオリジナルを作ったアーティストや楽曲の魅力を伝えることを目的としている。そしてその役割を果たしている。 それなのに広瀬香美の個性が滲み出てしまうのだ。彼女の実力や才能がそうさせるのだ。 すごく音楽好きなんだな。たくさん効いて分析して解釈して咀嚼して、自分なりのカラーを出している人なのだなと思います。 Official髭男dism『Pretender』をカバーした動画では上記のように話していた。これは広瀬香美も同じだ。彼女も音楽が好きで分析して解釈して咀嚼している。そうでなければベテランが年齢もキャリアもずっと短い後輩をリスペクトすることはない。そしてこれが音楽シーンの第一線で活躍し続ける理由に思う 広瀬香美は「歌ってみた動画」を通じて若手アーティストや流行っている楽曲の魅力だけでなく、ミュージシャンとしてのあり方を自然と伝えている。それは本人に自覚がなくとも、リスナーや後輩アーティストにも伝わっているはずだ。 広瀬香美は『ロマンスの神様』というよりも『音楽の神様』と言えるような活動をしているのだ。 ロマンスの神様 広瀬香美 J-Pop ¥255 provided courtesy of iTunes WINTER TOUR 2020 “SING” + Live at Blue Note Tokyo 楽天市場 Amazon