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藤原さくらの新曲『Twilight』を聴いたら岸田繁が「くるりのボーカルをお願いしたい」と言った意味がわかった(感想・歌詞・レビュー・評価)

くるりのボーカルを誰かにお願いしなければいけないとしたら?

 

くるりと藤原さくらは過去に接点はあった。

 

藤原さくらはくるりのライブへ行ったことをSNSでも投稿していたし、くるりの岸田繁が作詞作曲したラジオのキャンペーンソングHello Radio』にボーカリストの1人として参加していた。

 

一緒に作品を作ったりと関わりはあったものの、岸田繁から藤原さくらに言及したことはほとんどなかったように思う。キャンペーンソングは4年前。それ以降の表立った交流もなかった。

 

 

だから岸田繁が「くるりのボーカルを誰かにお願いしなければならないとしたら誰にお願いしますか?」というファンからの質問に『藤原さくら』と答えたことは意外に思った。

 

くるりの楽曲は男性目線の曲が多い。

 

差別するわけではないが、男性が歌った方が似合う歌が多いようにも感じる。自分は両者のファンではあるが、藤原さくらは女性からの視点の歌が似合うようにも感じていた。

 

しかし藤原さくらの新曲を聴いたら、岸田繁が「藤原さくらにくるりのボーカルをお願いしたい」と思ったことに納得した。

 

Twilight

Twilight

  • 藤原さくら
  • J-Pop
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 『twilight』というタイトルの楽曲。

 

この曲の演奏や歌詞を聴いた時、くるりを歌っている藤原さくらが想像できたのだ。

 

藤原さくらの変化と現在

 

 藤原さくらは変化と進化を繰り返してきたシンガーソングライターだ。

 

デビュー当初は「和製ノラ・ジョーンズ」をキャッチコピーにして英詞の歌を中心に歌っていた。キャッチコピー通りにノラ・ジョーンズを感じるハスキーな歌声で、若手の女性シンガーソングライターには珍しく洋楽の影響を強く感じる楽曲が多かった。

 

Ellie

Ellie

  • 藤原さくら
  • J-Pop
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しかし「和製ノラ・ジョーンズ」の肩書きがきっかけに売れたわけではない。

 

テレビドラマに出演し主題歌がヒットしたことで知名度があがり人気になった。世間が持つ藤原さくらのイメージは「J-POPを歌ったり名曲カバーを歌う歌手」というイメージかもしれない。

 

Soup

Soup

  • 藤原さくら
  • J-Pop
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 藤原さくらがヒットを出してから発表したアルバム『PLAY』は過去作と比べるとJ-POP的な楽曲が多い。キーが高い曲も増えたし、英語詞は1曲しか収録されていない。

 

スピッツ『春の歌』のカバーや福山雅治が作詞作曲した作品も収録されたりと、過去作とは方向性が大きく変わったように思う。

 

その後にリリースされた『green』と『red』の2枚のEPでは、また違う方向性の音楽を聴かせてくれた。

 

The Moon

The Moon

  • 藤原さくら
  • J-Pop
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今までは生楽器だけで録音することにこだわっていたが、『green』と『red』の2作品では打ち込みやラジオボイスによるボーカルエフェクトも取り入れ、音楽性の幅を広げた。

 

藤原さくらは今までデモテープを作っても弾き語りだった。レコーディングではバンドメンバーに口頭で頭の中で鳴っている編曲のイメージを伝えて制作を続けていた。

 

しかし新曲の『Twilight』ではデモテープの段階から自身で多重録音している。具体的に自身の考えている音をバンドメンバーやスタッフに聴かせる制作方法になった。それによって藤原さくらのアイデアがより楽曲に活きるようになった。

 

様々な音楽に挑戦した結果、藤原さくらの個性が最も活かされる活動に現在なっているのだ。

 

 

今のくるりの方向性

 

くるりも音楽性の変化と進化を繰り返している。 

 

デビュー当初はギターロックバンドとして存在感が際立っていた。少しづつ打ち込みのサウンドを取りれたり、メンバー以外の楽器を積極的に取り入れることで音楽性を変化させていった。

 

エレクトロニカにも挑戦した『THE WORLD IS MINE』やクラシックの要素を取り入れた『ワルツを踊れ』など個性的なアルバムもリリースした。ジャズやヒップホップを取り入れた楽曲も制作していた。

 

初期と比べると繊細に音を積み重ねている楽曲が増えた。ギターの音だけでなくトランペットやストリングスなど楽曲に合わせてフィーチャーされる楽器も変わるようになった。

 

2018年にリリースしたアルバム『ソングライン』では過去の活動を昇華した結果、シンプルながら「良い曲」が揃ったアルバムになっている。

 

忘れないように (Album mix)

忘れないように (Album mix)

  • くるり
  • オルタナティブ
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しかし一癖も二癖もある独特なメロディと歌詞は過去から一貫して変わらない。それだけは誰にも真似ができない部分だ。

 

くるりは変化や進化を繰り返してきたが、唯一無二の個性は変わらない。そこがくるりの音楽の本質の部分かもしれない。

 

だから1stアルバムの曲を聴いても最新アルバムの曲を聴いても、すぐにくるりの曲だとわかる。過去の曲にも最近の曲にも同じように魅了される。

 

 

くるりと藤原さくらの近いと感じる部分

 

くるりも藤原さくらも様々な挑戦をしてきた。それによって音楽性も変化した。しかし個性は失わずに進化している。それは両者の共通点する部分に思う。

 

両者ともに進化と変化を続けた結果、くるりと藤原さくらの音楽には親和性が強まったようにも感じる。

 

 

 

藤原さくらの新曲『Twilight』はトランペットやサックスが印象的な楽曲。

 

ミドルテンポで繊細な演奏。丁寧な音作り。心地よいメロディと歌声。くるりの『ソングライン』に収録されている楽曲に近い空気感を持っている。

 

そのため藤原さくらがくるりの楽曲を歌っている姿が容易に想像できたのだ。

 

しかし性別も声質も全く違う。歌唱方法も違う。近い部分はあるかもしれないが、持っている個性は全く違う。そのため岸田繁が歌う時とは別の魅力も引き出しそうな予感もする。

 

岸田繁はそれを感じ取ったのかもしれない。だから「くるりのボーカルを誰かにお願いしなければならないとしたら誰にお願いしますか?」という質問に「藤原さくら」と答えたのかもしれない。

 

『Twilight』の歌詞からくるり『東京』に近い方向性を感じる

 

『Twilight』は恋愛の歌だと思う。しかし歌詞だけでは「恋愛の歌」だという確信は持てない。どことなくフワフワしているのだ。

 

今日は三度乗り換えして
ずっと気になってた店まで
ごまかすみたいに食べても
すこしも満たしてくれないみたい

 

あなたの言った「会いたい」は
嘘じゃなかったでしょ
通りを猫が歩いていく
今日も変わらない

 

今は髪を切ってみたり
ほんのちょっとで嬉しいけど
今日も飽きず 頭の中
何度もあの日をやり直した

 

手紙を書いたの
どうも長くはなったけど
1人になってから読んで
電気を消してよ

 

好きになった方が負けかなぁ
思い出すのはあの甘い
Tonight 今夜は夜更かしして
Everyday every night
Good night good bye

 

あなたと行ったあの街に
朝が昇っていく
子守唄はもう止めて
電気をつけるよ

 

Today 今は背伸びしてもいい
おろしたての服を着て行こう
Tonight 今夜は夜更かしして
Everyday every night
Good night good bye

 

Today 荷物は少なくていい
おろしたての靴履いて行こう
Tomorrow すこし早く起きて
Everyday every night
Good morning baby

 

Everyday every night
Good morning baby

(藤原さくら / Twilight)

 

 

淡々と日常のことを綴るようなフレーズが並ぶ。1人で過ごす日々を歌ってはいるが「あなた」へ語りかけるようなフレーズもある。登場人物2人の関係性もはっきりしない。

 

それがくるりの代表曲の1つである『東京』に近い表現方法に感じた。

 

 

東京の街に出て来ました
あい変わらずわけの解らない事言ってます
恥ずかしい事ないように見えますか
駅でたまに昔の君が懐かしくなります

(くるり / 東京)

 

「東京の街に出て来ました」というフレーズから始まるくるりの『東京』。

 

この楽曲も自身の生活や感じたことについて淡々と歌ってる。「君」に語りかけるような表現も含んでいる歌詞。登場人物の関係性も歌詞だけでははっきりとはわからない。

 

しかしサビでは自分の感情について歌っている。そしてサビ以外では過去のことや現在の行動について歌っているが、サビでは自身の気持ちについて歌っている。

 

君がいないこと

君とうまく話せないこと

君が素敵だったこと

忘れてしまったこと

(くるり / 東京)

好きになった方が負けかなぁ

思い出すのはあの甘い

Tonight 今夜は夜更かしして

Everyday every night

Good night good bye

(藤原さくら / Twilight) 

 

 そして2番のサビでは自身の感情について自分なりの答えを出し、とその先の行動について歌っている。

 

君がいるかな

君とうまく話せるかな

まあいいか

でもすごく辛くなるんだろうな

君が素敵だったこと

ちょっと思い出してみようかな

(くるり / 東京) 

Today 今は背伸びしてもいい

おろしたての服を着て行こう

Tonight 今夜は夜更かしして

Everyday every night

Good night good bye

(藤原さくら/ Twilight)

 

『Twilight』と『東京』には、このように表現方法に近い部分がある。藤原さくらがくるりを意識したわけではないと思う。似ている曲や歌詞というわけではない。しかし藤原さくらはくるりからの影響も受けている。それが藤原さくらの個性に染み入って、この形になったのだと思う。

 

♫東京/ くるり

くるりのデビューシングルですね。くるりも地元が京都で、地方から東京に出て来ている方たちですが、私も地元が福岡ということで、地元から東京に出て来たときのことを、思い出すなぁと思って、選曲させていただきました。

(引用:藤原さくらが選ぶ、東京を感じる3曲 – TOKYO SOUNDS GOOD)  

 

藤原さくらはくるりの『東京』について言及したことがある。やはり藤原さくらの音楽にくるりの音楽は影響を少なからず与えているのだと思う。

 

岸田繁も藤原さくらの音楽に影響を受けているのかもしれない。好きでもないシンガーを自身のバンドのボーカリストをお願いしたいとは言わないはずだ。

 

後輩が先輩から影響を受けることは多い。しかし先輩が後輩から刺激を受けることもある。

 

これは音楽に限った話ではないが、下の世代の才能や実力を認める上の世代はいつまでたってもカッコいいことをやっている。年齢やキャリアの差によって生まれたプライドのせいで素直に認められない先輩や上の立場の人も多い。

 

岸田繁は後輩ミュージシャンの才能や実力を認めている。後輩から刺激や影響を受けている部分もあると思う。だからくるりの音楽は今でもカッコいいのだ。ずっと変わらずに新鮮で刺激的な音楽をリスナーに届けてくれるのだ。

 

岸田繁と藤原さくらは4年前のコラボから表立った交流もなかったし、岸田繁から言及されることもなかった。

 

しかし岸田繁は藤原さくらが素敵だったことを忘れていなかった。藤原さくらの素敵だったことをちょっと思い出してみてくれた。

 

岸田繁と藤原さくらがうまく話せるかどうかはわからないけれども。それは、まあいいか。

 

 

 

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