オトニッチ

ニッチな音楽情報と捻くれて共感されない音楽コラムと音楽エッセイ

堂本剛FUNK同好会が4時間半で作った曲『しすてむ』の何が最高だったのか説明する 〜 FNS歌謡祭2019 感想 〜

堂本剛FUNK同好会

 

4時間半の間で一曲作るというテレビ番組の企画。面白い企画だとは思う。

 

FNS歌謡祭で行われた堂本剛が4時間半の番組放送時間内に1曲制作し披露するという「堂本剛FUNK同好会」という企画。

 

もしかしたら楽曲の大まかな構成や骨格部分は事前に考えていたのかもしれないが、クオリティの高さに期待していなかった。時間をかければ良いものができるわけではないが、短い時間を指定されて時間内に収めることは簡単ではない。参加メンバーはお笑い芸人などプロのミュージシャン以外も参加してる。

 

妥協しなければならない部分も出てくるかもしれない。進捗スピードも意識しなければならないし、テレビ番組なので視聴者が制作過程も楽しめるようにしなければならない。

 

でも、これがとても良かった。堂本剛の凄さを感じた。しかりとクオリティの高い楽曲を作り上げていた。

 

 

度肝を抜かれた

 

堂本剛FUNK同好会のパフォーマンスは番組の終盤だった。『しすてむ』というタイトルの楽曲。期待値は低かった。しかし聴いてすぐに度肝を抜かれた。自分の予想していたものとは違ったからだ。

 

ヴォコーダーの演奏から始まった。それに驚いた。

 

ヴォコーダーとはシンセサイザーの一種。シンセサイザーとマイクが繋がっていて、シンセに繋がれたマイクで歌われた声にエフェクトをかけることができる楽器。いわゆる「ロボットボイス」と言われる音だ。perfumeやSEKAI NO OWARIなど今の日本の音楽シーンの中心にいるアーティストも使用している。

 

世界の音楽シーンにおいてロボットボイスが広まったきっかけの1つにファンクがある。『しすてむ』のオープニングがロボットボイスで始まったことにファンクへの愛とリスペクトを感じた。

 

1970年~1980年代に主に人気だったZAPPというファンクバンドの楽曲がロボットボイスが広まったことに大きな影響を与えている。有名なファンクバンドで大きな影響を与えたバンド。彼らは「ロボットボイス」でファンクナンバーを作りヒットした。

 

ZAPPはヴォコーダーではなくトークボックスというエフェクターを使用してロボットボイスにして歌っていたわけだが、それでもZAPPの「ロボットボイス」は印象的でファンクミュージックだけでなく他のジャンルにも影響を強く与えたらしい。

 

 

2010年代に入ってからもZAPPをリスペクトしているような楽曲がヒットしている。

 

ブルーノ・マーズがグラミー賞代優秀アルバム賞を受賞した『24K・マジック』のタイトル曲でもZAPPを感じるロボットボイスとファンキーなリズムが聴ける。

 

『しすてむ』と同様にロボットボイスから始まるオープニング。ZAPPのファンクを21世紀に持ってきて再構築したような楽曲。

 

70年代~80年代のファンクを再評価して魅力を伝えるとともに、現代的な味付けもして新しい音楽にしている。

 

 

堂本剛FUNK同好会の『しすてむ』からもそれを感じた。

 

『しすてむ』もファンクミュージックへのリスペクトしつつ現代の新しい解釈で表現しているような感じ。聴いていて古さは感じない。ただただカッコいい。

 

それでも過去のファンクの名曲や重要アーティストの匂いを感じる。おそらくリスペクトしつつ、それらの音楽を取り入れているからだ。ロボットボイスから楽曲が始まることで、堂本剛が短い時間の中でリスペクトと愛を込めて本気でファンクミュージックを制作したことを感じた。

 

 

オーケストラヒット

 

オーケストラヒットという演奏方法がある。

 

これはオーケストラが全員で同時に音を出して音を合わせる演奏のこと。ベートーヴェンの『運命』でいうと「ジャジャジャジャーン」の部分。これはオーケストラだけでなくバンドでも行われることが多い。最近の楽曲ならばネクライトーキーの『オシャレ大作戦』のオープニングでも使われている。

 

 

堂本剛FUNK同好会でもオーケストラヒットは使われていた。ロボットボイスの後すぐに。これがかっこよかった。そしてこの部分によって個性的なファンクになっていたように感じる。

 

ロックを感じたのだ。

 

リズムや音からもファンクの横揺れの心地よいノリというよりも頭を縦に振りたくなるようなノリ。ファンクへのリスペクトを感じる曲の始まりだったが、その後すぐにファンクとは違う価値観をミックスしている。それが新鮮で個性的に思う。

 

楽曲はさらに面白い展開になる。

 

その後はリズムも演奏も王道のファンクミュージックに変化するのだ。序盤の意外性でリスナーを引き込んだ後は王道の展開でファンクミュージックに酔わせる。その曲構成は短い時間だからと手を抜かずに考え抜いて制作されたことが想像できる。

  

プロではない演奏メンバーを引き立てる

 

堂本剛FUNK同好会のバンドメンバーはプロのミュージシャンだけではない。ドラムは小籔千豊でベースは野性爆弾のくっきー。二人ともジェニーハイのメンバーではあり楽器が弾けるものの腕前はアマチュアレベル。プロと比べたら演奏が上手いとは言えない。

 

しかし、そのようなメンバーでも成立するように編曲されている。それでいて小藪やくっきーにも見せ場があるように工夫されている。

 

『しすてむ』の曲構成はシンプル。テクニカルな演奏が必要な曲ではない。オープニングは個性的だが、その後は王道ファンクを感じる演奏。コード進行もほとんど変わらないように聴こえる。複雑な構成で魅了するのではなく同じようなフレーズを繰り返すことで心地よさを感じる仕組みになっている。そのためプロでなくてもしっかり聴かせる演奏ができているし違和感もない。

 

堂本剛、小籔千豊、くっきーのソロパートが中盤にあることも印象的だ。小藪とくっきーは下手なわけではないが、シンプルなフレーズを弾いていて単調。それなのに違和感なく心地よく聴ける。

 

それは演奏が同じようなフレーズを積み重ねて心地よくしているからだ。心地よい状態が続き中だるみしそうなタイミングでメンバーソロになるのでアクセントになっていた。曲の構成によって彼らの演奏が引き立つようになっていたし、彼らの演奏によって曲がより魅力的になっていた。

 

「いい曲を作る」ということだけでなく「誰と曲を演奏するのか」についても考えて演奏メンバーの魅力を最大限に活かすように制作したように感じる。

 

 

歌詞とメロディが忘れられない

 

FNS!FUJITVミラクルパーティー!

 

このサビの歌詞が頭から離れない。キャッチーなメロディと歌詞。短い曲ながら何度も繰り返すので自然と覚えてしまう。気づけば一緒に口ずさんでしまう。

 

『しすてむ』は4時間半で作られた楽曲。限られた時間で複雑な曲を作ることは難しい。その代わり馴染みやすくキャッチーで心地よい曲は作れる思い、そちらに振り切ったように思う。

 

もちろん先に書いた通り工夫して作られた曲だとは思う。しかし曲の要はサビのメロディから派生してそれを生かすように作られている。そのため短い時間でもインパクトがあり曲の魅力がしっかり伝わる。

 

もう一つ頭から離れない部分がある。

 

意外と知らないFNSの『S』

知らずに出てたよFNSの『S』

 

後半に出てくるこの歌詞。これも印象的で頭から離れない。

 

たしかにFNSの『S』が何か知らない。聴いていて気になってしまう。後半にこのフレーズが出てくることで「FNSのSって何だ?」と考えて気になってしまう。気になって答えが出てくるのではと最後まで集中して聴いてしまう。ユーモアを含んだ歌詞を自然と覚えてしまう。

 

メロディや歌詞でも最後まで飽きさせずに聴かせる仕組みが考えられている。

 

ちなみに歌詞でFNSの「S」の意味は説明されずに曲は終わってしまう。そのツッコミどころを残すところもユーモアがあって良い。 

 

 

しすてむ

 

この曲は今後演奏されることはないかもしれない。この日のために作られた曲だからだ。魅力的な要素が詰まっている良曲なのにもったいない。

 

この記事でオススメしたところで、公式動画がも音源もネット上にはないので紹介できない。

 

堂本剛は元々アイドル。世間はテレビのバラエティやKinki Kidsとして歌っている姿しか知らない人も多いと思う。その姿も魅力的で素晴らしいトップアイドルだとは思う。

 

しかしミュージシャンとしても活動している。その活動はアイドルとして彼を応援している人だけでなく、コアな音楽ファンに支持されている。2018年と2019年にはサマーソニックに出演し爪跡も残している。今回は彼のミュージシャンとしての魅力がテレビを通して伝えることができたのではとも思う。

 

堂本剛は現在ENDRECHERIという名義で作品を制作したりライブを行っている。そこではより本格的で作り込まれたファンクミュージックを聴くことができる。ENDRECHERIの活動を知らずにFNSで興味を持った人は是非とも聴いてみてほしい。

 

今は日本のヒットチャートでファンクが上位にランクインすることは少ない。ファンクを主に作る人気アーティストも少ない。その中で知名度が高い堂本剛がプロとして本気でファンクを鳴らしていることは日本の音楽シーンにおいて価値があることだとも思う。

 

ちなみにFNSの「S」の意味については演奏終了後に堂本剛が説明していた。

 

「FNSのSはシステムのSなんですよ。改めてみなさんに伝えようと思いまして」

 

なるほど。曲のタイトルが『しすてむ』である理由はそれだったのか。心地いい音楽を聴いた後に説明されてスッキリ爽快な気分にさせてくれた。この遊び心も最高だなと思う。

 

でも、FNSのSがシステムだと知ったところで、それが役に立つことのない無駄知識ではあるけども・・・・・・。