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吉澤嘉代子は「一角獣」を歌うために川口でライブをやったのかもしれない 〜 デビュー5周年記念 吉澤嘉代子のザ・ベストテン 感想 ライブレポート 〜

会いたいのは未来の自分

 

「誰かに会いたいのに会いたい人の顔が思い浮かばなくて。それで、会いたかったのは未来の自分のなんだなと思いました」

 

ゆっくりと話す吉澤嘉代子。その姿が印象的だった。歌詞の解説としてのMCでもあり、ライブ中に感じた気持ちを説明しているようにも思えた。

 

一日中考えても

誰かに会いたいのに

それが誰だかわかんないよ

 

その後に歌われた曲は『一角獣』。アンコールで歌われた曲。この日最後に歌われた曲。MCでの話がリンクするように「誰だかわかんないよ」と歌っている。

 

一角獣

一角獣

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

吉澤嘉代子の出身地埼玉県川口市で行われたデビュー5周年記念ライブ。そのライブを観たことで『一角獣』に込められた想いや意味がわかった気がした。

 

そして川口で記念ライブを行った理由は彼女の出身地だからという理由だけではないのだと感じた。

 

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 吉澤嘉代子が他のシンガーソングライターと違う部分

 

吉澤嘉代子の声は個性的だ。声色だけでなく歌い方も。唯一無二の歌声。聴けばすぐに「吉澤嘉代子の歌声」とわかるぐらいに。

 

それなのに曲ごとに違う人物が歌っているように聴こえる時がある。見た目も声も吉澤嘉代子のままなのに。

 

シンガーソングライターは自身の感情や体験を歌にすることが多い。音楽から発せられるアーティストの人間性に惹かれることも多い。

 

しかし吉澤嘉代子は物語を作るように音楽を作る。自身のことではなく曲の主人公を設定し、その主人公に音楽の中で命や感情を与える。

 

まるで女優のように。彼女の姿のままで中身だけ曲の主人公に入れ替わったかのように演じているよう。

 

「この曲の主人公はどんな女の子なのかな。どんな髪型なのかなって考えながら曲を作ったりして」

 

このようなことをMCで話していた。やはり曲ごとに登場人物は違う。だから自分は吉澤嘉代子の曲を聴く時「主人公はどんな人物なのだろうか」と無意識に想像しながら聴いてしまう。

 

ライブの中盤に岡崎体育のコメント映像が流れた。

 

その映像で岡崎体育は「よるの向日葵の主人公は黒ギャルだと思う。ギャルだけど普通の男性に恋をしてしまった黒ギャル」と話していた。

 

その想像が正しいのかはわからないが「吉澤嘉代子の曲を聴いて吉澤嘉代子以外の誰か」を誰もが曲中ん感じてしまうことは確かなようだ。

 

よるの向日葵

よるの向日葵

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

コメント映像の後に3曲続けて演奏した。『よるの向日葵』と『残ってる』と『がらんどう』。

 

 この3曲はどれも恋愛の歌。どれもが少し切ない歌。

 

それでも曲の主人公も登場人物もそれぞれ違うように聴こえる。吉澤嘉代子も曲ごとに中身が違う人物になっているかのように曲に入り込み表現を変化しているように見える。

 

この日に歌われた曲はメドレーも含めると24曲。24人の人生物語を観た気分になった。その物語はほとんどがフィクション。実在しない人物の物語。

 

しかし、披露された曲の中にノンフィクションの曲もある。実在する人物が主人公の曲がある。

 

『一角獣』だ。この曲の主人公は吉澤嘉代子本人なのだ。

 

川口が舞台の『一角獣』

 

「川口と赤羽を繋ぐ新荒川大橋を渡っているときに風の音がすごくて。川の下に一角獣がいてその鳴き声だったら面白いのになあと思って。それでなぜか誰かに無性に会いたくなって。でも誰かに会いたいのに会いたい人の顔が全然思い浮かばなくて」

 

このような話もしていた。『一角獣』は吉澤嘉代子の体験と感情を歌っているのだ。改めて歌詞を読み返すと他にも吉澤嘉代子本人のエピソードが歌詞に含まれている。

 

読みかけの本があるうちは守られている気がしていた

知らない国の主人公 何度も姿を変えていく

 

吉澤嘉代子は小学校5年生から中学生の間5年間不登校だった。学校に行かずに昼は図書館へ本を読みに行く生活をしていたらしい。彼女にとって本は自分を救ってくれた大切なものなのだと思う。

 

そういえば図書館のこともライブ中に何度も話していた。

 

通い続けた図書館に「吉澤嘉代子おすすめ本」のコーナーを作ってもらったことの話。よほど嬉しかったのか、何度も何度も話して感謝を伝えていた。

 

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 「特に何もない街で。便利な場所だなあってぐらいで(笑) でも昨日川口に帰ってきて父親に車で家まで送ってもらっていたとき、寂しいような切ないような気持ちになって。ライブの前日にそんな気持ちになることは今までなかった。地元にいたときはあまり外に出れなかったから怖い場所だったけど、今はようやくすごく大切な場所になったんだなあと思いました」

 

 吉澤嘉代子はデビュー前には「川口の最終兵器」と自称して川口駅前でストリートライブを行っていた。地元の行きつけのお店をテレビや雑誌などのメディアで紹介することもあった。

 

生まれ育った街のことが嫌いだったわけではないと思う。しかし少女時代は辛い経験や悲しい出来事もあった場所なのかもしれない。複雑な感情も抱いている場所なのかもしれない。

 

それが5周年記念ライブを行うことで変わったのかもしれない。地元で一番大きなホールで満員の客の前で歌うことで。

 

 2019年11月30日の吉澤嘉代子に会いにきた

 

5周年記念ライブなので、今までのキャリアを総括するようなセットリスト。インディーズ時代の曲から最新アルバム曲まで幅広く演奏された。

 

1曲目の『未成年の主張』と2曲目の『らりるれり』はインディーズ時代の楽曲。デビュー前から存在していた楽曲。

 

未成年の主張

未成年の主張

  • 吉澤嘉代子
  • J-Pop
  • ¥250
  • provided courtesy of iTunes

 

それを2,000人を超える人数が彼女の地元で聴いている。デビュー前の曲でも多くの人の心を掴む力を持っていた。デビューして5年経ち進化した歌声とそれを支える演奏にも圧倒させれた。

 

最新アルバム『女優姉妹』の収録曲も同じように観客の心をしっかり掴んでいた。『残ってる』では息を飲むようにお客さんは聴き入っていた。『ミューズ』が始まった瞬間に景色が明るくなったような気がした。

 

様々な楽曲で多くの人を魅了した。吉澤嘉代子の音楽を求め彼女の出身地まで2,000人以上が詰めかけた。チケットは発売後即完売したライブ。会場にいなかった人で行きたくても行けなかった人がたくさんいる。

 

デビュー当初の吉澤嘉代子は地元の大ホールで地元の代表歌手としてステージに立つ姿を想像していたのだろうか。

 

新荒川大橋を歩いて「一角獣がいたら面白いのに」と思っていた時の吉澤嘉代子は、そのすぐ近くにある大ホールで歌う姿を想像していたのだろうか。

 

それは本人しかわからないことだと思う。でも、この日ステージに立っている吉澤嘉代子は素晴らしい歌声で輝いていた。自分が過去にライブで観たどの姿よりも輝いていた。他のお客さんも同じように感じていたのではとも思う。

 

ゆめの中 ひとりぼっちのわたしは

あなたに会いたい

 

『一角獣』は最後このフレーズで終わる。

 

今の吉澤嘉代子はひとりぼっちではない。関係者など多くの人が最高の音楽を奏でられるように支えていると思う。

 

バックバンドも「吉澤嘉代子とバンドを結成した」と言っていいほどに信頼し合っているように見える。吉澤嘉代子の存在や音楽を認めて好きになって応援しているファンが全国にたくさんいる。

 

ゆめの中でひとりぼっちだった頃の吉澤嘉代子が、川口で『一角獣』を歌っている今の吉澤嘉代子と会うことができた瞬間のように思えた。

 

未来の自分に会えたことで、出身地を大切な場所に感じることができるようになった瞬間のように思えた。

 

曲によって中身が違う人物になったかのように感じることもある。しかしこの曲を歌っているときだけは、吉澤嘉代子のありのままの姿で歌っているように見えた。その姿はたくましくて、歌声に圧倒させられた。

 

このライブは特別なライブだった。吉澤嘉代子の音楽活動に置いても重要なライブになったと思う。

 

それは5周年の記念ライブだからという理由だけではない。この場所で歌わなければならない歌があるという理由もあったのではないだろうか。

 

自分が心に残るライブはいつも「想い」や「意味」を感じるものばかりだ。技術やライブの構成も大切だが、それ以上にステージに立つ人たちの想いや感情の揺れ動きを感じたとき、自分は感動する。

 

この日のライブも想いや意味があるように思った。だから、自分は素晴らしいライブだと思った。特に『一角獣』を歌う姿は目に焼き付いている。

 

自分の住んでいる場所は川口から近い。新荒川大橋を通ることもある。その都度この日のライブを思い出し「橋の下に一角獣がいればいいのにな」と思うことだろう。

 

想いが込もった名演だったから、自分はきっとこのライブをずっと忘れない。だって、ライブから数日たっても余韻がまだ体の奥に残ってるから。

 

セットリスト

1.未成年の主張
2.らりるれりん
3.綺麗
4.手品
5.たべものメドレー(洋梨feat.弓木英梨乃~アボカド~ブルーベリーシガレット~麻婆~ガリ)
6.ユートピア
7.えらばれし子供の密話
8.地獄タクシー
9.よるの向日葵
10.残ってる
11.がらんどう
12.ものがたりは今日はじまるの
13.ミューズ
14.movie
15.泣き虫ジュゴン
16.ストッキング
―アンコールー
17.月曜日戦争
18.一角獣