2019-10-13 エビ中のライブで男の人と初めて手をつないだ話 コラム・エッセイ 私立恵比寿中学 ぬくもり 初めて男の人と手を繋いだ。 大きくてゴツゴツした手。だけど温かかった。なんとなく、優しい人なのかなと思った。 私立恵比寿中学のライブでの話。アンコール最後の曲。自分の手をおじさんが握ってきた。 おじさんはステージを真っ直ぐ見つめていた。自分もステージに立つメンバーを見つめた。いつも通り楽しいライブ。 しかしいつも以上に心臓の鼓動が早くなる。これはステージでのパフォーマンスや音楽に感動したり興奮しているからだけではない。 男の人の手のぬくもりを初めて知って、驚いて緊張したから。 自分はおじさんのことをよく知らない。50代前半ぐらいには見える。中学生ぐらいの娘さんと一緒にライブに来ているようではあった。でも出身も仕事もわからない。話をしたこともない。 この日が初対面。というか、偶然自分の左隣にいたライブを観にきたお客さん。 彼は突然手を繋いできた。全く予想できない出来事だった。せめて「この曲は手を繋いでもいいですか?」と確認をして欲しかった。 それがなく突然だったので、めっちゃくちゃ気持ち悪かった。 手をつなごう アンコールの最後に歌われた曲は『手をつなごう』という曲。ポケモンのエンディングテーマに使用された2013年の楽曲。 手をつなごう 私立恵比寿中学 J-Pop ¥250 provided courtesy of iTunes みんな手をつなごう つらいときはもっと ちからを合わせよう ほら ほら 手をつなごう 柏木ひなたのアカペラの歌唱から始まる楽曲。この歌詞が歌われた時、おじさんは手を繋いできた。 エビ中がこの曲をリリースした当初の2013年。この曲がライブで披露されると一部のファンは歌詞の通りみんなで手を繋いでいた。 しかし時代が違う。今は2019年。同じファンだとしても見知らぬ他人同士で手は繋がない。ライブの楽しみ方やノリ方もより自由になっている。 それなのにおじさんは手を繋いだ。もしかしたら、おじさんも勢いで手を握ってしまったのかもしれない。 昔からエビ中を知っている古参ファンで、久々に聴いた『手をつなごう』で当時を思い出し衝動的に手を繋いでしまったのかもしれない。 おじさんはライブ中はほとんど体を動かさなかった。声をあげることもない。じっくりとステージを見つめてライブを楽しんでるようだった。 騒いでいてテンションが高い客ならば勢いで手を繋ぐこともあるとは思う。しかしおじさんは違うタイプ。だから違和感もあったし驚いた。 そして、めっちゃくちゃ気持ち悪かった。 おじさんの娘と若い女性 おじさんも昔はハッチャケて盛り上がっていたのかもしれない。それならば突然手をつないできたことも納得はできる。 この日は中学生ぐらいの娘さんと一緒にライブを観にきていた。娘さんがエビ中のファンで付き添いの保護者としてきていたのかと思っていたが、どうやら違うのかもしれない。 娘の前でハッチャケる姿を見せたくなかったのかもしれない。照れくさいし父親の威厳を保つ為にも。 もともとはおじさんがエビ中のファンで娘も親の影響でファンにしたのかもしれない。娘さんはキラキラした表情でピンクのペンライトを振っていた。 父親が見知らぬ男の手を握っているとも知らずに。 手を握ってきたものの腕は下ろしたままのおじさん。むしろ握った側のおじさんもこの状況に困っているようだ。 客席前方には大学生ぐらいの男性二人が手を繋いでメンバーと同じように踊っていた。楽しそう。きっと友達どうしなのだろう。 あれぐらいハッチャケていれば微笑ましくも見える。しかし自分とおじさんは手をつないで棒立ち。ステージをまっすぐ見つめているだけ。 2人が手を握っていることは2人しか知らない。2人だけの世界。 いっそ自分も右隣のお客さんと手を繋いでしまおうかとも思うが、それはダメだ。 自分の左隣は若い女性。緑色のペンライトを笑顔で振っている。楽しそう。彼女の手を自分が突然握ったら逮捕される。 彼女の安本彩花へ向けられた笑顔が泣き顔になってしまう。君に涙は似合わない。 かといって前方にいる大学生ぐらいの男性二人組みのようにハッチャケるわけにもいかない。おじさんの右隣にはピンクのペンライトを振っている娘さんがいる。 自分の父親が見知らぬ男と手を繋いで踊り出したらトラウマだ。ただでさえ思春期で難しいであろう年齢。せっかく一緒にライブに行くことができる父娘関係をぶち壊してしまう。 彼女の星名美怜に向けられた憧れの眼差しが父親への軽蔑の眼差しになってしまう。父親と仲良くする娘さん、君に39。 でも困った。 だって、めっちゃくちゃ気持ち悪いから。 好きな曲ではなかった 個人的に『手をつなごう』は好きな曲ではなかった。 ポケモンの主題歌だからか歌詞の表現も簡易でわかりやすい。まっすぐな応援歌だと思っていた。それほど深い内容とも思えなかった。 しかし、ライブで改めて聴くと自分が嫌っていたはざの歌詞が胸に突き刺さった。 この曲は震災の復興支援の意味もある曲だ。それを思い出した。「神戸と東北の想いをつなげるような曲」とメンバーが発言したこともある。 だれのせいでもないけど きみは道でころんでそのままそこに寝転び 青い空を見上げたほほをつたう涙の きらめき飾りじゃない生きてることのよろこび 今忘れちゃいけない きみのだいじな友達 今はもうここにいないあんなに約束してた 同じ夢めざそうとたとえどんなに小さく まるで無力なきみでもいつか交わした約束 果たせる日を信じよう 歌詞をかみしめて聴いてみる。自分は勘違いしていたと気づく。 ただ希望を歌っているだけの浅い内容の応援歌ではない。明るい曲調だからきがつかなかったが、悲しいことも辛いことも歌っている。どうしようもない、ぶつけようのない感情について歌っている。 きみと手をつなごう つらいときはもっとゼロからはじめよう ほら ほら 手をつなごうみんな手をつなごう つらいときはもっとちからを合わせよう ほら ほら 手をつなごう ただ「仲良く手をつなごう」と歌っているわけではない。悲しいことや辛いことがあった時こそ助け合うことの大切さを伝えている。 きっと、おじさんも色々な経験をしてきたのだと思う。嬉しいことも悲しいことも。たくさん。手を取り合い助け合うことの大切さも知っているのかもしれない。 きみと手をつなごう つらいときはもっと おじさんの手を離してはいけない気がした。おじさんにはつらいことが何かあったのかもしれない。今もつらい思いをしているのかもしれない。自分と手をつなぐことで救われるならば、つないでおこうと思った。 めっちゃくちゃ気持ち悪かったけど。 おじさんの顔を見れなかった 少し冷静に考えてみる。おじさんはもしも隣が男ではなく若い女性だったら手をつないだのだろうかと。 自分の右隣は若い女性。おそらく自分がこの女性と突然手をつないだら逮捕される。娘の前でおじさんは犯罪者になってしまう。 おじさんはこの時、冷静ではなかったと思う。エモい気持ちになって手をつないだのだろう。そうでなければ変態なので警察に連行してやる。 きっと隣が若い女性でもエモい気持ちになったおじさんは止められない。今後もおじさんは同じことをやらかすかもしれない。隣が若い女性だとしても。 それは防がなければならない。おじさんを犯罪者にしないためにも。被害に合う人を守るためにも。娘さんの未来のためにも。 手を離すことを決意した。 曲の後半、自分は手を振りほどいた。身をもって「突然他人と手をつないではいけないですよ」ということを伝えるために。 初めてつないだ男の人の手。それはゴツゴツしていて温かかった。その温もりがかすかに残る。気持ち悪いけど、少し申し訳ない気持ちになる。 ライブが終わった。 左隣の若い女性は友人と笑顔で話していた。他のお客さんも余韻に浸っていて笑顔。 でも、自分はおじさんの顔を見ることができなかった。 手を振りほどかれたおじさんは、どんな顔をしていたのだろうか。どんな気持ちだったのだろうか。娘さんと笑顔で帰宅できたのだろうか。 何が正しかったのか、今でもわからない。 振りほどいた自分は正しかったのか。手をつないでおくべきだったのか。最初に断るべきだったのか。いっそのこと手をつなぎながらはしゃぐべきだったのか。 もしかしたらおじさんを傷つけてしまったかもしれない。でも、娘さんと一緒に笑顔でエビ中を観に来て欲しい。エビ中のライブはきっとおじさんをまた笑顔にしてくれるから。 他人に手をつながれた時、どのように対処することが正解だったのかはわからない。今後も正解は見つけられないと思う。 しかし、1つだけはっきりしていることがある。 それは「めっちゃくちゃ気持ち悪かった」ということだ。手を繋いで棒立ちの状態。マジで気持ち悪かった。本当に気持ち悪かった。 気持ち悪かった。 セットリスト 1.仮契約のシンデレラ2.ハイタテキ!3.熟女になっても4.YELL5.金八DANCE MUSIC6.禁断のカルマ7.バタフライエフェクト8.シンガロン・シンガソン9.元気しかない!10.I’m your MANAGER!!!11.結ばれた想い12.踊るロクデナシ13.曇天14.まっすぐ15.頑張ってる途中16.Lon de Don17.未確認中学生X18.放課後ゲタ箱ロッケンロールMX19.Family Complex アンコール 20.PDNDORA21.日進月歩22.手をつなごう ↓関連記事↓